魔王の三男だけど、備考欄に『悪役令嬢の兄(尻拭い)』って書いてある?

北川晶

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102 ど、ど、ど、どらごーーん!?

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     ◆ど、ど、ど、どらごーーん!?

 アリスは力の限りに、ディエンヌの攻撃魔法を防いでくれたけれど。最後は足で蹴られて。
 ぼくとアリスは崖から落されて、下へ真っ逆さまです。

 魔族のみなさまは翼を持ち、空を飛べる者が多くいるのですが。
 アリスは背中からツノが生えているから、飛べないのですって??

 ひえええぇぇぇっぇっ、これは、大ピンチですっ。
 すかさず、マルチェロとファウストが崖から飛び降りてくるのが、見えましたけど。
 とてもとても、手は届きそうにありません。

 もう、ムリィィィ。サリエル・ドラベチカ、悪役令嬢の兄(尻拭い)人生終了のお知らせでぇす。

 と思って。目をぎゅっと瞑ります。
 糸目なので、あまり変わり映えはしないでしょうがぁーーっ。

 すると。スカーフタイを止めている赤い宝珠から、なにやら気配がして。
 恐る恐る見てみると、キラリと光っていますぅ?
 その小さな物体から、にゅるりと、大きな大きなドラゴンがぁ? 出てきたのだぁっ。

「「ど、ど、ど、どらごーーん!?」」

 ぼくとアリスは。落ちながらも、驚愕してハモった。
 だってレッドドラゴンの宝珠から、レッドドラゴンが生まれたんですよぉ?
 皮膚がごつごつしていて。赤黒い色目が、凶悪そうに見えて。ぶっとい尻尾は、なにもかもを薙ぎ払えそう。

 そのドラゴンは空中で羽ばたくと、落下しているぼくとアリスを一人ずつ、右手と左手でガシッとつかんだ。
 つかっ、乱暴な助け方っっっ。爪っ、怖っ。

 レッドドラゴンは、右手でつかんだぼくを、そのぎょろりとした目で睨みつけます。
「おまえぇぇっ、いつもいつも危ない目にばかりあいやがってぇ。おちおち寝ていられねぇじゃねぇかっ? つか、我はとっくに死んでんのに。実体化とか、無茶させんじゃねぇっつのっ」
「えぇぇ…それは、睡眠を妨げまして、どうもすみませぇん」

 ドラゴンのあまりの迫力に、なんか、謝ってしまいました。

 そこへコウモリ様の翼を広げたマルチェロと。鳥様の黒い翼を広げたファウストが、追いついてきました。
「サリー、大丈夫か? アリスも…」
 マルチェロの言葉に、アリスは『おまけの私も無事ですわぁぁ』と棒読みで告げていた。

 するとレッドドラゴンが。牙をむき出しにして、マルチェロとファウストに吠え掛かった。
「おまえらもだっ。我に頼らず、ちゃんとこいつを見守っておけ。ふらかふらかさせんじゃねぇ、ボケェ!!」
 そして手に持っていたぼくらを、ポイ投げする。

 ひゃぁ、まだ空中は怖いんですけどぉ。
 と思ったが。ぼくはマルチェロが。アリスはファウストが。しっかりキャッチしてくれたのだった。ホッ。

「サリー、サリー、今度はマジで心臓が止まるかと思ったよ。大丈夫か? ケガはないかい?」
 ぼくをキャッチしたマルチェロが。ギュムギュム抱きしめてくる。
 わぁ、熱烈歓迎です。珍しい、マルチェロのデレですよぉ?

「ケガ、なし。こ、こ、こ、こ」
 ぼくは無事なことを、お伝えしたいのですが。落下の恐怖が、まだあって。
 こわばって、口がうまく回りません。
 だってぇ、怖かったんですぅ。

「こ、こ? 大変だ、サリーがとうとう、ニワトリにぃ?」
「丸鶏ではありませんっ。大丈夫ですぅ。ちょっと、怖かっただけですぅ」
 マルチェロがからかうから。ぼくはチョッパヤで、いつもの感じを取り戻しましたよ。もうっ。

 そうしたら、マルチェロは。そっと顔を寄せて。額にチュウしてきた。へえぇぇあ?

「サリーが無事で。安心しちゃった。レオンハルトには…内緒だよ?」
 優しい王子様スマイルで、言われたので。
 ぼくは。コクコクとうなずく。
 まぁねぇ。安心して、感極まったのでしょうが。丸鶏にチュウは、王子様的には黒歴史一歩手前ですものね?
 わかりました。マルチェロの名誉のため、内緒にしておいてあげましょう。

 そうして命の危機から脱出したぼくは、ひと息ついたが。
 ぼくの横で。ドラゴンが、また文句を言い始めました。
「あと、おまえぇぇ。いつも我に攻撃仕掛けてきやがって、今度ばかりは許さーんん」
 そうしてドラゴンは。バッカリと大きな口を開けて、ディエンヌ目がけて炎を吐き出した。

 ええぇぇ? さすがにこの火炎は。いかなディエンヌでも防げませんよぉ?
 しかし、落ちたぼくらを崖の上から見下ろすディエンヌは。手をひと振りして、ドラゴンの炎を弾いてしまうのだった。
 うっそぉ。結構大きな、火炎玉だったのに??

 ドラゴンに向かって、不敵にニヤリとするディエンヌは。
 炎をバックに背負い。さながら、悪役令嬢。
 いえ、というよりも、もう。普通に、悪の権化。ヴィラン? ヒール? 悪の親玉、です。

「むむ、力不足か。無念だ。全盛期の我なら、あのような小娘、秒で消し去るものを…」
 つぶやいたドラゴンは、くるりと丸まると。元の赤い宝石に戻って、ぼくのスカーフタイにくっつくのだった。

 大騒動からの、張り詰めた静けさ。しーーん。

「…マルチェロ、ファウスト、助かりました。み、みみみ、見事なキャッチングでございます」
 ドラゴンのくだりは、なかったことにして。
 マルチェロとファウストが、ぼくらを助けたという態になんとか持っていこうと。したのですがぁ。

「サリー。これはさすがに、なかったことにはできないよ。次期魔王様のお出ましだ」
 マルチェロの言葉に、ぼくが息をのむと。

 澄み切った青空を切り裂くように、大きな雷がドドーンと落ちて。
 ついさっきドラゴンが飛んでいたところに、レオンハルト兄上が現れた。

「私のサリエルを害する者は、誰だぁっ!!」

 大きなコウモリ様の翼を、広げ。
 黒い衣装を身にまとい。長い藍色の髪をなびかせて。切れ長の目元をきつく吊り上げて。
 怒りの様相で、こめかみに血管が浮き。いつもは目立たない額の御ツノが、赤く、ギンギンと猛り狂っている。

 あわわ、兄上が、オコっ、でぇす。

 
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