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101 無敵って、言ったじゃーーーん?
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◆無敵って、言ったじゃーーーん?
名も知らぬ生徒たちが、おのおの得意な炎の玉や水などの魔法を放って。
マルチェロは結界で、それを防いでいる。
ファウストは結界の外で剣をふるって。でも生徒たちを極力傷つけないように、柄で打撃をして倒していっている。
「サリー、アリスティアとともに森の奥へ逃げてくれ」
マルチェロの言葉に従って、ぼくらは森の中へと走った。
ぼくら、絶対に足手まといになるもんな?
ディエンヌの標的であるぼくらがいなければ、魔法攻撃も弱まるかもしれないし。
そう思って。ぼくはアリスと一緒に、森の奥へと逃げていった。
背後の喧騒が聞こえなくなった頃、足を止めた。
安全なところで身を潜めて、マルチェロたちが迎えに来るのを待とうと思っていたのだけど…。
近くの草むらが、ボッと燃えて。ぼくは、アワワと手をばたつかせた。
ひぇぇ、となって。振り返ると。
ぼくらを追ってきたディエンヌが、こちらに炎を玉を投げて、くるぅぅ?
な、なんでぇ?
ディエンヌの足には、兄上が作った魔道具がつけられていて。魔力を制御されているはずなのに?
なんで炎の玉を出せるのですかぁ?
それにどうやって、マルチェロの、あの分厚い結界を抜けてきたのですかぁ?
「サリエル、こっち」
炎が立ち上る方とは逆方向に、アリスと手をつないで、再び森の中へと逃げる。
しばらくすると、また行く手をディエンヌの炎で邪魔されて。アワワとなって。
ちょこちょこ、ジグザグに逃げなければならなかった。
「あぁ、太り過ぎたニワトリが逃げ惑う姿は。醜いったらないわねぇ?」
悠然とぼくらを追いかけながら、ディエンヌがそうつぶやく。
確かに、捕獲時に猛烈スピードで逃げるニワトリにしか見えないかもしれませんがぁ。
君が炎で行く手をさえぎるから。ジグザグにトテトテ走る、トテコッコになるのですからねぇ?
「サリエル。あんたは怠惰なのよ。子供の頃から、太っているくせに。その醜い体を、直そうとする努力もしないんだから。その姿で、私の兄だと名乗るなんて…本当、不愉快極まりないわ?」
ディエンヌは、炎の玉をぼくらに投げながらそう言う。
つか見たくないのに、なんで追ってくるのぉ? とは思うが。
ディエンヌの言葉に、アリスが反応した。
「はあぁぁ? あんた、なにも知らないで偉そうに言わないでよねっ。サリエルはね、そりゃ毎日ダイエットにいそしんでいたわよっ。運動も。食事も控えていたし。いろいろやったけど、これ以上やせられないのよ。体質なの、これはっ。決して怠惰なんかでは、ないんだからぁーーっ」
ぼくは、今。逃げながら、感動しているっ!
ダイエットしろが口癖の、あのインナーが。ぼくをかばってくれるなんてぇ??
「大体ね、怠惰というのはあなたのことを言うのよ、ディエンヌ。王族に生まれながら、公の仕事をするのも嫌。勉強も嫌。礼儀作法も嫌なのでしょう? だったら、あんたになにができるっての? なにもしない女を養うほど、魔国の民はお優しくないわよ? 王族は、王族にしかできないことを、民に代わってやるから。民はそれに従うだけなのよ。それができなきゃ、あんたになんのメリットもないのよっ。あんたが為すべきことを。サリエルが上手にこなすから。あんたはそれでサリエルが嫌いなのでしょう? そんなの、あんたが怠惰だからよ。あんたにサリエルをけなす資格なんか、ないんだわぁ???」
インナーの頃から腹に抱えていたものを、全部吐き出したかのように、アリスはベラベラとまくし立てた。
すっごいです。
ぼくの、言いたくても、妹相手だから言えないことを。
アリスティアが全部言ってくれたみたいな。爽快な気分です。
だけど。炎を避けながら向かった先は。
森を抜けた、その向こうには。切り立った崖があって。
これは、ヤバいです。ディエンヌ的最後のイベント、崖からドーンの舞台が整ってしまいましたっ!
っていうか、なんで崖があるのですぅ?
都合よく、刑事ドラマの犯人が自白するのに適した崖があるのですぅ?
それは、魔王城の背後にも切り立った崖がありましてね?
崖の下は、鬱蒼とした森がありましてね?
その森を抜けた向こう側に、人族の国があるわけなのですが。
人族はこの切り立った崖を登れなくてですねぇ。この崖は、天然の要塞のごとき役割をしているのです。
容易に魔国には攻め込めない、みたいな?
なんて。脳裏に、どうでもいい情報がバーッと流れてきました。
えぇ、わかっています。現実逃避でございますよね?
ヤバい状態から目をそらしたい、深層心理のなせる業なのですぅ。
ディエンヌは行き止まりにぼくらを誘い込んで、ニヤリと満足そうな笑みを浮かべています。
ここへぼくらが来てしまったのは、やはり炎の玉で行く手を遮られ、ディエンヌに誘導されていたからなのでしょう。
「ずいぶんベラベラと、言いたいことを言ってくれちゃうわねぇ? アリスちゃん。サリエルのこと、とっても詳しいみたいだけどぉ? あんた、なに様?」
崖の上には強い風が吹いていて。アリスの青い髪をなびかせます。
そして、ディエンヌに振り返ったアリスは。強気に、こう言うのだった。
「主人公様よっ!」
決まった、とばかりに。胸を張るけど。
アリス、ちょっと、それはどうかと…。
「はぁ? あんたなに言ってんの? 馬鹿じゃないの? 美しいのは顔だけなの?」
「その言葉、そっくりあなたにお返しいたしますわぁ? ディエンヌ様ぁ?」
ディエンヌはアリスの言葉にムカッとして。鼻に筋を立てたけど。
すぐに笑い捨てて、あしらった。
「ふん。まぁ、良いわ? どうせここで、あんたもサリエルもおしまいよ。ツノも魔力もないあんたたちに、魔法を使うほどのこともないわね?」
「ツノも魔力もないぼくらを。なんでこうも、執拗に殺そうとするんだ? もしかして昨日のメジロパンクマも、ディエンヌのせいなのかっ? いい加減にしろっ」
もう、ぼくは空気でいいから本気で放っておいてって思います。
「当たり前でしょう? メジロパンクマなんて珍しい猛獣、この辺にいるわけないんだからぁ。凶暴だって聞いていたからサリエルをブッスリしてくれると期待していたのに。高額の割に、全然役に立たなくてがっかりよ」
ひどい言い様です。
絶滅危惧魔獣を、そのような理由でこんなところに勝手に放ったくせに。
メジロパンクマとスイートラブハニービーに、謝れぇ。
「つか、あんたバカよねぇ? さっき言ったばかりでしょ? デブのあんたが次期魔王妃なんて言われて、ちやほやされているのが腹立たしいのよ。あんたの存在が、害悪なの。あんたがいなかったら、お母様は私だけを見てくれたのよ? あんたがいなかったら私がレオンハルトお兄様と結婚して、次期魔王妃になれたし。あんたがいたから、歯車が狂ってお母様が魔王城にいられなくなったの。全部、全部、あんたが存在していた、せい」
ヒステリックにわめく妹を見て、ぼくは逆にスンとする。
「…いつまで子供みたいに、そうやって駄々をこねるのですか? つか、全部ぼくのせいになっていますが、全部ぼくのせいじゃないし。嫌いとかムカつくとか言ってても、それだけじゃ世の中なにも変わらないからね? ってか、ぼくがいなくても兄上はディエンヌとは結婚しないよ? 血族婚はしないと、兄上は常々言っているからね? そろそろ周りにしっかりと目を向けて、ひとりで生きているのじゃないって気づきなさい。そして自分が本当はなにが欲しいのか。自分とも向き合うべきだっ」
兄としての、最後の忠告だった。
ぼくだってアリスやマルチェロたち、お友達を危険な目にあわされて。さすがにもう、かばえないもの。
でもディエンヌは。またもやキーッとなるのだった。
「うるさい、うるさい。あんたがいなければ、お兄様もその考えになっていないかもしれないでしょ? それに。あんたがいなければ。アリスもとっくに死んでいて、邪魔者は私の前からひとりもいなくなっていたって話よっ。言葉だけならなにも変わらない? そうね。それはその通りよ。だからあんたたちを殺すのっ!」
そうして、大きな炎の玉をディエンヌはアリスに投げつけた。
でもアリスは。背中から大きなツノを出して。そこから練られた高純度の魔力で。ビームを発射。
び、びーむぅ??
そのビームと炎が、同じ威力でぶつかり合って。真ん中で霧散した。
おおおぉぅ。互角、です。
「なんですって? アリス、あんた…魔力があったの?」
ディエンヌも、さすがにびっくりです。
「魔力がないなんて、言った覚えはございませんわよぉ? ってか、魔法使うほどのこともないとか、うそぶいちゃってたけどぉ? ずいぶん本気の炎玉、投げるじゃなぁい? ディエンヌっ」
ディエンヌを挑発する、ドヤ顔のアリス。カッコイイーっ。
ここまで切り札を隠し持っていて、正解でしたね? アリス。
でも、ディエンヌは。不敵に笑った。
「フフッ。まぁ、確かに? 結構ヤバめの魔力量みたいだけど。三百人の生気を取り込んだ私と比べたら、まだまだね?」
へぇぇぁあ? なんかヤバいことを、ディエンヌは言っていますよ?
「ところでサリエル。宝石の防御魔法で、あんたのことは攻撃できないけれど。でも。そこの、自称主人公さんを間に挟んだら攻撃できるんじゃないかと思うのよねぇ? サリエルに敵意を向けないで。アリスのことだけ考えるようにするわぁ? その先にあんたがいるのは。不可抗力よねぇ?」
そう言って。ディエンヌは。先ほどの倍以上の炎を、断続的にアリスにぶつけてきた。
アリスは結界魔法で、何回かは攻撃を受けるが。
どんどんと攻め込まれていき。
切り立った崖の先端に、ふたりで、追い込まれるーぅ。
かかとに、もう地面がついていなくて、浮いているのですけどぉ?
手をパタパタさせて、背伸び状態で、あわよくば飛べたらいいとか思うのですけどぉ?
飛べないよねぇ? ヤバい。マズイ。もう、無理ィ。
そうしたら一瞬。炎の魔法が、止まった。
ホッとした、らぁ?
いつの間にか間近に来ていたディエンヌが、アリスのことを足蹴りして。
ぼくへの悪意を持たないアリスがぁ? ぼくを巻き込んでぇ?
一緒に崖から…落ーちーるーーーっ。
大地から足が離れて、ぼくはアリスもろとも、奈落の底へ真っ逆さまです。
いわゆる、崖からドーンが成立です。あーーーれーーーっ。
ギューーンと落下していく中で、ぼくはアリスに言います。
「羽っ、アリス、羽出して、飛んでぇぇ?」
「ばか、私の背中はツノが生えるのっ。翼は、ないよねぇぇ?」
「うっそーーーっ、主人公補正でストーリー無視のズルチートしたから。無敵って、言ったじゃーーーん???」
落ちながら、ぼくの叫びは崖の斜面に、じゃーん、じゃーん、と木霊するのだったぁ。
名も知らぬ生徒たちが、おのおの得意な炎の玉や水などの魔法を放って。
マルチェロは結界で、それを防いでいる。
ファウストは結界の外で剣をふるって。でも生徒たちを極力傷つけないように、柄で打撃をして倒していっている。
「サリー、アリスティアとともに森の奥へ逃げてくれ」
マルチェロの言葉に従って、ぼくらは森の中へと走った。
ぼくら、絶対に足手まといになるもんな?
ディエンヌの標的であるぼくらがいなければ、魔法攻撃も弱まるかもしれないし。
そう思って。ぼくはアリスと一緒に、森の奥へと逃げていった。
背後の喧騒が聞こえなくなった頃、足を止めた。
安全なところで身を潜めて、マルチェロたちが迎えに来るのを待とうと思っていたのだけど…。
近くの草むらが、ボッと燃えて。ぼくは、アワワと手をばたつかせた。
ひぇぇ、となって。振り返ると。
ぼくらを追ってきたディエンヌが、こちらに炎を玉を投げて、くるぅぅ?
な、なんでぇ?
ディエンヌの足には、兄上が作った魔道具がつけられていて。魔力を制御されているはずなのに?
なんで炎の玉を出せるのですかぁ?
それにどうやって、マルチェロの、あの分厚い結界を抜けてきたのですかぁ?
「サリエル、こっち」
炎が立ち上る方とは逆方向に、アリスと手をつないで、再び森の中へと逃げる。
しばらくすると、また行く手をディエンヌの炎で邪魔されて。アワワとなって。
ちょこちょこ、ジグザグに逃げなければならなかった。
「あぁ、太り過ぎたニワトリが逃げ惑う姿は。醜いったらないわねぇ?」
悠然とぼくらを追いかけながら、ディエンヌがそうつぶやく。
確かに、捕獲時に猛烈スピードで逃げるニワトリにしか見えないかもしれませんがぁ。
君が炎で行く手をさえぎるから。ジグザグにトテトテ走る、トテコッコになるのですからねぇ?
「サリエル。あんたは怠惰なのよ。子供の頃から、太っているくせに。その醜い体を、直そうとする努力もしないんだから。その姿で、私の兄だと名乗るなんて…本当、不愉快極まりないわ?」
ディエンヌは、炎の玉をぼくらに投げながらそう言う。
つか見たくないのに、なんで追ってくるのぉ? とは思うが。
ディエンヌの言葉に、アリスが反応した。
「はあぁぁ? あんた、なにも知らないで偉そうに言わないでよねっ。サリエルはね、そりゃ毎日ダイエットにいそしんでいたわよっ。運動も。食事も控えていたし。いろいろやったけど、これ以上やせられないのよ。体質なの、これはっ。決して怠惰なんかでは、ないんだからぁーーっ」
ぼくは、今。逃げながら、感動しているっ!
ダイエットしろが口癖の、あのインナーが。ぼくをかばってくれるなんてぇ??
「大体ね、怠惰というのはあなたのことを言うのよ、ディエンヌ。王族に生まれながら、公の仕事をするのも嫌。勉強も嫌。礼儀作法も嫌なのでしょう? だったら、あんたになにができるっての? なにもしない女を養うほど、魔国の民はお優しくないわよ? 王族は、王族にしかできないことを、民に代わってやるから。民はそれに従うだけなのよ。それができなきゃ、あんたになんのメリットもないのよっ。あんたが為すべきことを。サリエルが上手にこなすから。あんたはそれでサリエルが嫌いなのでしょう? そんなの、あんたが怠惰だからよ。あんたにサリエルをけなす資格なんか、ないんだわぁ???」
インナーの頃から腹に抱えていたものを、全部吐き出したかのように、アリスはベラベラとまくし立てた。
すっごいです。
ぼくの、言いたくても、妹相手だから言えないことを。
アリスティアが全部言ってくれたみたいな。爽快な気分です。
だけど。炎を避けながら向かった先は。
森を抜けた、その向こうには。切り立った崖があって。
これは、ヤバいです。ディエンヌ的最後のイベント、崖からドーンの舞台が整ってしまいましたっ!
っていうか、なんで崖があるのですぅ?
都合よく、刑事ドラマの犯人が自白するのに適した崖があるのですぅ?
それは、魔王城の背後にも切り立った崖がありましてね?
崖の下は、鬱蒼とした森がありましてね?
その森を抜けた向こう側に、人族の国があるわけなのですが。
人族はこの切り立った崖を登れなくてですねぇ。この崖は、天然の要塞のごとき役割をしているのです。
容易に魔国には攻め込めない、みたいな?
なんて。脳裏に、どうでもいい情報がバーッと流れてきました。
えぇ、わかっています。現実逃避でございますよね?
ヤバい状態から目をそらしたい、深層心理のなせる業なのですぅ。
ディエンヌは行き止まりにぼくらを誘い込んで、ニヤリと満足そうな笑みを浮かべています。
ここへぼくらが来てしまったのは、やはり炎の玉で行く手を遮られ、ディエンヌに誘導されていたからなのでしょう。
「ずいぶんベラベラと、言いたいことを言ってくれちゃうわねぇ? アリスちゃん。サリエルのこと、とっても詳しいみたいだけどぉ? あんた、なに様?」
崖の上には強い風が吹いていて。アリスの青い髪をなびかせます。
そして、ディエンヌに振り返ったアリスは。強気に、こう言うのだった。
「主人公様よっ!」
決まった、とばかりに。胸を張るけど。
アリス、ちょっと、それはどうかと…。
「はぁ? あんたなに言ってんの? 馬鹿じゃないの? 美しいのは顔だけなの?」
「その言葉、そっくりあなたにお返しいたしますわぁ? ディエンヌ様ぁ?」
ディエンヌはアリスの言葉にムカッとして。鼻に筋を立てたけど。
すぐに笑い捨てて、あしらった。
「ふん。まぁ、良いわ? どうせここで、あんたもサリエルもおしまいよ。ツノも魔力もないあんたたちに、魔法を使うほどのこともないわね?」
「ツノも魔力もないぼくらを。なんでこうも、執拗に殺そうとするんだ? もしかして昨日のメジロパンクマも、ディエンヌのせいなのかっ? いい加減にしろっ」
もう、ぼくは空気でいいから本気で放っておいてって思います。
「当たり前でしょう? メジロパンクマなんて珍しい猛獣、この辺にいるわけないんだからぁ。凶暴だって聞いていたからサリエルをブッスリしてくれると期待していたのに。高額の割に、全然役に立たなくてがっかりよ」
ひどい言い様です。
絶滅危惧魔獣を、そのような理由でこんなところに勝手に放ったくせに。
メジロパンクマとスイートラブハニービーに、謝れぇ。
「つか、あんたバカよねぇ? さっき言ったばかりでしょ? デブのあんたが次期魔王妃なんて言われて、ちやほやされているのが腹立たしいのよ。あんたの存在が、害悪なの。あんたがいなかったら、お母様は私だけを見てくれたのよ? あんたがいなかったら私がレオンハルトお兄様と結婚して、次期魔王妃になれたし。あんたがいたから、歯車が狂ってお母様が魔王城にいられなくなったの。全部、全部、あんたが存在していた、せい」
ヒステリックにわめく妹を見て、ぼくは逆にスンとする。
「…いつまで子供みたいに、そうやって駄々をこねるのですか? つか、全部ぼくのせいになっていますが、全部ぼくのせいじゃないし。嫌いとかムカつくとか言ってても、それだけじゃ世の中なにも変わらないからね? ってか、ぼくがいなくても兄上はディエンヌとは結婚しないよ? 血族婚はしないと、兄上は常々言っているからね? そろそろ周りにしっかりと目を向けて、ひとりで生きているのじゃないって気づきなさい。そして自分が本当はなにが欲しいのか。自分とも向き合うべきだっ」
兄としての、最後の忠告だった。
ぼくだってアリスやマルチェロたち、お友達を危険な目にあわされて。さすがにもう、かばえないもの。
でもディエンヌは。またもやキーッとなるのだった。
「うるさい、うるさい。あんたがいなければ、お兄様もその考えになっていないかもしれないでしょ? それに。あんたがいなければ。アリスもとっくに死んでいて、邪魔者は私の前からひとりもいなくなっていたって話よっ。言葉だけならなにも変わらない? そうね。それはその通りよ。だからあんたたちを殺すのっ!」
そうして、大きな炎の玉をディエンヌはアリスに投げつけた。
でもアリスは。背中から大きなツノを出して。そこから練られた高純度の魔力で。ビームを発射。
び、びーむぅ??
そのビームと炎が、同じ威力でぶつかり合って。真ん中で霧散した。
おおおぉぅ。互角、です。
「なんですって? アリス、あんた…魔力があったの?」
ディエンヌも、さすがにびっくりです。
「魔力がないなんて、言った覚えはございませんわよぉ? ってか、魔法使うほどのこともないとか、うそぶいちゃってたけどぉ? ずいぶん本気の炎玉、投げるじゃなぁい? ディエンヌっ」
ディエンヌを挑発する、ドヤ顔のアリス。カッコイイーっ。
ここまで切り札を隠し持っていて、正解でしたね? アリス。
でも、ディエンヌは。不敵に笑った。
「フフッ。まぁ、確かに? 結構ヤバめの魔力量みたいだけど。三百人の生気を取り込んだ私と比べたら、まだまだね?」
へぇぇぁあ? なんかヤバいことを、ディエンヌは言っていますよ?
「ところでサリエル。宝石の防御魔法で、あんたのことは攻撃できないけれど。でも。そこの、自称主人公さんを間に挟んだら攻撃できるんじゃないかと思うのよねぇ? サリエルに敵意を向けないで。アリスのことだけ考えるようにするわぁ? その先にあんたがいるのは。不可抗力よねぇ?」
そう言って。ディエンヌは。先ほどの倍以上の炎を、断続的にアリスにぶつけてきた。
アリスは結界魔法で、何回かは攻撃を受けるが。
どんどんと攻め込まれていき。
切り立った崖の先端に、ふたりで、追い込まれるーぅ。
かかとに、もう地面がついていなくて、浮いているのですけどぉ?
手をパタパタさせて、背伸び状態で、あわよくば飛べたらいいとか思うのですけどぉ?
飛べないよねぇ? ヤバい。マズイ。もう、無理ィ。
そうしたら一瞬。炎の魔法が、止まった。
ホッとした、らぁ?
いつの間にか間近に来ていたディエンヌが、アリスのことを足蹴りして。
ぼくへの悪意を持たないアリスがぁ? ぼくを巻き込んでぇ?
一緒に崖から…落ーちーるーーーっ。
大地から足が離れて、ぼくはアリスもろとも、奈落の底へ真っ逆さまです。
いわゆる、崖からドーンが成立です。あーーーれーーーっ。
ギューーンと落下していく中で、ぼくはアリスに言います。
「羽っ、アリス、羽出して、飛んでぇぇ?」
「ばか、私の背中はツノが生えるのっ。翼は、ないよねぇぇ?」
「うっそーーーっ、主人公補正でストーリー無視のズルチートしたから。無敵って、言ったじゃーーーん???」
落ちながら、ぼくの叫びは崖の斜面に、じゃーん、じゃーん、と木霊するのだったぁ。
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