魔王の三男だけど、備考欄に『悪役令嬢の兄(尻拭い)』って書いてある?

北川晶

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99 優勝者は望みが叶う

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     ◆優勝者は望みが叶う

 魔国のレア魔獣、メジロパンクマと遭遇するも。マルチェロの魔法のおかげで無事に捕獲して。
 まぁまぁ、つつがなく。魔獣狩りイベントの一日目を終えました。

 それでね? 魔獣狩りの優勝者は望みが叶うというジンクスが、ロンディウヌス学園にはありましてね?
 ぼくはっ。その権利を、今行使しようとしています。
 ビッグイカキングの屋台の前で!

「ビッグイカキングの足を、五本ください」
「あいよ」
 本当は、学園の生徒が主催している屋台は、昼間だけの営業で。
 狩りを終えて戻ってきた生徒は。もう屋台で遊べないのだけど。

 ゲソの塩焼きが、ぼくは食べたい!

 というわけで。店じまいをしていた屋台に。イカキングを焼いてもらっているところです。
「無理を言って、すみませぇぇん」
「いいよ、いいよ。一日目の優勝者様だからな? 優勝者様の御願いは、絶対なんだ。ほら、どうぞ?」
 おそらく先輩の生徒さんが。鉄板で焼いたイカキングを串に刺して、渡してくれた。

 三本は、優勝者御一行である、ぼくとマルチェロとアリスに渡り。
 二本は、お持ち帰りです。
 今日こそ兄上にビッグイカキングの美味しさをお届けしたいのでね?

「うわっ、でっか。つか、お祭りの屋台でイカ焼き、買ったことないわぁ? お高い系、だものね?」
 ビッグイカキングは。足だけで、インナーの世界のイカ焼きの大きさがあるから。アリスは驚いていた。

「私は、なんだか。サリーの腕を食べているみたいで。ちょっと苦手なのだがぁ?」
 そう言いつつも。マルチェロは、ガブリする。

 食べてるじゃーん。つか、ぼくの腕とか言わないでください。

「まぁ、まぁ。お疲れ様会ですから、ご堪能くださいませ。うーん、磯の香りぃ。イカキング、残っていて良かったぁ」
 ぼくは満足げに、イカ焼きを食べるのだった。優勝者の特権である。

 ちなみに。お持ち帰りしたイカ焼きを見た、兄上は。
「これは、なんだ? サリエルのお手手の丸焼きかっ?」
 って、驚いていたが。ビッグイカキングですっ!!

     ★★★★★
 
 そして、翌日。
 ほぼ消化試合決定ではありますが。魔獣狩りイベントの二日目が始まりました。

 今日は昨日とは違う方角に行って、薬草取りをしようということになりました。
 森の入り口から一時間ほど中に入ったところで。薬草が生えているのを見つけたので。またそこで、モッチャモッチャ、草をむしります。

 あ、そうだ。
 昨日兄上がご配慮してくれた通り。ファウストがぼくらの班の護衛に来てくれたよ?
 ファウストも、草をむしってくれるけど。
 彼のポイントにはならないので。ちょっと後ろめたい気分です。

「サリーの丸いお尻が、楽しそうに揺れていて。平和だねぇ…」
 なんてマルチェロが言うのですか。変なことを言わないで、草をむしってくださぁい。
「マルチェロっ、そ、そ、そのような…サリーちゃんのお尻を、いやらしい目で見るんじゃないっ」
 もう、ファウストもぉ。変なことを言わないでください。逆に、いやらしいですぅ。
「もっちりした男の尻に、興奮するイケメン…うけるぅ」
 アリスは…もうインナーじゃないんですから、ツッコみませんよっ。

 そうは言っても、平和は平和です。
 魔獣を狩るグループは、もっと奥の方に行っているし。少し奥まったここまで入ってくる御令嬢は、なかなかいないので。
 薬草取りをするには、競争相手のいないベストポジションと言えるでしょう。
 でも。平和な時間は、そう長くは続かなかったのだ。

 藪から棒に。なんの脈絡もなく。
 森の向こうからディエンヌが、目のうつろな生徒をいっぱい引き連れてこちらにやってきたからだ。

 ぼくたちは草をむしる手を止めて、ひと固まりになります。
 ファウストとマルチェロが前に立ってくれて。ぼくとアリスを守ってくれます。

「ディエンヌ? どうしたんだい? こんなところに来て。君は一年生だから。森には入ってはいけないはずだけどなぁ?」
 まずはやんわりと。マルチェロがディエンヌに聞いてみます。
 ぼくらはみんな、ディエンヌがなにかしでかすんじゃないかと。警戒しているけれど。
 先に手を出すわけには、いかないからね?

 すると、ディエンヌは。赤く輝く髪を、色っぽい仕草で手ですいて。
 にこりと、華やかに笑った。
「マルチェロぉ。私、もう我慢できなくなったのよ。いつまで学園で、どうでもいい勉強をしなきゃならないのぉ? もっと楽しいことだけしていたいのに。だから学園を退学して。自分の好きなことだけをすることにしたのよぉ?」
「…学園を卒業できないような子と、私は結婚するつもりはないけれど?」
 マルチェロも、ディエンヌに負けない麗しい微笑みで、告げる。
 まぁ、マルチェロはそう言うだろう。
 公爵家だって、ディエンヌとの婚約解消を視野に入れる、そんな事案だ。

 でもなんでか。ディエンヌは自信満々だった。
「あぁ、その点は大丈夫ですわ。マルチェロが私と結婚したいって思うくらいのものは、用意するつもりよぉ? 学園の卒業なんか目じゃないやつを、ね?」
 うふふ、と。ディエンヌは意味深に微笑む。

「どのようなものを用意しようと。無知な女性を公爵家に入れるわけにはいかないので。学園を退学するなら、婚約破棄の方向で進めることになるが。よろしいか?」
 ついさっきまで、マルチェロはディエンヌに婚約者として柔らかく接していたように思うのだが。
 途端に、他人行儀になった。
 声のトーンも厳しめだ。

 ディエンヌも、ここへきてようやく。小首をかしげて。マルチェロを不思議そうに見やる。
 いやいや、ディエンヌ大丈夫ぅ? 普通に婚約続行とか、無理案件だよぉ?

「そうねぇ…って言うかぁ。私の婚約者のよしみで、あなたに最後の機会をあげるわぁ? マルチェロ。私の味方になりなさい。そしてサリエルとアリスを、殺してちょうだいっ」
 ハラハラしつつ、ふたりの会話を聞いていたら。
 ディエンヌがぼくらを指さして。無茶を言ってきた??

 えええぇぇぇ? そんなにぼくたちを殺したいんですかーーーい? なんでぇ??

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