魔王の三男だけど、備考欄に『悪役令嬢の兄(尻拭い)』って書いてある?

北川晶

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98 ズル疑惑浮上?

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     ◆ズル疑惑浮上?

 メジロパンクマを捕獲したことで、ポイントトップとなり。
 魔獣狩り初日に表彰された、ぼくら、二年生組。
 でも表彰式の後で。魔獣狩りイベントを統括している先生に、呼び止められた。

「ドラベチカくん、ルーフェンくん、フランチェスカくん。少し話をしてもいいかね?」
 なにやら気難しそうな顔をする先生に。ぼくらは、息をのみます。
 表彰台の裏に呼び出され。お話を聞きました。

「君たちもわかっていることだと思うのだが。この森に、メジロパンクマはいない。メジロパンクマは西域に生息している魔獣なのでね? この森にいること自体が、おかしいのだよ。で。もしかしたら。魔獣狩りで優勝したくて、事前に仕込んであった…などということはないかね?」
 まさかの、ズル疑惑浮上? です。
 先生! 直球ですね。
 でも、ぼくたちも。森でクマさんに出会って超ビックリだったのですよ?
 メジロパンクマがこの森にいるなんて。のですからねっ?

「先生。ぼくらは二年生で。今回は薬草取りをメインに考えていたのです。それで、装備も軽いものだし。もしもメジロパンクマを仕込んでいたとしたら。もう少し重装備にしていたとは思いませんか?」
「それは、そうだが…しかしメジロパンクマは、ほぼ無傷だしね? 君たちは上級貴族の御子息でもあるし。高額ではあるが、メジロパンクマを仕入れて。氷の檻で森の中に置いておいたということも。なくはないかと…」
 マルチェロの言い分は。先生にひっくり返されてしまい。彼は肩をすくめた。

「サリエルがズルをするとか、ありえない。無欲な彼には、メリットがないですからね?」

 そう言って助け船を出してくれたのは。なんと、ラーディン兄上だった。
 兄上はぼくらと先生たちのそばに寄ってくると。言った。

「先生、俺たちは王族なので。影の者を従えております。それで、俺がサリエルにつけていた影の者によると。サリエルは一度、メジロパンクマを逃がそうとしたらしいのです。このような大物は、手に余ると。しかし生徒たちが森にいるので。それは思いとどまりましたが…」
「それはそうだ。メジロパンクマなどという凶暴な魔獣を逃がすなんて。ドラベチカくん、いけませんよ?」
 なんでか、先生に怒られる、ぼく。
 捕まえても、逃がしても、怒られるとか。どないせいっちゅうんでょう? 
 つか、逃がしていないしぃ。

「魔獣狩りでの優勝者は、望みが叶うというジンクスがあり。それを目指して、みんな頑張るわけですが。サリエルは欲がないのです。というか。彼の望みは、あらかた叶っている。そうだよな?」
 ラーディン兄上に、うながされ。ぼくはうなずきます。

 えぇ。ぼくは今、幸せです。

「レオンハルト兄上には大事に育てられ、守られて。ラーディン兄上やシュナイツといった、兄弟にも恵まれ。お友達もみんな優しいですから。ま、一点だけ。ディエンヌが、アレですけど。いえいえ。ぼくは。今の状態が最高でございますから。他に望みなどありません」

「つまり。無欲なサリエルが。魔獣狩りで、ズルで優勝を狙うことはありません。ゆえに、このメジロパンクマはズルではないということです」
 ラーディン兄上の言に、ぼくら三人はうなずきます。

 それで、先生は。眉間に深いしわを刻みつつも。
「うーん、現在二位につけているラーディンくんが、それで納得しているのなら。今回は不正ではない、ということにしましょう」
 そう言って去って行ったのだった。

 おぉぉ。思いがけないズル疑惑で。ぼくは、ヒヤリといたしました。
「ラーディン兄上、助太刀していただき、ありがとうございました」
「べ、別にぃ? ドラベチカ家の者が不正など、疑われるのが嫌だっただけだっ」
 ぼくがお礼を言うと。ラーディン兄上は、安定にツンした。
 うむ。安定です。

「私たちの優勝確定で、ラーディン様はサリエル様に求婚できなくなって。おつらいでしょうに。私たちを助けてくださるなんて、なかなか男前ですのね? ラーディン様?」
 アリスがにこやかに。褒めているのかなんなのかわからないことを、兄上に言うけれど。

「べ、別にぃ? サリエルに求婚なんて。か、か、考えていなかったしぃ?」
 と、兄上は。腕を組んで口をへの字にして、断固否定した。
 そうですよねぇ? アリスの考えすぎですよ。意地悪ツンデレ兄上が、ぼくに求婚だなんて。

「しかしながら。メジロパンクマがこの森に…というか、おまえらの前に現れたことが。なにやらきな臭い。普通なら爪の餌食になっていてもおかしくないのだからな?」
「そうですね? この森にいるはずのないメジロパンクマが出没したのですから。サリーを狙った、罠のひとつではあったのかもしれません。ディエンヌの仕業かは断定できませんけど」
 すっごく真面目な顔で、兄上とマルチェロが話し合っていますけど。

「メジロパンクマがサリエルに一目惚れして、難を逃れられたのは幸いだったな? たが。明日はファウストをそちらにつけよう。班には入れられなくても、単独行動は許されているからな?」

 は? 兄上…メジロパンクマが一目惚れって、言いました?

「ファウストがこちらに来るのは、ありがたいですが。そちらの戦力が激減するのでは?」
「心配御無用。おまえらの優勝はほぼ決まりなのだから。明日は、もうのんびり狩りを楽しむつもりだ」

 マルチェロとラーディン兄上の話に、ぼくは顔をキョロキョロさせますが…。
 あぁっ、影の者をつけていたって、さっき兄上は言っていましたね? それでぼくが求愛されたのも、知っているというわけなのですねぇ?
 それはっ、いけませぇん! 早急に口止めをしなければっ。

「あ、あ、兄上。そのことは。求愛の件は、御内密に…」
 こっそり言ったら。
 クフッと。マルチェロが笑い出して。兄上もアリスも、笑いをこらえ始めました。
 もうっ、笑わないでぇ!

「パンちゃーーん、優勝、おめでとうっ」
 そこに、マリーベルとシュナイツと、エドガーがやってきました。
 なんというバッドタイミングなのでしょう。
 ぼくはみなさまに、キッと視線を投げて。笑いを引っ込めさせます。
 あの事を言ったら、不敬罪ですからねぇっ!!!

「すごいわぁ、パンちゃんがメジロパンクマを捕獲するなんてぇ。さすがパンちゃんねぇ?」
 マリーベルはぼくの手を握って。自分のことのように喜んでくれます。
「いえいえ、マルチェロが魔法で捕獲したのですよ? ぼくはなにも…」
 でも。マリーに喜んでもらえるのは、ぼくもとても嬉しいですよ?

「捕まえたメジロパンクマは、魔獣園に送られるみたいね? サリエル様という名前にしてもらいましょう?」
「…なぜそこは、パンちゃんではないのですか? マリーベル?」
 にこやかな笑みを浮かべたまま、たずねますが。
 その質問に、マリーベルは答えなかった。

 ぼくは、メジロパンクマじゃありませぇぇぇん!!

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