魔王の三男だけど、備考欄に『悪役令嬢の兄(尻拭い)』って書いてある?

北川晶

文字の大きさ
上 下
133 / 184
連載

97 箝口令を敷きます

しおりを挟む
     ◆箝口令を敷きます

 マルチェロが魔法で作った、氷の檻の中にいるメジロパンクマが。檻をつかんでアウアウと暴れていますが。
 その状態を、ぼくら三人はジト目で見つつ。これからのことを考えます。
「メジロパンクマは、何ポイントくらいになるのでしょう?」
「レア魔獣だからね? 一万ポイントくらいにはなるんじゃないかな?」
 ぼくの質問に、マルチェロが冷静に答えます。
「これ、逃がしたら駄目ですよね?」
「どうして逃がすのぉ? これだけで、私たち優勝確定じゃない?」
 ぼくの願望に、アリスが疑問を投げます。
「だって、メジロパンクマを捕獲したなんて言ったら。マリーベルが興奮しちゃうでしょ? パンちゃんは、パンちゃんはぁ…と。今から胃が痛い思いです」
 優勝? わぁ嬉しい。なんて気には、なりませぇん。
 それに、ラーディン兄上が優勝する予定なのに。それを奪っちゃうのも。気が引けます。

 そこに、マルチェロが。至極正論を口にします。
「人道的に。生徒がいっぱい森の中にいるのに、メジロパンクマなんて凶暴な魔獣を放つことは出来ないよ? 甚大な被害になるよ?」
「ですよねぇ?」
 まぁ、ぼくも。本気でクマを逃がそうと思っているわけではないのです。
 ただただ、マリーベルの反応が恐ろしいだけなのです。

「まぁ、とにかく。これはタグをつけて広場に送っちゃうね?」
 そうして。マルチェロは檻にタグをくくりつけると。魔法を発動させた。
 氷の檻は、宙に浮き。広場の方に向かって行き。
 そのメジロパンクマを追って、スイートラブ・ハニービーも移動していった。
 ぼくは、あぁと思い。手を差し伸べる。

 これで、マリーベルにからかわれる運命は間違いなしになりました。

 とはいえ。ぼくは。この状況を放置することはできません。高らかに、告げます。
「ぼくはっ、箝口令を敷きます。ぼくがメジロパンクマに求愛されたことをマリーベルに言った者は…ふ、ふ、不敬罪、ですっ」
 ぼくは。王族をひけらかすようなことを、今までしたことがなかったので。不敬罪とか、箝口令とか、言ったときは声が震えましたが。
 ここは、背に腹は代えられません。

「サリー…それは、できない相談だ」
 しかし。なにやら、まばゆいくらいの麗しい笑みを浮かべて。マルチェロが言った。
 嘘ぉ? ま、ま、マルチェロが、ぼくに反旗を翻すなんて…。

「だってね? こ、こここ、こんな面白いこと。マリーベルに言わないなんて。くくく。む、無理でしょ?」
「そ、そそそ、そうですわぁ? サリエル様。口を縫いつけでもしなければ。今すぐにでも走って、マリーベル様に報告したい衝動を、押さえ込んでいるというのにぃ…」
 そうして、ふたりは。腹を抱えて。ブハハハッと。貴族にあるまじき大笑いをしたのだった。
「ううううぅぅぅぅうう、言、わ、な、い、でぇーーーーっ」
 メガラスが飛び立つくらいの大きなぼくの声が。森に響き渡ったのだった。

     ★★★★★

 日が暮れて。魔獣狩りの一日目が終わった。
 広場では、一日目のトップの成績だったぼくたちの班が、表彰を受けている。
 総合優勝は、一日目と二日目のポイントを合わせた成績になるが。
 その日ごとにもポイントトップの者が表彰されるのだ。

 だけれども。メジロパンクマのポイントは、二万ポイント。

 学園の裏の森で、大物だと言われる黒豹の魔獣でも、千ポイントなので。二十体も捕獲、退治しなければ。ぼくらには追いつかない計算ですぅ。
 つまり、ほぼほぼ、ぼくらが優勝確定ですぅ。

 表彰台の上から広場に降りていくときに。ラーディン兄上が悔しそうな顔つきで、ぼくを見ておりました。
 ううぅ、ラーディン兄上が優勝するはずだったのに。すみませぇん。

「さすがの、フラグクラッシャーね? ラーディン兄上が優勝していたら、学園のみんなの前で求婚されたのは。サリエルだっただろうから。ねぇ?」
 アリスが隣でこっそり囁く。
「ゲームでは、アリスが求婚されるのではぁ?」
「順当ならそうだけど。私とラーディンの接点は、全くないからね? でもラーディンが優勝を狙ったとするなら。公の前でサリエルに求婚することで、まずは同年代の味方をつける、という策略だったのではないかしらぁ? と思って。魔獣狩りの優勝者には、望みが叶うという結構強めのジンクスもあるからね?」

 確かに。魔獣狩りに優勝すると。その先の人生に太鼓判を押されたような。前途洋々な未来が待っている、という話が、あるような? ないような?
「それだったら兄上は。レオンハルト兄上の右腕になりたーい、と望むのではないですか? ぼくに求婚など、ありえないですよぉ」
 軽く笑い飛ばしてアリスに言うと。
 じゃあ、そういうことにしておきましょう。と、肩をすくめて彼女は笑った。

しおりを挟む
感想 155

あなたにおすすめの小説

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

処理中です...