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番外 レオンハルトの胸中 ⑫
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サリュが寝落ちしてしまったので。
私は人に会ってもおかしくない服にサッと着替えて。マルチェロとファウストの報告を聞くことにした。
客室の用意をしている間、ふたりはサロンでくつろいでいたので。そこに向かう。
「サリエルに対する貴族諸君の反応は、どうであったか?」
ソファセットの彼らの対面に腰かけ、私がたずねると。マルチェロが返答をした。
「おおむね良好でした。レオンハルトが選んだ諸侯だったので。招待客も彼らが吟味したのでしょう。無礼を働く者はおりませんでしたよ。しかし刺客やチンピラの類は、ちらほら顔を見せましたね。すべて夜会会場に足を踏み入れる前に、手の者が処理しております」
それに対し、ファウストが補足を入れる。
「貴族職ではないチンピラは、八人。金で雇われた者ですが。依頼人の名にエレオノラやディエンヌは出てきません。孫請けで、そこまで到達できませんでした。刺客はラーディン派が二名。レオンハルト様の不支持者が四名です」
それに、私はうなずく。
ラーディンは、彼自身に私を押しのけて魔王になるという野心はないのだが。
私よりラーディンの方が御しやすいと考える貴族が、一定数いる。その者の暴走だな?
私の不支持者というのも。不正に利権を行使していた輩を排除した私を、恨んでいる者が一定数いる。ということだ。
旨味を吸えなくなった逆恨みで。手を振り上げたのだろう。短絡的すぎる。
どちらも魔国には不必要な人材である。
魔国の膿を出したと言えるが。
しかし私ではなく、サリエルに牙をむくのはいただけない。厳しく処罰しよう。
「昨夜の夜会では、子爵位であった野心家が二人ほど、会場に入り込みました。サリエル様と話をしたかったと言っていて。刺客ではなさそうでしたが。招待客ではないので。騎士に引き渡しました。彼らの存在を、サリエル様のクラスメイトであるヴェルビン・サンド伯爵令嬢が知らせてくれたのです」
「ほう? 彼女はどのような人物だ?」
私の質問には、同じく彼女とクラスメイトであるマルチェロが答えた。
「一年時から、サリエル様には友好的な御令嬢です。でも…サリーがレオンハルトの婚約者であることを知っていますからね? 私は彼女が。いずれサリーの…魔王妃の側仕えになりたいと目論んでいるのではないかと感じています」
「なるほど。しかし不法侵入を見破る目は、大したものだ。これが自作自演でなければ、側仕えの件も考えなくもないが…だがマリーベルほどの暗殺スキルは、欲しいところだな?」
まだ正式に、私の婚約者だと発表していない段階で。
サリエルには十名超の敵が付きまとった。ということだ。
その側仕えに、ただの御令嬢をつけるわけにはいかない。
サリエルを命を懸けて守れる侍女でなくてはならないのだ。
今は、エリンが。如才ない働きをしているが。
サリュが魔王妃となったら、エリンは身分的に、公の場でまでも守ることができなくなる。
そのときに。サリエルが心を開ける、身分もある御令嬢がそばにいてくれたら。とは思うのだが。
マリーベルは。ルーフェンの子女として、マルチェロ同様、体術や暗殺スキルを習得している。
しかしながら公爵令嬢であり、シュナイツの婚約者であるから。
側仕えにするには、家格が高すぎるのだ。
「アリスティア嬢も、現在マリーに鍛えさせていますが。ヴェルビン嬢も背景がクリアだったら、マリーに鍛えさせましょうか?」
マルチェロの言葉に、私は思案する。
マリーベルは、旅の途中でアリスティア嬢の屋敷に逗留している。
だが、ただの遊びで留まったわけではない。
いずれサリエルのそばに付き従えるよう、アリスティア嬢に戦闘の極意を伝えるよう、私が指示を出しておいたのだ。
アリスティアが働くには、身分的には侯爵令嬢なので、ちょっと家格が高いが。フランチェスカ侯爵家には後継の息子がいるから。アリスティアは実質フリー。どのようにも人生の道を選べる。
そして病気療養していたところからも。背後関係が真っ白で、サリュのそばにつけるには実に良い人材と言える。
アリスティアがマリーベルの逗留を認めたということは。
彼女もその道を視野に入れた、ということだと思う。
アリスティアはサリエルと気が置けない仲のようなので。彼女が防御スキルを習得して、サリュの側仕えになってくれたら。喜ばしいのだがな?
「そうだな。サリエルの味方は多いに越したことはない。しかしヴェルビン嬢は上昇志向の御令嬢のようだから、背景はしっかりチェックしてくれ」
夜も更けてきたし、詳細な報告は後日にしようと。席を立とうとしたら。
マルチェロが素敵な笑みを向けてきた。
「レオンハルト。あなたに会いたくて、サリーが馬車の中でそわそわと弾んで、ほっぺがこの上もなくブルブルしていた…ことや。お酒のグラスを悪戯で渡したら、苦いって言って、顔のパーツが真ん中にギュッと集まった表情が愛らしかった…ことや。サリーの背後に豹の頭のはく製を置いておいたら、振り返った瞬間に驚いてファウストの身長くらいに垂直にジャンプしたり…とか。マリーにからかわれる度に顔を真っ赤にして、口をへの字にする…とか? そういう報告はよろしいのですか?」
な、んだとぉ? そんなサリュのレア顔を、自慢げに言ってくるなんて。
なんて命知らずなんだっ、マルチェロっ!!
それに、サリュをからかったり悪戯を仕掛けるなど。到底許されぬ行いであるっ。
私は怒りに、こめかみをヒクヒクさせ。額のツノがウズウズした。
「あぁ。ルーフェンは。兄妹で死を賜りたいようだなぁ???」
「あはは、まさかそのような…あはは」
そうして、しばらく。サロンには乾いた笑いが響いたのであった。
私は人に会ってもおかしくない服にサッと着替えて。マルチェロとファウストの報告を聞くことにした。
客室の用意をしている間、ふたりはサロンでくつろいでいたので。そこに向かう。
「サリエルに対する貴族諸君の反応は、どうであったか?」
ソファセットの彼らの対面に腰かけ、私がたずねると。マルチェロが返答をした。
「おおむね良好でした。レオンハルトが選んだ諸侯だったので。招待客も彼らが吟味したのでしょう。無礼を働く者はおりませんでしたよ。しかし刺客やチンピラの類は、ちらほら顔を見せましたね。すべて夜会会場に足を踏み入れる前に、手の者が処理しております」
それに対し、ファウストが補足を入れる。
「貴族職ではないチンピラは、八人。金で雇われた者ですが。依頼人の名にエレオノラやディエンヌは出てきません。孫請けで、そこまで到達できませんでした。刺客はラーディン派が二名。レオンハルト様の不支持者が四名です」
それに、私はうなずく。
ラーディンは、彼自身に私を押しのけて魔王になるという野心はないのだが。
私よりラーディンの方が御しやすいと考える貴族が、一定数いる。その者の暴走だな?
私の不支持者というのも。不正に利権を行使していた輩を排除した私を、恨んでいる者が一定数いる。ということだ。
旨味を吸えなくなった逆恨みで。手を振り上げたのだろう。短絡的すぎる。
どちらも魔国には不必要な人材である。
魔国の膿を出したと言えるが。
しかし私ではなく、サリエルに牙をむくのはいただけない。厳しく処罰しよう。
「昨夜の夜会では、子爵位であった野心家が二人ほど、会場に入り込みました。サリエル様と話をしたかったと言っていて。刺客ではなさそうでしたが。招待客ではないので。騎士に引き渡しました。彼らの存在を、サリエル様のクラスメイトであるヴェルビン・サンド伯爵令嬢が知らせてくれたのです」
「ほう? 彼女はどのような人物だ?」
私の質問には、同じく彼女とクラスメイトであるマルチェロが答えた。
「一年時から、サリエル様には友好的な御令嬢です。でも…サリーがレオンハルトの婚約者であることを知っていますからね? 私は彼女が。いずれサリーの…魔王妃の側仕えになりたいと目論んでいるのではないかと感じています」
「なるほど。しかし不法侵入を見破る目は、大したものだ。これが自作自演でなければ、側仕えの件も考えなくもないが…だがマリーベルほどの暗殺スキルは、欲しいところだな?」
まだ正式に、私の婚約者だと発表していない段階で。
サリエルには十名超の敵が付きまとった。ということだ。
その側仕えに、ただの御令嬢をつけるわけにはいかない。
サリエルを命を懸けて守れる侍女でなくてはならないのだ。
今は、エリンが。如才ない働きをしているが。
サリュが魔王妃となったら、エリンは身分的に、公の場でまでも守ることができなくなる。
そのときに。サリエルが心を開ける、身分もある御令嬢がそばにいてくれたら。とは思うのだが。
マリーベルは。ルーフェンの子女として、マルチェロ同様、体術や暗殺スキルを習得している。
しかしながら公爵令嬢であり、シュナイツの婚約者であるから。
側仕えにするには、家格が高すぎるのだ。
「アリスティア嬢も、現在マリーに鍛えさせていますが。ヴェルビン嬢も背景がクリアだったら、マリーに鍛えさせましょうか?」
マルチェロの言葉に、私は思案する。
マリーベルは、旅の途中でアリスティア嬢の屋敷に逗留している。
だが、ただの遊びで留まったわけではない。
いずれサリエルのそばに付き従えるよう、アリスティア嬢に戦闘の極意を伝えるよう、私が指示を出しておいたのだ。
アリスティアが働くには、身分的には侯爵令嬢なので、ちょっと家格が高いが。フランチェスカ侯爵家には後継の息子がいるから。アリスティアは実質フリー。どのようにも人生の道を選べる。
そして病気療養していたところからも。背後関係が真っ白で、サリュのそばにつけるには実に良い人材と言える。
アリスティアがマリーベルの逗留を認めたということは。
彼女もその道を視野に入れた、ということだと思う。
アリスティアはサリエルと気が置けない仲のようなので。彼女が防御スキルを習得して、サリュの側仕えになってくれたら。喜ばしいのだがな?
「そうだな。サリエルの味方は多いに越したことはない。しかしヴェルビン嬢は上昇志向の御令嬢のようだから、背景はしっかりチェックしてくれ」
夜も更けてきたし、詳細な報告は後日にしようと。席を立とうとしたら。
マルチェロが素敵な笑みを向けてきた。
「レオンハルト。あなたに会いたくて、サリーが馬車の中でそわそわと弾んで、ほっぺがこの上もなくブルブルしていた…ことや。お酒のグラスを悪戯で渡したら、苦いって言って、顔のパーツが真ん中にギュッと集まった表情が愛らしかった…ことや。サリーの背後に豹の頭のはく製を置いておいたら、振り返った瞬間に驚いてファウストの身長くらいに垂直にジャンプしたり…とか。マリーにからかわれる度に顔を真っ赤にして、口をへの字にする…とか? そういう報告はよろしいのですか?」
な、んだとぉ? そんなサリュのレア顔を、自慢げに言ってくるなんて。
なんて命知らずなんだっ、マルチェロっ!!
それに、サリュをからかったり悪戯を仕掛けるなど。到底許されぬ行いであるっ。
私は怒りに、こめかみをヒクヒクさせ。額のツノがウズウズした。
「あぁ。ルーフェンは。兄妹で死を賜りたいようだなぁ???」
「あはは、まさかそのような…あはは」
そうして、しばらく。サロンには乾いた笑いが響いたのであった。
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