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87 思いがけない遭遇
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◆思いがけない遭遇
一日だけで、あまり気持ち的にはゆっくりできないけれど。ファウストの実家での初日は、旅の疲れを癒すのんびりタイムになった。
肩まで浸かれる、たっぷりのお湯を張ったお風呂で、ちょーリラックスして。
兄上からもらった真っ白な寝間着を身につけて。ぐっすり、おやすみなさいですぅ…。
★★★★★
そんな久々の休息時間を味わって。とても深い眠りについて。
あぁ、いつまでも。この布団の中でまどろんでいたい気分なのですがぁ。
今日はバッキャスの鍛錬場を見学したり、いろいろ視察するので。朝から忙しくなりそうです。
小鳥がチュンチュンさえずっているから、もう朝なのですね?
でも、もう少し寝ていたい。
というか、ここは王都ではない自然豊かなところだから。小鳥がいるのかもしれませんね?
えぇ、そういうことにしておきましょう。
余計なことは考えず。もう少し寝ていましょう。
だけど。ちゅん、チュン、ヂュンっ! と小鳥のさえずりがどんどん大きくなってきて。
うううぅぅぅううるさぁぁああいっ!
ぼくはっ、寝台をコロリーーンと転がり降りて、寝間着のまんまで窓を開け放ちます。
するとバルコニーには、やはりぼくの天敵のスズメガズスが、いやがりましたよぉ?
つか、旅先にまで来るなんて。
思いがけない遭遇とは、まさにこのことですっ。
しかし、スズメは言いました。
「でっか!」
なんでか、びっくり目でぼくを見て。くちばしもパッカーンと開いています。
鳩が豆鉄砲をくらった顔です。スズメですけどっ。
「はぁ? 今更なんですかっ。つか、こんなところまで追ってこないでくれませんかぁ? ぼくは旅の途中なのです。空気を読んでくださいっ!」
「いや。我はそなたと初対面だっ」
びっくり顔のスズメガズスは。気を取り直して、ぼくに言った。
「え? あいつじゃないのぉ? じゃあ、別のスズメガズスぅ?」
知らんがな。つか、スズメの見分けなんかつかないですから。
「清らかな魂の気配が、久しぶりに現れたから。赤子が生まれたのかと思い、見に来てみたのだが。でっか。これではいかに清らかな魂と言えど、育てることは叶わぬ」
いかにも残念そうに、ため息をつかれ。
なんか、それはそれで、すみませんという気になる。
でも。たぶんそれが、普通のスズメガズスの反応なのだ。そうに違いない。
「でしょう? そうでしょう? 普通はそういうものでございます。このように大人なぼくを、これから育てようと思うところが、おかしいのです。王都のスズメが、アホなのでございますぅ」
「しかしこうして、物怖じせずに我と話をするそなたのことは、気に入ったぞ? そなたに赤子が生まれたら、我が育ててやろう」
「それはご遠慮申し上げますっ」
胸を張るスズメに、ぼくはきっぱりと断りを入れます。
つか、オスのくせに、どうしてそんなに育児に自信満々なのでしょうね?
王都の、アホなあいつも。きっぱり断ったら、来なくなるかなぁ?
いや、あいつは来るな。
そこまで思って。ぼくは。ひぁああ? と考えついてしまった。
「ま、まさか。森で人が干からびているのって。君が生気をチュウチュウしたせいとかじゃないよね?」
たずねたら、スズメガズスは額にある第三の目をかっぴらいて、羽もバサバサさせて、怒った。
「バカな。高貴な我らスズメガズスが。清らかな魂以外のものを口にするわけがないであろう? それに大事な食料を吸いつくしてダメにするような、頭の悪いことはせぬ。アレは、頭の悪い魔族の仕業であろう。全く魔族は頭が悪くて、魂ドロドロで、気持ち悪い頭の悪い輩しかいないから、キモっ。あぁ、キモっ!」
そう言って。スズメガズス二号。いや、この前二匹で来たから、三号…は。白い布をしっかり握って、飛び去って行った。
つか、大事なことなのか。頭の悪い、を二回…いえ、四回も言いましたよ?
よっぽど魔族を頭が悪いと思っているのでしょうね? スズメの小さな脳みその癖にぃ。
とはいえ、彼は重要な情報をぼくにくれた。
未確認の魔物と言われていたものは。やはり、魔族の人?
魔族の人が、人族の人を襲ったのだとしたら。これは大事になってしまいそうです。
早く、兄上に報告したい。
あぁ、バッキャス公爵の方が先でしょうか?
でもスズメガズスに聞いたと言っても、信じてくれるでしょうかね?
それに、もっと大事な問題が…。
ぼくが童貞なのが、バレてしまいます。いえ、まだこの情報は公ではないけれど。
『あのときのサリエル様は…だったのだなぁ?』
と公爵に思われたくないのですぅ。
ややや、やっぱり。兄上に一番に言いましょう。こっそり、言いましょう。
兄上になら、ぼくが童貞と知れても大丈夫です。
というか、むしろ身持ちの良い証明になるので。兄上は喜んでくれます。
よし。兄上に報告することにしましょう。決まりです。
気がかりをスッキリさせて、窓を閉め。寝室を振り返ると。
居間に通じるドアが少し開いていて、そこからエリンとミケージャが覗いていました。
「サリエル様、旅先にまでスズメを持ってくるなんて。よっぽどスズメと仲が良いのですね?」
「ミケージャ、やめてください。ぼくがスズメを持ってきたわけではありません。つか、アレは王都のスズメガズスとは別人…いえ、別スズメなのです。初対面スズメです」
「…旅先で、火の玉を出さずに済んで良かったです」
エリンはいつでも火の玉を打てるように、手のひらを上に向けて用意していたみたいです。
「それはそうだね? バッキャスの魔力センサーに引っかかったら、大変だものね?」
そうして、何事もなかったかのように。ぼくは朝の支度をするべく洗面所に入っていき。
エリンたちも何事もなかったかのように。居間に戻ったのだった。
つか、魔獣や侵入者は入ってこれなさそうな、堅固な要塞のはずだけど。
スズメはスルーだったね?
でも、スズメガズスが来たことは明かせないので。バッキャスには内緒にしましょう。
ごめんね? ファウスト。
一日だけで、あまり気持ち的にはゆっくりできないけれど。ファウストの実家での初日は、旅の疲れを癒すのんびりタイムになった。
肩まで浸かれる、たっぷりのお湯を張ったお風呂で、ちょーリラックスして。
兄上からもらった真っ白な寝間着を身につけて。ぐっすり、おやすみなさいですぅ…。
★★★★★
そんな久々の休息時間を味わって。とても深い眠りについて。
あぁ、いつまでも。この布団の中でまどろんでいたい気分なのですがぁ。
今日はバッキャスの鍛錬場を見学したり、いろいろ視察するので。朝から忙しくなりそうです。
小鳥がチュンチュンさえずっているから、もう朝なのですね?
でも、もう少し寝ていたい。
というか、ここは王都ではない自然豊かなところだから。小鳥がいるのかもしれませんね?
えぇ、そういうことにしておきましょう。
余計なことは考えず。もう少し寝ていましょう。
だけど。ちゅん、チュン、ヂュンっ! と小鳥のさえずりがどんどん大きくなってきて。
うううぅぅぅううるさぁぁああいっ!
ぼくはっ、寝台をコロリーーンと転がり降りて、寝間着のまんまで窓を開け放ちます。
するとバルコニーには、やはりぼくの天敵のスズメガズスが、いやがりましたよぉ?
つか、旅先にまで来るなんて。
思いがけない遭遇とは、まさにこのことですっ。
しかし、スズメは言いました。
「でっか!」
なんでか、びっくり目でぼくを見て。くちばしもパッカーンと開いています。
鳩が豆鉄砲をくらった顔です。スズメですけどっ。
「はぁ? 今更なんですかっ。つか、こんなところまで追ってこないでくれませんかぁ? ぼくは旅の途中なのです。空気を読んでくださいっ!」
「いや。我はそなたと初対面だっ」
びっくり顔のスズメガズスは。気を取り直して、ぼくに言った。
「え? あいつじゃないのぉ? じゃあ、別のスズメガズスぅ?」
知らんがな。つか、スズメの見分けなんかつかないですから。
「清らかな魂の気配が、久しぶりに現れたから。赤子が生まれたのかと思い、見に来てみたのだが。でっか。これではいかに清らかな魂と言えど、育てることは叶わぬ」
いかにも残念そうに、ため息をつかれ。
なんか、それはそれで、すみませんという気になる。
でも。たぶんそれが、普通のスズメガズスの反応なのだ。そうに違いない。
「でしょう? そうでしょう? 普通はそういうものでございます。このように大人なぼくを、これから育てようと思うところが、おかしいのです。王都のスズメが、アホなのでございますぅ」
「しかしこうして、物怖じせずに我と話をするそなたのことは、気に入ったぞ? そなたに赤子が生まれたら、我が育ててやろう」
「それはご遠慮申し上げますっ」
胸を張るスズメに、ぼくはきっぱりと断りを入れます。
つか、オスのくせに、どうしてそんなに育児に自信満々なのでしょうね?
王都の、アホなあいつも。きっぱり断ったら、来なくなるかなぁ?
いや、あいつは来るな。
そこまで思って。ぼくは。ひぁああ? と考えついてしまった。
「ま、まさか。森で人が干からびているのって。君が生気をチュウチュウしたせいとかじゃないよね?」
たずねたら、スズメガズスは額にある第三の目をかっぴらいて、羽もバサバサさせて、怒った。
「バカな。高貴な我らスズメガズスが。清らかな魂以外のものを口にするわけがないであろう? それに大事な食料を吸いつくしてダメにするような、頭の悪いことはせぬ。アレは、頭の悪い魔族の仕業であろう。全く魔族は頭が悪くて、魂ドロドロで、気持ち悪い頭の悪い輩しかいないから、キモっ。あぁ、キモっ!」
そう言って。スズメガズス二号。いや、この前二匹で来たから、三号…は。白い布をしっかり握って、飛び去って行った。
つか、大事なことなのか。頭の悪い、を二回…いえ、四回も言いましたよ?
よっぽど魔族を頭が悪いと思っているのでしょうね? スズメの小さな脳みその癖にぃ。
とはいえ、彼は重要な情報をぼくにくれた。
未確認の魔物と言われていたものは。やはり、魔族の人?
魔族の人が、人族の人を襲ったのだとしたら。これは大事になってしまいそうです。
早く、兄上に報告したい。
あぁ、バッキャス公爵の方が先でしょうか?
でもスズメガズスに聞いたと言っても、信じてくれるでしょうかね?
それに、もっと大事な問題が…。
ぼくが童貞なのが、バレてしまいます。いえ、まだこの情報は公ではないけれど。
『あのときのサリエル様は…だったのだなぁ?』
と公爵に思われたくないのですぅ。
ややや、やっぱり。兄上に一番に言いましょう。こっそり、言いましょう。
兄上になら、ぼくが童貞と知れても大丈夫です。
というか、むしろ身持ちの良い証明になるので。兄上は喜んでくれます。
よし。兄上に報告することにしましょう。決まりです。
気がかりをスッキリさせて、窓を閉め。寝室を振り返ると。
居間に通じるドアが少し開いていて、そこからエリンとミケージャが覗いていました。
「サリエル様、旅先にまでスズメを持ってくるなんて。よっぽどスズメと仲が良いのですね?」
「ミケージャ、やめてください。ぼくがスズメを持ってきたわけではありません。つか、アレは王都のスズメガズスとは別人…いえ、別スズメなのです。初対面スズメです」
「…旅先で、火の玉を出さずに済んで良かったです」
エリンはいつでも火の玉を打てるように、手のひらを上に向けて用意していたみたいです。
「それはそうだね? バッキャスの魔力センサーに引っかかったら、大変だものね?」
そうして、何事もなかったかのように。ぼくは朝の支度をするべく洗面所に入っていき。
エリンたちも何事もなかったかのように。居間に戻ったのだった。
つか、魔獣や侵入者は入ってこれなさそうな、堅固な要塞のはずだけど。
スズメはスルーだったね?
でも、スズメガズスが来たことは明かせないので。バッキャスには内緒にしましょう。
ごめんね? ファウスト。
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