魔王の三男だけど、備考欄に『悪役令嬢の兄(尻拭い)』って書いてある?

北川晶

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85 ぐっさりプラーン

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     ◆ぐっさりプラーン

 バッキャス公爵領エーデルリンクに到着した、ぼくら御一行。のどかな景色を通り過ぎ、行き当たったところにバッキャスのお屋敷があった。
 今までの領主のお屋敷は、豪邸というか、お城の様式に近いもの、そういうきらびやかな建物が多かったが。ファウストのお家は、鉄筋で広大な平屋の要塞のようなたたずまいだった。
 屋敷? 要塞? の背後には、森と高い山々が広がっていて。
 その向こうは、人族の国境になるという配置だ。
 人族が魔国に攻め入ってくるときには。まず高い山が。そしてバッキャスの不落の要塞が立ちふさがる、という感じ?

 かっけぇー、ですぅ。

 馬車が要塞の入り口につくと、バッキャス公爵とその奥方がぼくらを出迎えてくれました。
 ファウストの体格は、がっしりとして鍛えられていると思っていたのですけれど。
 公爵の体格を見ると、ファウストはまだまだ細身でスタイルが良いのだと思ってしまう。
 だって、公爵は。
「お…お牛…」
 縦にも横にもどっしりと分厚く大きい体格で。そんな公爵を見て、ぼくは思わずつぶやいてしまいました。
 横に大きく湾曲した、ぶっとい御ツノ。

 刺されたら、ぐっさりプラーンは間違いなしです。

「そうですよ? サリエル様ぁ。我らバッキャスはバッファローの系譜ですからなぁ。お牛で間違いなしです」
 そう言って、握手よりも先にぼくは公爵に抱えられ、高い高いされるのだった。
 うわぁ、ファウストに肩車されたときも、大きい、高い、と思いましたが。
 公爵はもっと。兄上よりももっと身長が高いので。さらに高い高いされると、尋常でなく高いのだった。

「あぁあ、あぁあぁあ…」
「むむ? サリエル様はもっちりしていても、御軽いのですなぁ? はっはっは」
 そうして上に放り投げられ。
 ひえぇぇぇっ、怖いんですけどぉ? 山が、空が、ぼくに近づくかのようですぅ。

「父上、サリエル様が恐怖を感じたらレオンハルト様が飛んできます。父上の頭は、胴体と永遠にさようならになりますよ?」
「なに? それはいかんな。私はまだ三大公爵でありたいからな」
 公爵は、宝物を扱うようにそっと。丁重にぼくを降ろしてくれました。ほっ。

「ご無礼いたしましたな、サリエル様。いやはや、それにしても。レオンハルト様やうちの愚息からいろいろ聞き及んでおり、サリエル様とは初対面のような気がいたしませんなぁ」
 はっはっは、と。鷹揚に笑われてしまい。ぼくは苦笑してしまいます。
 どうにも憎めない、愛嬌のあるお方だ。大きなお口を開けて、よく笑う。

「すみません、サリエル様。父上はあのように、デリカシーのない武骨な軍人気質なもので」
「いいえ、こころよくぼくを迎え入れてくださって、とても嬉しいですよ?」
 謝ってくるファウストを、ぼくは笑顔で受け入れます。
 ファウストは控えめで、どちらかと言えば繊細な気質なので。性格面はあまり親子で似ていないような気がいたしますね?

 みなさんも公爵と如才なく挨拶を済ませ。ひとりひとり、部屋へ案内されました。
 一休みしたら、夕食の時間です。
 でも、その前に。
 ぼくが割り当てられた部屋は、青色の壁紙の落ち着いた雰囲気のスイートルームで。エリンやミケージャが待機するお部屋も、水回りも、なにもかもがそろえられた居心地の良いお部屋です。
 寝室にある窓を開けると、大きなバルコニーになっていて。青く輝く山が近くに見えます。
 マウンテンビューです。
 バルコニーの下は切り立った崖のようになっていて、その奥は森です。侵入者を阻む仕様ですね?
 お屋敷は平屋に見えたので、地続きなのかなと思っていたけれど。これならば安心だと。ぼくの警護をするミケージャも申しております。
 警護面で、大丈夫と言われたので。ぼくは安心してバルコニーから美しい景色を眺めます。
 もう、夕暮れで。太陽が山の向こうに隠れそうなところ。
 ついさっきまで青く輝いていた山が、今は夕日のオレンジに照らされて赤く燃えています。赤と紫のグラデーションで、雲がたなびいて。空気も澄んでいて。すっごく綺麗です。
 エーデルリンクは、空の青、草原の緑、山は刻々と色を変えて、その極彩色がとてもロマンティックなので。
 兄上とふたりで、ぜひ見てみたい景色ですね?

 そう思ったら。唐突に兄上に会いたくなりました。あぁ。兄上は今頃なにをしているのでしょう?

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