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84 三日目は、苦行でした。
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◆三日目は、苦行でした。
二日目に滞在したフラフワム領を出て。またしばらく行くと、馬車が止まり。
今度はマリーベルとアリスがぼくらの馬車に乗り込んできた。
あれ? もしかしたら。
道中でぼくの馬車に乗るのは誰か、事前に話し合ったりとかしていますぅ?
嘘ぉーん。ぼく、聞いていませんけどぉ? 仲間外れですかぁ? うっそー。
「パンちゃんの馬車に乗るのに、本人が争奪戦に参加してどうするのぉ?」
ショックな顔をすると、マリーベルにそう言われた。
まぁ、そうですけど。
でも今日は。マルチェロが一緒ではないので。マリーベルのツッコミ役がいなくて。ちょっと不安です。
ぼくはマリーベルを制御できませんよっ?
「ねぇねぇ、アリスに聞いたんだけど。デカトンボロンに追いかけられていっぱい走ったのに、一ミリもやせなかったって本当なのぉ? さすがパンちゃんねぇ?」
それは事実でございますが。
プライベートの流出は厳禁だと言ったでしょぉおがっ、インナー!!
と怒鳴ることもできず。
ぼくはムギュっと唇を引き結んで。かしましい女性陣のおしゃべりに付き合わなければならなかったのだ。
三日目は、苦行でした。主にマリーによって。
★★★★★
三日目の滞在先でのご挨拶や夜会は、無難に済ませまして。
四日目は、とうとう目的地。ファウストのご実家である、エーデルリンク領に向かいます。
ぼくの馬車にはファウストが乗り込んできました。
領境の検問所を通って、町に入っていくと。まず、青く輝く山が遠くに見えた。そして緑の丘には、ヤギや牛が草を食む牧歌的な景色が続き。
自然豊かで、時間がゆっくり過ぎるような、のんびりゆったりした印象を受けた。
「エーデルリンクは酪農が盛んなのですよね?」
ぼくがファウストにたずねると。ファウストはうなずいたが。
思いがけないことを口にした。
「酪農は表の職業でして。領民はすべて、優秀な兵士として従軍できるよう鍛えられております。のどかに見せかけることで、国境の向こうの国は安心し、あなどる。けれど我が領、我が魔国には、踏み入らせない用意があるということです」
「それって、領民はみんな兵士ということ? あのお爺さんも? あのお花を摘んでる女の子も?」
馬車の窓の外を流れていく景色を見ながら、ぼくはたずねる。
「はい。子供は成長してから訓練に参加しますが。老人も女性も、ひと通り体術や剣術をおさめております」
「ほえぇぇ…さすが武芸に秀でたバッキャスがおさめる領ですね? ぼくは感嘆いたしました」
立ち寄る領については、ザっと学んではきたのだが。
軍事機密に近いような、こういうことは。文献には絶対に載っていないこと。
その場に来なければ知りようもないことだし。
もしかしたら、客人にも秘匿しなければいけないことかもしれない。
「でも、ファウスト。それはぼくに話してもいいことなのですか?」
「サリーちゃんは、いつか魔国の頂点に立つのだから。軍事の要であるバッキャスについて、早いうちから知っておくのは良いことだと思うのです。バッキャスの秘密を、サリーちゃんやお友達の貴族子息に開示することは、レオンハルト様にも了承をいただいておりますので、大丈夫ですよ?」
そうか。魔国の重要な部分は、兄上が担っているから。兄上がうなずけば、ぼくも知っていいことになるのだな?
マルチェロたちも近い将来、魔国を背負っていく身だ。彼らにもいい勉強になるのだろう。
「そういうことで、今年サリエル様を我が実家に招待させていただきました。短い時間ではありますが。まずは旅の疲れを癒して。それから我が領について、いろいろ勉強していただけたらと思います」
「ありがとう。ファウストの心遣いに感謝して。いっぱい見学させてもらうね?」
「…というか。私の家にサリーちゃんが来てくれるだけで。嬉しいです」
口下手ながら、フフと口をほころばせて、嬉しそうにするファウストを見て。ぼくも嬉しくなる。
ファウストがサリーちゃんと呼ぶときは、親しいお友達扱いで。
サリエル様と呼ぶときは、ぼくの立場を考えてくれる時なのだ。
ファウストは私的と公的の境がしっかりしているから。ぼくもわかりやすくて、ありがたいです。
そう。私的なぼくは、単純に旅を楽しみたいけれど。
公的なぼくとしては。しっかりここで学ばなければなりませんね?
エーデルリンクの防衛システムは、魔国の要です。辺境に出向く機会はそう多くないので、この旅行中にしっかりとバッキャスの軍事レベルを見学してくること、と。
しおりにもそう書いてあります。
「ファウストは幼少期をここで過ごしたのでしょう? ファウストが育った中で、面白かったことやお部屋とか、見せてくれたら嬉しいなぁ?」
そういえば、お友達のお部屋とか見たことがないかなぁ。普通はお宅に訪問しても、大体はサロンでお話することが多いのでね。
「サリーちゃんがっ、私の部屋にっ」
そうしたら、ファウストはまた、はうぅぅと発作を起こした。
いけません。お部屋訪問は、ファウストの心臓が持たないかもしれませんね? 自重しましょう。
しかし、なにはともあれ。目的地のエーデルリンクに到着です。
二日目に滞在したフラフワム領を出て。またしばらく行くと、馬車が止まり。
今度はマリーベルとアリスがぼくらの馬車に乗り込んできた。
あれ? もしかしたら。
道中でぼくの馬車に乗るのは誰か、事前に話し合ったりとかしていますぅ?
嘘ぉーん。ぼく、聞いていませんけどぉ? 仲間外れですかぁ? うっそー。
「パンちゃんの馬車に乗るのに、本人が争奪戦に参加してどうするのぉ?」
ショックな顔をすると、マリーベルにそう言われた。
まぁ、そうですけど。
でも今日は。マルチェロが一緒ではないので。マリーベルのツッコミ役がいなくて。ちょっと不安です。
ぼくはマリーベルを制御できませんよっ?
「ねぇねぇ、アリスに聞いたんだけど。デカトンボロンに追いかけられていっぱい走ったのに、一ミリもやせなかったって本当なのぉ? さすがパンちゃんねぇ?」
それは事実でございますが。
プライベートの流出は厳禁だと言ったでしょぉおがっ、インナー!!
と怒鳴ることもできず。
ぼくはムギュっと唇を引き結んで。かしましい女性陣のおしゃべりに付き合わなければならなかったのだ。
三日目は、苦行でした。主にマリーによって。
★★★★★
三日目の滞在先でのご挨拶や夜会は、無難に済ませまして。
四日目は、とうとう目的地。ファウストのご実家である、エーデルリンク領に向かいます。
ぼくの馬車にはファウストが乗り込んできました。
領境の検問所を通って、町に入っていくと。まず、青く輝く山が遠くに見えた。そして緑の丘には、ヤギや牛が草を食む牧歌的な景色が続き。
自然豊かで、時間がゆっくり過ぎるような、のんびりゆったりした印象を受けた。
「エーデルリンクは酪農が盛んなのですよね?」
ぼくがファウストにたずねると。ファウストはうなずいたが。
思いがけないことを口にした。
「酪農は表の職業でして。領民はすべて、優秀な兵士として従軍できるよう鍛えられております。のどかに見せかけることで、国境の向こうの国は安心し、あなどる。けれど我が領、我が魔国には、踏み入らせない用意があるということです」
「それって、領民はみんな兵士ということ? あのお爺さんも? あのお花を摘んでる女の子も?」
馬車の窓の外を流れていく景色を見ながら、ぼくはたずねる。
「はい。子供は成長してから訓練に参加しますが。老人も女性も、ひと通り体術や剣術をおさめております」
「ほえぇぇ…さすが武芸に秀でたバッキャスがおさめる領ですね? ぼくは感嘆いたしました」
立ち寄る領については、ザっと学んではきたのだが。
軍事機密に近いような、こういうことは。文献には絶対に載っていないこと。
その場に来なければ知りようもないことだし。
もしかしたら、客人にも秘匿しなければいけないことかもしれない。
「でも、ファウスト。それはぼくに話してもいいことなのですか?」
「サリーちゃんは、いつか魔国の頂点に立つのだから。軍事の要であるバッキャスについて、早いうちから知っておくのは良いことだと思うのです。バッキャスの秘密を、サリーちゃんやお友達の貴族子息に開示することは、レオンハルト様にも了承をいただいておりますので、大丈夫ですよ?」
そうか。魔国の重要な部分は、兄上が担っているから。兄上がうなずけば、ぼくも知っていいことになるのだな?
マルチェロたちも近い将来、魔国を背負っていく身だ。彼らにもいい勉強になるのだろう。
「そういうことで、今年サリエル様を我が実家に招待させていただきました。短い時間ではありますが。まずは旅の疲れを癒して。それから我が領について、いろいろ勉強していただけたらと思います」
「ありがとう。ファウストの心遣いに感謝して。いっぱい見学させてもらうね?」
「…というか。私の家にサリーちゃんが来てくれるだけで。嬉しいです」
口下手ながら、フフと口をほころばせて、嬉しそうにするファウストを見て。ぼくも嬉しくなる。
ファウストがサリーちゃんと呼ぶときは、親しいお友達扱いで。
サリエル様と呼ぶときは、ぼくの立場を考えてくれる時なのだ。
ファウストは私的と公的の境がしっかりしているから。ぼくもわかりやすくて、ありがたいです。
そう。私的なぼくは、単純に旅を楽しみたいけれど。
公的なぼくとしては。しっかりここで学ばなければなりませんね?
エーデルリンクの防衛システムは、魔国の要です。辺境に出向く機会はそう多くないので、この旅行中にしっかりとバッキャスの軍事レベルを見学してくること、と。
しおりにもそう書いてあります。
「ファウストは幼少期をここで過ごしたのでしょう? ファウストが育った中で、面白かったことやお部屋とか、見せてくれたら嬉しいなぁ?」
そういえば、お友達のお部屋とか見たことがないかなぁ。普通はお宅に訪問しても、大体はサロンでお話することが多いのでね。
「サリーちゃんがっ、私の部屋にっ」
そうしたら、ファウストはまた、はうぅぅと発作を起こした。
いけません。お部屋訪問は、ファウストの心臓が持たないかもしれませんね? 自重しましょう。
しかし、なにはともあれ。目的地のエーデルリンクに到着です。
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