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81 もうホームシックなの?
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◆もうホームシックなの?
ぼくらが公爵のお屋敷についた、夕方ごろ。
エントランスでぼくのはく製談議が行われて、ぼくは青い顔でアワアワしてしまったが。
公爵が、冗談ですよ、はっはっは、と言ってくれて。
とりあえずその話はお流れになりました。ほっ。
でも、冗談めかしてはくれたものの。
公爵もシュナイツもマリーベルも、目が笑っていないような気がするので、油断は禁物です。
でも。兄上はシュナイツに氷漬けにされないように気を付けて、などと言っておりましたが。
それはぼくが死ぬ間際まで猶予がありそうです。
これで、ひとまずは安心ですね? 兄上。
そして、思いがけない話の展開にドキドキしましたが。やはり聞かなかったことにしたことが、一番良かったようです。
ぼくはっ、角を立てることなく乗り切りましたよ、兄上!
それで公爵のお屋敷に一日滞在するのに、ひとりずつお部屋が割り当てられ。そこでみなさん、旅の疲れを癒す間もなく、お着替えタイムです。
夜には立食式の夜会が催されることになっていますからね? それに向けての御仕度です。
夜会には、ドッテルベン近隣の領の領主や、有力貴族、そして町の重鎮や、学術に秀でた人やギルドや役所の長といった権威を持つ者などが呼ばれる。
そうそうたる面々とのご挨拶に、ぼくは今から戦々恐々です。
でも。ぼくらはまだ子供なので、夜の九時にはお開きになるし。招待客も少なめだから、気負わずに。と、公爵が言ってくれました。
「それでも、王族の者と三大貴族の子息が一堂に介する珍しい会になるので、お目通りしたい者は多いことでしょう。サリエル様、頑張ってご挨拶なさいませ」
「公爵がお力添えしてくださるので、心強いです」
そんな会話も先ほどありましたので。ぼくは気を引き締めて、夜会に乗り込むのだった。
エリンが用意してくれた今日のお衣装は、最初は無難にブラックフォーマルです。
黒の上下にポンチョを羽織り、赤い宝石を身につける。
ちょっとだけキリリとした、ぼく。
だけど、ふたを開けてみたら。
夜会にはきらびやかな衣装を身につけた御令嬢がかなり多く出席していたのだった。
最初こそ、領主の方々や貴族の方々とのご挨拶に、忙しくしていたのですが。
いろいろなお話を聞けて興味深くもあったのですよ?
でも最後の締めの言葉は、みなさん『レオンハルト様によろしくお伝えください』でしたので。
まぁ。ですよねぇ? という気もあったのでございますがぁ。
しばらくすると、ぼくの前にはぱたりと誰も来なくなって。あんぐりです。
気づくと、シュナイツ、マルチェロ、ファウスト、エドガーといった、家柄マックスイケメンに。
私の娘を紹介させてくださいという者の列が出来上がっていますよぉ?
はああぁぁぁ、い、いえ、わかりますとも。
自分の娘が見初められたら、高位貴族の親戚になるわけですから。そこは突進あるのみですよね?
ぼくは、兄上の婚約者ですから。次期魔王に横やりを入れる者は皆無です。
だから御令嬢は全くもって、こちらには寄ってきません。
はああぁぁぁ、兄上の婚約者じゃなくても、もっちりツノなし落ちこぼれのぼくのところには来るわけがなかったんだったぁぁ? はいはい。そうだそうだ。失礼いたしました。
でも、婚約者のいるシュナイツやマルチェロにも、控えめながらアタックする強者がいて…大変ですね?
ぼくはご挨拶がひと段落ついたので、バルコニーに出て風に当たります。
この会場は二階にあるので、バルコニーから遠くの方に町の光が見えます。
ベルフェレスのお屋敷からは、公爵領が一望できるのだ。
ドッテルベンに入った直後は、丘の上の一番高いところにお屋敷が見えていて。屋敷に近づくと、見えなくなるというのは不思議だけど。
それは防衛の観点で、とても優れた構造なのだと。ファウストが教えてくれました。
攻撃する側からの視点では、頂点にどっしり構える屋敷があることに、まず畏怖し。接近すると見えなくなるが、そのとき屋敷では攻撃準備をしているのではないかと、敵の疑心暗鬼を誘えるのだそうです。
敵の心理をついているのですね? よく考えられています。
町の重鎮の方とのお話では、町の者はみんな、この御屋敷を中心にして動いていて。ベルフェレス家こそがドッテルベンだと言っていました。
公爵自身がドッテルベン領の象徴みたいな感じ? 敬われているのですねぇ?
こういう空気は、その場に行かないとわからないことだ。
だから、やはり。ここに来て。旅をして。良かったと思う。
きっと、本の知識だけの頭でっかちのぼくではわからない、いろいろなことがこれから起こる。かもしれないよね? 新たな知識や経験と出会えることを、ぼくは楽しみにしている。
まぁ、兄上と離れて行動するのは、無茶苦茶さみしいけれど。くすん。
「もしかして、もうホームシックなの?」
ぼくがひとりでたたずんでいると。白地に薄青のシフォンで軽やかに仕立てられたドレスを身につけるアリスがこちらにやってきた。
青い髪をアップにして、綺麗にセットしていると。
いつものアリスじゃないみたい。美しさが三倍増しですよ?
バルコニーの入り口には、ファウストがいて。ぼくを守ってくれているみたいだけど。
娘を売り込む貴族の方に捕まってしまって、こちらにはなかなか来れなさそうですね?
ぼくらが公爵のお屋敷についた、夕方ごろ。
エントランスでぼくのはく製談議が行われて、ぼくは青い顔でアワアワしてしまったが。
公爵が、冗談ですよ、はっはっは、と言ってくれて。
とりあえずその話はお流れになりました。ほっ。
でも、冗談めかしてはくれたものの。
公爵もシュナイツもマリーベルも、目が笑っていないような気がするので、油断は禁物です。
でも。兄上はシュナイツに氷漬けにされないように気を付けて、などと言っておりましたが。
それはぼくが死ぬ間際まで猶予がありそうです。
これで、ひとまずは安心ですね? 兄上。
そして、思いがけない話の展開にドキドキしましたが。やはり聞かなかったことにしたことが、一番良かったようです。
ぼくはっ、角を立てることなく乗り切りましたよ、兄上!
それで公爵のお屋敷に一日滞在するのに、ひとりずつお部屋が割り当てられ。そこでみなさん、旅の疲れを癒す間もなく、お着替えタイムです。
夜には立食式の夜会が催されることになっていますからね? それに向けての御仕度です。
夜会には、ドッテルベン近隣の領の領主や、有力貴族、そして町の重鎮や、学術に秀でた人やギルドや役所の長といった権威を持つ者などが呼ばれる。
そうそうたる面々とのご挨拶に、ぼくは今から戦々恐々です。
でも。ぼくらはまだ子供なので、夜の九時にはお開きになるし。招待客も少なめだから、気負わずに。と、公爵が言ってくれました。
「それでも、王族の者と三大貴族の子息が一堂に介する珍しい会になるので、お目通りしたい者は多いことでしょう。サリエル様、頑張ってご挨拶なさいませ」
「公爵がお力添えしてくださるので、心強いです」
そんな会話も先ほどありましたので。ぼくは気を引き締めて、夜会に乗り込むのだった。
エリンが用意してくれた今日のお衣装は、最初は無難にブラックフォーマルです。
黒の上下にポンチョを羽織り、赤い宝石を身につける。
ちょっとだけキリリとした、ぼく。
だけど、ふたを開けてみたら。
夜会にはきらびやかな衣装を身につけた御令嬢がかなり多く出席していたのだった。
最初こそ、領主の方々や貴族の方々とのご挨拶に、忙しくしていたのですが。
いろいろなお話を聞けて興味深くもあったのですよ?
でも最後の締めの言葉は、みなさん『レオンハルト様によろしくお伝えください』でしたので。
まぁ。ですよねぇ? という気もあったのでございますがぁ。
しばらくすると、ぼくの前にはぱたりと誰も来なくなって。あんぐりです。
気づくと、シュナイツ、マルチェロ、ファウスト、エドガーといった、家柄マックスイケメンに。
私の娘を紹介させてくださいという者の列が出来上がっていますよぉ?
はああぁぁぁ、い、いえ、わかりますとも。
自分の娘が見初められたら、高位貴族の親戚になるわけですから。そこは突進あるのみですよね?
ぼくは、兄上の婚約者ですから。次期魔王に横やりを入れる者は皆無です。
だから御令嬢は全くもって、こちらには寄ってきません。
はああぁぁぁ、兄上の婚約者じゃなくても、もっちりツノなし落ちこぼれのぼくのところには来るわけがなかったんだったぁぁ? はいはい。そうだそうだ。失礼いたしました。
でも、婚約者のいるシュナイツやマルチェロにも、控えめながらアタックする強者がいて…大変ですね?
ぼくはご挨拶がひと段落ついたので、バルコニーに出て風に当たります。
この会場は二階にあるので、バルコニーから遠くの方に町の光が見えます。
ベルフェレスのお屋敷からは、公爵領が一望できるのだ。
ドッテルベンに入った直後は、丘の上の一番高いところにお屋敷が見えていて。屋敷に近づくと、見えなくなるというのは不思議だけど。
それは防衛の観点で、とても優れた構造なのだと。ファウストが教えてくれました。
攻撃する側からの視点では、頂点にどっしり構える屋敷があることに、まず畏怖し。接近すると見えなくなるが、そのとき屋敷では攻撃準備をしているのではないかと、敵の疑心暗鬼を誘えるのだそうです。
敵の心理をついているのですね? よく考えられています。
町の重鎮の方とのお話では、町の者はみんな、この御屋敷を中心にして動いていて。ベルフェレス家こそがドッテルベンだと言っていました。
公爵自身がドッテルベン領の象徴みたいな感じ? 敬われているのですねぇ?
こういう空気は、その場に行かないとわからないことだ。
だから、やはり。ここに来て。旅をして。良かったと思う。
きっと、本の知識だけの頭でっかちのぼくではわからない、いろいろなことがこれから起こる。かもしれないよね? 新たな知識や経験と出会えることを、ぼくは楽しみにしている。
まぁ、兄上と離れて行動するのは、無茶苦茶さみしいけれど。くすん。
「もしかして、もうホームシックなの?」
ぼくがひとりでたたずんでいると。白地に薄青のシフォンで軽やかに仕立てられたドレスを身につけるアリスがこちらにやってきた。
青い髪をアップにして、綺麗にセットしていると。
いつものアリスじゃないみたい。美しさが三倍増しですよ?
バルコニーの入り口には、ファウストがいて。ぼくを守ってくれているみたいだけど。
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