魔王の三男だけど、備考欄に『悪役令嬢の兄(尻拭い)』って書いてある?

北川晶

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78 旅のしおり

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     ◆旅のしおり

 兄上から、旅のしおりをいただきました。
 というか、夏の休暇で、辺境にあるファウストの実家に御呼ばれされたのですが。そこへ行くまでの道程、どの領へ寄って、誰それと挨拶をしてという指示書でございますけど。
 厚さ一センチのボリューミーなしおりで。
 そのほとんどが注意書きでございます。はなはだしく、心配なのですね?

 表紙には、可愛らしいチューリップとスズメの絵が描かれておりますから。まぁ、これから旅が始まるぅ、という気にはなります。
 兄上がお手ずから、絵を描いてくださったようで…兄上は絵もお上手なのですね?
 でも。なんで、スズメが描かれているのですか?
 ぼくイコールスズメに、この頃なってきていませんか? せませんっ。

 魔王の三男であるぼくのことを、貴族や領主の方々は、その先々で歓待しなければなりません。魔王家に失礼にならないように、とか。敵対していません、とか。示すためなのですが。
 大変ですね?
 でもぼくだけならともかく、今回は弟のシュナイツも一緒ですしね。
 シュナイツは、由緒正しき魔王様の御子様なので。魔王の子息を、彼らはちゃんとおもてなししなければならないのです。

 すみません、なんだか、通りがかるだけなのに。

 でも、シュナイツだけではなくて。
 実はぼくたち御一行は、三大公爵の系譜の御子様が勢ぞろいしているのです。
 シュナイツの母方の実家は、ベルフェレス公爵家。
 マルチェロとマリーベルの、ルーフェン公爵家。
 武芸に秀でた、ファウストのバッキャス公爵家。です。

 改めて考えて、おぉ、そうなんだぁと思ってしまいますね?
 普通にお友達として接しているときは、あまり家柄とか、魔力の多さなどを考えたりしないもので。
 その三大公爵の系譜の御子様と。
 宰相の息子であり。魔力は尋常に多いわけではないが、魔国の知恵者と呼ばれる家系のエドガー。
 次期魔王と目されるレオンハルト兄上を、次の世代で支えるであろう有望な彼らなので。
 正式な公務ではない、まだ子供の一団であっても。顔つなぎをしたい領主や貴族は多くいるのです。 

 領主の方々は知らないですけど、アリスはゲームの主人公という肩書があるので。
 取り柄がないのは、ぼくだけです。

 あぁっ! 魔王の息子、そしてレオンハルトの婚約者である自覚を持て。次期魔王妃という看板を背負うのだ…って、しおりの一ページ目に書かれてあります!

 そうでした。ぼくはその気概を持って、領主のみなさまとお会いしなければならないのでしたね?
 ぼくはすぐにネガネガしてしまうので。たまに旅のしおりを読み込むことにしましょう。うむ。
 文章は、一語一語、しっかり覚えているけれど。
 それを感情に落とし込むのは。また別の話なのです。むぅ。

 まぁ、そういうわけで。最初は行きに二日を使い、三日滞在して、二日かけて帰るというスケジュールでしたが。お友達のみなさんも、有力貴族に顔を売るのに良い機会だということで。

 三日をかけて、三つの領をまたぎまして。二日、バッキャスがおさめる辺境のエーデルリンク領に滞在し。二日をかけて四つの、別の領を経由して戻ってくるというスケジュールを組まれてしまいました。
 結構ハードな日程のように思いますが…。
 いえ、兄上が必要と判断したのでしょう。

 ミケージャは、公務の予行演習だと思って気楽にして大丈夫だと言いますが。
 ぼくは本番の公務のつもりで、この道程をクリアしてみせます。
 ラーディン兄上も、もう公務で騎士団巡りや、辺境の視察をしているというのですから。
 ぼくも魔王の三男として、兄上の婚約者として、頑張らなくてはいけません。

 そうだ。帰りの道程には。アリスの父上がおさめる侯爵領と。エドガーの実家である伯爵領にも寄ります。
 ここは、ちょっと顔を見せるだけになりますが。
 彼らの親である領主様に御挨拶をして。ふたりは夏休みいっぱい実家で過ごすので、ここでしばしのお別れという感じになります。
 帰りの人数は、少なくなりますね。しんみり。

 いえいえ、まだ始まってもいないのですよ?
 旅のしおりを見ると、旅の始まりから終わりまでを事細かに記されているので、もう行った気になってしまいますけど。
 これからファウストのご実家への旅が始まるという話です。

 今はエリンが、お屋敷でぼくの旅支度をいろいろ揃えて、バタバタしているところです。
 あとミケージャも同行してくれるのですよ?
 そんなの、もう、優勝間違いなしです。

 ぼくははじめて王都から出るのですけど。兄上の助けもなく、ひとりで大丈夫かな? という不安と。なにが起こるのかというワクワクで。胸が苦しい感じです。
 つまり…楽しみですね?

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