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番外 アリスティアのつぶやき ①

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     ◆アリスティアのつぶやき

 真っ暗い部屋の中で、私はテレビを見ている。
 テレビというのは、つい先日。私の中に入ってきた何者か。
 彼女はインナーと呼んでと言ったけど。
 そのインナーの世界の、文明の利器らしい。

 真っ暗な部屋、というのは。私の心の中身だ。
 私の心はずっと。闇に覆われているから。

 そして先日までは。ただ、部屋の中でジッとしていたのだけど。
 インナーが来てから、テレビが見られるようになって。外の映像が見られるようになった。

 だけど、私は他人事。
 私の皮をかぶったインナーの活躍を、インナーの世界的に言う、アニメを見ているような気持ちでただ見ているだけだ。

 私、アリスティアは。六歳のときに死んだ。お母様が死んだと同時に。

 もちろん、体は生きているけれど。
 人生は終了した、みたいな。

 私が六歳のときに、お母様は弟のセドリックを産んだ。
 とても難産だったの。
 セドリックを産んですぐに、お母様は母乳をあげていたけれど。
 私は、お産の間全然かまってもらえなかったから。
 つまらなくて。
 お母様に私を見てほしくて。

「赤ちゃんばかりかまって、お母様なんか、嫌い。赤ちゃんもお母様も、もういらないわっ」
 そう怒鳴って。お母様の部屋を、私は出た。
 お母様が私を追いかけて来てくれるって、信じていたの。
 でもお母様は、私を追ってきてくれなくて。

 翌日、亡くなってしまった。

 私は。私が、お母様なんていらないって言ったから。お母様は死んでしまったのだと思ったの。
 お父様は、お産が重かったのだと私に言ったけれど。
 そうじゃないわっ。
 私がお母様を殺してしまったの。いらないなんて、言ったから。
 本当にいらないって、思ったわけではないわ?
 弟のこともよ?
 ただ、私のことも見てほしかっただけなの。

 だけど言葉は、ときに心を傷つけるでしょ?
 私の言葉で、お母様がショックを受けた、かもしれないでしょ?
 それで、亡くなってしまったのかもしれないでしょ?

 乳飲み子の世話や、お母様の葬儀の準備で。お父様はあわただしくて。
 私に目を向ける暇もなかった。

 だから人知れず心を閉ざした私のことを、気づくのが遅くなったのね。
 私は、責任を感じて。侯爵家の庭にある池に飛び込んだの。
 でも、すぐそばで作業をしていた庭師の親子に助けられて。一命を取り留めたわ。
 だけど。それから。
 私は。なにも見ず。なにも聞かず。なにも感じない。
 そういう生活を送ってきた。
 あの日、私は死んだの。

 そんな私に転機が来たのは。ほんの数週間前。
「お嬢様? 十三歳の誕生日、おめでとうございます。今年もジュールが綺麗な花束を作ってくれましたよ?」
 侍女は。窓辺の椅子に座り、反応を返さない私に、いつも一生懸命話しかけてくれる。
 あぁ、今日は。私の誕生日なのね?

 いつの間にか、私は十三歳になっていた。
 ジュール、というのは。庭師の息子の名前。
 彼は毎日、一輪。その日に一番きれいに咲く花を持ってきて、私の部屋に飾ってくれるの。
 そして誕生日の日には、豪華な花束を作ってくれる。

 私、今までなにも感じないようにしてきたけれど。
 その日はなんとなく。花束を贈られたのが、嬉しいと感じてしまって。
 窓の外を見たら、ちょうどジュールが見えたものだから。
 窓辺に寄ったのよね。
 でも、今までそんなに動いていなかったから。よろけちゃって。窓から落ちちゃったの。

 あーーーれーーー。

 そうしたらジュールが。私を受け止めてくれて。
 でもさすがに、二階から落ちたのだもの。抱えきれないわよね?
 でもでも、近くにあった、まぁるく剪定されていた低木の枝木がクッションになって、そのあと芝生に体が投げ出されたわ。
 痛ったーーーい。って、思ったけど。

 その瞬間。なにかが入ってきたのがわかって。体の痛みよりも、そちらの方に驚いてしまったわ。

 でもね、それよりもなによりも。
 私はジュールにお礼が言いたかったのよ。
 あれ? 声って。どうやって出したかしらね?
 私は、よくわからなくなっていた。
 だってここ七年ばかり、声を出したことがなかったから。
 そうしたら。入ってきたなにかが、私の口を使って言った。

「いつも、綺麗なお花をありがとう」

 そうよっ、それを言いたかったの。
 ありがとう。誰かさん。これで、もう心残りはないわ。
 そうして意識を手放した、私。

 そのあとは、また暗闇の中でひとり。のはずだった。 

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