上 下
98 / 180

68 悪役令嬢バトル勃発

しおりを挟む
      ◆悪役令嬢バトル勃発

 蛍光レッドの髪を揺らし、ババーンとサロンに現れたのは。
 取り巻きを引き連れたディエンヌだ。

 ディエンヌのご学友は、男女合わせて十人ほどいる結構な大所帯。
 でも。なんかみんな、ぼんやりとした顔をしているんだよね? 怖いぃ。

 その中でもひときわ元気なのが、ディエンヌだ。
「サリエルったら、ツノのない醜い者同志でつるんじゃって。魔王様が知ったらお怒りになられるわよぉ?」

「ディエンヌ? なんで、ここに…」
「ここは王族専用のサロンでしょ? 私がここで食事をするのは、当たり前のことじゃなくてぇ?」

 まぁ、そうだけど。その可能性を全く考えていなかったな。
 そうなのだ。ディエンヌが一年生に入ってきたのだから、そういうこともあるよね?
 ううぅぅ。今度から雨が降っても、ここで食事するのはやめようかなぁ…なんて、考えてしまった。
 だって。こうして顔を合わせるたびに突っかかってくるの、相手にしたくないではないか?

「ひえぇぇ、ゲームのメインキャラ、そろい踏みだわね?」
 アリスがこっそり、ぼくのそばで言った。
 本当だ。主人公に、攻略対象者、そして悪役令嬢が、一室に全員そろっています。すごーい。

「アリスティア・フランチェスカです。お見知りおきを」
 アリスがサッと立って、ササッと挨拶した。
 先ほどラーディン兄上にしたときの、キラキラ挨拶ではないね?
 関わりたくないのがバレバレです。
 いえ、インナーの気持ちはわかります。ぼくも関わりたくないんで。

「ちょっと! 魔王の娘である私の許しもなく挨拶するとか。礼儀がなっていないわね? 田舎者の貴族はこれだから嫌よ」
「でも先ほど私に、ラーディン様への挨拶は百万年早いと、おっしゃっていたので。それが挨拶のお許しだと思ったのですけど? 田舎者ゆえ、礼儀がなっていなくて申し訳ございません」

 慇懃無礼な感じで頭を下げ。アリスは席に座った。
 でもディエンヌは、それでは怒ってしまいます。
 ほらぁ、ワナワナしているよぉ。
 ぼくはおとなしく座って、ブルブルです。

「ディエンヌお姉様? 食事の席であまり騒がしくするのは、品がありませんわぁ? アリスさんは謝っているのだしぃ、それくらいになさったらどうかしらぁ?」

 すると、マリーベルが助け船を出してくれた。
 あああ、ありがとうっ、マリーベル。
 本来はぼくがアリスをかばうべきなのだろうけど。

 ディエンヌに関しては、ぼくがなにか言うと火に油を注ぐことになりかねないのです。

「マリーベルさん? 公爵令嬢がこのような貧相な見てくれの方の肩を持つなんて。驚きましたわぁ? でも、あなたは。サリエルなんて、ツノなし魔力なしの落ちこぼれ丸鶏とお友達の、変わった公爵令嬢だって評判ですものね? 変わった者同士で徒党を組んじゃうものなのかしらねぇ? 悲しいことですわぁ?」

 でも、なんとなく。悪役令嬢バトル勃発、って感じで。ぼくは胸がソワソワしてしまいます。
 つか、なんか矛先がこっちに向いたのだけどぉ?
 ぼくはいません。ぼくは貝です。

「サリエル様の懐深さと有能さがわからない、ディエンヌお姉様には。そのように見えているのねぇ? それこそお可哀想なことですわぁ? まぁあなたには、永久にわからなくてもよいことです」
 ブツリと、マリーベルが会話の糸口を切ってしまったので。
 ディエンヌは、またグヌヌとなる。
 怖いっ。怖いんですけどぉ?

「マルチェロ? あなたは私の婚約者なのだから。このような席についていないで、私のそばにいつも一緒にいてくださらないとぉ?」
 甘ったるい声を出し、ディエンヌは矛先をマルチェロに変えたっ!

 マルチェロを自分の味方につける作戦。
 ぼくらの結束を断ち切る作戦に切り替えたのですね?

 でも彼は、いつものごとき、さわやかで、はんなりした笑みを浮かべ。ディエンヌに告げる。
「サリエル様のそばから離れることはできないよ? ディエンヌ。彼の警護は、レオンハルト兄上からいただいた、任務だ。それをおろそかにはできない。公爵家が、レオンハルト兄上からの信頼を失ってしまうからね? 君も私の婚約者を名乗りたいのであれば、公爵家の品位を下げる言動はつつしみたまえ」
 こちらも、ぴしゃりです。
 うーん、ルーフェン公爵家とディエンヌの仲は、あまりよろしくない雰囲気を感じますね?
 やはり、あのメラメラ事件が尾を引いているようです。

「マルチェロ様ぁ…どうして婚約者の私の味方をしてくださらないのぉ?」
「二度は言わないよ? さぁ、向こうで君のご学友が待っているから。食事をしてきなさい」

 にこやかな表情は、いつものマルチェロですが。
 そこには有無を言わせない迫力があります。
 ディエンヌも、これ以上マルチェロに食い下がれません。
 というか、もう一回ごねたら、マルチェロの機嫌を損なうのは必至。
 空気が読めないディエンヌも、さすがにその雰囲気は感じ取れているのではないでしょうか?

 ディエンヌはイライラとした様子を見せながらも。
 一回、アリスをギラリと睨んで。
 ぼくには、フンとそっぽを向いて。
 ご学友のいる席に向かって行った。

 ほぉぉぉぉ…、と。円卓のみなさまの、声なきため息が漏れました。
 メジロパンクマに遭遇したが、ジッとしていたら去っていった。
 そのくらいの緊張感がありましたねっ?

 ディエンヌたちは、四角いテーブルを長くつなげて、ご学友が五対五に並んで、上座にディエンヌがつくという。女王様の昼餐会ちゅうさんかいといった感じです。
 これ見よがしに、楽しげなオホホホという笑い声が聞こえてきます。

「マリーベル様? 先ほどは助けていただき、ありがとうございます」
 アリスが、助け船を出してくれたマリーにお礼を言った。
 本当にね? アリスは編入してきたばかりなのに。いきなりディエンヌとバトルは勘弁ですよ。

 マリーは紅茶をひと口いただいたあとで。優雅に告げた。
「アリスさんはとても綺麗なお顔立ちだから、ディエンヌに目を付けられたら学園生活が厳しくなりそうですわぁ? と思って。でも、もう遅かったかしらね?」

 マリーベルが肩をすくめて言うのに。
 ぼくとアリスは、ディエンヌの方をこっそり見やる。
 すると、すっごい目力でギラリィと睨んできていて。

 こここ、怖っ。

 もう、なんなんでしょう、あの妹。怖すぎですっ。
 恋愛攻略イベントがなくても、ディエンヌの悪役令嬢的嫌がらせイベントは生きているみたい。
 そんなぁ。

 ゲームは成立しないので。嫌がらせイベントも終了してくださぁい!

しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします

muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。 非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。 両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。 そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。 非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。 ※全年齢向け作品です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

処理中です...