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67 悪の指先

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     ◆悪の指先

 アリスを紹介して、友達になることをみなさんが承知してくれて。
 とりあえずぼくは、ホッと安堵の息をついた。
 和気あいあいとお昼ご飯を食べていたら…。

 ラーディンとそのご学友たちが、サロンに入ってきた。
「おぅ、サリエル。今日はここで昼ご飯かぁ?」

「お先にいただいております、ラーディン兄上。そうなのです、今日は雨ですし。兄上は今から昼食なのですか?」
 気さくに声をかけてくるラーディン兄上に、ぼくは挨拶しつつ。
 昼休みをだいぶ過ぎていたので、たずねた。

「あぁ、生徒会の仕事を少ししてきたから遅くなった。んん?」
 兄上はぼくの隣にいるアリスに気づいて、ちょっとポカンとした顔になった。

 おやおやぁ? もしかしてこれは、イベント発生というやつではありませんかぁ?

 アリスはゲームの主人公で。
 ラーディン兄上は、攻略対象その①なわけですから。
 一目惚れ、もあり得るのではないですかぁ?
 と、思って。
 ぼくはすかさず席を立ち、アリスティアを兄上に紹介した。

「新しくお友達になったアリスティア嬢を、みなさんに紹介していたところなのです。アリス、こちらはぼくの兄上の、ラーディン王子だ」
 ぼくが手で示すと、彼女は席を立ち、兄上に淑女の礼を取った。

 おおぉ? なんとなくアリスの周りが、まばゆい感じです。
 スポットライトが当たって…いえ、比喩ですけど、それくらいに輝いて見えるというか。
 スカイブルーの髪が鮮やかに目に映ります。

「ラーディン王子。フランチェスカ侯爵が一子、アリスティアでございます」
 アリスのまつ毛はバサバサで。
 瞳もソーダ飴の水色で、ピカピカのキラキラです。

「…俺は、学園の生徒会に入っているから。なにか困ったことがあったら、言ってくるといい。しかしこのように美しい御令嬢が、サリエルと友達になるとはな? やるじゃないか」
 そう言って、兄上は。ぼくの腹を指先でツンツンしてくるのだった。

 あぁあぁあ、またツンツンしてぇ。やめてくださいぃぃ。
 つか、アリスになにか思うところはないのですかぁ? 兄上ぇ。

 するとファウストがすくっと立ち上がり。ラーディン兄上の指先をつかんで止めてくれた。
 ファウストは無言ながら、兄上の指をギリリと握って。
 長身を生かして高みから兄上を睨み下ろすのだった。
 ズモモッ、という音が聞こえてきそうです。

「こら、ファウスト。おまえは、今はサリエルの騎士かもしれないが、俺のご学友でもあるんだぞ? 俺を睨むんじゃない。つか、俺は魔王の次男。サリエルは三男。優先順位が違うだろうがっ?」
「いいえ。いじめっ子を優先する道理はありません。イジメ、イコール悪。悪人は去るべき、ですっ」
「悪人じゃねぇしぃぃ、こらーっ、サリエルともう少し話をさせろぉぉぉ」
 ファウストはラーディンを回れ右させて、アレイン達、ラーディン兄上のご学友が待つ席まで強制的に移動させました。

 ぼくはキラキラとしたまなこで、戻ってきたファウストを迎えます。
 いえ、糸目で、キラキラは伝わらないかと思いますが。

「ありがとう、ファウストぉ。ぼくのお腹は、悪の指先から守られました。好きぃぃぃ」
「はぁう…っっ、光栄で、ございますぅぅ」
 なんか、吐血寸前のような顔をしてファウストが言うのに。
 アリスが、ぼくの耳元でこっそり囁いた。

「好きぃぃ攻撃は、月一にしないと。ムッツリ若侍には刺激が強すぎて、早死にするぞ?」
 よくわからないが、それは大変です。
 つか、ムッツリって言っちゃいましたよ?
 ファウストが若死にしたら、困ります。
 なので。好きと思っても。口に出すのは控えようと思いました。

 でも。イベントってなにか、よくわからないけど。
 ラーディン兄上とアリスの初対面の場面は。腹ツンツンで、なんだかモヤモヤっと終わってしまい。
 特別ななにかが起きる感じではなかった? みたいな。

 アリスはイベントなんか一個も起きない、とか言っていたが。本当かなぁ?
 でも庭師の息子狙いなら、イベントは起きなくてもいいのかなぁ?
 ふむふむ、その辺りもアリスと話しておかなければなりませんね?

「ツノなしのくせに、ラーディンお兄様に挨拶するなんて、百万年早くてよっ!」
 昼食が終わり、次は食後のお茶を…などと思っているところに、その言葉がかけられた。

 このフレーズ、そしてこの声はっ?

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