96 / 180
66 キュウショクノオバチャンって、どういう意味?
しおりを挟む メアリは楽しそうに遊ぶ双子とセシルの様子を庭の隅で見守っていた。
双子が木に登り始めた時は少々心配したが、どうやらセシルは二人の悪戯を乗り越えたようで、ホッと一安心していた。
「いやぁ~。見込みのある若くて可愛いメイドちゃんが入ったんだね~」
そう声をあげたのは、赤みがかった茶色い髪の中年執事である。メアリのクッキーを幸せそうに口に運び、遠目で双子の様子を見守っている。
「クロード。セシルはアルベリク様のメイドですからね?」
「はいはい。分かってますよ、母さん」
ヘラヘラと返事をしたクロードは双子の執事で、メアリの息子だ。
クロードが産まれた家系は、代々ファビウス家に仕えるローエン家。クロードの父は現当主エドワールの執事をしているし、娘はファビウス家の長女のメイドをしている。そして息子レクトはアルベリクの執事だ。
クロードはもう一度メアリのクッキーを頬張った。
「母さん。明日もクッキー焼いてね?」
「勿論よ。でも、セシルに任せっきりじゃなくて、貴方も執事としてちゃんとお二人のお世話をするんですよ?」
「ははは。分かってるよ」
クロードは遠くで遊ぶ双子とセシルへ目を向け小さく呟いた。
「セシルちゃんか……。いいねぇ……」
◇◇
セシルと双子は小さな温室へ足を踏み入れた。
枯れ草と雑草だらけの温室に、クロエは入ってすぐに不満を口にする。
「なんか……汚いわ」
「ご、ごめんなさい。まだ片付けが終わっていなくて……でも、ここなら芋虫さんの成長を見られると思って」
「いいな。それ。逃げないように温室の奥に放そうよ!」
乗り気なレオンにクロエは頬を膨らませつつ、雑草をかき分け温室の奥へと足を進めた。
温室の奥へいくと、小さな白い鉢が置かれていた。枯れた草が生えただけの物寂しい鉢を見て、クロエは瞳を曇らせた。
「クロエ様。どうかしましたか?」
「……この温室でね。お母様が薔薇を栽培していたんですって。いつか青い薔薇を咲かせたいって……」
「青い薔薇……?」
セシルは青い薔薇を知っていた。
一度目の記憶の時、セシルは庭作りに精を出していた。教会の裏庭で小さな畑や花壇を作り、少しでも生活の足しに出来たらと思っていたのだ。その時の記憶と経験から、聖女として教会で過ごしていた時も、庭作りに勤しんでいた。
その頃である。青い薔薇の種をアルベリクから貰ったのは……。
クロエは母を思い出したのか、そっと鉢植えの枯れ草に触れる。
「でも、青い薔薇は完成しなかったんだって……」
「えっ?」
セシルはクロエの言葉と自分の記憶が合わないことに疑問を抱いた。
聖女の時、セシルはアルベリクの指示で癒しの力を使って青い薔薇をたくさん咲かせていた。
アルベリクは、ファビウス領を青い薔薇の名所にして人々を誘致しようとしていたから。要するに金儲けのために。
しかしあの時、種は存在したのだから、もしかしたら青い薔薇は完成していて、今もアルベリクが持っているかもしれない。
セシルがボーっと考え事をしていると、スカートをギュッとレオンが引っ張ってきた。
「ねぇ。早く芋虫を温室に放してやろうよ」
「そ、そうね。少し邪魔な草を抜いて、それからにしましょうか」
「うん。僕もやる。クロエは芋虫、持っててよ」
「うん。いいよ。レオンが言うなら……」
クロエはレオンから芋虫を受け取ると、両手で大事そうに包み込んだ。やはり、クロエも芋虫は大丈夫なようだ。
「よぉし。セシル、早く早く!」
「はい。レオン様」
クロエが見守る中、セシルはレオンと一緒に温室の片付けを始めようとした時、入り口から男性の声が響いた。
「おいおい。うちのレオン様に、なぁ~にやらせようとしているのかな?」
「えっ? レクト!? ……あれ。何か老けた?」
セシルが執事の登場に驚くと、隣でレオンが大笑いした。
「あはは。クロードは僕の執事だよ。いつも庭の隅っこにいたんだよ?」
「いましたっけ?」
「ずっといましたよ。クッキー食べたかったんで、気配消してましたけど。因みに俺は、レクトのお父さんね」
「なんだ。似てると思ったらお父さんなのね……えっ。お父さん!?」
再び驚きの声をあげたセシルに、レオンはまたキャッキャと笑い、クロードも調子に乗り胸を張って言い返す。
「そう。俺はレクトのお父さんだ! ついでに言っちゃうと~、メアリは俺の母さんだ!」
「ええっ!!?」
そう言えば、レクトはメアリの事を婆様と読んでいたが、本当に血縁関係があるとは驚いた。隣にいたレオンは、笑いのツボにハマったらしく、お腹を抱えて笑い転げていた。
◇◇
クロードが温室の片付けを手伝ってくれたことにより、想定以上に片付けは速く済んだ。第一印象はふざけた感じの人だと思ったが、その仕事ぶりは紳士的でスピーディーだった。
一ヶ所だけ残しておいた雑草の近くに芋虫を乗せ、今日の作業は終了である。満足気なレオンとは裏腹に、クロエは顔には出さないようにしているが不満の色が伺えた。
セシルはそんなクロエにこっそりと耳打ちする。
「クロエ様。温室も綺麗になりましたし、一緒に薔薇を育てませんか? 私、アルベリク様からお庭を任されているんですよ」
「えっ。そうなの……?」
クロエはうつむき少し考えた後、唇を尖らせてもう一度口を開く。
「薔薇、育てたい。明日も……来てもいい?」
「はい。お待ちおります」
セシルがにっこり笑顔を返すと、クロエは微かに口角を上げ前を歩くレオンの元へと走っていった。
このまま双子と仲良くなって、クロードと立場を入れ変えて双子の専属メイドになったり……なんてことは出来ないのだろうか。
愛らしい双子を前に、セシルはそんな事を妄想していた。
双子が木に登り始めた時は少々心配したが、どうやらセシルは二人の悪戯を乗り越えたようで、ホッと一安心していた。
「いやぁ~。見込みのある若くて可愛いメイドちゃんが入ったんだね~」
そう声をあげたのは、赤みがかった茶色い髪の中年執事である。メアリのクッキーを幸せそうに口に運び、遠目で双子の様子を見守っている。
「クロード。セシルはアルベリク様のメイドですからね?」
「はいはい。分かってますよ、母さん」
ヘラヘラと返事をしたクロードは双子の執事で、メアリの息子だ。
クロードが産まれた家系は、代々ファビウス家に仕えるローエン家。クロードの父は現当主エドワールの執事をしているし、娘はファビウス家の長女のメイドをしている。そして息子レクトはアルベリクの執事だ。
クロードはもう一度メアリのクッキーを頬張った。
「母さん。明日もクッキー焼いてね?」
「勿論よ。でも、セシルに任せっきりじゃなくて、貴方も執事としてちゃんとお二人のお世話をするんですよ?」
「ははは。分かってるよ」
クロードは遠くで遊ぶ双子とセシルへ目を向け小さく呟いた。
「セシルちゃんか……。いいねぇ……」
◇◇
セシルと双子は小さな温室へ足を踏み入れた。
枯れ草と雑草だらけの温室に、クロエは入ってすぐに不満を口にする。
「なんか……汚いわ」
「ご、ごめんなさい。まだ片付けが終わっていなくて……でも、ここなら芋虫さんの成長を見られると思って」
「いいな。それ。逃げないように温室の奥に放そうよ!」
乗り気なレオンにクロエは頬を膨らませつつ、雑草をかき分け温室の奥へと足を進めた。
温室の奥へいくと、小さな白い鉢が置かれていた。枯れた草が生えただけの物寂しい鉢を見て、クロエは瞳を曇らせた。
「クロエ様。どうかしましたか?」
「……この温室でね。お母様が薔薇を栽培していたんですって。いつか青い薔薇を咲かせたいって……」
「青い薔薇……?」
セシルは青い薔薇を知っていた。
一度目の記憶の時、セシルは庭作りに精を出していた。教会の裏庭で小さな畑や花壇を作り、少しでも生活の足しに出来たらと思っていたのだ。その時の記憶と経験から、聖女として教会で過ごしていた時も、庭作りに勤しんでいた。
その頃である。青い薔薇の種をアルベリクから貰ったのは……。
クロエは母を思い出したのか、そっと鉢植えの枯れ草に触れる。
「でも、青い薔薇は完成しなかったんだって……」
「えっ?」
セシルはクロエの言葉と自分の記憶が合わないことに疑問を抱いた。
聖女の時、セシルはアルベリクの指示で癒しの力を使って青い薔薇をたくさん咲かせていた。
アルベリクは、ファビウス領を青い薔薇の名所にして人々を誘致しようとしていたから。要するに金儲けのために。
しかしあの時、種は存在したのだから、もしかしたら青い薔薇は完成していて、今もアルベリクが持っているかもしれない。
セシルがボーっと考え事をしていると、スカートをギュッとレオンが引っ張ってきた。
「ねぇ。早く芋虫を温室に放してやろうよ」
「そ、そうね。少し邪魔な草を抜いて、それからにしましょうか」
「うん。僕もやる。クロエは芋虫、持っててよ」
「うん。いいよ。レオンが言うなら……」
クロエはレオンから芋虫を受け取ると、両手で大事そうに包み込んだ。やはり、クロエも芋虫は大丈夫なようだ。
「よぉし。セシル、早く早く!」
「はい。レオン様」
クロエが見守る中、セシルはレオンと一緒に温室の片付けを始めようとした時、入り口から男性の声が響いた。
「おいおい。うちのレオン様に、なぁ~にやらせようとしているのかな?」
「えっ? レクト!? ……あれ。何か老けた?」
セシルが執事の登場に驚くと、隣でレオンが大笑いした。
「あはは。クロードは僕の執事だよ。いつも庭の隅っこにいたんだよ?」
「いましたっけ?」
「ずっといましたよ。クッキー食べたかったんで、気配消してましたけど。因みに俺は、レクトのお父さんね」
「なんだ。似てると思ったらお父さんなのね……えっ。お父さん!?」
再び驚きの声をあげたセシルに、レオンはまたキャッキャと笑い、クロードも調子に乗り胸を張って言い返す。
「そう。俺はレクトのお父さんだ! ついでに言っちゃうと~、メアリは俺の母さんだ!」
「ええっ!!?」
そう言えば、レクトはメアリの事を婆様と読んでいたが、本当に血縁関係があるとは驚いた。隣にいたレオンは、笑いのツボにハマったらしく、お腹を抱えて笑い転げていた。
◇◇
クロードが温室の片付けを手伝ってくれたことにより、想定以上に片付けは速く済んだ。第一印象はふざけた感じの人だと思ったが、その仕事ぶりは紳士的でスピーディーだった。
一ヶ所だけ残しておいた雑草の近くに芋虫を乗せ、今日の作業は終了である。満足気なレオンとは裏腹に、クロエは顔には出さないようにしているが不満の色が伺えた。
セシルはそんなクロエにこっそりと耳打ちする。
「クロエ様。温室も綺麗になりましたし、一緒に薔薇を育てませんか? 私、アルベリク様からお庭を任されているんですよ」
「えっ。そうなの……?」
クロエはうつむき少し考えた後、唇を尖らせてもう一度口を開く。
「薔薇、育てたい。明日も……来てもいい?」
「はい。お待ちおります」
セシルがにっこり笑顔を返すと、クロエは微かに口角を上げ前を歩くレオンの元へと走っていった。
このまま双子と仲良くなって、クロードと立場を入れ変えて双子の専属メイドになったり……なんてことは出来ないのだろうか。
愛らしい双子を前に、セシルはそんな事を妄想していた。
138
お気に入りに追加
3,999
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい
拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。
途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。
他サイトにも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。
柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。
そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。
すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。
「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」
そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。
魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。
甘々ハピエン。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・話の流れが遅い
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?
北川晶
BL
BLゲームじゃないのに、嫌われから溺愛って嘘でしょ? 不遇の若き王×モブの、ハートフル、ファンタジー、ちょっとサスペンスな、大逆転ラブです。
乙女ゲーム『愛の力で王(キング)を救え!』通称アイキンの中に異世界転生した九郎は、顔の見えない仕立て屋のモブキャラ、クロウ(かろうじて名前だけはあったよ)に生まれ変わる。
子供のときに石をぶつけられ、前世のことを思い出したが。顔のないモブキャラになったところで、どうにもできないよね? でも。いざ、孤島にそびえる王城に、王の婚礼衣装を作るため、仕立て屋として上がったら…王を助ける人がいないんですけどぉ?
本編完結。そして、続編「前作はモブ、でも続編は悪役令嬢ポジなんですけどぉ?」も同時収録。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる