魔王の三男だけど、備考欄に『悪役令嬢の兄(尻拭い)』って書いてある?

北川晶

文字の大きさ
上 下
66 / 156
連載

65 円卓会議っ、ですっ

しおりを挟む
     ◆円卓会議っ、ですっ

 今日の空模様はなんとなくどんよりとしていましたが。午前の授業中に雨が降り出してしまいました。
 いつもはお日様燦燦さんさんの中で、学園の敷地内にある丘の上とかで昼食をいただく。というのが、定番なのですけれど。
 今日は雨なので。仕方がなく。食堂で昼食をいただくことになります。

 とはいえ、メニューはエリンの持ってきたお弁当でございますが。
 これは毒物混入予防、いわゆる警護の一環なのです。
 ということで。お昼休みになりまして。
 ぼくはアリスティアとマルチェロを引き連れて、学園の食堂の王族専用サロンへと向かいます。

「ねぇ、サリー。私には先に教えてくれないかなぁ? アリスティア嬢とどういう関係なのか? とか?」
 マルチェロが、好奇心に負けて聞いてきます。
 もう、朝からみなさん。そのことばかり聞いてくるのですからぁ。

「昼食のときにお話ししますと、言っているでしょ? マルチェロぉ。あとちょっとですよ。あと、五分」
「待ちきれないし、気になるじゃないかぁ」
「サリーちゃんがそう言うのだから、待つしかない、マルチェロっ」
 途中の廊下で合流してきたファウストが、ぼくを援護してくれました。
「ファウストは優しいですねぇ? 好きぃ」
 はぅあっと、ファウストがまたもや謎の発作を起こしていますが。
 それをアリスティアが、ジト目で見ている。

 主人公が、そんな目で攻略対象を見てはいけません。

 そうしてサロンに入ると。そこには大きな円卓が用意されていました。
 ぼくが一年生のときは、ぼくとマルチェロとファウストだけだったから。
 雨の日は、普通サイズの四角いテーブルでお昼を食べていたのだけど。

 人数が増えたので、円卓になったようだ。
 すでにエリンが来ていて、昼食のセッティングを始めています。さすがです。

 ぼくの警護的な意味合いで、普段ならぼくの横にファウストとマルチェロが並ぶのだけど。
 今日はアリスティアがいるので。
 ファウスト、ぼく、アリスティア、マルチェロの順で並びます。
 さらにそこに一年生組がやってきて。マルチェロの隣に、マリーベル。そしてシュナイツ、エドガーときて。ファウスト、という順に円形に並びました。

 この感じは、子供会のときのお茶会仕様ですね?

 子供会ではぼくらのお茶会のことを、他の子供たちが『円卓会議』って呼んでいたんだって。
 マリーベルが教えてくれました。
 仲のいい御令嬢が、そう言ってたらしいよ?
 それはともかく。
 円卓でみなさんがこちらを見てくるこの感じは、なんとなく懐かしいですねぇ?

「では、みなさん揃ったので。お昼をいただきましょう」
 にこやかに告げると、マリーベルがいなの声をあげた。
「ねぇ、パンちゃん。早くその御令嬢のことを教えてくださらない? 気になって食事がのどを通らないわぁ?」
 マリーベルの言葉に、みんながうなずくので。

 そうですかぁ?
 ぼくは食事のあと、お茶を飲みながらゆっくり話そうと思っていたのですが。
 確かにマルチェロも、落ち着かない様子でしたしね?

「わかりました。では食べながら、ご説明いたします。円卓会議っ、ですっ」
 ババーンと高らかに宣言した。

 いえ、会議と言うほどの難しげな議題ではありませんが。
 せっかく思い出したので、なんとなく言ってみたかっただけです。

 ぼくは隣の彼女を手で示し、紹介いたしました。
「彼女はアリスティア・フランチェスカ侯爵令嬢です」

 アリスティアは優雅に立ち上がり、淑女の礼を取って挨拶した。
「アリスティアです。どうぞ、アリスとお呼びください」
 そうして、しゃなりと椅子に腰かけ。食事を開始する。

「それで、サリー? 彼女はどういう知り合いなんだい? 彼女は子供会でも見かけたことがなかったが…」
 水を向けてきたマルチェロに、ぼくはうむとうなずく。
 いい質問ですね?

「アリスティアは、実は。謎の文通相手だったのです」
 ぼくが言うと、アリスティアだけがプッと笑いを吹き出した。
 まぁね、突拍子もないけどぉ。

 ずっと、インナーのことをどう説明したらいいかと悩んでいたのだけど。
 インナーがいなくなって、ぼくが泣いたとき。
 兄上が、ぼくのお友達は文通相手か? と勘違いして。
 そのようなものです、と。そのときは答えたのだけど。

 この案はなかなか良いと思いまして。兄上に乗っからせていただきました。

 たぶんマルチェロ辺りから、兄上の耳にも入るでしょう? 兄上も納得しやすいかと思って。
「ある日、手紙を拾いまして。届けられていませんと差出人に知らせたのがきっかけで、彼女との文通が始まりました。子供のときより、良き相談相手でありましたが。先日ぱったり、文が途絶えてしまいまして。ぼくは彼女に嫌われてしまったのかと思っていたのですが。どうやらロンディウヌス学園に入る準備の為だったみたいです。それで昨日再会してぇ…」

「でも、サリーは。はじめましてっぽかったと思うけど? キュウショクノオバチャンって言われるまで、アリスティア嬢のこと気づいていなかったみたいだった」
 ウヌヌ、マルチェロぉ、よく見ていますね?
 しかしここで文通ワードが生きてくるのです。

「文通だから、アリスティアの姿を見たことがなかったのです。住所も簡易な領留めで、名前もアリスというペンネームでしたから。キュウショクノオバチャンは、ぼくたちの秘密の暗号だったので、それを言われてアッとなったというわけなのですぅ」
 決まった! なんとかインナーのことを言わずに、いい感じに、ほころびなく、言い切りましたよっ。

 領留めというのは。フランチェスカ侯爵がおさめている領の大きな郵便局に手紙を留めておき、定期的に屋敷の使用人が取りに行く形式です。
 この世界では、家まで配達に来る方がまれなのです。
 インナーの世界的に言ったら、局留め、私書箱、みたいな感じですかねぇ?

「とにかく、そんなわけで。彼女とは昔からのお友達だったのです。みなさん、どうか彼女のお友達になってくださいませぇ?」
 ぼくが、みなさんに言うと。
 マリーベルも。他のみなさんも、まだ難しい顔をしている。

 ダメ、ですかぁ?

しおりを挟む
感想 155

あなたにおすすめの小説

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。