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57 おかえり、インナー
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◆おかえり、インナー
目の前に座って授業を受けている、スカイブルーの髪色の女の子が。
ぼくのことを『給食のおばちゃん』と言いました。
給食自体が、インナーの国の独自文化なので。
ってことは、やっぱり。
彼女はインナーなのですかぁ??
先生のお話が、全く頭に入ってこなくて。目が、グルグルで。
なんか、今年の授業内容がどうとかこうとか、言っておりましたが。
その時間が終わって。次は魔法の授業の注意点についての時間になるみたいですが。
その合間の、二十分の休み時間。
ぼくは麗しの転入生に群がる男子生徒どもを、ペイペイと蹴散らして。
彼女の手を取って、廊下に行きました。
いつもおとなしいぼくの暴挙に。マルチェロは、驚きつつもついてきて。
他の男子生徒は、ブーイングでございます。
すみませぇん。ちょっとだけ、失礼しますよぉ?
「マルチェロ、ちょっと彼女とお話があるので。離れていていただけますか?」
「いいよ。警護上見えるところにはいるけど。会話は聞かないからね」
そして、廊下の端っこに彼女を連れて行って。向き合います。
「うわぁ? 休み時間、男子生徒に廊下に連れ出されちゃうなんてぇ? 前世で陰キャの私には、初体験ですわよぉ?」
キラキラした美々しい笑顔でそう言う彼女に。ズバリ、聞いた。
「あ、あ、あなたは。インナー、ですかぁ?」
「はい。そうですっ」
身長の高い彼女は、ぼくを見下ろして。笑顔でそう言った。
ぼくは、へぁぁぁああ? ってなるよね。
「ホントに、インナー? あの、インナー?」
「そうよ? 野口こずえ、享年二十三歳でっす」
キラリーンと手をカニさんにして、顔の前でポーズをとる。軽いな。
「ええぇっ? だって、生まれ落ちるような大きな衝撃、とか言ってたじゃん? だからてっきり、ぼくは赤ちゃんに生まれ変わるのだと思ってぇ?」
「ような、よ。落馬の衝撃と、似たようなやつぅ。私、二階の窓から落っこちたんだからね?」
なんのことはない、みたいな口調で言うけど。
それって大変なやつぅ。
ぼくは、驚愕につぐ驚愕で目がビカビカです。
いえ、糸目で、見開いたりはしませんけど。
「落ちたって…だ、だ、大丈夫なのですか?」
「今、ここにいるんだから大丈夫でしょ? ま、ちょっと怪我はしたけど。庭師の息子が下で受け止めてくれたから、骨折もなしよぉ? 彼には感謝しているわぁ?」
そうですかい。なら、いいのだけどぉ。
だけどぼくは、まだまだわからないことだらけだから。
どんどん聞いていきますよぉ?
「彼女が…インナーが本来入るべき魂の器、だったのですか? なんか、すごくインナーが出張っているみたいですけど? 彼女…アリスティアはどうなっているのですか?」
ぼくの中にいたとき、インナーの比率は一割くらいだった。
ときどき、浮上してくる感じ。
でも今は、なんとなく、ぼくの中にいたときのインナーの感じとは違うような気がして。ぼくはたずねた。
「アリスティアは元々、ほとんど自我がなくてね。お人形さんのようにジッと、おとなしく、侯爵家の奥の部屋で隠されていたような感じだった。休み時間で時間がないから、ざっくり言うけど。アリスティアが知る十三年の記憶は、サリエルの膨大な記憶量とは雲泥の差よ? だから私が心の片隅に追いやられることはなく。私が入り込んでも。彼女の自我の主張がなくてね。つまり今のアリスティアは、おおよそ野口こずえが支配しているってわけ」
彼女、アリスティア、いえインナーは。胸に手を当てて、偉そうな感じで言う。
ぼくは、気持ちジト目で彼女を見やります。
「アリスティアは主人公みたいなのですけど。もしかして主人公の体に入ることを、ぼくの中にいたときから知っていたのではありませんかぁ?」
聞くと、彼女はしらばっくれるような顔つきで。目をそらしながら、言った。
「それはぁ…まぁ知ってはいたけどぉ。実際に、ちゃんとここに入れるかは、わからなかったからぁ。言えなかったっていうかぁ。でもこうして、無事に受肉したわけだし? 結果オーライよね?」
受肉って…と心の中でツッコみつつ。
ぼくは口をへの字にした。
「結果オーライ、じゃないよぉ。もうっ。ぼくは、もうインナーに会えなくなるんだって思って、いっぱい泣いたんだからねぇ? すぐに会えるなら、そう言っておいてよぉ!」
恥を忍んで、怒りながら言うと。
インナーはからかうような顔になって、ニヤリと笑う。
美少女でその顔は、駄目だと思いますけど?
「ええぇ? 泣いちゃったのぉ? サリエルぅ。可哀想に、ヨシヨシ。でもまぁ、そういうことだから。これからアリスティアをよろしくね? サリエル様?」
ぼくの頭を、ちょいちょい指先で撫でてきたけれど。
後半は、アリスティアの顔になって。
彼女は淑女の礼を、まぁまぁ綺麗にして見せた。
淑女教育トップの成績をほこるぼくから見たら、まだまだですけどねっ?
そこに、学園の鐘の音が響いて…。
「あらぁ? もう予鈴が鳴ったわ? もっと詳しい話は、またあとでね?」
そう言って、彼女は教室に向かって行こうとする。
ぼくは。インナーは、もうアリスティアになるんだなとわかったけれど。
最後に。インナーに言いたい言葉があって。
彼女の背中に告げた。
「おかえり、インナー」
すると、彼女は振り返って。とびっきり可愛らしい顔で、笑ったのだった。
目の前に座って授業を受けている、スカイブルーの髪色の女の子が。
ぼくのことを『給食のおばちゃん』と言いました。
給食自体が、インナーの国の独自文化なので。
ってことは、やっぱり。
彼女はインナーなのですかぁ??
先生のお話が、全く頭に入ってこなくて。目が、グルグルで。
なんか、今年の授業内容がどうとかこうとか、言っておりましたが。
その時間が終わって。次は魔法の授業の注意点についての時間になるみたいですが。
その合間の、二十分の休み時間。
ぼくは麗しの転入生に群がる男子生徒どもを、ペイペイと蹴散らして。
彼女の手を取って、廊下に行きました。
いつもおとなしいぼくの暴挙に。マルチェロは、驚きつつもついてきて。
他の男子生徒は、ブーイングでございます。
すみませぇん。ちょっとだけ、失礼しますよぉ?
「マルチェロ、ちょっと彼女とお話があるので。離れていていただけますか?」
「いいよ。警護上見えるところにはいるけど。会話は聞かないからね」
そして、廊下の端っこに彼女を連れて行って。向き合います。
「うわぁ? 休み時間、男子生徒に廊下に連れ出されちゃうなんてぇ? 前世で陰キャの私には、初体験ですわよぉ?」
キラキラした美々しい笑顔でそう言う彼女に。ズバリ、聞いた。
「あ、あ、あなたは。インナー、ですかぁ?」
「はい。そうですっ」
身長の高い彼女は、ぼくを見下ろして。笑顔でそう言った。
ぼくは、へぁぁぁああ? ってなるよね。
「ホントに、インナー? あの、インナー?」
「そうよ? 野口こずえ、享年二十三歳でっす」
キラリーンと手をカニさんにして、顔の前でポーズをとる。軽いな。
「ええぇっ? だって、生まれ落ちるような大きな衝撃、とか言ってたじゃん? だからてっきり、ぼくは赤ちゃんに生まれ変わるのだと思ってぇ?」
「ような、よ。落馬の衝撃と、似たようなやつぅ。私、二階の窓から落っこちたんだからね?」
なんのことはない、みたいな口調で言うけど。
それって大変なやつぅ。
ぼくは、驚愕につぐ驚愕で目がビカビカです。
いえ、糸目で、見開いたりはしませんけど。
「落ちたって…だ、だ、大丈夫なのですか?」
「今、ここにいるんだから大丈夫でしょ? ま、ちょっと怪我はしたけど。庭師の息子が下で受け止めてくれたから、骨折もなしよぉ? 彼には感謝しているわぁ?」
そうですかい。なら、いいのだけどぉ。
だけどぼくは、まだまだわからないことだらけだから。
どんどん聞いていきますよぉ?
「彼女が…インナーが本来入るべき魂の器、だったのですか? なんか、すごくインナーが出張っているみたいですけど? 彼女…アリスティアはどうなっているのですか?」
ぼくの中にいたとき、インナーの比率は一割くらいだった。
ときどき、浮上してくる感じ。
でも今は、なんとなく、ぼくの中にいたときのインナーの感じとは違うような気がして。ぼくはたずねた。
「アリスティアは元々、ほとんど自我がなくてね。お人形さんのようにジッと、おとなしく、侯爵家の奥の部屋で隠されていたような感じだった。休み時間で時間がないから、ざっくり言うけど。アリスティアが知る十三年の記憶は、サリエルの膨大な記憶量とは雲泥の差よ? だから私が心の片隅に追いやられることはなく。私が入り込んでも。彼女の自我の主張がなくてね。つまり今のアリスティアは、おおよそ野口こずえが支配しているってわけ」
彼女、アリスティア、いえインナーは。胸に手を当てて、偉そうな感じで言う。
ぼくは、気持ちジト目で彼女を見やります。
「アリスティアは主人公みたいなのですけど。もしかして主人公の体に入ることを、ぼくの中にいたときから知っていたのではありませんかぁ?」
聞くと、彼女はしらばっくれるような顔つきで。目をそらしながら、言った。
「それはぁ…まぁ知ってはいたけどぉ。実際に、ちゃんとここに入れるかは、わからなかったからぁ。言えなかったっていうかぁ。でもこうして、無事に受肉したわけだし? 結果オーライよね?」
受肉って…と心の中でツッコみつつ。
ぼくは口をへの字にした。
「結果オーライ、じゃないよぉ。もうっ。ぼくは、もうインナーに会えなくなるんだって思って、いっぱい泣いたんだからねぇ? すぐに会えるなら、そう言っておいてよぉ!」
恥を忍んで、怒りながら言うと。
インナーはからかうような顔になって、ニヤリと笑う。
美少女でその顔は、駄目だと思いますけど?
「ええぇ? 泣いちゃったのぉ? サリエルぅ。可哀想に、ヨシヨシ。でもまぁ、そういうことだから。これからアリスティアをよろしくね? サリエル様?」
ぼくの頭を、ちょいちょい指先で撫でてきたけれど。
後半は、アリスティアの顔になって。
彼女は淑女の礼を、まぁまぁ綺麗にして見せた。
淑女教育トップの成績をほこるぼくから見たら、まだまだですけどねっ?
そこに、学園の鐘の音が響いて…。
「あらぁ? もう予鈴が鳴ったわ? もっと詳しい話は、またあとでね?」
そう言って、彼女は教室に向かって行こうとする。
ぼくは。インナーは、もうアリスティアになるんだなとわかったけれど。
最後に。インナーに言いたい言葉があって。
彼女の背中に告げた。
「おかえり、インナー」
すると、彼女は振り返って。とびっきり可愛らしい顔で、笑ったのだった。
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