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28 コカトリスと呼ばないで
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◆コカトリスと呼ばないで
夏が過ぎ、少し秋めいてきたので。
今日の子供会では、焦げ茶色の衣装を身につけております。
まぁ、魔国では冬がないので、あまり枯れ葉というものもなく。
紅葉を風流に楽しむ文化もないのですが。
インナーは。秋は紅葉、春はサクラを見て酒を飲むものだ、ガハハ。と言うものですから。
さ、酒はともかく。
ぼくも、なんとなく風流を味わう気になるわけです。はい。
つか、インナー…おじさん? 本当に。彼、彼女、か。年齢性別不詳で謎人物です。
っていうか、インナーが見せる桜というものは、ピンクで、これまた美しい植物ですね?
花びらがひらひら舞い落ちるその軌跡が、奇跡のように綺麗です。
っんももみたいに、森に生やしてしまいましょうか?
でも、また兄上に怒られてしまうかもなぁ? うーん。保留。
というわけで。今日も。ミケージャに見守られながら、サロンに向かおうとしていたのですが。
背後で、ブハッと誰かが笑いを吹き出した。
ぼくは、廊下の途中で振り返ります。
「丸くて、茶色で、赤いトサカって。まんまコカトリスじゃねーか? サリエル、その衣装は駄目だって」
ぼくのまぁるい背中を見て大爆笑しているのは、ラーディン兄上です。
いえ、失礼な兄上です。
見えないでしょうけど、ぼくはジト目で彼を見やります。
でも、そうしたら。ラーディンの後ろにいた貴族子息の方たちが、数名クスクス笑いだしたのだった。
「コカトリスだって。ははっ、でも、魔力なしのお方では、コカトリスに失礼ですよ。ラーディン様?」
「そうです、あれは物凄い魔力持ちで、目が合うと死ぬとか? サリエル様とは強さが雲泥の差ですよ」
わぁ、久しぶりにお子様の悪意を浴びてしまいました。
近頃は、そばに必ずシュナイツとルーフェン兄妹がいて。
面と向かって、ぼくに悪口を言えるお子様はいなかったからなぁ。
そう思うと、ぼくはいつもマルチェロたちに守られていて、お友達に恵まれているようです。
ぼくのお友達、最高。
「おい、俺の弟の悪口、言うんじゃねぇよ」
そう思っていたら、ラーディンが尻馬に乗った子息に言い放った。
そう、尻馬にへばりついた子息を、蹴り飛ばしたも同然です。なぁぁ?
どの口で、そのようなことを言うのでしょう? まったく。自分が言い出したことなのにぃ。
「は? でも、ラーディンさまが…」
困惑の悪役子息。
そうですよねぇ?
兄上が先に言ったのに、怒られるとか理不尽ですよね?
「弟をからかう資格があるのは、兄だけなんだっ。サリエルをいじめたら俺が許さねぇ」
十一歳になったラーディン兄上は、だいぶ体つきが大きく、立派な体格になられて。
胸を張ると、すごく威圧感が出てきました。
白地に青髪の短髪は変わっていません。偉そうな感じも。
しかしぃ、ディエンヌに似た、なんて理不尽な言い分なのでしょう。
いえ、ぼくは認めませんよ?
兄でも、弟をいじめてはいけませぇぇん。
つか兄上はぼくに、王子だったら自分のことはぼくか私と言え、などと昔言っていたのですよ?
なのに、自分は、俺なんですけどぉ?
ラーディン兄上はすっかりと、王子の気品は捨て去っている模様。もうっ。
まぁ、魔王様も普段は俺だけどね。
魔族に気品を求めるのは、野暮なのでしょうかね?
「大体な、サリエルはレオンハルト兄上の婚約者だぞ? ちょっかいかけたら、どうなるか。知らないぞ? ってことで。おまえとおまえはご学友候補失格だ。達者でな?」
「ええええぇ? そんなぁ、困りますラーディン様」
慌てる悪役子息。
でも、ラーディン兄上は手を振るだけだ。
見かねたアレイン・オリアス侯爵子息。備考欄『ラーディンのご学友、アレイン。文武両道』が、彼らに説明した。
「これはラーディン様のテストなんだよ。サリエル様を侮辱なさる方は、ご学友候補からふるい落とされる。君たちは魔王家に仕える資格がないと判断されたのだ」
「当たり前だろ? サリエルは頭脳派グループのリーダーだぞ。大人になったら魔国を支える地位につくのだ。プライドばかり高くて、魔力の弱い者を見下し、体制を見誤るやつを、俺のそばに置いておけるわけがない」
さらに、ラーディンに言われ。
彼らはすごすごと、サロンの中へと入っていくのだった。
「可哀想に。元々兄上が言い出したことなのに、彼らを怒るのは筋違いですよ。つか、ぼくをコカトリスと呼ばないでください。こうしてご学友を選別するのも、ぼくは嫌なのですからね?」
アレインがテストと言うように。
ラーディンはぼくをダシにして、途中参加でご学友候補に名乗り出る子息たちをふるいにかけていた。
まぁ? いつか国政に携わるラーディン兄上が、ご学友を厳しく人選するのは必要なことですけど?
肩を落とす悪役令息の後ろ姿を見ると、なにやら同情してしまいます。
つか、人選のたびにぼくは兄上にからかわれ。
子供会の子たちの間で、コカトリス呼ばわりされることになるのですけどぉ。ひどいっ。
なんだかぼくは、いやぁな感じ? ですっ。
「う、怒るなよぉサリエル。人前でからかって悪かった。でもなぁ? おまえをあなどる者を、魔王城には入れられないだろう? これはおまえの為なんだ。わかるよな? サリエル?」
口をへの字にするぼくの肩を、兄上はぽよんぽよん叩いて謝る。
なんだか、いやぁな感じ? ですっ。
ラーディン兄上のご学友は、ふたり減りましたが。
新顔がひとり残っておりました。
彼に目を向けると、その見知った顔にぼくは、あっと目を見開きます。
いえ、開きませんが。気持ちです。
「サリエル、紹介するよ。晴れて俺のご学友に就任した、ファウスト・バッキャス公爵子息だ。彼は、無口だが。おまえをあなどらないのも、余計なことを言わないところも悪くない」
ラーディンにうながされて前に出てきた、新入りくん。
ファウストくんは黒い前髪を、目が隠れるくらいに伸ばしていて。表情はわかりづらい。
ツノは水牛のように、湾曲した大きなものが横にグワッと伸びている。
三大公爵家のお子様だから、魔力がいかにも多そうな、立派な御ツノです。
「こんにちは、ファウストくん。ぼくのこと笑わないでくれて、ありがとう」
ニッコリして、ぼくは手を差し出した。
握手のつもりだったんだけど。ファウストくんは、なんでか。ぼくの手を捧げ持って。廊下に膝をついてかしこまった。
「サリエル様。あなたに、騎士の誓いを捧げます」
そう言って、ぼくの手の甲に、チュッとキスした。
ん? キス、したぁ?
えええぇぇぇっ? とぼくはなったが。
ラーディン兄上も、はぁぁぁぁっ? となった。
「な、な、な、なんで? おまえ、俺の騎士になるんじゃねぇのか? つか、なんでいきなりサリエルに求婚するんだぁぁぁ?」
ラーディン兄上の質問に答えず、黒い前髪の向こうから、おそらく熱くぼくをみつめているファウストくん。
ぼくは、三角の口を丸くするしかない。
そこに、さらなる騒動を呼ぶ声が響き渡った。
「あーーーっ、サリエル様が求婚されてるぅぅ???」
ぼくがサロンに現れなくて、心配になったのでしょう。
サロンの扉から、廊下に顔を出したマリーベルが。とんでもないことを大声で叫びました。へぇぁああ?
そうしたら、ムッと口を引き結ぶマリーベルと。
おとなしやかではあるが、目を吊り上げているシュナイツと。
いつもの麗しい笑みを浮かべるマルチェロと。
…たぶんどうでもいいと思っているエドガーが。ぼくたちの方にやってきた。
「あなた、誰よ? 見ない顔ね?」
ぼくの手を持ったままのファウストくんに、マリーベルは顎をツンと突き出してたずねた。
それに答えたのは、マルチェロだけど。
「ファウスト・バッキャス公爵子息だよ。幼年期から、騎士の演習に参加して修練していたらしいよぉ? つい最近、子供会に顔を出すようになったんだって」
「へぇ? じゃあすでに騎士としての腕は確かなんだね? すごいことです」
マルチェロの補足に、ぼくが相槌をうち。
ファウストくんは、ぼくの言葉には反応して。コクリとうなずいた。
「恐れ入ります」
そこにマリーベルが、唇をワナワナさせながら、指を突きつけて告げる。
「ファ、ファウスト公爵子息? パンちゃんはね? 私たちのパンちゃんなの。求婚しても、順番は回ってきませんからね?」
言ってることは、可愛らしいけど。
なんか、悪役令嬢みがありますな、マリーベル。
「順番…待つ」
ファウストくんが、ぽつりと小さな声で言うのに。マリーベルもギョッとした。
「待つ? だ、だってね? えっと…お兄様も入る?」
「入る、入るぅ」
マリーベルに確認されて、マルチェロがさわやかな笑顔で手を上げた。
え? なにに入るんですか?
「いい? レオお兄様が、第一候補よ? それから私とシュナイツと、お兄様の次だから…サリエル様への求婚の順番は、五番目。五番目っ、ですわよ?」
マリーベルは、手のひらを広げてファウストに五を突きつけた。
つか、マルチェロ。
ぼくの求婚の順番待ちに入ってるよぉ?
なんでぇ? マルチェロはぼくのお友達でしょう? てか、これそういう話?
「待ちます。五番目」
小さな声だけど、ファウストくんはしっかりとうなずいた。
え、待つの? マジで?
「待て待て、俺も入れろ。つか、俺はレオンハルト兄上の次なっ。ファウストは六番目な?」
そこに、ラーディンが入ってきて。
もう、なんなんですかぁ? 収拾がつきません。
「ラーディン様は番外ですわ? いつもパンちゃんをいじめていますもの。バ、ン、ガ、イ!」
「いじめているんじゃないぞ? わかってないなぁ、可愛い弟に愛のちょっかいをかけてるだけだ」
「そういうの今どき、はやりませんから」
マリーベルがぼくの右側にむぎゅっとくっついて。
シュナイツも左側にくっついてくる。
ここまでは、いつもの感じですが。
いつもと違うところは、目の前にはひざまずくファウストくんがいて。
そしてラーディン兄上とマルチェロが、なにやら視線で火花を散らしているところです。
なんなのですか? なんなのですか? マジのモテ期が到来ですかぁ?
つか、女性率が極めて低いところが、なにやらぼくらしいですね?
てか、これ。どういう状況?
夏が過ぎ、少し秋めいてきたので。
今日の子供会では、焦げ茶色の衣装を身につけております。
まぁ、魔国では冬がないので、あまり枯れ葉というものもなく。
紅葉を風流に楽しむ文化もないのですが。
インナーは。秋は紅葉、春はサクラを見て酒を飲むものだ、ガハハ。と言うものですから。
さ、酒はともかく。
ぼくも、なんとなく風流を味わう気になるわけです。はい。
つか、インナー…おじさん? 本当に。彼、彼女、か。年齢性別不詳で謎人物です。
っていうか、インナーが見せる桜というものは、ピンクで、これまた美しい植物ですね?
花びらがひらひら舞い落ちるその軌跡が、奇跡のように綺麗です。
っんももみたいに、森に生やしてしまいましょうか?
でも、また兄上に怒られてしまうかもなぁ? うーん。保留。
というわけで。今日も。ミケージャに見守られながら、サロンに向かおうとしていたのですが。
背後で、ブハッと誰かが笑いを吹き出した。
ぼくは、廊下の途中で振り返ります。
「丸くて、茶色で、赤いトサカって。まんまコカトリスじゃねーか? サリエル、その衣装は駄目だって」
ぼくのまぁるい背中を見て大爆笑しているのは、ラーディン兄上です。
いえ、失礼な兄上です。
見えないでしょうけど、ぼくはジト目で彼を見やります。
でも、そうしたら。ラーディンの後ろにいた貴族子息の方たちが、数名クスクス笑いだしたのだった。
「コカトリスだって。ははっ、でも、魔力なしのお方では、コカトリスに失礼ですよ。ラーディン様?」
「そうです、あれは物凄い魔力持ちで、目が合うと死ぬとか? サリエル様とは強さが雲泥の差ですよ」
わぁ、久しぶりにお子様の悪意を浴びてしまいました。
近頃は、そばに必ずシュナイツとルーフェン兄妹がいて。
面と向かって、ぼくに悪口を言えるお子様はいなかったからなぁ。
そう思うと、ぼくはいつもマルチェロたちに守られていて、お友達に恵まれているようです。
ぼくのお友達、最高。
「おい、俺の弟の悪口、言うんじゃねぇよ」
そう思っていたら、ラーディンが尻馬に乗った子息に言い放った。
そう、尻馬にへばりついた子息を、蹴り飛ばしたも同然です。なぁぁ?
どの口で、そのようなことを言うのでしょう? まったく。自分が言い出したことなのにぃ。
「は? でも、ラーディンさまが…」
困惑の悪役子息。
そうですよねぇ?
兄上が先に言ったのに、怒られるとか理不尽ですよね?
「弟をからかう資格があるのは、兄だけなんだっ。サリエルをいじめたら俺が許さねぇ」
十一歳になったラーディン兄上は、だいぶ体つきが大きく、立派な体格になられて。
胸を張ると、すごく威圧感が出てきました。
白地に青髪の短髪は変わっていません。偉そうな感じも。
しかしぃ、ディエンヌに似た、なんて理不尽な言い分なのでしょう。
いえ、ぼくは認めませんよ?
兄でも、弟をいじめてはいけませぇぇん。
つか兄上はぼくに、王子だったら自分のことはぼくか私と言え、などと昔言っていたのですよ?
なのに、自分は、俺なんですけどぉ?
ラーディン兄上はすっかりと、王子の気品は捨て去っている模様。もうっ。
まぁ、魔王様も普段は俺だけどね。
魔族に気品を求めるのは、野暮なのでしょうかね?
「大体な、サリエルはレオンハルト兄上の婚約者だぞ? ちょっかいかけたら、どうなるか。知らないぞ? ってことで。おまえとおまえはご学友候補失格だ。達者でな?」
「ええええぇ? そんなぁ、困りますラーディン様」
慌てる悪役子息。
でも、ラーディン兄上は手を振るだけだ。
見かねたアレイン・オリアス侯爵子息。備考欄『ラーディンのご学友、アレイン。文武両道』が、彼らに説明した。
「これはラーディン様のテストなんだよ。サリエル様を侮辱なさる方は、ご学友候補からふるい落とされる。君たちは魔王家に仕える資格がないと判断されたのだ」
「当たり前だろ? サリエルは頭脳派グループのリーダーだぞ。大人になったら魔国を支える地位につくのだ。プライドばかり高くて、魔力の弱い者を見下し、体制を見誤るやつを、俺のそばに置いておけるわけがない」
さらに、ラーディンに言われ。
彼らはすごすごと、サロンの中へと入っていくのだった。
「可哀想に。元々兄上が言い出したことなのに、彼らを怒るのは筋違いですよ。つか、ぼくをコカトリスと呼ばないでください。こうしてご学友を選別するのも、ぼくは嫌なのですからね?」
アレインがテストと言うように。
ラーディンはぼくをダシにして、途中参加でご学友候補に名乗り出る子息たちをふるいにかけていた。
まぁ? いつか国政に携わるラーディン兄上が、ご学友を厳しく人選するのは必要なことですけど?
肩を落とす悪役令息の後ろ姿を見ると、なにやら同情してしまいます。
つか、人選のたびにぼくは兄上にからかわれ。
子供会の子たちの間で、コカトリス呼ばわりされることになるのですけどぉ。ひどいっ。
なんだかぼくは、いやぁな感じ? ですっ。
「う、怒るなよぉサリエル。人前でからかって悪かった。でもなぁ? おまえをあなどる者を、魔王城には入れられないだろう? これはおまえの為なんだ。わかるよな? サリエル?」
口をへの字にするぼくの肩を、兄上はぽよんぽよん叩いて謝る。
なんだか、いやぁな感じ? ですっ。
ラーディン兄上のご学友は、ふたり減りましたが。
新顔がひとり残っておりました。
彼に目を向けると、その見知った顔にぼくは、あっと目を見開きます。
いえ、開きませんが。気持ちです。
「サリエル、紹介するよ。晴れて俺のご学友に就任した、ファウスト・バッキャス公爵子息だ。彼は、無口だが。おまえをあなどらないのも、余計なことを言わないところも悪くない」
ラーディンにうながされて前に出てきた、新入りくん。
ファウストくんは黒い前髪を、目が隠れるくらいに伸ばしていて。表情はわかりづらい。
ツノは水牛のように、湾曲した大きなものが横にグワッと伸びている。
三大公爵家のお子様だから、魔力がいかにも多そうな、立派な御ツノです。
「こんにちは、ファウストくん。ぼくのこと笑わないでくれて、ありがとう」
ニッコリして、ぼくは手を差し出した。
握手のつもりだったんだけど。ファウストくんは、なんでか。ぼくの手を捧げ持って。廊下に膝をついてかしこまった。
「サリエル様。あなたに、騎士の誓いを捧げます」
そう言って、ぼくの手の甲に、チュッとキスした。
ん? キス、したぁ?
えええぇぇぇっ? とぼくはなったが。
ラーディン兄上も、はぁぁぁぁっ? となった。
「な、な、な、なんで? おまえ、俺の騎士になるんじゃねぇのか? つか、なんでいきなりサリエルに求婚するんだぁぁぁ?」
ラーディン兄上の質問に答えず、黒い前髪の向こうから、おそらく熱くぼくをみつめているファウストくん。
ぼくは、三角の口を丸くするしかない。
そこに、さらなる騒動を呼ぶ声が響き渡った。
「あーーーっ、サリエル様が求婚されてるぅぅ???」
ぼくがサロンに現れなくて、心配になったのでしょう。
サロンの扉から、廊下に顔を出したマリーベルが。とんでもないことを大声で叫びました。へぇぁああ?
そうしたら、ムッと口を引き結ぶマリーベルと。
おとなしやかではあるが、目を吊り上げているシュナイツと。
いつもの麗しい笑みを浮かべるマルチェロと。
…たぶんどうでもいいと思っているエドガーが。ぼくたちの方にやってきた。
「あなた、誰よ? 見ない顔ね?」
ぼくの手を持ったままのファウストくんに、マリーベルは顎をツンと突き出してたずねた。
それに答えたのは、マルチェロだけど。
「ファウスト・バッキャス公爵子息だよ。幼年期から、騎士の演習に参加して修練していたらしいよぉ? つい最近、子供会に顔を出すようになったんだって」
「へぇ? じゃあすでに騎士としての腕は確かなんだね? すごいことです」
マルチェロの補足に、ぼくが相槌をうち。
ファウストくんは、ぼくの言葉には反応して。コクリとうなずいた。
「恐れ入ります」
そこにマリーベルが、唇をワナワナさせながら、指を突きつけて告げる。
「ファ、ファウスト公爵子息? パンちゃんはね? 私たちのパンちゃんなの。求婚しても、順番は回ってきませんからね?」
言ってることは、可愛らしいけど。
なんか、悪役令嬢みがありますな、マリーベル。
「順番…待つ」
ファウストくんが、ぽつりと小さな声で言うのに。マリーベルもギョッとした。
「待つ? だ、だってね? えっと…お兄様も入る?」
「入る、入るぅ」
マリーベルに確認されて、マルチェロがさわやかな笑顔で手を上げた。
え? なにに入るんですか?
「いい? レオお兄様が、第一候補よ? それから私とシュナイツと、お兄様の次だから…サリエル様への求婚の順番は、五番目。五番目っ、ですわよ?」
マリーベルは、手のひらを広げてファウストに五を突きつけた。
つか、マルチェロ。
ぼくの求婚の順番待ちに入ってるよぉ?
なんでぇ? マルチェロはぼくのお友達でしょう? てか、これそういう話?
「待ちます。五番目」
小さな声だけど、ファウストくんはしっかりとうなずいた。
え、待つの? マジで?
「待て待て、俺も入れろ。つか、俺はレオンハルト兄上の次なっ。ファウストは六番目な?」
そこに、ラーディンが入ってきて。
もう、なんなんですかぁ? 収拾がつきません。
「ラーディン様は番外ですわ? いつもパンちゃんをいじめていますもの。バ、ン、ガ、イ!」
「いじめているんじゃないぞ? わかってないなぁ、可愛い弟に愛のちょっかいをかけてるだけだ」
「そういうの今どき、はやりませんから」
マリーベルがぼくの右側にむぎゅっとくっついて。
シュナイツも左側にくっついてくる。
ここまでは、いつもの感じですが。
いつもと違うところは、目の前にはひざまずくファウストくんがいて。
そしてラーディン兄上とマルチェロが、なにやら視線で火花を散らしているところです。
なんなのですか? なんなのですか? マジのモテ期が到来ですかぁ?
つか、女性率が極めて低いところが、なにやらぼくらしいですね?
てか、これ。どういう状況?
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