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番外 マルチェロのたくらみ ③
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玄関前で、短い腕をいっぱい伸ばして手を振るサリエルが、馬車の窓から見える。
最初こそ、丸いなと思っていたけど。
付き合っているうちに、あのフォルムがなんだか可愛く見えてくるから、不思議だね?
馬車が止まって、私が地に降りると。サリエルはおずおずと私に近寄ってきた。
「いらっしゃい、マルチェロ」
「遠くからサリーが手を振っているの、見えていたよ?」
私が言うと、サリエルは丸い手をほっぺに当てて、はにかんだ。
「ぼくのおうちに、ぼくの友達が遊びに来てくれるのが。初めてだから。うれしくて、つい、手をいっぱい振ってしまいました」
サリエルはお披露目会まで、公の場に姿を現さなかったから。友達自体がいないのだろう。
それに、出自的にも。魔王の息子とはいえ養子である彼に、近寄る者はいないかもしれないからな。
子供でも、貴族であれば友達にメリットを求めるものだ。
私だとて、レオの秘書に取り立てるという言葉がなかったら、サリエルと本気で友達になろうなどとは思わなかったはずだ。
そう思うと。ちょっと後ろめたいな。
だが、最初こそそういう打算的なことがあったが。
今はサリエルのことを、純粋に好きだよ。
私は、メリットを求められる側だった。
公爵子息という立場に旨味を感じて寄ってくる、子息令嬢に。辟易としていて。
自分にはそれしか価値がないのかと、憤ったりもして。
だから私も、くだらない連中の中に旨味を探して、友達に自分の利を求めたりしたが。
でも、サリエルは。そういう、家柄などには無頓着で。ただの友達として私を見てくれる。
そんなサリエルだから、私はサリエルの前にいると、ただのマルチェロになれるのだ。
サリエルは、地位や家柄に本当に関心がないみたいで。
子供会では。サリエルが、両手に公爵令嬢と魔王の四男をぶら下げて、さらにその背後で私がにらみを利かせているわけだが。
サリエル御一行を奇異な目でみつめる子供たちを、さらりと無視して。普通にサロンで遊んでいる。
そういうところ、器が大きいのかな? ただのお鈍なのかな?
たぶん、お鈍だが。そこがサリエルのいいところ、なのだ。
「サリエル様、まずはお客様をサロンにご案内してくださいませ」
「あっ、そうだ。マルチェロ、どうぞ、おあがりください」
侍女にうながされ、サリエルは私を屋敷の中に案内した。
お客様をもてなすのが初めてなのだろうね? すべてが初々しい感じで、微笑ましいね。
サロンに移動して、椅子に落ち着くと。
紅茶と、見たことのない果物が、皿に盛られて出された。
「これね、お庭に生えた新種の果物、っんももだよ? おいしいから、食べてみてぇ?」
「まずは君から。地位の高い者から手を付けないと、下の者は食べられないんだ。それが礼儀だよ?」
一般的な礼儀作法を口にすると、サリエルは少し困った顔をした。
基本、私たちは地位や立場を気にしないスタンス。
とは言っても。公の場に出れば、そのような振る舞いを求められる。
こうして、お茶会や御呼ばれで慣れておけば。大きなパーティに出ても恥をかかない。
つまり遊びの時間も、礼節の練習の場であるのだ。
「ぼくは養子だし。マルチェロは公爵令息だから、マルチェロが上ではないの?」
「養子でも、魔王の息子である君は、王子だから。私より地位は上だよ?」
サリエルは納得して。
フォークで果物を刺し、食べる。
「んんっまぁあぁあい。さぁ、マルチェロも、食べて?」
柔らかそうなほっぺをムニョムニョさせて。サリエルが、いかにも美味しそうに食べるものだから。
私もうながしに応じて、っんももとやらを食してみる。
「…っん」
私は、目を丸くした。口の中で、シュッとなくなった。
というか、こんなもの食べたことがない。
「なんですかっ、これはぁ?」
「だから、っんももだよ。新種の果物」
はしたないが、この果汁の味がたまらなく癖になって。皿の上のっんももを、次から次に口に入れてしまった。
「美味しかった? マルチェロ。お土産に、持って帰って。マリーベルにも食べさせてやって?」
「妹に食べさせるのは、もったいない。というか、お土産って? ここに出る以外にも、この美味しい果物があるのかい?」
「いっぱいあるよぉ? あっ、エリン。ゼリーもお土産にしてあげて?」
侍女は、サリエルの言葉に頭を下げた。
っんもものゼリー? 絶対、美味しいやつ。
「マルチェロ、今日はなにして遊ぶぅ?」
指と指を合わせて、プヨプヨさせるサリエルが、聞いてくる。
これは、もじもじかな?
「私は、町で買い物をするのが好きなのだが。サリーは、屋敷から出られないのかい?」
聞くと、侍女が頭を下げて答えた。
「申し訳ありません。城下の散策はレオンハルト様の許可がありませんと…」
もう、レオ。ちょっと過保護すぎだよ。
サリエルは純粋培養の、深窓のお嬢様のようだ。
「では、城下はレオに許可をもらったときに、行こう。今日はこの、っんももの木を見せてくれるかい?」
「少し、歩くよ? いい?」
うなずくと。サリエルは私の手を引いて、外に出た。
レオンハルトの屋敷は、庭がとても広い。
彼は乗馬が趣味だというから、おそらく敷地で馬を走らせているのだろう。
その草原を、私たちはテクテク歩いていく。
「マルチェロは、もう馬に乗れるのですか? 馬に乗れたら、っんももの木までシュッと行けるのに」
「あぁ、乗馬は得意だよ? サリーはまだ練習していないのか?」
「一年前に、落馬して。それからラーディン兄上が、乗っちゃダメだって。レオンハルト兄上がバリバリドッカーンになるから」
それで、私は。一年前の天変地異を思い出した。
外で買い物をしていたら、麗らかに晴れた日であったのに、急に雷がいくつも落ちたのだ。
街中は騒然で、世界の終わりだと泣き叫ぶ者までいたほど。
え? あれって。サリエルが落馬したのを、レオが心配して雷落とした? ってこと? はた迷惑なやつだぁ。
いや。違う。落馬は大事だが。
心配では、あんなにいっぱい雷は落ちないだろう。
怒ったのだ。
ディエンヌの風魔法で、馬に乗ったサリエルが吹き飛ばされ。殺されそうになったと、レオが言っていた…まさか、あれ?
あの出来事、なのか?
「でも、足が。もう少し、足が伸びたら。スマートに馬に乗れると思うのです」
殺されそうになった、なんて目にあったというのに。サリエルはのんきにそんなことを言う。
相変わらずの、のほほんさんだが。
いやいや、サリエルが命の危機にあったら。レオンハルトによる天変地異が起こる、ということだろう?
「…私は、ラーディンが正しいと思うなぁ。サリーは馬に乗らない方がいい。みんなの…いや、レオのために」
私は、今更ながら背筋が凍る思いをした。
レオンハルトの能力の高さにも、だが。それよりも。
これ、サリエルの護衛に失敗したら、命がないやつだね?
秘書の地位に目がくらんで、サリエルに後ろめたい思いなんか芽生えちゃっていたけど。
知らない間に、私の命がかかっていたみたいだね?
恐ろしいね? 先に言っておいてほしいね?
まぁ、だからって。サリエルのお友達をやめたりはしないけど。
それなら、大切な私のお友達を命がけで守るだけの話だ。
「やっぱり、ですかぁ。ぼく、乗馬できる自信あるのですけどぉ」
そう言って、サリエルは短い足をぴょーーっと伸ばして。つま先をピルピルぅっと震わせた。
私は目を細くして、サリーを見やる。
なぜに、どういうところから、自信があるのでしょうか?
そんな話をしながら、森に入っていくと。
しばらくして、妙ちきりんな木が生えているところに出た。
「これが、っんももです」
すっごくドヤ顔で。サリエルは木を紹介した。
なんというか、うねうねして、木の枝がくねくねで。
魔が宿った木、と言っても不思議でない。見たことのない形状の木だった。
ちょっと、怖い。
ただ、辺りには。先ほど食べたっんももの香りが漂っていて。芳醇で甘い香りが鼻をくすぐった。
そして、枝から垂れるその実は。ハートの形をしていて。可愛くて、びっくりした。
先ほどは切って出されたので。実の形がこんなだとは思わなかったのだ。
「すごい、形がハートだ。こんな可愛い感じで実っているのかい? しかも美味しいなんて。すごい木だね?」
「っんももの種は大きいから。植えたら、芽が出るかもね?」
サリエルはさらりと言うが。
私がお土産に持ち帰ったっんももで、木を生やしてもいいのだろうか?
「サリー、これはお金になるよ? とてもおいしい果物だもの。マリーベルに渡したら、木をいっぱい生やして、ひと財産築いちゃうかもしれないよ?」
私だって、考えるのだ。あの妹なら、やる。
瞳をお金の形に光らせて、やる。
でもサリエルは、のほほんと答えるのだった。
「っんももがいっぱいになって、みんなが美味しいのなら、それでいいよ? マルチェロがいつでも、っんももを食べられて、美味しいっていつも思ってくれたら、ぼくはうれしい」
ニッコリ笑顔で言われ。
私は。私の中の黒い部分が、とても痛いと感じた。
魔族だから、どうしても楽して儲ける、とか。ひと財産、とか。つい考えてしまうのだ。
でも、サリエルは。みんなが美味しいと思えば、それでいいのだな。
「ねぇ、っんもも、美味しかった? また、ぼくのうちに遊びに来てくれる?」
自信なさそうに、サリエルは聞いてくるけど。
「当たり前だよ。私の方こそ、また、サリーのうちに遊びに来たい。たずねてもいい?」
「うん。もっと。もっと、遊ぼう、マルチェロ」
私は、サリエルに誘われるまま、森の中でいっぱい遊んだ。
私のことを、こんなに心から歓迎してくれるような者は今までいなかった。
サリエルは、年相応に子供っぽいところがあるけれど。
頭の良さは、私以上にあって。
だから、彼をつまらなく感じることも。子供すぎてくだらない、と見下したりするようなことも。一度もなかった。
サリエルは、今まで出会った誰とも違う。初めてで、貴重で、不思議な人物なのだ。
今まで友達と思っていた者は、どうやら友達ではなかったようだ。
表面的な美しい容姿に気を取られたり。強者のそばにいれば自分にも恩恵が与えられる。そんな打算的な考えの者に。心を開けるわけもない。
それを、私はサリエルに教えてもらったような気がする。
私個人を見て、喜んで遊んでくれるサリエルこそが、本当の友達なのだと。そう、素直に思えた。
なんでだろう? サリエルとだったら、子供みたいに無邪気に遊べるんだ。
私も、年相応になって、遊べるんだ。
最初こそ、丸いなと思っていたけど。
付き合っているうちに、あのフォルムがなんだか可愛く見えてくるから、不思議だね?
馬車が止まって、私が地に降りると。サリエルはおずおずと私に近寄ってきた。
「いらっしゃい、マルチェロ」
「遠くからサリーが手を振っているの、見えていたよ?」
私が言うと、サリエルは丸い手をほっぺに当てて、はにかんだ。
「ぼくのおうちに、ぼくの友達が遊びに来てくれるのが。初めてだから。うれしくて、つい、手をいっぱい振ってしまいました」
サリエルはお披露目会まで、公の場に姿を現さなかったから。友達自体がいないのだろう。
それに、出自的にも。魔王の息子とはいえ養子である彼に、近寄る者はいないかもしれないからな。
子供でも、貴族であれば友達にメリットを求めるものだ。
私だとて、レオの秘書に取り立てるという言葉がなかったら、サリエルと本気で友達になろうなどとは思わなかったはずだ。
そう思うと。ちょっと後ろめたいな。
だが、最初こそそういう打算的なことがあったが。
今はサリエルのことを、純粋に好きだよ。
私は、メリットを求められる側だった。
公爵子息という立場に旨味を感じて寄ってくる、子息令嬢に。辟易としていて。
自分にはそれしか価値がないのかと、憤ったりもして。
だから私も、くだらない連中の中に旨味を探して、友達に自分の利を求めたりしたが。
でも、サリエルは。そういう、家柄などには無頓着で。ただの友達として私を見てくれる。
そんなサリエルだから、私はサリエルの前にいると、ただのマルチェロになれるのだ。
サリエルは、地位や家柄に本当に関心がないみたいで。
子供会では。サリエルが、両手に公爵令嬢と魔王の四男をぶら下げて、さらにその背後で私がにらみを利かせているわけだが。
サリエル御一行を奇異な目でみつめる子供たちを、さらりと無視して。普通にサロンで遊んでいる。
そういうところ、器が大きいのかな? ただのお鈍なのかな?
たぶん、お鈍だが。そこがサリエルのいいところ、なのだ。
「サリエル様、まずはお客様をサロンにご案内してくださいませ」
「あっ、そうだ。マルチェロ、どうぞ、おあがりください」
侍女にうながされ、サリエルは私を屋敷の中に案内した。
お客様をもてなすのが初めてなのだろうね? すべてが初々しい感じで、微笑ましいね。
サロンに移動して、椅子に落ち着くと。
紅茶と、見たことのない果物が、皿に盛られて出された。
「これね、お庭に生えた新種の果物、っんももだよ? おいしいから、食べてみてぇ?」
「まずは君から。地位の高い者から手を付けないと、下の者は食べられないんだ。それが礼儀だよ?」
一般的な礼儀作法を口にすると、サリエルは少し困った顔をした。
基本、私たちは地位や立場を気にしないスタンス。
とは言っても。公の場に出れば、そのような振る舞いを求められる。
こうして、お茶会や御呼ばれで慣れておけば。大きなパーティに出ても恥をかかない。
つまり遊びの時間も、礼節の練習の場であるのだ。
「ぼくは養子だし。マルチェロは公爵令息だから、マルチェロが上ではないの?」
「養子でも、魔王の息子である君は、王子だから。私より地位は上だよ?」
サリエルは納得して。
フォークで果物を刺し、食べる。
「んんっまぁあぁあい。さぁ、マルチェロも、食べて?」
柔らかそうなほっぺをムニョムニョさせて。サリエルが、いかにも美味しそうに食べるものだから。
私もうながしに応じて、っんももとやらを食してみる。
「…っん」
私は、目を丸くした。口の中で、シュッとなくなった。
というか、こんなもの食べたことがない。
「なんですかっ、これはぁ?」
「だから、っんももだよ。新種の果物」
はしたないが、この果汁の味がたまらなく癖になって。皿の上のっんももを、次から次に口に入れてしまった。
「美味しかった? マルチェロ。お土産に、持って帰って。マリーベルにも食べさせてやって?」
「妹に食べさせるのは、もったいない。というか、お土産って? ここに出る以外にも、この美味しい果物があるのかい?」
「いっぱいあるよぉ? あっ、エリン。ゼリーもお土産にしてあげて?」
侍女は、サリエルの言葉に頭を下げた。
っんもものゼリー? 絶対、美味しいやつ。
「マルチェロ、今日はなにして遊ぶぅ?」
指と指を合わせて、プヨプヨさせるサリエルが、聞いてくる。
これは、もじもじかな?
「私は、町で買い物をするのが好きなのだが。サリーは、屋敷から出られないのかい?」
聞くと、侍女が頭を下げて答えた。
「申し訳ありません。城下の散策はレオンハルト様の許可がありませんと…」
もう、レオ。ちょっと過保護すぎだよ。
サリエルは純粋培養の、深窓のお嬢様のようだ。
「では、城下はレオに許可をもらったときに、行こう。今日はこの、っんももの木を見せてくれるかい?」
「少し、歩くよ? いい?」
うなずくと。サリエルは私の手を引いて、外に出た。
レオンハルトの屋敷は、庭がとても広い。
彼は乗馬が趣味だというから、おそらく敷地で馬を走らせているのだろう。
その草原を、私たちはテクテク歩いていく。
「マルチェロは、もう馬に乗れるのですか? 馬に乗れたら、っんももの木までシュッと行けるのに」
「あぁ、乗馬は得意だよ? サリーはまだ練習していないのか?」
「一年前に、落馬して。それからラーディン兄上が、乗っちゃダメだって。レオンハルト兄上がバリバリドッカーンになるから」
それで、私は。一年前の天変地異を思い出した。
外で買い物をしていたら、麗らかに晴れた日であったのに、急に雷がいくつも落ちたのだ。
街中は騒然で、世界の終わりだと泣き叫ぶ者までいたほど。
え? あれって。サリエルが落馬したのを、レオが心配して雷落とした? ってこと? はた迷惑なやつだぁ。
いや。違う。落馬は大事だが。
心配では、あんなにいっぱい雷は落ちないだろう。
怒ったのだ。
ディエンヌの風魔法で、馬に乗ったサリエルが吹き飛ばされ。殺されそうになったと、レオが言っていた…まさか、あれ?
あの出来事、なのか?
「でも、足が。もう少し、足が伸びたら。スマートに馬に乗れると思うのです」
殺されそうになった、なんて目にあったというのに。サリエルはのんきにそんなことを言う。
相変わらずの、のほほんさんだが。
いやいや、サリエルが命の危機にあったら。レオンハルトによる天変地異が起こる、ということだろう?
「…私は、ラーディンが正しいと思うなぁ。サリーは馬に乗らない方がいい。みんなの…いや、レオのために」
私は、今更ながら背筋が凍る思いをした。
レオンハルトの能力の高さにも、だが。それよりも。
これ、サリエルの護衛に失敗したら、命がないやつだね?
秘書の地位に目がくらんで、サリエルに後ろめたい思いなんか芽生えちゃっていたけど。
知らない間に、私の命がかかっていたみたいだね?
恐ろしいね? 先に言っておいてほしいね?
まぁ、だからって。サリエルのお友達をやめたりはしないけど。
それなら、大切な私のお友達を命がけで守るだけの話だ。
「やっぱり、ですかぁ。ぼく、乗馬できる自信あるのですけどぉ」
そう言って、サリエルは短い足をぴょーーっと伸ばして。つま先をピルピルぅっと震わせた。
私は目を細くして、サリーを見やる。
なぜに、どういうところから、自信があるのでしょうか?
そんな話をしながら、森に入っていくと。
しばらくして、妙ちきりんな木が生えているところに出た。
「これが、っんももです」
すっごくドヤ顔で。サリエルは木を紹介した。
なんというか、うねうねして、木の枝がくねくねで。
魔が宿った木、と言っても不思議でない。見たことのない形状の木だった。
ちょっと、怖い。
ただ、辺りには。先ほど食べたっんももの香りが漂っていて。芳醇で甘い香りが鼻をくすぐった。
そして、枝から垂れるその実は。ハートの形をしていて。可愛くて、びっくりした。
先ほどは切って出されたので。実の形がこんなだとは思わなかったのだ。
「すごい、形がハートだ。こんな可愛い感じで実っているのかい? しかも美味しいなんて。すごい木だね?」
「っんももの種は大きいから。植えたら、芽が出るかもね?」
サリエルはさらりと言うが。
私がお土産に持ち帰ったっんももで、木を生やしてもいいのだろうか?
「サリー、これはお金になるよ? とてもおいしい果物だもの。マリーベルに渡したら、木をいっぱい生やして、ひと財産築いちゃうかもしれないよ?」
私だって、考えるのだ。あの妹なら、やる。
瞳をお金の形に光らせて、やる。
でもサリエルは、のほほんと答えるのだった。
「っんももがいっぱいになって、みんなが美味しいのなら、それでいいよ? マルチェロがいつでも、っんももを食べられて、美味しいっていつも思ってくれたら、ぼくはうれしい」
ニッコリ笑顔で言われ。
私は。私の中の黒い部分が、とても痛いと感じた。
魔族だから、どうしても楽して儲ける、とか。ひと財産、とか。つい考えてしまうのだ。
でも、サリエルは。みんなが美味しいと思えば、それでいいのだな。
「ねぇ、っんもも、美味しかった? また、ぼくのうちに遊びに来てくれる?」
自信なさそうに、サリエルは聞いてくるけど。
「当たり前だよ。私の方こそ、また、サリーのうちに遊びに来たい。たずねてもいい?」
「うん。もっと。もっと、遊ぼう、マルチェロ」
私は、サリエルに誘われるまま、森の中でいっぱい遊んだ。
私のことを、こんなに心から歓迎してくれるような者は今までいなかった。
サリエルは、年相応に子供っぽいところがあるけれど。
頭の良さは、私以上にあって。
だから、彼をつまらなく感じることも。子供すぎてくだらない、と見下したりするようなことも。一度もなかった。
サリエルは、今まで出会った誰とも違う。初めてで、貴重で、不思議な人物なのだ。
今まで友達と思っていた者は、どうやら友達ではなかったようだ。
表面的な美しい容姿に気を取られたり。強者のそばにいれば自分にも恩恵が与えられる。そんな打算的な考えの者に。心を開けるわけもない。
それを、私はサリエルに教えてもらったような気がする。
私個人を見て、喜んで遊んでくれるサリエルこそが、本当の友達なのだと。そう、素直に思えた。
なんでだろう? サリエルとだったら、子供みたいに無邪気に遊べるんだ。
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