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17 っんももの、大収穫祭

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     ◆っんももの、大収穫祭

 第一回、阿鼻叫喚の子供会は、いろいろとありましたものの。なんとか無事に生還できまして。
 ディエンヌの尻拭いも、良い感じにできまして。
 ディエンヌのビリビリ期も終了しまして。
 なかなかの大収穫だったような気がします。

 ルーフェン公爵家の兄妹、マルチェロとマリーベルとも仲良くなって。
 恐れ多いことながら、ちゃんとお友達になって。庭で遊んだりメジロパンクマごっこをしたり。
 ぼくもいっぱい楽しめました。
 それでも、やはり。
 なにがあるかわからない子供会は、疲れましたけどぉ。

 ですが第二回子供会は、また一ヶ月後。
 それまでは屋敷での、いつもの平穏な日常です。

 午前中にやっていた、ミケージャとのお勉強会は。学園に行ったら学ぶべき学業をほぼ修了したとのことで。家庭教師終了です。
 ミケージャは兄上の従者という、正規の業務へ戻っていったのだった。

 ちょっと寂しくて、つまらない。
 でも兄上の補佐をする大事なミケージャを、いつまでもぼくが独占していてはいけないのです。
 そうです。ぼくはミケージャのように、兄上のお役に立てる者になりたい。
 ミケージャがいなくても、日々精進するのみなのです。

 でも今日は。子供会明けの日なので。疲れを取りましょう。
 ゴロゴロしても、いいですよね?

「いいわけないだろ? そうやってゴロゴロデロデロしているから、全然やせねぇじゃねぇかっ!」
 兄上の登城をお見送りしたあと、自室のベッドでゴロゴロしていたら。
 インナーに怒られてしまった。
 もぉう、すぐ怒るぅ。

「ぼくは、やるべきことはやっていますぅ。ご飯もおやつもバカみたいに食べてるわけでもなし。間食もしないし、エリンと鬼ごっこもしているし。それでもやせないのだから、きっともう、やせないのですぅ」

「バカヤロメ、あきらめんじゃねぇ。麗しの兄貴の隣に並び立つ美しいぼくに、なれるはずだっ」
「美しいぼくとか、想像できませぇん。ぼくは生まれたときから、この顔ですから」

 もっちりほっぺに、埋もれた糸目、口は小さい三角。赤髪のトサカ。
 ここからどうやって、美しくなれと?

「まぁ、確かに? これ以上食事を抜いたら干からびちゃう。なら、やっぱ運動しかないな。ダイエットは最終的に、やっぱり動かないと、やせないんだっ」
「ですよねぇ…」

 そう思って、体を動かせばいいのですけど。
 ぼくはどちらかといえば、インナーが言うところのインドア派です。
 ディエンヌのビリビリに対抗するため、身につけた縫物も。やってみれば面白く。
 部屋の中で、いつまでもチクチクしちゃったり。
 本を黙々と読んだり。
 そういうのが好きなのです。

「気持ちはわかるけど。ぼくも、ポテチ片手にアニメ見たり? 漫画やゲーム三昧が最高だったし?」
 ポテチもアニメもゲームもわからないが。なにやら自堕落さは感じるね?

「そうだ、今日は、っんももを見に行きましょう」
「えぇ? 芽が出てまだ二週間くらいじゃね? なんも変わってねぇんじゃね?」
「森に行くまでの間がいい運動になるのです。森に行ったら、やせるかも」

 ぼくはベッドからコロリンと転げ降りて、窓から外に出た。
 お行儀は悪いけど、玄関から外に出たらエリンがついてきちゃうかもしれないからね?
 実がなるまでは、っんもものことは内緒なの。
 驚かせたいからね? ドッキリしたいの。

 バラやシャクヤクが美しく咲く庭園。
 風のせいか、花がお辞儀をするように揺れるから。
 ぼくはそれに『こんにちは、こんにちは』と挨拶をしながら、庭を抜けていく。

 緑が覆うなだらかな丘を、足取り軽くタッタカ駆けて、越えていき。
 森に入ってしばらくすると、少し開けた場所に出る。
 そこは、っんももを植えたところなのだけど…。

「うわぁぁぁ、なんじゃこりゃぁぁぁ?」
 みっつ出した、っんももの蔓が絡んだような形だった芽は。
 まだ二週間くらいしか経っていないのに、大きな木に成長していた。

 地面にしっかりと根付いて。ぶっとい根っこが、地に広がり。
 二本の茎がくるりと絡まっていた芽は、その茎の部分が、硬く、太い、立派な幹になって、上に伸びていて。
 三本の木の枝が、握手をするように、絡んで、交差して、頭上に広がり。
 その網目状になった枝から、下に、実がたくさんぶら下がっているのだった。

「これが、っんもも? んぁぁぁ、たべたぁい」
 ぼくは手を伸ばして、その場でジャンプしてみるけど。
 大人が手を伸ばしてやっと届くような位置にある実に。七歳、やや小さめのぼくの身長では。届くわけもない。
 あの、魅惑の、白くてピンクの、禁断の果実にっ!

「っんもも、食べたい。あれ、あの実が、たべたいのぉ」
 言ったところで食べられるわけもなく、地団太を踏む、ぼく。
 これはエリンを呼んできて、もいでもらった方がいいかと思った、そのとき。

 手の中にポトリと、実が落ちてきた。
 あれが欲しいと、駄々をこねた。その実だった。

「いいのぉ? ありがとう」
 誰にともなく、お礼を言って。
 ぼくはピカリと光る…ように見えた、っんももをみつめ。おもむろにかぶりついた。

「うえぇぇ、ハリハリするぅ」
 皮に、小さな毛みたいなものが生えていて。チクチクして、ベロが痛かった。
 頬擦りしたら、つるりとしているように見えるのに。
 毛が、毛がぁ…。

「ばか。皮をむいて、食べるんだよ。中は果汁たっぷりで、べとべとだからな? 手に力を入れたら、ブジュっとなるからな?」
 インナーの助言を受け、ぼくはぶっとい指を慎重に動かして、皮の端を切ると。薄皮をペロリとむく。
 中には、輝かんばかりの薄黄色の果肉。
 とろりと、見るからに滴る果汁が。果肉に艶を出している。
 皮を全部むいたら、思い切ってガブリ。

「あああああんまぁい」
 口の中に入った実は、すぐにとろけてジュースのようになった。
 今まで、食べたことのない味だ。
 甘いだけではない、ほんのりと酸味があって、それでいて爽やかで、じゅるじゅるで、うまうまで。

「すごーい、インナーの言っていた通りの味だ。っんもも、おかわり」
 手を上に伸ばして催促したら、また一個落してくれた。ありがとうっ。
 そうしてもう一個、っんももを食す。
 あぁ、これ、飲み物じゃね? いくら食べてもゼロキロカロリーじゃね?

「糖分、けっこうあるからな。二個までだぞ」
 インナーが駄目出しをするので。ぼくは、ムムッとなって。
 今ある一個を、味わって食すのだった。
 でもぉ、タネがけっこうデカいから。もう一個いいんじゃね? と思いつつ。

「もう、食べられるくらいに熟しているのなら、収穫した方がいいかもな?」
「そうだね? これを食べたらエリンを呼んで。赤くなってる実のやつを取ってもらおう。っんももの、大収穫祭だっ」
 でもとりあえず、ぼくはこの、っんももの味わいを、にっこにこで楽しみます。

「あまぁあい、うんまぁあい」
 果汁で、手や頬はべっとべとで。口の中に、果肉がウジュウジュで。
 だけど美味しいから、ほっぺがボトリと落っこちてしまっても、ぼくは驚きません。
 あぁ、なんて美味しいのでしょう。美味しいものを食べると、自然に口がゆるんで笑っちゃう。

 魅惑の、っんももは、悪魔の食べ物に違いありません。うむっ。

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