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幕間 サリエルの成長日記(ニ歳) レオ著
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◆サリエルの成長日記(二歳) レオ著
三月三日はサリエルの誕生日だ。サリエルは二歳になった。
サリエルと出会って初めての誕生日だから、豪勢にしてあげたい。
一応、エレオノラの屋敷に知らせを出した。
腐っても、サリエルの母だ。誕生日くらい祝う気になるかもしれない、と思って。
しかし、案の定というか。彼女がサリエルを祝いに来ることはなかった。
使者として向かわせた我が家の執事が。『まだ生きてるの?』という彼女の言葉を聞いたとき。
思わず魔力が出ちゃって。エレオノラが失神したらしいけど。
自業自得だ。うちのせいじゃない。
というか、うちの執事は優秀だ。さすがである。
二歳になったサリエルは、足腰もしっかりしていて。
よく、屈伸のような動きをワキワキとしている。
そして、ご飯をよく食べる。
特に、鶏もも肉のソテーが好きだ。
誕生日パーティーには、父上は公務が忙しいという理由で。私の母上は、ラーディンがまだ私の魔力に反応するということで。来れず。
内輪の者しか、集まらなかったが。
サリエルは御機嫌さんで、机の上に並べられた御馳走をいっぱい食べた。
フォークで鶏ももを刺し、しばらくジッと悩んだあとで、それを私に差し出してくる。
「レオォ、すき。あげりゅ」
そのときの感動を、なんと表したらいいか。
とにかく私は、胸がギューンと、痺れたような気になったのだ。
あぁ、可愛すぎるぞ。サリエル。
そして、大好きな鶏ももを私にくれるということは。鶏ももよりも、私の方が好きだということだ。
なんと、光栄なことだ。
「ありがとう、サリュ?」
私は礼を言って、サリュのフォークから鶏ももを食べた。
そして私も鶏ももをフォークで刺して、サリュの口元に持っていく。
「私も、大好きだよ? サーリュ」
サリエルは、私の鶏ももをパクリと食べた。
「おいひぃーね、レオォ」
ほっぺを手でおさえて。この世で一番美味しいものを食べているかのような、至福の微笑みを。サリュは私に向ける。
あぁ、その笑顔を守るためなら、何万人を瞬殺しても構わない。と私は思ったものだ。
私とサリュ、そしてサリュのことが大好きな使用人たちに囲まれた、質素だけど、あたたかい誕生会だった。
★★★★★
サリエルには、専属の侍女エリンをつけてある。
少しずつ魔王城の公務を任されるようになっていた私は、サリエルにずっとついていることが出来ないので。
私がいない間は、彼女が母代わりでサリエルの面倒を見ているのだが。
そのエリンが。私に、相談というか報告みたいなものをしてきたのだ。
「サリエル様は見た目が平均より、おデ…お丸いので。庭で、体を動かす系のお遊びをさせております。ボール遊びや、かけっこ、などですが」
おデブという言葉をのみ込んで、エリンはそう話す。
確かに、サリエルは。ちょっと、まぁるい容姿をしている。
魔族的には、体重というものは参考にはならない。
体を変化できる者などは、見た目と体重が比例しないからな。
たとえば私の見た目は、人族で七歳の平均的な体格よりも、ちょっとたくましいくらいだが。
体重は七〇キロほどあり。人族の子供の平均体重とは比べられない。
なので、魔族はなにごとも見た目重視になるのだが。
そんな中、サリエルは。見た目がとっても丸いのである。
「それで、お遊びのときに気づいたのですが。サリエル様は坂を駆け下りるとき、ボールが跳ねるみたいにポヨンポヨンと飛ぶのです」
エリンの話が、私はよくのみ込めなかった。彼女は話を続ける。
「たっぷりとお遊びになると、部屋に行く途中で力尽きるのですが。眠って、脱力するサリエル様を抱えたときに、私はさらに気づいたのです。サリエル様は、お丸いですが。とても軽いのです。さすがに風船の様とは申しませんが。あの、お…お丸さからは、想像できないくらいに軽いと思うのです」
確かに、赤ん坊も二歳くらいになれば、大人でも重く感じるようになる。
母上などはラーディンを抱えるとき、とても大変そうに見えた。
でも七歳の私は、いつもサリエルを抱っこするとき。重いと感じたことはない。
ただ、私が人よりたくましいと思っていたのだが。
なるほど。どうやら、サリエルが軽いらしい。
「そうか。私は他の子供を抱っこしたことがなかったから。気がつかなかった」
「もしかしたら、サリエル様は…」
私は、エリンをみつめ。それ以上は言わせなかった。
サリエルは賢く、朗らかで、丸くて、ちょっと軽い。それでいいのだ。
使用人の口には戸を立てられず、ツノなし魔力なしのサリエルは、人族と下級悪魔のハーフなのでは? と、まことしやかに噂されているのだが。
サリエルは、サリエル。私の可愛い弟だ。それ以外の何者でもない。
★★★★★
今日は久しぶりに、サリエルと庭で遊んだ。
サリエルはだいぶ滑舌が良くなってきて、いっぱい話をしようとする。
以前は、私の言った言葉を繰り返す反復をよくしていたが。
この頃は、それも少なくなり。
自分の中にある言葉をつなぎ合わせて、自分の気持ちを一生懸命伝えようとするようになった。
いつでも一生懸命で、可愛いのだった。
「レオ、あぶなぁぁい」
私の足に、もちぃぃぃとしがみつくので。
どうしたのかと聞くと。
「アリさんの、ぎょうれつ、です。ふんだら、かわいそう。あし、ぴょーん、して」
またいで、と言いたかったのだろう。
私はサリュを抱っこして、アリをピョーンとまたいだ。
すると、サリュはウキャキャッと笑うのだ。
幼児のウキャキャは、なぜこんなにも微笑ましい気になるのか。
自然に、笑みと、楽しさが、湧き出てくるようだ。
私はサリュと手をつないで、庭を散策する。
我が屋敷の庭園は、庭師が綺麗に手入れをしているが。私自身は、あまり草花には興味がない。
でも、サリュと庭を歩くと。
「ここに、ちいさなお花が…レオのめんめとおなじいろ、です」
「ちょーちょ。しじみ、しじみいろの、ちょーちょ。しじみのみそしる」
と、いろいろ言ってくるから、面白い。
しじみのみそしる、がなにかは、いまだにわからないが。
「あ、あぁ…たんぽぽ。エリンが、こいびとのまえでふくと、なかよくなるって」
サリュは、黄色い花をブチッと引きちぎると。茎の方を口にくわえて、フッと吹いた。
すると花の方から、ピンク色したハート形の種が吹き出てきて、ふわりと空に舞っていった。
「こいびとは、すきなひとのことです。だから、さりゅは、レオとふきます」
私はその言葉に、感動した。
私はサリュにとって、鶏もも以上で、恋人ほどに好かれているということだ。
「嬉しいな。ありがとう、サリュ。私も、サリュが大好きだよ。ずっと一緒だよ?」
「ずっと、いっしょ…ずっと、いっしょ…」
かみ締めるように言うサリュが。なんとも哀愁を帯びていて。私は勝手に悲しくなった。
母親にかえりみられないことを、サリエルはなんとなく理解しているようだった。
私と出会った当初のことを覚えているような、聡明な子だ。
きっと、母親に無下にされたことも覚えている。
そして、絵本の中に当たり前のように出てくる、お父さんやお母さんについても。
一般的な両親は、こうだけど。
自分の父と母は違うのだ、と。わかってしまったのだろう。
部屋の真ん中にポツンと座り、サリュが『あたたかいスープを家族で飲めば、寒い夜もあたたかい』そのようなことが描かれた絵本を、見ていたことがある。
サリュの、まぁるい背中を。
私は部屋の外から見て。なんだかせつなくなった。
だからすぐさま駆け寄り、その体を抱き締めてギュッとしたのだ。
庭の散策から、話がそれてしまったが。
私はそのとき。父よりも、母よりも、いっぱいの愛情でサリュをあたたかく包み込んでやろう。寒い思いなど、させないから。と、そう思ったのだ。
そして、ずっと一緒とつぶやくサリュに。
必ず守るよと、心に誓ったのだ。
★★★★★
十二月三日。サリエルのことを報告に来たエリンが、大変です、と言った。
「本の読み聞かせをしたら、サリエル様は結構長めの本でしたのに、暗唱なさったのです。文字もほとんど覚えているみたいなのです。単語を指差して聞いてみたら、ちゃんとなんと読むのか、どういう意味なのか、把握なさっているのです。どうしましょう、サリエル様は天才です」
知ってた。サリエルが天才だと、一歳の頃の日記にすでに書いてある。
アワアワしつつ、エリンはさらに続けた。
「他の御本を与えましたら、私が読み聞かせをしないでも、自分で読んでしまい。そのあとはもう、ページをめくらなくても物語をソラで唱えられるのです。天才です。やはりサリエル様は、天才でございますぅぅ」
おぉう、そこまでだとは。
記憶力が良いことは、把握していたが。
自分が体験したことだけではなく、語学や本の内容までも丸暗記できるようだ。それはすごい。
「賢い子だとは思っていたが、サリュは本当に稀有な子なのかもしれないな。ミケージャと相談して、サリュの勉学をどうしていったらいいか、検討しよう」
「その方が、よろしいです。私などは、もうサリエル様にお教えできることはございません。…勉学的には、ですけど」
確かに、ここまでの賢さを見せられたら、エリンも形無しなのだろう。
しかし獣人のエリンには、他の役目がある。
サリエルの、丸みを帯びたぽっちゃりボディの改善のために。遊びと称した運動を課すことだ。
まぁ、私は。ぽっちゃりでも構わないのだが。
今のまんまでサリュは充分に可愛いからな。
だが。後宮の者は誰もが使える公園のようなところで。エレオノラとかち合ってしまうと。
サリエルを見かけた彼女は、デブで見苦しいなどと暴言を吐くのだ。
だからサリエルも少し、体形については気にし始めているみたいで。
エレオノラはなにを言っても幼児は覚えていない、意味も分からない、などと思っているのかもしれない。
サリュが聡明な子だと知らないからな。
愚かな女だ。
そんな鬼母の言葉など、気にすることはない。
子供のうちは、体形なんか気にしなくていいのだ。
第一、幼児というものは。もちもちぃぃで、ムニュムニュゥで、ふくふくぅっとしているものだろう。
そこが可愛いのに。わかっていないなぁ。
私はそう思うのだが。どうにも、彼は気になるようなので。
ならば…手助けしてあげたいからな。
サリエルの気持ちが、一番だからな。
それで、サリエルの指導は。運動面はエリンが、勉学面はミケージャがするよう、検討を始めたのだった。
三月三日はサリエルの誕生日だ。サリエルは二歳になった。
サリエルと出会って初めての誕生日だから、豪勢にしてあげたい。
一応、エレオノラの屋敷に知らせを出した。
腐っても、サリエルの母だ。誕生日くらい祝う気になるかもしれない、と思って。
しかし、案の定というか。彼女がサリエルを祝いに来ることはなかった。
使者として向かわせた我が家の執事が。『まだ生きてるの?』という彼女の言葉を聞いたとき。
思わず魔力が出ちゃって。エレオノラが失神したらしいけど。
自業自得だ。うちのせいじゃない。
というか、うちの執事は優秀だ。さすがである。
二歳になったサリエルは、足腰もしっかりしていて。
よく、屈伸のような動きをワキワキとしている。
そして、ご飯をよく食べる。
特に、鶏もも肉のソテーが好きだ。
誕生日パーティーには、父上は公務が忙しいという理由で。私の母上は、ラーディンがまだ私の魔力に反応するということで。来れず。
内輪の者しか、集まらなかったが。
サリエルは御機嫌さんで、机の上に並べられた御馳走をいっぱい食べた。
フォークで鶏ももを刺し、しばらくジッと悩んだあとで、それを私に差し出してくる。
「レオォ、すき。あげりゅ」
そのときの感動を、なんと表したらいいか。
とにかく私は、胸がギューンと、痺れたような気になったのだ。
あぁ、可愛すぎるぞ。サリエル。
そして、大好きな鶏ももを私にくれるということは。鶏ももよりも、私の方が好きだということだ。
なんと、光栄なことだ。
「ありがとう、サリュ?」
私は礼を言って、サリュのフォークから鶏ももを食べた。
そして私も鶏ももをフォークで刺して、サリュの口元に持っていく。
「私も、大好きだよ? サーリュ」
サリエルは、私の鶏ももをパクリと食べた。
「おいひぃーね、レオォ」
ほっぺを手でおさえて。この世で一番美味しいものを食べているかのような、至福の微笑みを。サリュは私に向ける。
あぁ、その笑顔を守るためなら、何万人を瞬殺しても構わない。と私は思ったものだ。
私とサリュ、そしてサリュのことが大好きな使用人たちに囲まれた、質素だけど、あたたかい誕生会だった。
★★★★★
サリエルには、専属の侍女エリンをつけてある。
少しずつ魔王城の公務を任されるようになっていた私は、サリエルにずっとついていることが出来ないので。
私がいない間は、彼女が母代わりでサリエルの面倒を見ているのだが。
そのエリンが。私に、相談というか報告みたいなものをしてきたのだ。
「サリエル様は見た目が平均より、おデ…お丸いので。庭で、体を動かす系のお遊びをさせております。ボール遊びや、かけっこ、などですが」
おデブという言葉をのみ込んで、エリンはそう話す。
確かに、サリエルは。ちょっと、まぁるい容姿をしている。
魔族的には、体重というものは参考にはならない。
体を変化できる者などは、見た目と体重が比例しないからな。
たとえば私の見た目は、人族で七歳の平均的な体格よりも、ちょっとたくましいくらいだが。
体重は七〇キロほどあり。人族の子供の平均体重とは比べられない。
なので、魔族はなにごとも見た目重視になるのだが。
そんな中、サリエルは。見た目がとっても丸いのである。
「それで、お遊びのときに気づいたのですが。サリエル様は坂を駆け下りるとき、ボールが跳ねるみたいにポヨンポヨンと飛ぶのです」
エリンの話が、私はよくのみ込めなかった。彼女は話を続ける。
「たっぷりとお遊びになると、部屋に行く途中で力尽きるのですが。眠って、脱力するサリエル様を抱えたときに、私はさらに気づいたのです。サリエル様は、お丸いですが。とても軽いのです。さすがに風船の様とは申しませんが。あの、お…お丸さからは、想像できないくらいに軽いと思うのです」
確かに、赤ん坊も二歳くらいになれば、大人でも重く感じるようになる。
母上などはラーディンを抱えるとき、とても大変そうに見えた。
でも七歳の私は、いつもサリエルを抱っこするとき。重いと感じたことはない。
ただ、私が人よりたくましいと思っていたのだが。
なるほど。どうやら、サリエルが軽いらしい。
「そうか。私は他の子供を抱っこしたことがなかったから。気がつかなかった」
「もしかしたら、サリエル様は…」
私は、エリンをみつめ。それ以上は言わせなかった。
サリエルは賢く、朗らかで、丸くて、ちょっと軽い。それでいいのだ。
使用人の口には戸を立てられず、ツノなし魔力なしのサリエルは、人族と下級悪魔のハーフなのでは? と、まことしやかに噂されているのだが。
サリエルは、サリエル。私の可愛い弟だ。それ以外の何者でもない。
★★★★★
今日は久しぶりに、サリエルと庭で遊んだ。
サリエルはだいぶ滑舌が良くなってきて、いっぱい話をしようとする。
以前は、私の言った言葉を繰り返す反復をよくしていたが。
この頃は、それも少なくなり。
自分の中にある言葉をつなぎ合わせて、自分の気持ちを一生懸命伝えようとするようになった。
いつでも一生懸命で、可愛いのだった。
「レオ、あぶなぁぁい」
私の足に、もちぃぃぃとしがみつくので。
どうしたのかと聞くと。
「アリさんの、ぎょうれつ、です。ふんだら、かわいそう。あし、ぴょーん、して」
またいで、と言いたかったのだろう。
私はサリュを抱っこして、アリをピョーンとまたいだ。
すると、サリュはウキャキャッと笑うのだ。
幼児のウキャキャは、なぜこんなにも微笑ましい気になるのか。
自然に、笑みと、楽しさが、湧き出てくるようだ。
私はサリュと手をつないで、庭を散策する。
我が屋敷の庭園は、庭師が綺麗に手入れをしているが。私自身は、あまり草花には興味がない。
でも、サリュと庭を歩くと。
「ここに、ちいさなお花が…レオのめんめとおなじいろ、です」
「ちょーちょ。しじみ、しじみいろの、ちょーちょ。しじみのみそしる」
と、いろいろ言ってくるから、面白い。
しじみのみそしる、がなにかは、いまだにわからないが。
「あ、あぁ…たんぽぽ。エリンが、こいびとのまえでふくと、なかよくなるって」
サリュは、黄色い花をブチッと引きちぎると。茎の方を口にくわえて、フッと吹いた。
すると花の方から、ピンク色したハート形の種が吹き出てきて、ふわりと空に舞っていった。
「こいびとは、すきなひとのことです。だから、さりゅは、レオとふきます」
私はその言葉に、感動した。
私はサリュにとって、鶏もも以上で、恋人ほどに好かれているということだ。
「嬉しいな。ありがとう、サリュ。私も、サリュが大好きだよ。ずっと一緒だよ?」
「ずっと、いっしょ…ずっと、いっしょ…」
かみ締めるように言うサリュが。なんとも哀愁を帯びていて。私は勝手に悲しくなった。
母親にかえりみられないことを、サリエルはなんとなく理解しているようだった。
私と出会った当初のことを覚えているような、聡明な子だ。
きっと、母親に無下にされたことも覚えている。
そして、絵本の中に当たり前のように出てくる、お父さんやお母さんについても。
一般的な両親は、こうだけど。
自分の父と母は違うのだ、と。わかってしまったのだろう。
部屋の真ん中にポツンと座り、サリュが『あたたかいスープを家族で飲めば、寒い夜もあたたかい』そのようなことが描かれた絵本を、見ていたことがある。
サリュの、まぁるい背中を。
私は部屋の外から見て。なんだかせつなくなった。
だからすぐさま駆け寄り、その体を抱き締めてギュッとしたのだ。
庭の散策から、話がそれてしまったが。
私はそのとき。父よりも、母よりも、いっぱいの愛情でサリュをあたたかく包み込んでやろう。寒い思いなど、させないから。と、そう思ったのだ。
そして、ずっと一緒とつぶやくサリュに。
必ず守るよと、心に誓ったのだ。
★★★★★
十二月三日。サリエルのことを報告に来たエリンが、大変です、と言った。
「本の読み聞かせをしたら、サリエル様は結構長めの本でしたのに、暗唱なさったのです。文字もほとんど覚えているみたいなのです。単語を指差して聞いてみたら、ちゃんとなんと読むのか、どういう意味なのか、把握なさっているのです。どうしましょう、サリエル様は天才です」
知ってた。サリエルが天才だと、一歳の頃の日記にすでに書いてある。
アワアワしつつ、エリンはさらに続けた。
「他の御本を与えましたら、私が読み聞かせをしないでも、自分で読んでしまい。そのあとはもう、ページをめくらなくても物語をソラで唱えられるのです。天才です。やはりサリエル様は、天才でございますぅぅ」
おぉう、そこまでだとは。
記憶力が良いことは、把握していたが。
自分が体験したことだけではなく、語学や本の内容までも丸暗記できるようだ。それはすごい。
「賢い子だとは思っていたが、サリュは本当に稀有な子なのかもしれないな。ミケージャと相談して、サリュの勉学をどうしていったらいいか、検討しよう」
「その方が、よろしいです。私などは、もうサリエル様にお教えできることはございません。…勉学的には、ですけど」
確かに、ここまでの賢さを見せられたら、エリンも形無しなのだろう。
しかし獣人のエリンには、他の役目がある。
サリエルの、丸みを帯びたぽっちゃりボディの改善のために。遊びと称した運動を課すことだ。
まぁ、私は。ぽっちゃりでも構わないのだが。
今のまんまでサリュは充分に可愛いからな。
だが。後宮の者は誰もが使える公園のようなところで。エレオノラとかち合ってしまうと。
サリエルを見かけた彼女は、デブで見苦しいなどと暴言を吐くのだ。
だからサリエルも少し、体形については気にし始めているみたいで。
エレオノラはなにを言っても幼児は覚えていない、意味も分からない、などと思っているのかもしれない。
サリュが聡明な子だと知らないからな。
愚かな女だ。
そんな鬼母の言葉など、気にすることはない。
子供のうちは、体形なんか気にしなくていいのだ。
第一、幼児というものは。もちもちぃぃで、ムニュムニュゥで、ふくふくぅっとしているものだろう。
そこが可愛いのに。わかっていないなぁ。
私はそう思うのだが。どうにも、彼は気になるようなので。
ならば…手助けしてあげたいからな。
サリエルの気持ちが、一番だからな。
それで、サリエルの指導は。運動面はエリンが、勉学面はミケージャがするよう、検討を始めたのだった。
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