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12 お披露目パーティーはやっぱり騒乱 ③
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家族ながら、控えの間にてご挨拶や自己紹介やいろいろしていたら。
お披露目パーティーの、開催の時間になって。
部屋に、父上である魔王様とその従者が現れた。
魔王様は、漆黒のストレートな髪を胸元まで長く伸ばしていて、額をあらわにしている。
赤い瞳で。ぶっといツノが三重巻き。
レオンハルト兄上に、外見はよく似ておられますが、表情はドヤッた自信満々ぶりがあり。
仕草は粗野。肉感的な、色づきの良い唇が、ニヤリと不遜に笑み。
切れ長の目で流し見されると、すごく色気が満載な感じ。
インナー的に言わせてもらえば。エロッ。です。
レオンハルト兄上は、父上に外見が似ていようとも上品な御方なので。それほどエロを垂れ流してはおりませんよ。念のため。
衣装は黒いローブ、動きやすいようにか裾の部分が一定間隔でスリットになっていて、ビラビラしている。
トゲトゲした宝石が、ところどころに縫いつけられていて、豪華絢爛だ。
その上にマントを羽織っている。
黒いズボンに、膝まで隠れるブーツを合わせて。とても黒々しい装いですぅ。
さすが、魔王。かっこういいっぃっ。という悲鳴は。インナーのものですが。
ぼくも、魔王様を間近で見たのははじめてなので。
その艶やかさと秀麗なたたずまいに、目を奪われてしまいました。
父上、かっこういいっぃっ。
「皆様方、会場に移動をお願いいたします。まず、シュナイツ様とシルビア妃から、どうぞ」
従者にうながされ、ぼくらは部屋を出ることになったのだが。
魔王様は、子供たちに声掛けをしてこなかった。
ぼくなどは一歳のときに会ったきりなので、ほぼ初対面なのだが。
魔王様とお話しするの、楽しみにしていたのだけどなぁ。
父上から話しかけてくださらないと、ぼくから声をかけるのは礼儀としてよろしくないから。
うーん。がっかりです。
パーティー中に話せる時間があるといいけど。無理かなぁ?
大人は大人のお付き合いがありますものね?
くわえて、魔王は面倒くさがりで。子供と話すの、好きじゃなさそう。イメージだけど。
それで父上の備考欄には『ラーディン、シュナイツの父、魔王。好色なので、息子の嫁にも手を出す。要注意』とある。
父上、それはいけませんっ。
パーティーでは、名前を呼ばれてから会場入りをする。
お客様たちはもう、みんな大ホールに入っているみたいだ。
まずは、シュナイツとシルビア妃の名が呼ばれ。ひな壇状の階段の中ほどで立ち止まり、お客様の方へ向いた。
その次にディエンヌとぼくとレオンハルト兄上が呼ばれて。入場。
ぼくたちも、階段を降りていって。中ほど、シュナイツたちがいるところで、お客様の方を向く。
会場は、舞踏会も開ける大ホールなので。とても大きくて、縦長だ。
その延長線上に階段が数段あり、ぼくらは今、そこに立っている。
階段の一番上には玉座があり。そこが魔王の席だ。
フロアには招かれた子供たちが大勢いるが。子供の付き添いの家族のような、貴族の大人たちもいっぱいいて。そのいっぱいの人の目が、ぼくらに突き刺さるようで。
途端に、ぼくは緊張して。ピュオッ、と。背筋を伸ばした。
「バカじゃない? 誰も、あんたなんか見てないんだから。緊張とかムダよ。養子の三男さん」
ディエンヌが客に笑顔を振りまきながら、ぼそりとぼくに毒を吐く。
ううぅぅっ、本当のことが、一番傷つくのですよっ。
そうしたら、手をつないでいた兄上が。ギュッとしてくれた。
手から、兄上のぬくもりを感じて。ぼくは兄上を見上げた。
この会場の誰よりも、美々しい兄上が。ぼくに微笑んでくれれば。
ぼくは、すごく安心できたのだ。
そうだ、誰もぼくを見てくれなくても。
兄上がぼくを見ていてくれる。ぼくは、それだけでいいや。
ぼくらの次に、ラーディンとマーシャ王妃が入場し、ぼくらの背後に立つ。
ほうほう、入場の順番は、お披露目される子供の年の順なのですね?
今日の主役の、一番年下のシュナイツが、一番初めに名を呼ばれ。そのあと後見のシルビア妃。
その次に、誕生日がシュナイツよりちょっと早かった、ディエンヌ。と、後見のぼく、さらにレオンハルト兄上。兄上はぼくの後見役だから、ラーディン兄上より先に登場したみたいだね?
で、兄上のあとにラーディン兄上と、その後見のマーシャ母上が続いたってわけか。
一見、規則性がないように思えるが、ちゃんと序列があるのですね?
そして最後に、魔王様が悠々と歩いて、玉座につき。お客様たちを睥睨した。
「皆、今日は、我の子供たちの誕生披露会に、よくぞ参られた。この日、我の息子、娘が、全員六歳を迎えたので。ここで改めて皆に、ドラベチカ家の子供たちを紹介する。長男のレオンハルト。次男のラーディン。三男のサリエル。長女のディエンヌ。四男のシュナイツだ」
魔王に名を呼ばれ、兄上が会釈したから。ぼくも、自分の名を言われたとき頭を下げた。
良かった。とりあえず、名前を言ってもらえてぇ。
「次代の魔王候補にもなりえる者たちだ。見知っておいてもらいたい。では、パーティーを存分に楽しんでいってくれ」
魔王の御言葉に、お客様たちがワッと拍手をした。
この階段で、魔王の家族の一員として紹介されたことが。なんか、すごく、すごく感動した。
ディエンヌに言われなくても、場違いなのは重々承知。
だって魔王も王妃様たちも、国一番の美男美女みたいなもので。
その子供たちも、漏れなく、美しかったり可愛かったりするわけなのだが。
階段で、きらびやかな面々が並ぶ中、ぼくはまぁるいニワトリで。
プヨッと。そこにいるわけなのだ。
誰が見たって、魔王の血族じゃないって、わかっちゃう。
事実そうなのだから、それは仕方がないのだけどぉ。
だけど。兄上と並んでここに立っていると。魔王一族のひとりとして、がんばらねばと。なんとなく、がんばらねばっ、と。ぼくはそう思うのだった。
魔王の話が締めくくられたので。
会場に呼ばれていた楽団が、音楽を演奏し始めて。パーティーは厳かに始まった。
御令嬢たちは、ディエンヌと仲良くなろうと。彼女の周りに集まっていき。
御子息たちは、シュナイツや、年の近いラーディンと話がしたくて、彼らの周りに集まる。
もう大人の体つきをしているレオンハルト兄上や。養子で、取り入っても旨味のないぼくのところには。あまり人が集まらない。
お子様ながら、みなさん、よくおわかりで。
兄上には、旨味はたっぷりあるはずだけど。
魔力がお強くて、おさえているといっても、子供には怖く感じてしまうのかもしれませんね?
「サリエル、誰かと話をするかい? 私は離れていようか?」
兄上が、気を使ってそう言ってくれるけど。
ぼくは首を横に振った。
首は…襟元に埋まっていますけど。ちゃんと動きますよっ。
「いいえ。この社交の場は。子供たちにとっても大事なきっかけになる場ですから。ぼくは、お邪魔をいたしません」
友達ができたらいいなぁ、とは思っていたが。無理に作る気はありません。
それに、ぼくは。ツノなし、魔力なしの、魔族的にも落ちこぼれの部類ですし。
本当に、出涸らしで、友達にする価値はなし、というか。
本物の丸鶏の方が出汁も旨味も、出るというものです。…なんの話?
「それに、今日のぼくは。とにかくディエンヌがやらかさなければ、勝利なのです。監視に徹するのです」
ムンと拳を握って気合を入れると。兄上とミケージャが苦笑した。
「では、ちょっと。父上に御挨拶に行くか?」
「父上に? よ、よろしいのですか? お話、したいです」
驚きと嬉しさに、目を丸く…はならないが。思いっきりの笑顔で、兄上を見上げると。うなずいてくれて。
手を引いて、ぼくを父上の前に連れて行ってくれた。ふわぁぁぁぁっ。
まずは兄上が、父上に声をかける。
「父上、サリエルです。今日はご挨拶させていただきますからね」
兄上は、ぼくを父上に会わせようと、何度か面会の打診をしていたようなのだが。
魔王様はお忙しい人だから。なかなか会う機会に恵まれなかったのだ。
で、ぼくは。はじめまして、ではないのだが。
一歳のときに会っているのを覚えていると言っても、嘘をつくなと言われそうだから。
うーん。なんと、挨拶をしたらいいものか。
「こ、こんにちは、魔王様。サリエルです。兄上の…レオンハルト兄上の家で、お世話になっています。ぼくを養っていただき、ありがとうございます。ぼくは、とても幸せです」
とりあえず無難に、こんにちはから入りました。
「フン、これがサリエルか? はは、丸い、丸い」
魔王は玉座に座ったまま、ぼくを抱き上げ、膝に乗せた。
あまりないことなのか、周囲の大人たちがザワッとしている。
そうしたら、魔王はぼくの頭をガシッと両手で掴んで、わしゃわしゃしてきた。
あぁ、エリンがセットした髪型が、乱れてしまいますぅ。
「ふぅん、本当にツノなし、魔力なしなのだな?」
どうやら魔王は、ぼくの頭にツノが生えていないのを、触って確かめたみたいだった。
「はいっ、ありませんっ。でも、でも。兄上の…ドラベチカ家のお役に立てるよう、がんばります」
元気に返事をすると、魔王は眉根をしんなりと寄せて。
横にいた兄上は、微笑していた。
「ほぅ? そうか。いずれ魔王家に欠かせぬ存在になれると、よいなぁ? ハハッ、ポヨポヨだぁ」
魔王は、そう言って。ぼくの頬をグリグリと揉む。
あぁ、からかわれているのはわかっているのですが。
兄上と同じような顔つきで、喜々として頬をプルプルされると。な、なんも言えねぇぇ。
「父上、サリエルで遊ばないでください」
冷静に、兄上がツッコんでくれたので。魔王がほっぺから手を離した。よ、よかったですぅ。
「つか、おまえ。俺が怖くないのか?」
「んぅ? いえ」
怖いって、なにが?
というつもりで、きょとんと。いや、目は開かないが。気持ち、きょとんとみつめた。
細い視界でも、ちゃんと見えてますから、お気遣いなく。
「本当に、怖くないのか?」
そうしたら父上のツノの辺りが、ボヤッと、モヤッとして。
あぁ、魔力を見せているなぁ、とは思ったのだが。
別に怖くはありませんよ。それはレオンハルト兄上でも、よく見たやつですし。
それに防御魔法が発動しないので、害意がないのもわかります。
「父上、サリエルにそれは、効かないのです。あと、サリエルはともかく。会場の子供の方が、失神とかしそうなので。今すぐ魔力をおさめてください。お披露目会が台無しになります」
レオンハルト兄上に諫められ、魔王は魔力を引っ込めた。
ちょっと振り返ってみると、階段下のホールにいる子供たちが、戦々恐々という恐怖に満ちた顔つきで、壇上を見上げていた。
あれ、そんなに怖かったのですか?
大丈夫ぅ、魔王、怖くなぁい。
「はぁ、めんどくさ。つか、コレ、変な子だな?」
興味が失せたようで、魔王はぼくを床におろした。
飽きるの、早いです。
「魔王様、またお話ししてくださいませ」
ぼくがぺこりと頭を下げると、魔王はハイハイと返事して。手をひらりと振った。
面会終了の合図ですね?
ぼくは兄上に笑顔を向けて、階段を降りて行った。
「兄上、ありがとうございました。ぼくはずっと、魔王様に、ぼくは幸せだってお伝えしたかったのです」
「そうか。良かったな? じゃあ、私が。サリュを、もっと、もぉぉっと、幸せにしてやるから。今度魔王に会ったときはその報告をしてくれ?」
「はいッ」
今、もう、いっぱい幸せなのに。
これ以上兄上に幸せにしてもらったら。それは、絶対。魔王様に報告しなければならない案件になりますね?
決まりです。
お披露目パーティーの、開催の時間になって。
部屋に、父上である魔王様とその従者が現れた。
魔王様は、漆黒のストレートな髪を胸元まで長く伸ばしていて、額をあらわにしている。
赤い瞳で。ぶっといツノが三重巻き。
レオンハルト兄上に、外見はよく似ておられますが、表情はドヤッた自信満々ぶりがあり。
仕草は粗野。肉感的な、色づきの良い唇が、ニヤリと不遜に笑み。
切れ長の目で流し見されると、すごく色気が満載な感じ。
インナー的に言わせてもらえば。エロッ。です。
レオンハルト兄上は、父上に外見が似ていようとも上品な御方なので。それほどエロを垂れ流してはおりませんよ。念のため。
衣装は黒いローブ、動きやすいようにか裾の部分が一定間隔でスリットになっていて、ビラビラしている。
トゲトゲした宝石が、ところどころに縫いつけられていて、豪華絢爛だ。
その上にマントを羽織っている。
黒いズボンに、膝まで隠れるブーツを合わせて。とても黒々しい装いですぅ。
さすが、魔王。かっこういいっぃっ。という悲鳴は。インナーのものですが。
ぼくも、魔王様を間近で見たのははじめてなので。
その艶やかさと秀麗なたたずまいに、目を奪われてしまいました。
父上、かっこういいっぃっ。
「皆様方、会場に移動をお願いいたします。まず、シュナイツ様とシルビア妃から、どうぞ」
従者にうながされ、ぼくらは部屋を出ることになったのだが。
魔王様は、子供たちに声掛けをしてこなかった。
ぼくなどは一歳のときに会ったきりなので、ほぼ初対面なのだが。
魔王様とお話しするの、楽しみにしていたのだけどなぁ。
父上から話しかけてくださらないと、ぼくから声をかけるのは礼儀としてよろしくないから。
うーん。がっかりです。
パーティー中に話せる時間があるといいけど。無理かなぁ?
大人は大人のお付き合いがありますものね?
くわえて、魔王は面倒くさがりで。子供と話すの、好きじゃなさそう。イメージだけど。
それで父上の備考欄には『ラーディン、シュナイツの父、魔王。好色なので、息子の嫁にも手を出す。要注意』とある。
父上、それはいけませんっ。
パーティーでは、名前を呼ばれてから会場入りをする。
お客様たちはもう、みんな大ホールに入っているみたいだ。
まずは、シュナイツとシルビア妃の名が呼ばれ。ひな壇状の階段の中ほどで立ち止まり、お客様の方へ向いた。
その次にディエンヌとぼくとレオンハルト兄上が呼ばれて。入場。
ぼくたちも、階段を降りていって。中ほど、シュナイツたちがいるところで、お客様の方を向く。
会場は、舞踏会も開ける大ホールなので。とても大きくて、縦長だ。
その延長線上に階段が数段あり、ぼくらは今、そこに立っている。
階段の一番上には玉座があり。そこが魔王の席だ。
フロアには招かれた子供たちが大勢いるが。子供の付き添いの家族のような、貴族の大人たちもいっぱいいて。そのいっぱいの人の目が、ぼくらに突き刺さるようで。
途端に、ぼくは緊張して。ピュオッ、と。背筋を伸ばした。
「バカじゃない? 誰も、あんたなんか見てないんだから。緊張とかムダよ。養子の三男さん」
ディエンヌが客に笑顔を振りまきながら、ぼそりとぼくに毒を吐く。
ううぅぅっ、本当のことが、一番傷つくのですよっ。
そうしたら、手をつないでいた兄上が。ギュッとしてくれた。
手から、兄上のぬくもりを感じて。ぼくは兄上を見上げた。
この会場の誰よりも、美々しい兄上が。ぼくに微笑んでくれれば。
ぼくは、すごく安心できたのだ。
そうだ、誰もぼくを見てくれなくても。
兄上がぼくを見ていてくれる。ぼくは、それだけでいいや。
ぼくらの次に、ラーディンとマーシャ王妃が入場し、ぼくらの背後に立つ。
ほうほう、入場の順番は、お披露目される子供の年の順なのですね?
今日の主役の、一番年下のシュナイツが、一番初めに名を呼ばれ。そのあと後見のシルビア妃。
その次に、誕生日がシュナイツよりちょっと早かった、ディエンヌ。と、後見のぼく、さらにレオンハルト兄上。兄上はぼくの後見役だから、ラーディン兄上より先に登場したみたいだね?
で、兄上のあとにラーディン兄上と、その後見のマーシャ母上が続いたってわけか。
一見、規則性がないように思えるが、ちゃんと序列があるのですね?
そして最後に、魔王様が悠々と歩いて、玉座につき。お客様たちを睥睨した。
「皆、今日は、我の子供たちの誕生披露会に、よくぞ参られた。この日、我の息子、娘が、全員六歳を迎えたので。ここで改めて皆に、ドラベチカ家の子供たちを紹介する。長男のレオンハルト。次男のラーディン。三男のサリエル。長女のディエンヌ。四男のシュナイツだ」
魔王に名を呼ばれ、兄上が会釈したから。ぼくも、自分の名を言われたとき頭を下げた。
良かった。とりあえず、名前を言ってもらえてぇ。
「次代の魔王候補にもなりえる者たちだ。見知っておいてもらいたい。では、パーティーを存分に楽しんでいってくれ」
魔王の御言葉に、お客様たちがワッと拍手をした。
この階段で、魔王の家族の一員として紹介されたことが。なんか、すごく、すごく感動した。
ディエンヌに言われなくても、場違いなのは重々承知。
だって魔王も王妃様たちも、国一番の美男美女みたいなもので。
その子供たちも、漏れなく、美しかったり可愛かったりするわけなのだが。
階段で、きらびやかな面々が並ぶ中、ぼくはまぁるいニワトリで。
プヨッと。そこにいるわけなのだ。
誰が見たって、魔王の血族じゃないって、わかっちゃう。
事実そうなのだから、それは仕方がないのだけどぉ。
だけど。兄上と並んでここに立っていると。魔王一族のひとりとして、がんばらねばと。なんとなく、がんばらねばっ、と。ぼくはそう思うのだった。
魔王の話が締めくくられたので。
会場に呼ばれていた楽団が、音楽を演奏し始めて。パーティーは厳かに始まった。
御令嬢たちは、ディエンヌと仲良くなろうと。彼女の周りに集まっていき。
御子息たちは、シュナイツや、年の近いラーディンと話がしたくて、彼らの周りに集まる。
もう大人の体つきをしているレオンハルト兄上や。養子で、取り入っても旨味のないぼくのところには。あまり人が集まらない。
お子様ながら、みなさん、よくおわかりで。
兄上には、旨味はたっぷりあるはずだけど。
魔力がお強くて、おさえているといっても、子供には怖く感じてしまうのかもしれませんね?
「サリエル、誰かと話をするかい? 私は離れていようか?」
兄上が、気を使ってそう言ってくれるけど。
ぼくは首を横に振った。
首は…襟元に埋まっていますけど。ちゃんと動きますよっ。
「いいえ。この社交の場は。子供たちにとっても大事なきっかけになる場ですから。ぼくは、お邪魔をいたしません」
友達ができたらいいなぁ、とは思っていたが。無理に作る気はありません。
それに、ぼくは。ツノなし、魔力なしの、魔族的にも落ちこぼれの部類ですし。
本当に、出涸らしで、友達にする価値はなし、というか。
本物の丸鶏の方が出汁も旨味も、出るというものです。…なんの話?
「それに、今日のぼくは。とにかくディエンヌがやらかさなければ、勝利なのです。監視に徹するのです」
ムンと拳を握って気合を入れると。兄上とミケージャが苦笑した。
「では、ちょっと。父上に御挨拶に行くか?」
「父上に? よ、よろしいのですか? お話、したいです」
驚きと嬉しさに、目を丸く…はならないが。思いっきりの笑顔で、兄上を見上げると。うなずいてくれて。
手を引いて、ぼくを父上の前に連れて行ってくれた。ふわぁぁぁぁっ。
まずは兄上が、父上に声をかける。
「父上、サリエルです。今日はご挨拶させていただきますからね」
兄上は、ぼくを父上に会わせようと、何度か面会の打診をしていたようなのだが。
魔王様はお忙しい人だから。なかなか会う機会に恵まれなかったのだ。
で、ぼくは。はじめまして、ではないのだが。
一歳のときに会っているのを覚えていると言っても、嘘をつくなと言われそうだから。
うーん。なんと、挨拶をしたらいいものか。
「こ、こんにちは、魔王様。サリエルです。兄上の…レオンハルト兄上の家で、お世話になっています。ぼくを養っていただき、ありがとうございます。ぼくは、とても幸せです」
とりあえず無難に、こんにちはから入りました。
「フン、これがサリエルか? はは、丸い、丸い」
魔王は玉座に座ったまま、ぼくを抱き上げ、膝に乗せた。
あまりないことなのか、周囲の大人たちがザワッとしている。
そうしたら、魔王はぼくの頭をガシッと両手で掴んで、わしゃわしゃしてきた。
あぁ、エリンがセットした髪型が、乱れてしまいますぅ。
「ふぅん、本当にツノなし、魔力なしなのだな?」
どうやら魔王は、ぼくの頭にツノが生えていないのを、触って確かめたみたいだった。
「はいっ、ありませんっ。でも、でも。兄上の…ドラベチカ家のお役に立てるよう、がんばります」
元気に返事をすると、魔王は眉根をしんなりと寄せて。
横にいた兄上は、微笑していた。
「ほぅ? そうか。いずれ魔王家に欠かせぬ存在になれると、よいなぁ? ハハッ、ポヨポヨだぁ」
魔王は、そう言って。ぼくの頬をグリグリと揉む。
あぁ、からかわれているのはわかっているのですが。
兄上と同じような顔つきで、喜々として頬をプルプルされると。な、なんも言えねぇぇ。
「父上、サリエルで遊ばないでください」
冷静に、兄上がツッコんでくれたので。魔王がほっぺから手を離した。よ、よかったですぅ。
「つか、おまえ。俺が怖くないのか?」
「んぅ? いえ」
怖いって、なにが?
というつもりで、きょとんと。いや、目は開かないが。気持ち、きょとんとみつめた。
細い視界でも、ちゃんと見えてますから、お気遣いなく。
「本当に、怖くないのか?」
そうしたら父上のツノの辺りが、ボヤッと、モヤッとして。
あぁ、魔力を見せているなぁ、とは思ったのだが。
別に怖くはありませんよ。それはレオンハルト兄上でも、よく見たやつですし。
それに防御魔法が発動しないので、害意がないのもわかります。
「父上、サリエルにそれは、効かないのです。あと、サリエルはともかく。会場の子供の方が、失神とかしそうなので。今すぐ魔力をおさめてください。お披露目会が台無しになります」
レオンハルト兄上に諫められ、魔王は魔力を引っ込めた。
ちょっと振り返ってみると、階段下のホールにいる子供たちが、戦々恐々という恐怖に満ちた顔つきで、壇上を見上げていた。
あれ、そんなに怖かったのですか?
大丈夫ぅ、魔王、怖くなぁい。
「はぁ、めんどくさ。つか、コレ、変な子だな?」
興味が失せたようで、魔王はぼくを床におろした。
飽きるの、早いです。
「魔王様、またお話ししてくださいませ」
ぼくがぺこりと頭を下げると、魔王はハイハイと返事して。手をひらりと振った。
面会終了の合図ですね?
ぼくは兄上に笑顔を向けて、階段を降りて行った。
「兄上、ありがとうございました。ぼくはずっと、魔王様に、ぼくは幸せだってお伝えしたかったのです」
「そうか。良かったな? じゃあ、私が。サリュを、もっと、もぉぉっと、幸せにしてやるから。今度魔王に会ったときはその報告をしてくれ?」
「はいッ」
今、もう、いっぱい幸せなのに。
これ以上兄上に幸せにしてもらったら。それは、絶対。魔王様に報告しなければならない案件になりますね?
決まりです。
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