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6 反省などしない、それがディエンヌ。
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◆反省などしない、それがディエンヌ。
昼過ぎに、レオンハルト兄上が魔王城から邸宅に帰ってきた。
ぼくは兄上とともに地下の部屋に閉じ込められているディエンヌに会いに行く。
完全にひとりの部屋というわけではないよ?
監視する者や、世話する者、食事など、ちゃんと配慮はされている。
でも魔法で結界を張って、脱出は出来ないようになっていた。
魔王の娘であるディエンヌは、それなりに魔力が高いからね?
扉を開けると、部屋の中は地下だから薄暗がりで。ランプやろうそくの炎が灯されていた。
昼も夜もわからないような部屋で、親から三日も引き離されていたら、普通の五歳児ならば泣きわめいているところだが。
ディエンヌは兄上を見ると、スックと立ち上がり。
ブリブリのフリルがついた赤いスカートを、指先で持ち上げ、淑女の礼をした。
「おかえりなさいませ、レオンハルトおにいさま。ようやく、かいほーしてくださる気になったのかしらぁ?」
そうして、顔を上げる。
その顔の横に浮かんだ備考欄には『悪役令嬢、ディエンヌ。婚約破棄され、断頭台の露と消える』とある。
えっ、怖っ。魔王の娘が処刑とか、どんなことをしたら、そんなことになっちゃうわけぇ?
彼女の未来に、なにが待ち受けているのやら。
そして。それに、ぼくは巻き込まれてしまうのでしょうか?
今から、胃が痛くなりますね。
ま、今から全くわからない未来のことに気を揉んでも仕方がないので。終了しましょう。
ちなみに。備考欄は見たいと思ったときに出るようです。
すれ違う人、みんなに出てきたら、町中とか、うっとおしくて大変ですからね? 町に出たことないけど。
町といえば。インナーの記憶の中にあるのは、灰色の大きな建物、ビルがあるところ。
なんとなく、ぼくはあの四角い建物がビルだと知っていた。
そして雑踏や騒音の中で、大勢の人たちが行き交う光景。
人がいっぱい過ぎて、ぼくはちょっと怖い気持ちになるのだ。
もしもあそこで、みんなの備考欄が出たりしたら。ぼくは頭がグルグルになります。たぶん。町、怖い。
あと、備考欄は。
使用人や、ぼくとか、おおよそは三行ほどの解説なのだが。
兄上たちのように、詳しい解説の人もいる。
とくに攻略対象というワードがあると、文章長め傾向があると分析いたします。
あ、物にもたまに、ついたりする。
メガラスの横に『メガラス、カラスに似た魔獣』みたいに。魔獣や植物の解説とか。壺に『壺、魔国歴503年作』とかね。
ぼく…メガラスよりは文字数あって、良かったぁ。
あぁ、妹と対峙したくなくて、脳内逃避してしまいましたが…。
ディエンヌは、母譲りの美貌を持つ、とても綺麗な女の子だ。
ぱっちりした瞳は、炎のように赤く。蛍光レッドの髪は、ゆるやかにウェーブして、きらりと輝く。
鼻梁の高さや唇の形、目鼻立ちがベストバランス。母上をまんま小さくしたような容姿だ。
黙っていれば、きっと誰からも好かれる美人さんだと思う。
黙っていれば、きっと婚約破棄なんかされないはずだけどなぁ。黙っていれば…。
でも、ディエンヌは。ぼくを、兄上の背後にみつけると。すぐに、にたぁ、と。ホラーチックに笑った。
「あらぁ? サリエル。生きていたのねぇ? だったら、とっととここから出してちょうだいっ。おにいさまが、わたくしを閉じ込めるりゆうは、なくなったわぁ?」
やっぱ、ディエンヌは黙っていないよね。
兄であるぼくのことを、呼び捨てだよね。
殺人未遂の件も、全然悪びれていないよね。やはり、と思う。
反省などしない、それがディエンヌ。
「おまえの魔法で、兄が死んだかもしれないのだぞ? 三日閉じ込めても、少しの反省もないのかっ?」
レオンハルト兄上が怒鳴るが。暖簾に腕押し…のれん? のれんってなに?
「おおげさね? サリエルは生きているわけだしぃ。それにサリエルが死んだって、なんのえいきょーもないじゃなぁい? 魔力なしのできそこないがひとりいなくなったって。むしろ、魔王の三男がこんな落ちこぼれだって知られるまえに、いなくなった方がいいとおもうけどぉ?」
「黙れっ」
兄上の周囲に、電気が走り。小さな雷が、ディエンヌの足元にドンと落ちた。
ぼくも、そばに控える従者も、ひえっと肩をすくめるが。
ディエンヌは、微動だにせず。兄上を大きな目で睨んでいた。
「兄弟が死んでもいいなどと、そのような薄情な者は、魔王の娘たる資格はない」
兄上の、魔王城から出て行け、と暗に示す言葉に。
さすがに、ディエンヌはうろたえた。
「そ、そんなことは、言っていませんわぁ。えぇ…と。サリエルがはやくよくなって、よかったわ、と言っただけよ」
そういうニュアンスは、全く受け取れなかったがなっ、と。ぼくは心の奥でツッコむ。
本人にはそうそう面と向かっては言えないよ?
なんか、三十倍になって返ってきそうだからね。
触らぬ悪魔に祟りなし、である。
「ディエンヌ、なぜサリエルを害そうとしたのだ? サリュは…おまえたち家族に見捨てられた、可哀想な子だ。サリュが憤るなら、まだしも。なぜおまえがサリュを目の敵にするのだ? その理由が、さっぱりわからぬ」
「おにいさまの、そういうところよ。わたくしだって、おにいさまの妹よ? サリエルばっかりかわいがって。ズルいじゃない。もっとわたくしを見てくださいませ、おにいさまぁ」
ディエンヌは、目に涙を浮かべて、瞳をキラキラさせた。
しかし兄上は、プイと横を向いてしまう。
「私に、サキュバスの誘惑は効かぬ」
するとディエンヌはチッと舌打ちした。
妹よ。それは女性として、どうかと思う。
「ジャマくさかっただけよ。おにいさまにかわいがられて、わらっているサリエルを見ると、いやぁなきぶんになって、ムカつくのよねっ。それだけぇ」
やっぱり、そういうどうでもいい理由だった。
ぼくは、やはりという気持ちと、あきらめの気持ちで、眉間にしわを寄せ。
兄上は、重い、重いため息をついた。
「はぁ。とにかく。人に向かって、攻撃魔法を撃ってはならない。約束しなきゃ、外には出さない」
兄上の言葉に、ディエンヌはムスッとして。返事をしなかった。
もう、ここでごねると話が進まなくなるじゃないかっ。
「ディエンヌ、うなずかないと、マジで部屋から出られなくなるぞ? レオンハルト兄上に嘘は通じないからな? 同じことをしたら、今度は部屋に閉じ込められるだけでは済まないぞ」
「えらっそうに。おにいさまのうしろでかくれているだけの、のろまのくせに」
ぼくの助言にも、妹は暴言を吐くよね。
全くもう、本当のことを言うな。どぎついなぁ。
「でも、たしかに。そろそろしおどきかしら。お母様のポテンシャルが、ていへんだから、魔王の子供とはいえ、わたくしとおにいさまの魔力量はだんちがいですものね。サリエルを殺したら、おにいさまにいっしゅんで消し炭にされるって、りかいしたわぁ」
面倒くさそうに、ため息をついて。ディエンヌは兄上に頭を下げた。
「わかったわぁ、もう、サリエルに魔法はうちませぇぇん」
「他の者にもだ。家族ならこうして和解できるかもしれないが。他人に向けたら、それこそ犯罪になる。魔王の娘であっても、私は庇いだてはしないからな」
「はぁい。他人にも魔法はうちませぇぇぇん」
その言い方。なんか、全然反省の色が見えないんですけど。
でもレオンハルト兄上は、それでディエンヌの謹慎を解いた。
部屋を出た瞬間、ぼくと同じ身長のディエンヌはぼくの腹を小突いて。ひそひそで怒った。
「あんたっ、起きるのおそいのよっ。おかげで、三日もヘヤに閉じ込められて。サイアクだったんだからねぇ」
やっぱ、全然反省してないよ。
もう、苦笑するしかなかった。
しかし玄関脇のサロンに母上がいるのを見かけると、駆け寄って母上に抱きつく。
ちょっとは幼児らしいところもあるじゃないかぁ?
「おかぁさまぁ。こわかったわぁ? もう、ひとりにしないでぇ、おかぁさまぁぁぁ」
ディエンヌは母上に甘えるが。
でも、いかにもウソ泣きとわかるような感じだな。
さっき母上のことを、ポテンシャルが底辺とか言っていたから。
たぶん、母上も舐められているのだろうな?
「あぁ、ディエンヌ、可哀想に。早くお家に帰りましょうね」
母上はディエンヌにデロデロの甘々だから。ディエンヌの演技には気づかない。
彼女を抱っこして、早々に邸宅を出ようとした。
その背中に、兄上が厳しい声をかける。
「ディエンヌ。おまえが兄をいらぬと言うのなら。サリュは、私の大事な弟として扱う。私のものに、おまえが手を出すことは、金輪際許さぬ。肝に銘じておけ」
「おかぁさまぁ、おにいさまがこわいぃ」
ディエンヌは兄上に返事をせず、母上に抱きついて誤魔化した。
こらっ、兄上を無視するな。ムキーッ。
「そうね、そうね、早く帰りましょう」
そそくさと、ふたりは外に出て行くのだが。
当然のように、息子であるぼくを一緒に連れて行こうなどというアクションは。なにひとつ、起こさなかったのであった。
振り返った兄上は、ぼくを軽々と抱き上げると頬をスリスリした。
「可愛いサリュ。おまえはずっと、私のそばに…この屋敷にいれば良い。どこにもやらぬぞ?」
家族に捨てられたぼくを、兄上は気遣ってくださる。その優しいお心に、ぼくはいつも救われるのだ。
だから。ぼくも兄上の頬に、頬をスリスリするのだった。
昼過ぎに、レオンハルト兄上が魔王城から邸宅に帰ってきた。
ぼくは兄上とともに地下の部屋に閉じ込められているディエンヌに会いに行く。
完全にひとりの部屋というわけではないよ?
監視する者や、世話する者、食事など、ちゃんと配慮はされている。
でも魔法で結界を張って、脱出は出来ないようになっていた。
魔王の娘であるディエンヌは、それなりに魔力が高いからね?
扉を開けると、部屋の中は地下だから薄暗がりで。ランプやろうそくの炎が灯されていた。
昼も夜もわからないような部屋で、親から三日も引き離されていたら、普通の五歳児ならば泣きわめいているところだが。
ディエンヌは兄上を見ると、スックと立ち上がり。
ブリブリのフリルがついた赤いスカートを、指先で持ち上げ、淑女の礼をした。
「おかえりなさいませ、レオンハルトおにいさま。ようやく、かいほーしてくださる気になったのかしらぁ?」
そうして、顔を上げる。
その顔の横に浮かんだ備考欄には『悪役令嬢、ディエンヌ。婚約破棄され、断頭台の露と消える』とある。
えっ、怖っ。魔王の娘が処刑とか、どんなことをしたら、そんなことになっちゃうわけぇ?
彼女の未来に、なにが待ち受けているのやら。
そして。それに、ぼくは巻き込まれてしまうのでしょうか?
今から、胃が痛くなりますね。
ま、今から全くわからない未来のことに気を揉んでも仕方がないので。終了しましょう。
ちなみに。備考欄は見たいと思ったときに出るようです。
すれ違う人、みんなに出てきたら、町中とか、うっとおしくて大変ですからね? 町に出たことないけど。
町といえば。インナーの記憶の中にあるのは、灰色の大きな建物、ビルがあるところ。
なんとなく、ぼくはあの四角い建物がビルだと知っていた。
そして雑踏や騒音の中で、大勢の人たちが行き交う光景。
人がいっぱい過ぎて、ぼくはちょっと怖い気持ちになるのだ。
もしもあそこで、みんなの備考欄が出たりしたら。ぼくは頭がグルグルになります。たぶん。町、怖い。
あと、備考欄は。
使用人や、ぼくとか、おおよそは三行ほどの解説なのだが。
兄上たちのように、詳しい解説の人もいる。
とくに攻略対象というワードがあると、文章長め傾向があると分析いたします。
あ、物にもたまに、ついたりする。
メガラスの横に『メガラス、カラスに似た魔獣』みたいに。魔獣や植物の解説とか。壺に『壺、魔国歴503年作』とかね。
ぼく…メガラスよりは文字数あって、良かったぁ。
あぁ、妹と対峙したくなくて、脳内逃避してしまいましたが…。
ディエンヌは、母譲りの美貌を持つ、とても綺麗な女の子だ。
ぱっちりした瞳は、炎のように赤く。蛍光レッドの髪は、ゆるやかにウェーブして、きらりと輝く。
鼻梁の高さや唇の形、目鼻立ちがベストバランス。母上をまんま小さくしたような容姿だ。
黙っていれば、きっと誰からも好かれる美人さんだと思う。
黙っていれば、きっと婚約破棄なんかされないはずだけどなぁ。黙っていれば…。
でも、ディエンヌは。ぼくを、兄上の背後にみつけると。すぐに、にたぁ、と。ホラーチックに笑った。
「あらぁ? サリエル。生きていたのねぇ? だったら、とっととここから出してちょうだいっ。おにいさまが、わたくしを閉じ込めるりゆうは、なくなったわぁ?」
やっぱ、ディエンヌは黙っていないよね。
兄であるぼくのことを、呼び捨てだよね。
殺人未遂の件も、全然悪びれていないよね。やはり、と思う。
反省などしない、それがディエンヌ。
「おまえの魔法で、兄が死んだかもしれないのだぞ? 三日閉じ込めても、少しの反省もないのかっ?」
レオンハルト兄上が怒鳴るが。暖簾に腕押し…のれん? のれんってなに?
「おおげさね? サリエルは生きているわけだしぃ。それにサリエルが死んだって、なんのえいきょーもないじゃなぁい? 魔力なしのできそこないがひとりいなくなったって。むしろ、魔王の三男がこんな落ちこぼれだって知られるまえに、いなくなった方がいいとおもうけどぉ?」
「黙れっ」
兄上の周囲に、電気が走り。小さな雷が、ディエンヌの足元にドンと落ちた。
ぼくも、そばに控える従者も、ひえっと肩をすくめるが。
ディエンヌは、微動だにせず。兄上を大きな目で睨んでいた。
「兄弟が死んでもいいなどと、そのような薄情な者は、魔王の娘たる資格はない」
兄上の、魔王城から出て行け、と暗に示す言葉に。
さすがに、ディエンヌはうろたえた。
「そ、そんなことは、言っていませんわぁ。えぇ…と。サリエルがはやくよくなって、よかったわ、と言っただけよ」
そういうニュアンスは、全く受け取れなかったがなっ、と。ぼくは心の奥でツッコむ。
本人にはそうそう面と向かっては言えないよ?
なんか、三十倍になって返ってきそうだからね。
触らぬ悪魔に祟りなし、である。
「ディエンヌ、なぜサリエルを害そうとしたのだ? サリュは…おまえたち家族に見捨てられた、可哀想な子だ。サリュが憤るなら、まだしも。なぜおまえがサリュを目の敵にするのだ? その理由が、さっぱりわからぬ」
「おにいさまの、そういうところよ。わたくしだって、おにいさまの妹よ? サリエルばっかりかわいがって。ズルいじゃない。もっとわたくしを見てくださいませ、おにいさまぁ」
ディエンヌは、目に涙を浮かべて、瞳をキラキラさせた。
しかし兄上は、プイと横を向いてしまう。
「私に、サキュバスの誘惑は効かぬ」
するとディエンヌはチッと舌打ちした。
妹よ。それは女性として、どうかと思う。
「ジャマくさかっただけよ。おにいさまにかわいがられて、わらっているサリエルを見ると、いやぁなきぶんになって、ムカつくのよねっ。それだけぇ」
やっぱり、そういうどうでもいい理由だった。
ぼくは、やはりという気持ちと、あきらめの気持ちで、眉間にしわを寄せ。
兄上は、重い、重いため息をついた。
「はぁ。とにかく。人に向かって、攻撃魔法を撃ってはならない。約束しなきゃ、外には出さない」
兄上の言葉に、ディエンヌはムスッとして。返事をしなかった。
もう、ここでごねると話が進まなくなるじゃないかっ。
「ディエンヌ、うなずかないと、マジで部屋から出られなくなるぞ? レオンハルト兄上に嘘は通じないからな? 同じことをしたら、今度は部屋に閉じ込められるだけでは済まないぞ」
「えらっそうに。おにいさまのうしろでかくれているだけの、のろまのくせに」
ぼくの助言にも、妹は暴言を吐くよね。
全くもう、本当のことを言うな。どぎついなぁ。
「でも、たしかに。そろそろしおどきかしら。お母様のポテンシャルが、ていへんだから、魔王の子供とはいえ、わたくしとおにいさまの魔力量はだんちがいですものね。サリエルを殺したら、おにいさまにいっしゅんで消し炭にされるって、りかいしたわぁ」
面倒くさそうに、ため息をついて。ディエンヌは兄上に頭を下げた。
「わかったわぁ、もう、サリエルに魔法はうちませぇぇん」
「他の者にもだ。家族ならこうして和解できるかもしれないが。他人に向けたら、それこそ犯罪になる。魔王の娘であっても、私は庇いだてはしないからな」
「はぁい。他人にも魔法はうちませぇぇぇん」
その言い方。なんか、全然反省の色が見えないんですけど。
でもレオンハルト兄上は、それでディエンヌの謹慎を解いた。
部屋を出た瞬間、ぼくと同じ身長のディエンヌはぼくの腹を小突いて。ひそひそで怒った。
「あんたっ、起きるのおそいのよっ。おかげで、三日もヘヤに閉じ込められて。サイアクだったんだからねぇ」
やっぱ、全然反省してないよ。
もう、苦笑するしかなかった。
しかし玄関脇のサロンに母上がいるのを見かけると、駆け寄って母上に抱きつく。
ちょっとは幼児らしいところもあるじゃないかぁ?
「おかぁさまぁ。こわかったわぁ? もう、ひとりにしないでぇ、おかぁさまぁぁぁ」
ディエンヌは母上に甘えるが。
でも、いかにもウソ泣きとわかるような感じだな。
さっき母上のことを、ポテンシャルが底辺とか言っていたから。
たぶん、母上も舐められているのだろうな?
「あぁ、ディエンヌ、可哀想に。早くお家に帰りましょうね」
母上はディエンヌにデロデロの甘々だから。ディエンヌの演技には気づかない。
彼女を抱っこして、早々に邸宅を出ようとした。
その背中に、兄上が厳しい声をかける。
「ディエンヌ。おまえが兄をいらぬと言うのなら。サリュは、私の大事な弟として扱う。私のものに、おまえが手を出すことは、金輪際許さぬ。肝に銘じておけ」
「おかぁさまぁ、おにいさまがこわいぃ」
ディエンヌは兄上に返事をせず、母上に抱きついて誤魔化した。
こらっ、兄上を無視するな。ムキーッ。
「そうね、そうね、早く帰りましょう」
そそくさと、ふたりは外に出て行くのだが。
当然のように、息子であるぼくを一緒に連れて行こうなどというアクションは。なにひとつ、起こさなかったのであった。
振り返った兄上は、ぼくを軽々と抱き上げると頬をスリスリした。
「可愛いサリュ。おまえはずっと、私のそばに…この屋敷にいれば良い。どこにもやらぬぞ?」
家族に捨てられたぼくを、兄上は気遣ってくださる。その優しいお心に、ぼくはいつも救われるのだ。
だから。ぼくも兄上の頬に、頬をスリスリするのだった。
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