【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~

北川晶

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2-30 まさかのテーソーのピンチ??

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     ◆まさかのテーソーのピンチ??

 人型で光る謎の物体Xがこちらに歩いてきて。
 ひぇぇぇぇっ、となるぼくをかばって。ジョシュアが前に出る。
 そして、剣を抜いたが。
「待ってください、私です」
 物体Xは手を横に振ります。
 なにやら聞き覚えのある声だね。
 よくよく見てみると、それは発光虫を体にびっしりまとわせたブランカだった。

「ブ、ブランカ? なに? どうしてそうなった?」
 ピカピカ光るブランカは、普通に会話しだした。
「いえ、まだ寝るには早くて眠れなかったので。ちょっと散歩していたのですけど。ランプを持っていましたが、なんか明るいなとは思っていたのですよね?」
 ぼくが彼に駆け寄って、発光虫を払うと。
 彼はそれで虫のことに気づいたようだ。
 白いマントにくっついていたからって、わからないものぉ??
「おっかしぃですねぇ。これわからないの、ヤバいよぉ」
 思わず大声で笑ってしまいました。ツボった。
「あっはは、ブランカはレッドソルジャーもくっついたし、虫に好かれる体質なのでしょうかね?」
 涙が出るくらい笑っちゃって。涙を指で拭う。
「…自分ではよくわからないのですけど」
 自分でもマントを手で払って。ブランカは苦笑いした。

「ジョシュア様、申し訳ないのですが火の番を私と代わってもらえませんか? まだ眠くならないので」
 ブランカの申し出に、ジョシュアはもちろん渋るけど。
 火の番はおこたると命に関わる。
 チームが一丸となって火を守らなければならず。
 代わって欲しいと言われると無下にできないものなのだ。

「ブランカは野宿、はじめて?」
 ぼくが聞くと、彼はやんわりうなずいた。
「えぇ、騎士団におりましても、治癒魔法士が野営をすることはほとんどなく。遠征はあっても、いつも宿に泊まっていたので」
「じゃあ、深夜の番は大変だね?」
 そう言って、ジョシュアを見る。
 彼は王族だけど、深窓のご令息というわけではない。騎士団の演習に参加していて、火の扱いや野営にも慣れているのだ。
「わかった。コエダ、なんかあったらすぐに呼べよ? 火が消えそうになっても呼べよ?」
「パパ仕込みのベテランキャンパーですから。火を絶やすなどあり得ません」
 ぼくが胸を張ると。
 ジョシュアは心配そうにしながらも場を離れ、テントに入った。

 ブランカはジョシュアが座っていた席に腰を下ろして。
 ぼくを見やる。
 ブランカは騎士団所属だけど、深窓のご令息的な貴族だから野営をしたことないみたい。
 火の番はぼくがしなきゃならないね。責任重大ですよ。
 パパが教えてくれたように、空気が通るようにまきを重ねていって。火が大きくなったから、しばらくはこれで大丈夫でしょう。

「ブランカ、君が剣の腕前が強いのは知っているけど。ひとりで森に入ったら危ないよ? 暗がりから獣が突然出てくることもあるんだからね」
「そうですね。でも、この辺りは祖母が養生した保養地が近くて。勝手知ったるという感じなのですよ。子供の頃はここら辺によく遊びに来たものです」
「あぁ、そんなこと、言っていたね?」
 焚火の火の色がブランカの白髪をオレンジに染める。
 火のそばだからか、発光虫もブランカにはくっつかないけど。辺りをさ迷っていて。火の玉のように緑色が漂っている。
 なんか、不気味な印象があるようなないような?

「そうだ、コエダ様。私はここで不思議な体験をしたのですよ」

 不思議な体験って、なぁに? ホラー?
 こちらの世界では、お化けの概念はあまりなくて。
 ゾンビもミカエラは知らないみたいだったし。
 そういうホラー話は聞かなかったけど。
 パパを怖がらせるために公爵じぃじがたまに怖い話をしてぇ。人の魂が火の玉だとか、そういう話もじぃじから聞いたのですよ。
 ぼくもパパの子だから、あまり怖い話は好きじゃないんだよね。
 それでなくても、さっき人型発光体物体Xに遭遇したばかりで、心臓がギュッっと縮み上がったのだからねぇ? 物体Xはブランカだったけど。

「私がこの湖の波打ち際で、ひとりで遊んでいると。湖の色が急に変化して、緑色から青に変わったのです。澄んだ、きれいな水に。あちらの対岸からサーッと変化してくるのです」
 あれぇ? それはもしかするともしかするのでは?
 あの、湖を浄化した日。ブランカも対岸にいたってこと?

「それで、ここからでも見えるくらいの大きなナマズが、浮き上がってきて。私は夢でも見ているのじゃないかと思ったのですが。ぼんやりとその光景を見ていたら、なにかが頭に当たって。気絶してしまったのです」
 えぇぇ? もしかして。あのとき、なにかの破片がこっちまで飛んできたのぉ?
 それってぼくのせい? 大変だぁ。

「目が覚めたときにはナマズの姿などなく、湖の色は青いままでしたが。辺りはシンと静かになっていて…あぁ、やっぱり私は夢を見ていたんだなって、そう思ったのですよ。そんな大きなナマズなんているわけないですよね? コエダ様」
「あぁあ、うん。そんなナマズは見たことないよぉぉ?」
 ぼくは片頬を引きつらせながら。ブランカを誤魔化そうとするのだった。
 だって。説明が難しいでしょ?
 でも説明した方がいいのかな?

「だけどあの日から、私はどこかおかしいのですよ。好きだったものが、そうでもなくなり。興味なかったことに異常な執着が出たりして…」
 そうして、ブランカは。なんでか、胸をおさえて苦しみ出した。
「えぇ、どうしたの? ブランカ。どこか痛い? お腹が痛いのかい?」
 ぼくは席を立って、ブランカの隣に腰かけ。彼の背中を撫でるけど。
 苦しそうに表情をゆがめるブランカは、そばにいるぼくを見て。

 にたりと笑った。

「欲しいのです、コエダ様。あなたの大事なものを私にくださいっ」
 そう言って、ブランカはぼくを地面に押し倒した。
 強い力でぼくの腕を手で掴んで。
 ぼくに馬乗りになると、ぼくの両腕を彼は片手でまとめてつかんでしまう。
 うっそぉ? ぼくは聖女だけど男性です。それなりに鍛えているので、力もあるんですよ?
 剣の腕はともかくですけどねっ。
 だけどブランカの力は、なんか尋常でなくて。

 まるで、人ではないくらいの驚異的な力。

 そしてブランカはぼくのマントのボタンを片手で器用に外して。
 首に手をかけた。
 ぼくは、苦しくてっ。うわぁっと思うけど。
 ブランカの手は、胸倉をつかんでむしり取るようにして。ぼくのシャツをビリィって破いたのだ。
 あぁあ、夜は苦しいから、微妙に締めつけられる革のベストは脱いでしまったのですよ。
 だからマントの下はシャツだけで。
 簡単にビリッビリです。

 ヤバぁーーい。これはテーソーのピーーンチではありませんかっ?
 ぼくの大事なものって、ぼくのテーソーなのですか? テーソーが欲しいのですか?
 ぼくは幼い頃、パパのテーソーのピンチを常々数々危ぶんできましたが。

 ぼくが、まさかのテーソーのピンチ?? だなんてぇ?

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