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2-29 ぼくの理想の男性像
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◆ぼくの理想の男性像
野宿一日目。女性陣はふたり用のテントで寝てもらい。
男性陣は四人用のテントに三人で寝て、ふたりは火の番と警護をする。
ひとりずつローテーションで番を交代します。
まずは、ぼくとジョシュアが火の番です。
「大きな湖ですねぇ。対岸の拠点の明かりが、ちょっと見えるくらいです」
騎士たちが逗留している対岸では火を煌々と焚いているはずなのですが。暗い中では目立つはずの火が、ほんのちょっとしか見えない。それぐらいに遠く。湖は大きいということだ。
「ジョシュア、あれはなんですか?」
湖の上に、チラチラと光るものがある。蛍光の緑色で、点滅したり動いたりしている。
「エルゼが、湖には発光する虫が生息するって言っていたぞ。私たちが来た頃は湖が濁っていて、ナマズのせいか数が激減したようだが。この頃は復活して、この季節によく見られるようになったそうだ」
なんだか、パパが話してくれたことがある、蛍みたいですね。
ぼくは蛍、前の世界で見たことはないけど。こんな感じなのかなって思う。
「ふぅん、きれいですねぇ」
湖のさざ波がわかるくらいに、数多い発光虫が漂っている。
ちょっとロマンティックじゃないか?
ぼくの中のメイの部分がウキウキしていた。
「コエダ、寒くないか? 夜はまだ冷え込むからな」
「焚火があたたかいし、ジョシュアがマントを着せてくれたから寒くないよ。虫にも刺されなかったしね。ありがとう」
ぼくが笑みを向けて言うと。
焚火のオレンジ色の光が照らすジョシュアの顔は。
なにやら眉間を寄せて険しい。
いつもぼくが笑いかけると笑い返してくれるのに。パパみたいに、もっとほがらかでないとダメでしょーが。
「コエダ。私になにが足りないのか、言ってくれないか?」
深刻そうな顔で聞かれますが、なんのことかわからない。
ぼくはきょとんと彼を見やります。
けれど、ぼくのそんな顔を見ることなく。ジョシュアは言い募った。
「やはり、剣でノアに勝てないとダメか? それとも魔法でもっと大きな火柱をあげればいいのか? 座学でおまえを抜くのはかなり難しいが。努力はするっ」
「ちょ、ちょ、ちょ、なんですか、矢継ぎ早に。ジョシュアに足りないところなんかないですよ? 誰が見てもスーパースペシャル最上級王子なのですから。王弟だけど」
「あせっているのだ。オズワルド兄上がコエダにしっかりアピールしだして。ルリアもおまえの伴侶の座を狙っている。それに…ブランカだって…」
それを聞いて。ぼくはあぁあと思うのだ。
「ブランカが婚約者候補の名乗りを上げたこと、聞いたのですね? ラウルから?」
「ブランカから、直接聞いた」
もう。また勇者御一行がこじれるようなことをブランカはするぅ。
でも。わざとかな? とも思うけど。
本当にぼくの伴侶になりたいのであれば、ジョシュアを潰しておきたいと考えるかも。
ジョシュアはこの件に関して、なかなかに狭量で余裕がないからな。
つついて、激昂したジョシュアが輪を乱し、ぼくが彼に幻滅するよう仕向けているのかも?
「ぼくのスパダリを目指しているのに。ジョシュアはどうしてそのように自信がないのでしょうね? もっとデーンと構えてよ、デーンとっ」
伴侶候補になるのに、ぼくの一番そばにいるジョシュアが一番ぼくの好みを把握しているはずなのだ。
でもジョシュアは眉間のシワを深める。
あぁあ、麗しの王弟のお顔が台無しです。
「自信など、あるわけがない。私は前世の悪行によってマイナススタートなのだ。いくらスーパーでスペシャルになったとて、いい気になれるわけもない。どれだけコエダに愛情を捧げても足りないのだ。誰かのスーパーなどはいらぬ。コエダのスーパーでなければ意味がないのだ」
「たっはーーーぁ、返事に困ることを言わないでください」
それは今言われても困るのです。
今はまだ、なにもお答えできないというのに。
するとジョシュアは、フと哀愁の笑みを浮かべるのだった。
やーめーてー。可哀想になるじゃん。
ぼくが悪いみたいじゃん。
いや、悪いのかもしれんけどね。
「急かすつもりはない。ただ、私の気持ちを述べただけだ。コエダに知っておいてもらいたい。ブランカには奪われたくないからな」
「ブランカをずいぶん意識していますね?」
「そりゃあ。ブランカはすべての項目で一位を取って、優秀な成績で学園を卒業したエリートだ。しかし私はすべてにおいて次席に甘んじているからな」
「剣術は、学園でトップでしょう?」
「しかし、ノアにもブランカにも勝てていない。スパダリに今一歩足りないことはわかっているのだ」
そうしてジョシュアは項垂れてしまう。
捨てられた子犬が目の前にいます。
いえ、ぼくは捨てていないんですけど。
ふぅむ、困りましたね。
「ジョシュア、ぼくの理想の男性像を覚えていますか?」
ぼくの問いかけに、ジョシュアは少し頭を巡らせて。
口を開く。
「…優しくて、あったかくて、おもしろくて、カッコ良くて、コエダがどんなコエダでも守ってくれる、パパ」
「どうですか?」
「どうって? …っ」
質問の意味がわからないようで、ジョシュアは不思議顔になるが。
森の入り口になる、そばの茂みがガサガサとなって。
ジョシュアは立ち上がって、ぼくの前に立った。
すると、なにやら光った固まりが森の奥からこちらにやってきて。
あの蛍光緑の光は、発光虫のようだけど。
人型で、全身ピカピカしているのが、なんか湖畔に出てきたから。
ひぇぇぇぇッとなって、ジョシュアにしがみついた。
声なき悲鳴ってやつですっ
野宿一日目。女性陣はふたり用のテントで寝てもらい。
男性陣は四人用のテントに三人で寝て、ふたりは火の番と警護をする。
ひとりずつローテーションで番を交代します。
まずは、ぼくとジョシュアが火の番です。
「大きな湖ですねぇ。対岸の拠点の明かりが、ちょっと見えるくらいです」
騎士たちが逗留している対岸では火を煌々と焚いているはずなのですが。暗い中では目立つはずの火が、ほんのちょっとしか見えない。それぐらいに遠く。湖は大きいということだ。
「ジョシュア、あれはなんですか?」
湖の上に、チラチラと光るものがある。蛍光の緑色で、点滅したり動いたりしている。
「エルゼが、湖には発光する虫が生息するって言っていたぞ。私たちが来た頃は湖が濁っていて、ナマズのせいか数が激減したようだが。この頃は復活して、この季節によく見られるようになったそうだ」
なんだか、パパが話してくれたことがある、蛍みたいですね。
ぼくは蛍、前の世界で見たことはないけど。こんな感じなのかなって思う。
「ふぅん、きれいですねぇ」
湖のさざ波がわかるくらいに、数多い発光虫が漂っている。
ちょっとロマンティックじゃないか?
ぼくの中のメイの部分がウキウキしていた。
「コエダ、寒くないか? 夜はまだ冷え込むからな」
「焚火があたたかいし、ジョシュアがマントを着せてくれたから寒くないよ。虫にも刺されなかったしね。ありがとう」
ぼくが笑みを向けて言うと。
焚火のオレンジ色の光が照らすジョシュアの顔は。
なにやら眉間を寄せて険しい。
いつもぼくが笑いかけると笑い返してくれるのに。パパみたいに、もっとほがらかでないとダメでしょーが。
「コエダ。私になにが足りないのか、言ってくれないか?」
深刻そうな顔で聞かれますが、なんのことかわからない。
ぼくはきょとんと彼を見やります。
けれど、ぼくのそんな顔を見ることなく。ジョシュアは言い募った。
「やはり、剣でノアに勝てないとダメか? それとも魔法でもっと大きな火柱をあげればいいのか? 座学でおまえを抜くのはかなり難しいが。努力はするっ」
「ちょ、ちょ、ちょ、なんですか、矢継ぎ早に。ジョシュアに足りないところなんかないですよ? 誰が見てもスーパースペシャル最上級王子なのですから。王弟だけど」
「あせっているのだ。オズワルド兄上がコエダにしっかりアピールしだして。ルリアもおまえの伴侶の座を狙っている。それに…ブランカだって…」
それを聞いて。ぼくはあぁあと思うのだ。
「ブランカが婚約者候補の名乗りを上げたこと、聞いたのですね? ラウルから?」
「ブランカから、直接聞いた」
もう。また勇者御一行がこじれるようなことをブランカはするぅ。
でも。わざとかな? とも思うけど。
本当にぼくの伴侶になりたいのであれば、ジョシュアを潰しておきたいと考えるかも。
ジョシュアはこの件に関して、なかなかに狭量で余裕がないからな。
つついて、激昂したジョシュアが輪を乱し、ぼくが彼に幻滅するよう仕向けているのかも?
「ぼくのスパダリを目指しているのに。ジョシュアはどうしてそのように自信がないのでしょうね? もっとデーンと構えてよ、デーンとっ」
伴侶候補になるのに、ぼくの一番そばにいるジョシュアが一番ぼくの好みを把握しているはずなのだ。
でもジョシュアは眉間のシワを深める。
あぁあ、麗しの王弟のお顔が台無しです。
「自信など、あるわけがない。私は前世の悪行によってマイナススタートなのだ。いくらスーパーでスペシャルになったとて、いい気になれるわけもない。どれだけコエダに愛情を捧げても足りないのだ。誰かのスーパーなどはいらぬ。コエダのスーパーでなければ意味がないのだ」
「たっはーーーぁ、返事に困ることを言わないでください」
それは今言われても困るのです。
今はまだ、なにもお答えできないというのに。
するとジョシュアは、フと哀愁の笑みを浮かべるのだった。
やーめーてー。可哀想になるじゃん。
ぼくが悪いみたいじゃん。
いや、悪いのかもしれんけどね。
「急かすつもりはない。ただ、私の気持ちを述べただけだ。コエダに知っておいてもらいたい。ブランカには奪われたくないからな」
「ブランカをずいぶん意識していますね?」
「そりゃあ。ブランカはすべての項目で一位を取って、優秀な成績で学園を卒業したエリートだ。しかし私はすべてにおいて次席に甘んじているからな」
「剣術は、学園でトップでしょう?」
「しかし、ノアにもブランカにも勝てていない。スパダリに今一歩足りないことはわかっているのだ」
そうしてジョシュアは項垂れてしまう。
捨てられた子犬が目の前にいます。
いえ、ぼくは捨てていないんですけど。
ふぅむ、困りましたね。
「ジョシュア、ぼくの理想の男性像を覚えていますか?」
ぼくの問いかけに、ジョシュアは少し頭を巡らせて。
口を開く。
「…優しくて、あったかくて、おもしろくて、カッコ良くて、コエダがどんなコエダでも守ってくれる、パパ」
「どうですか?」
「どうって? …っ」
質問の意味がわからないようで、ジョシュアは不思議顔になるが。
森の入り口になる、そばの茂みがガサガサとなって。
ジョシュアは立ち上がって、ぼくの前に立った。
すると、なにやら光った固まりが森の奥からこちらにやってきて。
あの蛍光緑の光は、発光虫のようだけど。
人型で、全身ピカピカしているのが、なんか湖畔に出てきたから。
ひぇぇぇぇッとなって、ジョシュアにしがみついた。
声なき悲鳴ってやつですっ
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