【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~

北川晶

文字の大きさ
上 下
166 / 174

2-28 ぼくじゃないでしょ?

しおりを挟む
     ◆ぼくじゃないでしょ?

 一日目は調査が半日だったので、あまり森の奥に進めなかったが。それでも魔獣が出現したので、魔獣が大量発生しているのは間違いないようだ。
 日が暮れる前に拠点の湖のほとりに戻って。調査一日目は終了しました。
 夕ご飯を食べて、用意された丸太小屋でお休みします。

 そして朝になり。二日目はしっかりと調査をしました。
 しかし魔獣が発生する要因となる魔素だまりがみつからなくて。
 西側にあるのは、気配でわかるのです。
 だけど、もう少し奥なのですよねぇ。
 拠点から見て対岸の、もう少し奥っていう、そんな感じがします。

 作戦会議のときにそう話しましたら、魔獣に注意しながら向こう側で調査をするには、二日以上ほしい。ということで。
 勇者一行はテントの用意をして対岸の場所へと行き、さらに数日をかけてその周辺を調査するという計画を立てました。
 アムランゼまで来たのだから、しっかり浄化して帰らなければなりません。

 というわけで、フル装備で森の中を勇者一行は行く。
 湖に観光というお遊び気分は一掃されましたぁ。
 むぅ、なんでみつからないんだぁ? 魔素だまりめっ。

 とりあえず、今日は対岸までやってきまして。
 森の中の野宿は魔獣や野獣の襲撃が怖いので、湖畔にテントを張りました。
 日のあるうちに魚を釣って。夜の食事に備えます。
 馬車が乗り入れられる拠点や、ワンデイキャンプなら、野菜やパンなど新鮮なものが調達できるけど。
 日数をかけるとなると、その場で調達や、日持ちする食べ物で食いつなぐしかないので。食のレパートリーも減るよね。
 湖がそばにあるときは魚を焼いて食べるのがいいのです。
 オズワルドが、魚に通した棒を焚火の周りに突き刺してあぶります。魚の青みのところがじりじりと焼け目がついて、魚に擦りつけた塩が白く浮いて見えてくると。うーん、美味しそうな焼き魚になってきました。

 そしてぼくは。パパに教わったキャンプ飯を作り始めた。

 鍋に多めの水を入れて沸かし。あ、森の湧水わきみずだけどクリーンしているから大丈夫だよ。
 別の鍋で玉ねぎとニンニクをみじん切りにしたのを炒めて。米を入れてさらに炒めます。
 米は重いけど腐らないから、長期キャンプには便利なんだ。
 米がほんのり透き通ってきたら、お湯をひたひたにして少し煮る。水気がなくなってきたら、お湯を足す。これを三回繰り返して。
 バターとトマトをカットしたのを入れる。
 バターとチーズはアムランゼの特産品だから超美味しいし。
 今日は一日目だからフレッシュトマトがあるのだ。
 トマトに火が通ったら。味見をしながら塩で薄味に調節して。
 最後にチーズをデーンとぶっかけて。

「はーい、チーズたっぷりトマトリゾットでっす」
 味気ないけど鉄のカップに人数分よそって。
 焚火を囲んで、みんなで。いただきます。

「コエダ、チーズがみょーーんって伸びるぞ。んんまいっ」
 まずは安定の、ジョシュアの感想です。
「んん、美味い。トマトと玉ねぎとニンニクのコラボは最強だな? つか、コエダ。料理の腕が上がったな?」
 そしてオズワルドにも褒められて。
 ぼくは頭をペソペソ手で撫でながら、言います。
「はい。パパがいろいろ教えてくれるし。父上もぼくの料理なら食べるって」
「そりゃ、兄上は泣いて食べてるだろうよ。それで、コエダは魚を何匹釣ったんだ?」

 オズワルドの言葉に。
 ぼくはスンとなります。
 オズワルドとノアとブランカは、テント張りと焚火起こしをしていて。
 その間、ぼくとジョシュアとミカエラとルリアが湖で釣りをしたわけなのですが。
 ここに人数分の魚が棒に刺さって焼かれているけど。

「ぼくは一匹も釣れなかった」

 唇を突き出して、盛大にぼやきます。
「仕方がないだろ、コエダは手をブンブン振るし、ずっとなにかしゃべっているし」
 ジョシュアが言うけど。
「いいえ、ぼくは静かにしていたし。動いてないぃ」
 でも、なんでか釣れないのです。
 パパと沢に連れて行ってもらったときも。
 こちらの世界の、木の棒に糸と針を結びつけてやるようなのじゃなくて。
 釣り用の竿でやっても。魚が釣れたことは一度もなぁぁい。

「自分でそう思っていても、動いているし、しゃべっているんだ」
「ミカエラは、釣りがはじめてって言ったのに。三匹も釣ったっ」
「ミカエラは無口で動かなかったからだろ」
 ジョシュアに言い負かされて、ムッキィィです。
「大丈夫だ。魚は私がコエダの分も釣ってやるし。コエダのリゾットは最高に美味しい」
 一応? 褒めてくれたから? 怒りませんけど。

「あぁあ、ジョシュアめ。また抜け駆けをするぅ。コエダ、私が釣った魚を食え。コエダは私が守って養って嫁にしてやる」
 そうしてルリアが一番大きな魚を手渡してきますけど。
 受け取りますけど。

「ルリアに養われるのは、なんだか嫌ですぅ」
「なにおぉ? 女性騎士はみんな私の嫁になりたいと言っているのだぞ?」
「だって、ぼくは女性騎士じゃないですし。嫁はどうかと…」
「なにおぉぉ? 王妃教育は私より優れているくせに。コエダはパパのような王妃になれ。私が王になる」
 ルリアは胸を張って自信満々ですが。

「がさつなルリアが王になったら、どんぶり勘定で国が潰れます」

 言うと、オズワルドがハハハと笑った。
「ルリア、コエダに振られたな? 残念。なぁコエダ。俺はどうだ? おまえを立派に補佐してやるし。守ってもやる。三連続剣闘士大会優勝は伊達じゃないぞ?」
 意味深に、目を細めてオズワルドが言い。
 ジョシュアは黙っているけど、ソワソワしているのがわかって。
 ミカエラもブランカも興味津々でこちらを見ていて。
 もう、こんな大勢の前で言われても、困るんですけどぉ。

「そんなついでのように言われたら、真剣に考えられないじゃないですか? オズワルドはあわよくばの野心しか見えません」
「そんなことはない。子供のときから可愛いおまえの犬だっただろう? 俺は」
「赤髪のゴールデンレトリバーだね? ふふ。懐かしいけど。もっと真剣になるお相手が、レトリバーにはいるような気がするんですがね?」
「誰のことだ?」
「んん、わかんないけど。ぼくじゃないでしょ?」
 言うと。オズワルドは肩をすくめた。
 ま、話しながらも食事を終えたし。本日はここまでという感じかな?

 つか、伴侶候補のお話はマンツーでお願いしますよ、まったくぅ。

 
しおりを挟む
感想 308

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

処理中です...