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2-28 ぼくじゃないでしょ?

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     ◆ぼくじゃないでしょ?

 一日目は調査が半日だったので、あまり森の奥に進めなかったが。それでも魔獣が出現したので、魔獣が大量発生しているのは間違いないようだ。
 日が暮れる前に拠点の湖のほとりに戻って。調査一日目は終了しました。
 夕ご飯を食べて、用意された丸太小屋でお休みします。

 そして朝になり。二日目はしっかりと調査をしました。
 しかし魔獣が発生する要因となる魔素だまりがみつからなくて。
 西側にあるのは、気配でわかるのです。
 だけど、もう少し奥なのですよねぇ。
 拠点から見て対岸の、もう少し奥っていう、そんな感じがします。

 作戦会議のときにそう話しましたら、魔獣に注意しながら向こう側で調査をするには、二日以上ほしい。ということで。
 勇者一行はテントの用意をして対岸の場所へと行き、さらに数日をかけてその周辺を調査するという計画を立てました。
 アムランゼまで来たのだから、しっかり浄化して帰らなければなりません。

 というわけで、フル装備で森の中を勇者一行は行く。
 湖に観光というお遊び気分は一掃されましたぁ。
 むぅ、なんでみつからないんだぁ? 魔素だまりめっ。

 とりあえず、今日は対岸までやってきまして。
 森の中の野宿は魔獣や野獣の襲撃が怖いので、湖畔にテントを張りました。
 日のあるうちに魚を釣って。夜の食事に備えます。
 馬車が乗り入れられる拠点や、ワンデイキャンプなら、野菜やパンなど新鮮なものが調達できるけど。
 日数をかけるとなると、その場で調達や、日持ちする食べ物で食いつなぐしかないので。食のレパートリーも減るよね。
 湖がそばにあるときは魚を焼いて食べるのがいいのです。
 オズワルドが、魚に通した棒を焚火の周りに突き刺してあぶります。魚の青みのところがじりじりと焼け目がついて、魚に擦りつけた塩が白く浮いて見えてくると。うーん、美味しそうな焼き魚になってきました。

 そしてぼくは。パパに教わったキャンプ飯を作り始めた。

 鍋に多めの水を入れて沸かし。あ、森の湧水わきみずだけどクリーンしているから大丈夫だよ。
 別の鍋で玉ねぎとニンニクをみじん切りにしたのを炒めて。米を入れてさらに炒めます。
 米は重いけど腐らないから、長期キャンプには便利なんだ。
 米がほんのり透き通ってきたら、お湯をひたひたにして少し煮る。水気がなくなってきたら、お湯を足す。これを三回繰り返して。
 バターとトマトをカットしたのを入れる。
 バターとチーズはアムランゼの特産品だから超美味しいし。
 今日は一日目だからフレッシュトマトがあるのだ。
 トマトに火が通ったら。味見をしながら塩で薄味に調節して。
 最後にチーズをデーンとぶっかけて。

「はーい、チーズたっぷりトマトリゾットでっす」
 味気ないけど鉄のカップに人数分よそって。
 焚火を囲んで、みんなで。いただきます。

「コエダ、チーズがみょーーんって伸びるぞ。んんまいっ」
 まずは安定の、ジョシュアの感想です。
「んん、美味い。トマトと玉ねぎとニンニクのコラボは最強だな? つか、コエダ。料理の腕が上がったな?」
 そしてオズワルドにも褒められて。
 ぼくは頭をペソペソ手で撫でながら、言います。
「はい。パパがいろいろ教えてくれるし。父上もぼくの料理なら食べるって」
「そりゃ、兄上は泣いて食べてるだろうよ。それで、コエダは魚を何匹釣ったんだ?」

 オズワルドの言葉に。
 ぼくはスンとなります。
 オズワルドとノアとブランカは、テント張りと焚火起こしをしていて。
 その間、ぼくとジョシュアとミカエラとルリアが湖で釣りをしたわけなのですが。
 ここに人数分の魚が棒に刺さって焼かれているけど。

「ぼくは一匹も釣れなかった」

 唇を突き出して、盛大にぼやきます。
「仕方がないだろ、コエダは手をブンブン振るし、ずっとなにかしゃべっているし」
 ジョシュアが言うけど。
「いいえ、ぼくは静かにしていたし。動いてないぃ」
 でも、なんでか釣れないのです。
 パパと沢に連れて行ってもらったときも。
 こちらの世界の、木の棒に糸と針を結びつけてやるようなのじゃなくて。
 釣り用の竿でやっても。魚が釣れたことは一度もなぁぁい。

「自分でそう思っていても、動いているし、しゃべっているんだ」
「ミカエラは、釣りがはじめてって言ったのに。三匹も釣ったっ」
「ミカエラは無口で動かなかったからだろ」
 ジョシュアに言い負かされて、ムッキィィです。
「大丈夫だ。魚は私がコエダの分も釣ってやるし。コエダのリゾットは最高に美味しい」
 一応? 褒めてくれたから? 怒りませんけど。

「あぁあ、ジョシュアめ。また抜け駆けをするぅ。コエダ、私が釣った魚を食え。コエダは私が守って養って嫁にしてやる」
 そうしてルリアが一番大きな魚を手渡してきますけど。
 受け取りますけど。

「ルリアに養われるのは、なんだか嫌ですぅ」
「なにおぉ? 女性騎士はみんな私の嫁になりたいと言っているのだぞ?」
「だって、ぼくは女性騎士じゃないですし。嫁はどうかと…」
「なにおぉぉ? 王妃教育は私より優れているくせに。コエダはパパのような王妃になれ。私が王になる」
 ルリアは胸を張って自信満々ですが。

「がさつなルリアが王になったら、どんぶり勘定で国が潰れます」

 言うと、オズワルドがハハハと笑った。
「ルリア、コエダに振られたな? 残念。なぁコエダ。俺はどうだ? おまえを立派に補佐してやるし。守ってもやる。三連続剣闘士大会優勝は伊達じゃないぞ?」
 意味深に、目を細めてオズワルドが言い。
 ジョシュアは黙っているけど、ソワソワしているのがわかって。
 ミカエラもブランカも興味津々でこちらを見ていて。
 もう、こんな大勢の前で言われても、困るんですけどぉ。

「そんなついでのように言われたら、真剣に考えられないじゃないですか? オズワルドはあわよくばの野心しか見えません」
「そんなことはない。子供のときから可愛いおまえの犬だっただろう? 俺は」
「赤髪のゴールデンレトリバーだね? ふふ。懐かしいけど。もっと真剣になるお相手が、レトリバーにはいるような気がするんですがね?」
「誰のことだ?」
「んん、わかんないけど。ぼくじゃないでしょ?」
 言うと。オズワルドは肩をすくめた。
 ま、話しながらも食事を終えたし。本日はここまでという感じかな?

 つか、伴侶候補のお話はマンツーでお願いしますよ、まったくぅ。

 
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