【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~

北川晶

文字の大きさ
上 下
165 / 174

2-27 コエダちゃん親衛隊

しおりを挟む
     ◆コエダちゃん親衛隊

 アムランゼに到着して二日目の昼過ぎ。
 カレーをお腹いっぱい食べたぼくらは、満を持して、魔獣の調査開始です。

 ぼくたちがいる拠点から見て、湖の右側、西の方に嫌な気配があります。魔素が強そうな感じ。
 左側、東の方は。イヤな感じがばらけてあるので。魔獣はいそう。
 なので、大本がありそうな西側を勇者一行が。東側は騎士さまのチームで。
 魔獣を退治しながら調査を進めることになりました。

「ほら、コエダ。これを着ろ」
 シャツだと薄着すぎるからって、ジョシュアにマントを羽織らされました。
 せっかくの勇者ファッションが見せられなくて。しょぼりんぬです。
「コエダ様、私、おかしいところないですか?」
 ミカエラは浄化の旅にはじめて参加するので。今までドレス以外のものを着たことがなかったようだけど。
 ルリアに女性の騎士服を貸してもらって。着ていた。
 森を探索するのにドレスは歩きにくいもんな。

「うわぁ、カッコイイよ、可愛いよ。いいなぁ、女の子はドレスも騎士服も着れるんだから。キラキラした洋服を着るのは楽しいよね?」
 ぼくはメイだった頃にフリフリドレスをいっぱい着たから、可愛いものも大好きだし。
 可愛い女の子がきりっとした騎士服を着るギャップなんかも憧れるというか、好きなのですぅ。

「はい。ルリア様が剣闘士大会でとても格好良かったから。私もあんなふうになりたいなって思ったのですわ。この衣装が着られて、胸がドキドキですの」
 ニッコリ笑うミカエラは、緑の髪を大きな三つ編みにしていて。眼鏡もかけていて。
 それが可愛い。
 御令嬢としてお澄ましの微笑みよりも。ワクワクでニッコリしている顔が可愛いと、ぼくは思います。
 ミカエラの役割は、主に後方から魔法攻撃で援護したり。怪我人が出たら、後方待機のブランカとともに治癒魔法で治療にあたる感じだ。
 ミカエラは浄化以外の魔法が全部使えるからね、火も水も風もお手の物なんだっ。

「なんだ? コエダ。私の話をしているのか? 私が格好良くて、綺麗で、強いからお嫁さんにしたいぃって思い始めたか? ん?」
 そこにルリアがやって来て。ぼくをからかいます。
「もう、ミカエラの前でそういうこと言わないで。そういうところだぞ、ルリア」
 ぼくが指摘すると、ルリアは笑顔で自分の額をテンと叩くのだ。
「こりゃ、失敬。いつもデリカシーないと部下にも怒られているのだ」
 ははは、と笑いながら。ルリアは隊の後ろにつく。
 ルリアは女版オズワルドだ。
 いつもほがらかで、明るいが。大雑把でデリカシーはないんだよねぇ。

 ルリアとオズワルドは一番後方で。前衛のぼくらが手に負えないときなどに助太刀に入る要員だ。
 まぁ、大体は。年長者として勇者御一行のお目付け役だね。
 ぼくらが羽目を外さないかの監視員でもある。若いといろいろやっちまいますからね。
 なんて。ぼくも若いけどぉ。
 ほらぁ、ぼくはメイの記憶もあるから、足したら三十五歳分でしょ?
 いつまでもおバカなことしてるけど、実はオズワルドたちより年嵩なんだからねっ。よぼっ。

 オズワルドはこちらについてきたがる騎士たちを追い払っています。
 神の手時代に発足したコエダちゃん親衛隊なる騎士さまが、いまだに一定数いるのですよ。
 ありがたいことですが、ぼくも十六歳の青年なのでね。立派な勇者なのでね。
 ノーサンキューですぅ。

 それからアゼルとラウルは、勇者一行の脇を調査しながら、影ながらぼくを守っている感じ。
 見えないけど、いるから大丈夫。

 そして一番前にはジョシュアとノアが行き、その後ろをぼくがついて行く。
 魔獣が出たら、ぼくが浄化をして弱らせ、ジョシュアとノアが斬る。王道パターンです。
 では、出発。

 森にも一応人が入っているので、馬車は入れませんが道はあるのです。
 だけどアムランゼの森は結構鬱蒼うっそうとしていて、薄暗くジメジメしています。
 以前、カブトムシを取ったときは。もう少し明るい感じだったのになぁ?

「コエダ、ほら、そこの木にウネウネがいるぞ。金のはしで取らないのか?」
 ジョシュアがぼくに言います。
 そのような、ぼくをウネウネ排除人みたいに言わないでください。
「ぼくの花についていなければ、ウネウネは取りません。勇者で聖女なのですから。余計な殺生をしてはいけないのです。知らんけど」
 そうです。ぼくは勇者。
 ウネウネにかまけていられません。
「虫がイヤなだけだろ」
「この頃ツッコミがするどいじゃぁないですかっ? ジョシュア」
 そうしてジョシュアとぼくは睨み合いますけど。

 前方から黒モヤがせまってきます。

「魔獣発見っ、聖なる光ぃぃ」
 ぼくがクリーンを放つと。猛然と走っていた犬型魔獣がガクリと速度を落とし。
 そこをジョシュアとノアが斬りつけます。二体は瞬殺されました。

「おう、俺らの出番はなしだな?」
 オズワルドのつぶやきに、ぼくも聖なる剣アタックの出番はなしだとうなずきます。
 そしてルリアもうなずきます。
「腕がなまる。ジョシュア、私と交代しろ」
「後半に交代しますよ」
 ルリアの言葉にジョシュアがため息交じりに言って。
 彼女はよっしゃと拳を握る。
 一応、王妹なんですけど。
 ミカエラの補助で女性騎士をつけたのだから、振舞いに気をつけてぇ。

 というわけで、先に進みます。黒モヤの気配が濃いぃくなってきました。
「魔獣退治に来ていてなんですけど、あっけなく犬型魔獣が死んでしまうと。ちょっと可哀想に思えますわ」
 ミカエラがそう言うのに、ぼくは答えます。
「魔石は心臓部分にあるようなのです。つまり魔獣はゾンビみたいなものなのですよ」
「ぞんび、ですか?」
「うーん、ゾンビは、死んでいるのに体が動いちゃうみたいなやつのことだよ。そこには生前の記憶や己の意思のようなものはない。だから、可哀想と思わなくてもいいのかも。魔獣として、意思もなく動くことの方が可哀想なことなのかもしれないよ?」
「そうなのですね? 確かに、元は野犬だったのかもしれませんが。死んだあとにも動かなければならないのは可哀想なことなのでしょうね」
 ミカエラは納得したようにうなずいた。

「じゃあ、コエダ様のブローチも、なにかの心臓なのですね?」
 ブランカの言葉に、ぼくは。
 おや? となる。

「これ、魔石だって言ったっけ?」
 スカーフタイを止めているブローチを指差して、ブランカにそう聞くと。
 彼はちょっとあせったような顔つきになって、手を横に振った。
「いえ、学園を卒業するときに、魔石の研究をしたので。見ればわかるのです。微弱な波動が出ますので」
「ふーん。波動でわかるなんて、すごいね?」
 とは思いつつ。
 なんとなく、引っかかるものをぼくは感じたのだった。

 なにかは、わからないけど。

 
しおりを挟む
感想 308

あなたにおすすめの小説

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

婚約破棄されたから伝説の血が騒いでざまぁしてやった令息

ミクリ21 (新)
BL
婚約破棄されたら伝説の血が騒いだ話。

非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします

muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。 非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。 両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。 そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。 非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。 ※全年齢向け作品です。

処理中です...