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2-26 キャンプ飯と言ったらカレー
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◆キャンプ飯と言ったらカレー
なかなか調査に出られないけど。アムランゼに着いて二日目、昼いっぱいは拠点の設営と作戦会議で潰れてしまいました。
まぁ、あせっても良いことはないので。
じっくり行きましょーー。
というわけで、昼食を食べます。
騎士さまや世話人の人たちにもお皿が行き渡ったところで。
みなさまの前で、リーダーで勇者であるぼくが挨拶をします。
「第一回、勇者パーティー魔獣討伐の旅。調査初日を祝しまして。僭越ながら、昼食はパパ…神の手直伝のカレーを作りましたので。みなさまご堪能くださいませ。では、ご唱和を。いただきます」
騎士のみなさんが『いただきまーーす』と雄叫びを上げて…。
いえ、野太い声だけど、お昼ご飯の挨拶なのですよ。
湖畔での設営を終えたあとの、みんなでキャンプ飯です。
しかしながら、キャンプ飯と言ったらカレーですから。
やはりこれは外せませんよね。
十年前にディアイン国と懇意になって。いろいろなカレー粉をいただいたパパは。
研究に研究を重ね、子供用のカレー粉と大人用のカレー粉のブレンドに成功いたしました。
いわゆる、甘口と辛口です。
しかし、この神の手ブレンドが国内で大流行りいたしまして。
カレーは神の手が住んでいた国で食べられている異国料理として、万民がありがたがって食べるものになりました。
まぁ、神の手フィルターもあるだろうけど?
だって、カレーは誰が食べても美味しいでしょ?
カレーが嫌いな人はいないでしょ?
そうしたら、流行っちゃうよねぇ。
だけど、お米はまだ普及できるほど輸入できていないから。
パンにつけて食べるのが一般家庭では普通のようです。
でもぼくは、カレーはやはりご飯で食べたい。
なので、旅の馬車にお米を積んできちゃいました。
炊き方もパパに習ってね。大きめの鍋でいっぱい炊いたよ。
まぁ、これは好き嫌いあるから。パンが好みの人はそれ用のパンもあります。
「こここ、コエダ様? この、ゴハンというのも。神の手さまがお食べになっていたものですわよね?」
ミカエラはお皿に盛られたカレーライスを見て打ち震えています。
「そうだよ。ぼくがいた国ではご飯が主食だったの。パンもあったけどね」
「ととと、ということは。ゴハンは神の国の食べ物でっ。あああ、ありがたくって。どこかに飾っておけないかしら?」
お皿を持って右往左往するミカエラを、ぼくは手で制する。
「ミカエラ、食べ物はちゃんと食べてくださぁい。パパが…神の手がぼくによく言っていたのは。お米ひと粒に神様が七人住んでいるから。ひと粒も残してはいけないよ。というものです」
「ひゃーーーい、タイジュ様がそうおっしゃるのでしたら。私、ひと粒も残しませんわぁ」
「食べ物を粗末にするのもダメだからね? パパの料理も、お供えしないで、これからはちゃんと食べてね?」
「わかりましたわ、コエダ様っ。私っ、間違っていましたわぁぁぁ」
涙ぐむ、ミカエラ。
そこまで思いつめなくてもいいんだからね?
そうしてスプーンにすくって、カレーライスをひと口。
「んんんん、美味しいですわ。神の手さまの味がしますぅ」
「パパの味って…」
ミカエラの言葉に苦笑ですが。まぁ、いいです。
「私もカレーなるものを食べるのははじめてです」
ブランカも、そう言って。おそるおそる茶色いものを口に入れます。
今ぼくらは簡易のベンチに腰かけて、勇者パーティーの面々が集まって食事をしているところです。
ブランカの言葉にオズワルドが反応した。
「そうなのか? 俺らは二週に一回くらいはカレー食べているよな? 俺は毎日でもいいが。しかし貴族の家庭ではまだ普及していないのだな?」
「庶民料理ですからね、カレーは。料理人さんのいる屋敷ではカレーは作らないでしょ?」
ぼくが言うと、オズワルドは目を丸くする。
「タイジュの作るカレー、最高に美味しいのになぁ? 料理人は美味しいものを作るのが仕事なのだから。簡単料理でも美味しいなら作るべきだ」
そう言って、オズワルドは席を立った。
「おかわり、取ってくる」
「え? もう? 早すぎだよ」
「カレーは飲み物だって、おまえが言ったんだろ?」
「アゼルに取って来てもらいましょうか?」
「いいや。騎士は自分でできることは自分でするものだ。戦場に立ったとき、周りに従者がいるとは限らないのだからな。ジョシュア、おまえもその気構えで。なんでもノアにしてもらうんじゃないぞ?」
ニカッと笑って。苦もない様子で鍋のある方へ歩いていった。
「失敬な。騎士のたしなみは私もわきまえている」
ムッとへの字口になりつつも。カレーを食すジョシュア。
ジョシュアもパパが作るカレーは大好物だ。
「今日のカレーはぼくが作ったけど。美味しい?」
「あぁ。パパと同じ味がする」
ジョシュアがそう言ってくれたから。
ぼくは安心して、ムフンとなった。
「ご飯は好き嫌いあるかもしれないから。無理しないでね? パンも普通にカレーに合うからね? この旅ではパン職人さんがついて来てくれているから、やわぁらかいパンがいつも食べられるそうです。素敵なことですよねぇ? ぼくは、もうカッテーパンはごめんです」
ミカエラやブランカや、他の従者の人たちに向けて言ったのだけど。
「カッテーパン? コエダ、それはなんだ?」
ジョシュアに聞かれ、ぼくはあのときのことを思い出して鼻に筋を立てました。
「戦場で食べたパンが、もう、鬼のように固かったんですよ。鼻筋が癖になりそうなほど、固ってぇぇのです。ぼくはそのときまだ乳歯だったので、歯が折れるかと思いました」
「コエダは戦場に行ったことがあるのか?」
するとジョシュアが初耳だというような顔で見てきた。
「あれ? 言っていませんでしたか? ぼくはこの前の戦争のとき、パパのお医者のお手伝いで戦場へ行ったのです。やんごとない事情で、パパはぼくを離せなかったのでね。でもパパは悪くないのですよ?」
一応、先にパパを擁護しておきます。
パパは公爵じぃじに、幼いぼくを戦場に連れて行ったこと怒られちゃったからね。
それが良くないことだって。今はわかるけど。
だけどパパはあのとき、そうするしかなかっただろうし。
ぼくがパパの立場でも、そうすると思う。
それが一番、子供を、ぼくを守る手段だったのだからね。
ぼくはちゃぁんと、そのことをわかっているんだ。
「あぁ、俺もその話聞きたい。兄上はそこら辺のこと、全く話してくれないんだ。パパとのなれそめとか?」
おかわりに行ったオズワルドが、山盛りにご飯を盛ったカレーを手に帰ってきて。そう言った。
盛りすぎです。それはともかく。
まぁね。
パパとぼくは奴隷だったので。
それが体裁が悪いことも、もう大人なのでわかっていますよ。
なのでそこらへんは伏せて、やんわりお話いたしましょう。
「以前、アンドリュー様を治療したと聞きました」
普段無口なノアが、そう口にして。
たぶん、知りたいことなのでしょうね? 好きな人のことだもんね。
「そうそう、本当はお医者的に個人情報を漏らしちゃダメなんだけど。一例として話すね? 戦場では手入れをされていない武具を使用したりするでしょ? そうすると汚物に触れて菌が体内に入っちゃう。アンドリューさんはお腹と目の上に傷を負っていて、そこから菌が入って。化膿して、熱が出てって感じだった。そこをクリーンで菌を無効化してね。あとパパの外科的治療で助かったんだ。あ、食事時にまずい話題かな?」
「大丈夫ですわ。私も治癒魔法士として興味ありますの」
ミカエラがそう言ったので。良かったです。
一番女の子に配慮しなきゃいけなかったよね?
「その治癒魔法士は帯同しなかったのか? あの戦争では王族の兄上が参戦していただろう?」
「それは、ニジェールがっ…」
みなまで言わずとも、オズワルドはクソがっ、と吐き捨てた。
ま、そういうわけです。
「父上もお腹に剣が刺さって、普通なら手術しても助からないくらいの重体だったんだけど。パパの超絶技巧手術とぼくの無菌化するクリーンの合わせ技で助かったんだ。パパと父上のなれそめと言ったら、そこかな?」
「あぁあ、私の叔父が、陛下は一度お亡くなりになったとの噂が戦場で流れたと言っておりましたわ。それを神の手さまがお救いしたのだと…」
ミカエラがはわわと唇をわななかせて驚いています。
そう、その話ですね。
「死んではいないよ? 危険だったけどね。とにかく戦場では感染が一番の大敵でね。元凶は切り傷でも、死因は敗血症なんだ。パパはいつも患者さんを診たあと、次の患者さんに移る前に手洗いしていたよ」
「そんなに頻繁に手を洗わないといけないのですか?」
「そうだよ。前の患者さんの菌を次の患者さんに移さないよう、徹底してやらないと無菌にならないんだ。それでもまだ、完全ではないんだからね。戦場以外でもね、手洗いうがいをすることで流行り病は半分減らせる。その知識を一般の家庭にも普及させないといけないんだって、パパはよく言ってるよ」
興味深そうに、ミカエラはうなずいています。
「とてもためになる話を聞きました。私の上司のリカルドも、神の手さまを大絶賛していまして。人体の構造を理解することで治癒率が格段に上がることを、神の手さまが発見されたとか?」
ブランカもそう言ってきて。
「んん、治癒魔法士の方は、すべての病気をふわりと治すでしょう? その元凶がどこにあるのかとか、根本になにがあるのかとか、わからないままに術を行使してきたと聞いています。ですが、たとえば病巣がどこにあってどんな悪さをしているか知ることができたら。そこにピンポイントで治癒魔法をかけられるということなのです。術が集中することで病巣がしっかり取り払われ、再発も少なくなったようですね?」
「そうなのです。まだ学生なのに、コエダ様の知識も素晴らしいですね?」
ニコリとして、青バラの貴公子が褒めてくださいました。テレテレ。
「時に、コエダ。実は、俺がおかわりしたとき。ご飯が底をつきかけていたぞ」
オズワルドがそう言って。
ぼくは、へぇぇぁぁあああ? となります。
「オズワルドっ、なんでそういう大事なことを早く言わないのですかっ?? ぼくはおかわりに行ってきます」
「コエダ、私も行く」
ぼくが席を立つと、ジョシュアも立って。
ミカエラもついてきました。
やっぱりカレーはライスが合うねってことで。
ギリ、おかわり間に合いました。
なかなか調査に出られないけど。アムランゼに着いて二日目、昼いっぱいは拠点の設営と作戦会議で潰れてしまいました。
まぁ、あせっても良いことはないので。
じっくり行きましょーー。
というわけで、昼食を食べます。
騎士さまや世話人の人たちにもお皿が行き渡ったところで。
みなさまの前で、リーダーで勇者であるぼくが挨拶をします。
「第一回、勇者パーティー魔獣討伐の旅。調査初日を祝しまして。僭越ながら、昼食はパパ…神の手直伝のカレーを作りましたので。みなさまご堪能くださいませ。では、ご唱和を。いただきます」
騎士のみなさんが『いただきまーーす』と雄叫びを上げて…。
いえ、野太い声だけど、お昼ご飯の挨拶なのですよ。
湖畔での設営を終えたあとの、みんなでキャンプ飯です。
しかしながら、キャンプ飯と言ったらカレーですから。
やはりこれは外せませんよね。
十年前にディアイン国と懇意になって。いろいろなカレー粉をいただいたパパは。
研究に研究を重ね、子供用のカレー粉と大人用のカレー粉のブレンドに成功いたしました。
いわゆる、甘口と辛口です。
しかし、この神の手ブレンドが国内で大流行りいたしまして。
カレーは神の手が住んでいた国で食べられている異国料理として、万民がありがたがって食べるものになりました。
まぁ、神の手フィルターもあるだろうけど?
だって、カレーは誰が食べても美味しいでしょ?
カレーが嫌いな人はいないでしょ?
そうしたら、流行っちゃうよねぇ。
だけど、お米はまだ普及できるほど輸入できていないから。
パンにつけて食べるのが一般家庭では普通のようです。
でもぼくは、カレーはやはりご飯で食べたい。
なので、旅の馬車にお米を積んできちゃいました。
炊き方もパパに習ってね。大きめの鍋でいっぱい炊いたよ。
まぁ、これは好き嫌いあるから。パンが好みの人はそれ用のパンもあります。
「こここ、コエダ様? この、ゴハンというのも。神の手さまがお食べになっていたものですわよね?」
ミカエラはお皿に盛られたカレーライスを見て打ち震えています。
「そうだよ。ぼくがいた国ではご飯が主食だったの。パンもあったけどね」
「ととと、ということは。ゴハンは神の国の食べ物でっ。あああ、ありがたくって。どこかに飾っておけないかしら?」
お皿を持って右往左往するミカエラを、ぼくは手で制する。
「ミカエラ、食べ物はちゃんと食べてくださぁい。パパが…神の手がぼくによく言っていたのは。お米ひと粒に神様が七人住んでいるから。ひと粒も残してはいけないよ。というものです」
「ひゃーーーい、タイジュ様がそうおっしゃるのでしたら。私、ひと粒も残しませんわぁ」
「食べ物を粗末にするのもダメだからね? パパの料理も、お供えしないで、これからはちゃんと食べてね?」
「わかりましたわ、コエダ様っ。私っ、間違っていましたわぁぁぁ」
涙ぐむ、ミカエラ。
そこまで思いつめなくてもいいんだからね?
そうしてスプーンにすくって、カレーライスをひと口。
「んんんん、美味しいですわ。神の手さまの味がしますぅ」
「パパの味って…」
ミカエラの言葉に苦笑ですが。まぁ、いいです。
「私もカレーなるものを食べるのははじめてです」
ブランカも、そう言って。おそるおそる茶色いものを口に入れます。
今ぼくらは簡易のベンチに腰かけて、勇者パーティーの面々が集まって食事をしているところです。
ブランカの言葉にオズワルドが反応した。
「そうなのか? 俺らは二週に一回くらいはカレー食べているよな? 俺は毎日でもいいが。しかし貴族の家庭ではまだ普及していないのだな?」
「庶民料理ですからね、カレーは。料理人さんのいる屋敷ではカレーは作らないでしょ?」
ぼくが言うと、オズワルドは目を丸くする。
「タイジュの作るカレー、最高に美味しいのになぁ? 料理人は美味しいものを作るのが仕事なのだから。簡単料理でも美味しいなら作るべきだ」
そう言って、オズワルドは席を立った。
「おかわり、取ってくる」
「え? もう? 早すぎだよ」
「カレーは飲み物だって、おまえが言ったんだろ?」
「アゼルに取って来てもらいましょうか?」
「いいや。騎士は自分でできることは自分でするものだ。戦場に立ったとき、周りに従者がいるとは限らないのだからな。ジョシュア、おまえもその気構えで。なんでもノアにしてもらうんじゃないぞ?」
ニカッと笑って。苦もない様子で鍋のある方へ歩いていった。
「失敬な。騎士のたしなみは私もわきまえている」
ムッとへの字口になりつつも。カレーを食すジョシュア。
ジョシュアもパパが作るカレーは大好物だ。
「今日のカレーはぼくが作ったけど。美味しい?」
「あぁ。パパと同じ味がする」
ジョシュアがそう言ってくれたから。
ぼくは安心して、ムフンとなった。
「ご飯は好き嫌いあるかもしれないから。無理しないでね? パンも普通にカレーに合うからね? この旅ではパン職人さんがついて来てくれているから、やわぁらかいパンがいつも食べられるそうです。素敵なことですよねぇ? ぼくは、もうカッテーパンはごめんです」
ミカエラやブランカや、他の従者の人たちに向けて言ったのだけど。
「カッテーパン? コエダ、それはなんだ?」
ジョシュアに聞かれ、ぼくはあのときのことを思い出して鼻に筋を立てました。
「戦場で食べたパンが、もう、鬼のように固かったんですよ。鼻筋が癖になりそうなほど、固ってぇぇのです。ぼくはそのときまだ乳歯だったので、歯が折れるかと思いました」
「コエダは戦場に行ったことがあるのか?」
するとジョシュアが初耳だというような顔で見てきた。
「あれ? 言っていませんでしたか? ぼくはこの前の戦争のとき、パパのお医者のお手伝いで戦場へ行ったのです。やんごとない事情で、パパはぼくを離せなかったのでね。でもパパは悪くないのですよ?」
一応、先にパパを擁護しておきます。
パパは公爵じぃじに、幼いぼくを戦場に連れて行ったこと怒られちゃったからね。
それが良くないことだって。今はわかるけど。
だけどパパはあのとき、そうするしかなかっただろうし。
ぼくがパパの立場でも、そうすると思う。
それが一番、子供を、ぼくを守る手段だったのだからね。
ぼくはちゃぁんと、そのことをわかっているんだ。
「あぁ、俺もその話聞きたい。兄上はそこら辺のこと、全く話してくれないんだ。パパとのなれそめとか?」
おかわりに行ったオズワルドが、山盛りにご飯を盛ったカレーを手に帰ってきて。そう言った。
盛りすぎです。それはともかく。
まぁね。
パパとぼくは奴隷だったので。
それが体裁が悪いことも、もう大人なのでわかっていますよ。
なのでそこらへんは伏せて、やんわりお話いたしましょう。
「以前、アンドリュー様を治療したと聞きました」
普段無口なノアが、そう口にして。
たぶん、知りたいことなのでしょうね? 好きな人のことだもんね。
「そうそう、本当はお医者的に個人情報を漏らしちゃダメなんだけど。一例として話すね? 戦場では手入れをされていない武具を使用したりするでしょ? そうすると汚物に触れて菌が体内に入っちゃう。アンドリューさんはお腹と目の上に傷を負っていて、そこから菌が入って。化膿して、熱が出てって感じだった。そこをクリーンで菌を無効化してね。あとパパの外科的治療で助かったんだ。あ、食事時にまずい話題かな?」
「大丈夫ですわ。私も治癒魔法士として興味ありますの」
ミカエラがそう言ったので。良かったです。
一番女の子に配慮しなきゃいけなかったよね?
「その治癒魔法士は帯同しなかったのか? あの戦争では王族の兄上が参戦していただろう?」
「それは、ニジェールがっ…」
みなまで言わずとも、オズワルドはクソがっ、と吐き捨てた。
ま、そういうわけです。
「父上もお腹に剣が刺さって、普通なら手術しても助からないくらいの重体だったんだけど。パパの超絶技巧手術とぼくの無菌化するクリーンの合わせ技で助かったんだ。パパと父上のなれそめと言ったら、そこかな?」
「あぁあ、私の叔父が、陛下は一度お亡くなりになったとの噂が戦場で流れたと言っておりましたわ。それを神の手さまがお救いしたのだと…」
ミカエラがはわわと唇をわななかせて驚いています。
そう、その話ですね。
「死んではいないよ? 危険だったけどね。とにかく戦場では感染が一番の大敵でね。元凶は切り傷でも、死因は敗血症なんだ。パパはいつも患者さんを診たあと、次の患者さんに移る前に手洗いしていたよ」
「そんなに頻繁に手を洗わないといけないのですか?」
「そうだよ。前の患者さんの菌を次の患者さんに移さないよう、徹底してやらないと無菌にならないんだ。それでもまだ、完全ではないんだからね。戦場以外でもね、手洗いうがいをすることで流行り病は半分減らせる。その知識を一般の家庭にも普及させないといけないんだって、パパはよく言ってるよ」
興味深そうに、ミカエラはうなずいています。
「とてもためになる話を聞きました。私の上司のリカルドも、神の手さまを大絶賛していまして。人体の構造を理解することで治癒率が格段に上がることを、神の手さまが発見されたとか?」
ブランカもそう言ってきて。
「んん、治癒魔法士の方は、すべての病気をふわりと治すでしょう? その元凶がどこにあるのかとか、根本になにがあるのかとか、わからないままに術を行使してきたと聞いています。ですが、たとえば病巣がどこにあってどんな悪さをしているか知ることができたら。そこにピンポイントで治癒魔法をかけられるということなのです。術が集中することで病巣がしっかり取り払われ、再発も少なくなったようですね?」
「そうなのです。まだ学生なのに、コエダ様の知識も素晴らしいですね?」
ニコリとして、青バラの貴公子が褒めてくださいました。テレテレ。
「時に、コエダ。実は、俺がおかわりしたとき。ご飯が底をつきかけていたぞ」
オズワルドがそう言って。
ぼくは、へぇぇぁぁあああ? となります。
「オズワルドっ、なんでそういう大事なことを早く言わないのですかっ?? ぼくはおかわりに行ってきます」
「コエダ、私も行く」
ぼくが席を立つと、ジョシュアも立って。
ミカエラもついてきました。
やっぱりカレーはライスが合うねってことで。
ギリ、おかわり間に合いました。
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