【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~

北川晶

文字の大きさ
上 下
163 / 174

2-25 宣戦布告、きたーーーっ

しおりを挟む
     ◆宣戦布告、きたーーーっ

 ゆったりとした足取りでブランカがぼくらの方にやってきました。
「この湖、懐かしいなぁ。この近くの保養地でお祖母さまが長く静養していたのです。お見舞いでこちらに来たときには、この湖で遊んだりしたのですよ」
 穏やかな彼の話口に、ぼくもうんうんとうなずきます。
「そうなんだ。ぼくも子供の頃、ここでキャンプしたんだ。ね? ジョシュア」
「あぁ、カブトムシが入れ食いだったなっ」
 そうでした。あのときはカブトムシがキモいくらい取れたんだった。
 でも、季節はまだ五月ですから。カブトムシはさすがにいませんよね?
 大体ジョシュアも、カブトムシは卒業したでしょう。…たぶん。

 前世でもカブトムシ好きだったのかな?
 あのピクリともしなかった表情筋の裏でカブトムシ…とか思っていたらと思うと…ウケるぅ。

「コエダ様、同じパーティーの一員となったのです。私とも気安くお話していただけませんか?」
 人知れず、くくくと胸のうちで笑っていたら。
 ブランカにそう言われて。
 はい。どうぞどうぞ、ってな感じです。

「もちろん。先輩だけど、ブランカって呼ばせていただきますね?」
「ありがとうございます。私も聖女様…いえ、勇者さまを力の限りにお守りします」
 ぺこりと頭を下げて。
 彼はノアに目を向ける。
 あっ、剣闘士大会の因縁の出会い、でしょうか?

「ノア、君と私は同じ年だが。もし君が学園に在学していたら。私は剣術の首席は取れなかったんじゃないかなと思うんだ。剣闘士大会での剣筋、見事だったよ」
 ブランカの言葉に、ノアは失礼にならない程度に頭を下げる。
 無言だけど。
 それがノアのいつものスタイル。

「君と若いうちに剣の手合わせができていたら、私ももっと強くなれていたかもしれない。クラスメイトになれなくて、残念だったな」
「学園で学ぶべきことはありませんでした」
 お、ノアがしゃべった。珍しいな。

「そんなことはない。学びだけが学園の意義ではないよ。学力が優秀なコエダ様も学ぶものはないかもしれないが。人脈や見聞を広めるために学園にいるのだろう?」
「私には、それよりも大事なことがありました。それに、過去の話をしたところで。時間は戻りません」
 表情はいっさい変えずに。
 まぁ、そんなことを言っても時間の無駄。とばかりに切り捨てるノア。
 クーーール。

「確かに。王弟ジョシュア様を御守りするのは大事な役目だよね」
 そうして、今度は。
 ブランカはジョシュアに目を向けました。
「ジョシュア様、試合に勝ったらコエダ様と話す機会をいただけるお約束でしたよね?」
 太い手を胸の前で組んで、ジョシュアはいつになく厳しい目をブランカに向けるのだった。
「約束はしていない。返事をしていないからな」
「おや、自信がないのですか? 私がコエダ様と少しお話したところで、なにも変わらないと思いますが」
 しばらく。ぼくにも見えるくらいの視線バチバチがあって。

 ふと、ジョシュアがこっちを見た。
 大丈夫か? とも。私を捨てないでという子犬のような目にも見えますが。
 まぁ、うなずく。

「ラウルをそばにつけておけよ、コエダ」
 ジョシュアが言うと、ブランカは優しい笑顔で言う。
「えぇ? 信用ないなぁ。一応私も勇者御一行のお仲間なのですよ?」
「王族は決してひとりにはならないものだ。コエダは陛下からお預かりしている大事な御方。ゆえに、ひとりで行動はさせられない」
「承知しました、ジョシュア様」
 丁寧に礼儀を尽くして頭を下げるブランカを。
 ジョシュアは冷たい視線で見やるが。
 ノアを伴ってその場を下がった。

 話が聞こえないくらいのところまで距離をあけるが。
 近くにはテントを設営をしている騎士さまたちの喧騒もあって。
 ラウルもいるし。
 まるきりふたりきりではないよ。

「で、お話というのはなんですか?」
 ぼくも居住まいを正して、彼に向き合う。
 もしかしたらお祖母さまのことかな? でも十年前に寿命でと言っていて。
 天命をどうにもできないのは、昔も今も変わらない。
 他に病人がいるのかもしれないけど。
 ぼくに改まって話があるというのは、大体そういうことが多いんだ。

 だけどブランカは、少し空を見上げて。首をかしげた。
「いえ、特にはないのです。いて言うなら、昔の話で友好にお話しできたらと思っていて。子供の頃に一度お会いしたことを覚えていますか?」
「はい。レッドソルジャーオオカブトが頭に止まったので。アレは忘れられませんよ」
「はは、そこは格好悪いので、忘れていただきたいところですけど」
 苦笑して、ブランカはぼくを優しくみつめる。
 いわゆる談笑というやつですな。
「他も覚えていますよ。青いバラを腕いっぱいに抱えた美少年ですから」
「コエダ様も、とても愛らしい御方で。私は人知れず胸を高鳴らせていたのですよ」
 そんな話をして、笑い合うけど。

「でもなんで、話がないのにあのようなことをジョシュアに言ったのですか?」
 聞くと。ブランカはやんわりした微笑みを消して。
 また空をみつめるのだった。
「コエダ様のことで余裕のない王弟が、おもしろいなぁと思って」
 そしてぼくに、目を合わせ。言い募った。

「ジョシュア様がコエダ様を独り占めにしている感じが、ちょっと腹立たしかったのかもしれません。コエダ様はご存じですか? 彼が睨みを利かせていることで、お話しできない子女が多くいるのです」
「あぁ…まぁ…」
 ジョシュアがぼくの周りを威嚇しているのは、気づいていた。
 大体、ジョシュアが笑うのは。

 ぼくにだけなのだ。

 他の者には、笑みを振り撒かないというか?
 ノアやミカエラや家族には、笑って話をするよ。
 あと誰かがいても、ぼくがそばにいるときは優しく笑うんだけどね。
 普段は、父上みたいな険しい顔つきをしていることが多い。
 基本、素地が父上と同様なんだよね。好きな人の前だけ笑うのとか。

 わかりやすいんだ。

「知っていて、ジョシュア様をいさめないのですか? 多くの者と触れ合う機会を、コエダ様は邪魔されているのに」
「聖女のお役目のときに多くの民と触れ合っています。貴族の方とのお仕事の件では、ジョシュアや周りの人たちがうまく差配していますから、お任せしているのです。だから人々と全く触れ合っていないわけではなく。ジョシュアもぼくを守ってくれているゆえの行いでしょうから。特に怒る気もないです」
「しかしそれでは、伴侶候補も選択できないでしょう? それとも、もうお決まりですか?」
 ブランカの言葉に、ぼくはやんわり首を振る。
「それは、言えませんけど。ただひとつ言えるのは。ジョシュアの行いで、ぼくが伴侶を選ぶそのことに支障はないということですかね?」
 余計なお世話、とまでは言わないけど。
 ブランカは正しくその空気を感じ取ったようだ。
 頭の回転が良いという話は、間違いなさそうです。

「ブランカは、案外食えないお方ですね?」
 のほほんと笑みを向けて言うと。
 彼はまた首をかしげた。
「さぁ、自分ではわかりません。でも、コエダ様の印象に残っておきたいのです」
「印象に残りたいんだ?」
「はい。婚約者候補に選んでいただきたいです」

 おおぅ、直球で、宣戦布告、きたーーーっ。

「だから印象を残すのに、ちょっと別口から攻めてみたのです」
「野心あり? ぼくが君を選んだら王位はなしだよ?」
「王位への野心はありませんけど。コエダ様を手に入れたいと思う野心はあります。あなたの恋のお相手に、私を選んでいただきたい」
 ふぅむ、と頭を巡らせて。

「ブランカ、あなたの気持ちはよくわかりました。ぼくがその気になるのかどうかは、わかりませんけど。意識して、あなたと接したいと思います。答えは今回の旅の最後にお伝えしましょう」
 右手を差し出して、同意の握手を求めると。
 手を取ったブランカは裏返して、甲にキスしようとした。
 けれど、ぼくは彼の額を左の指で突いて、制した。

「それはまだダメですぅ。あとね、ジョシュアをからかっていいのはぼくだけだから…」
 そっと顔をブランカの耳元に寄せて。告げる。

「王弟への侮辱は、これ以上は許さないよ」

 頭を下げているブランカは一瞬息をのんだけど。
 まぁまぁ。そのあとはぼくも顔を上げて、いつもどおりののほほん王子に戻りましょう。
「ってことで、勇者御一行の旅、これからもよろしくね?」
「あなたこそ、食えない御方だ」
 ちょっと驚いた顔のブランカを残して。
 ぼくはジョシュアがいる方を振り返ります。
 ジョシュアは話が終わったのを感じとって、すぐにこちらに駆け寄ってきました。

「コエダ、あいつとどんな話をしたんだ?」
「まぁまぁまぁ…」
 ジョシュアを軽くあしらうと。今度はラウルに顔を向けた。
「ラウル、詳しく話せ」
「まぁまぁまぁ…」
 ラウルはぼくの従者ですから、ぼくが話さないことは話しませんよ。
 しかしジョシュアはアセアセしちゃって。

 スパダリを目指す気なら、もう少し落ち着いてくださぁい。

しおりを挟む
感想 308

あなたにおすすめの小説

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

処理中です...