【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~

北川晶

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2-24 早く責任を取ってくれ

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     ◆早く責任を取ってくれ

 馬車で三日の道のりをかけて、アムランゼに到着しました。
 以前来たときは湖が元凶だとわかっていたので。アムランゼ領に四日滞在の計十日という日程でしたが。
 今回は森のどこで魔獣が発生しているのかわからないから。
 その調査も兼ねるということで、臨機応変に事に当たろうということになりました。
 つまり。期限なしです。
 学園をお休みして来ていますが。

 ぼくたち優秀なので。留年はなしです。むふん。

 なんて。国の要望なので。ある程度、出席日数などは先生方も容赦してくれる、みたいな?
 マジで、大丈夫です。
 一日目は、アムランゼ領主のお屋敷で長旅の疲れを取りまして。
 二日目から本格的に魔獣調査開始の予定です。
 でも、その前に。

「魔獣が出たぞぉぉ」
 領主のお屋敷があるアムランゼで一番大きな町に、そのような怒号が響き渡り。
 通りがかった勇者御一行は、馬車から降りて前に出ます。

 逃げ惑う領民は家の中に避難して。
 町が一瞬、シンと静まる。

 そこに、ぐぅぅぅわぁぁるるるぅうう、という。いかにも獣の鳴き声がして。
 ぼくなどは、ちょっとひるんでしまいますが。
 いいえ、ぼくは勇者なのだから。ねっっ!

「コエダ、危ないっ。下がっていろ」
 するとジョシュアがぼくをかばって前に出て。
 ノアと一緒に三匹の犬型魔獣をバッサバッサと切っていき。

 ぼくはっ。聖なる光を放つ間もなく。
 斬られた魔獣が魔石に変化して。…終了しました。

「わぁぁ、ありがとうございます、勇者御一行」
「さすがです、勇者さま」
 隠れていた領民が街中に出てきて、ジョシュアとノアとぼくをねぎらいました。

 ぼく。なにもやっていないぃぃ。

 魔石を回収したジョシュアは。ぼくのそばに来て首をかしげる。
「コエダ、どうして八の字眉なのだ? どこかケガをしたか?」
「………なんでもないですぅ」
「本当か? コエダがケガをせずに元気なのが一番だからな?」
 そうして、ジョシュアはぼくの頭をポンポンしますが。
 いつもはされると嬉しいポンポンが。
 今日はなにやら、複雑気分です。
 やはり、もう少し剣技を極めた方が良い模様です。うむ。

 初日にそんなこともありまして。
 本当に、中型の魔獣相手ならジョシュアとノアだけで充分なくらいに、御強いですね。

 しかしながら街中に魔獣が現れるのは結構尋常ではないので。
 森の調査はやはり急を要します。

 というわけで。
 領主の屋敷から、まずは以前浄化した湖へ一団は向かいます。
 湖を拠点にして、森を放射状に調査する段取りですね。
 しばらく寝泊まりは湖でするので。そこにテントや野営の準備をしていきます。

 ぼくはパパとしたキャンプで、小さなテントで寝るのは慣れていますけど。
 今回はミカエラやブランカという、野営に慣れていない貴族の方方がいるので。
 寝泊まりの設えが豪華仕様です。
 湖畔に、数名が余裕で寝泊まりできる、女性用と男性用の丸太小屋がすでに建っているよ?

「えぇえ? この前はこんな小屋ありませんでしたよね?」
 オズワルドのお友達で、今回森を案内してくれるエルゼに、ぼくはたずねた。
「あの頃はコエダちゃんが聖女だとは知らず。なんの用意もしていなくて。不便をおかけしたなと思ったのですよ。あ、コエダちゃんなんて、もう言えませんね? 御立派になりました、コエダ勇者さま」
 エルゼは大きくなったぼくを、しげしげと見やるのだった。
 御立派と言われたぼくは、髪の毛を手で撫でつけます。テレテレ。

「いいえぇぇ、アムランゼでのキャンプは楽しかったですよ。父上などは、その話になるといつもうらやましがって…」
「え、陛下が? そのようなぁぁ。牛しかいないような、なにもない所ですが。ぜひ陛下と神の手さまも。アムランゼに避暑にお出でくださいますよう、お話しくださいませぇぇ」
 へへぇと平伏しそうな勢いのエルゼを。
 ぼくは苦笑いで、手で制する。
「それで今回は。簡易ではありますが、勇者御一行様が不便のないよう小屋を突貫で建てました。調査中、少しは役に立つとよいのですが…」
 そう言って案内した室内は。ベッドが五つ入っている寝室と、居間と、トイレと風呂までついています。
 女性陣の方も同じ間取りで。あちらはミカエラとルリアの他に、使用人と護衛が数名入るようです。
 しかしっ。これはもはやキャンプではなく。宿泊施設です。

「うわぁ、エルゼ、すっごいじゃん。助かるわぁぁ」
 感動したオズワルドがエルゼの肩を組んで言うが。
「オズワルドのために作ったんじゃないんだからなっ? しっかりコエダ様を御守りしてくれ」
「えぇ? なにぃ? 格差が見えますがぁ? 俺もアムランゼを魔獣から守る勇者一行のひとりなのだがぁ?」
「勇者と愉快な仲間たち。主人公イコール勇者。オズワルドは勇者のおまけっ」
 と、エルゼはにべもない。
「ちぇぇぇ、久しぶりに会ったってのに。相変わらず王弟の俺に塩だよな、エルゼは」
 オズワルドも苦笑だが。
 仲が良いのか悪いのか?
 ううん、仲が良いから気安い関係なんだよね? きっと。

 多くの騎士は外のテントで寝泊まりする感じだけど。
 彼らは野営に慣れているし。
 勇者一行は魔法を扱う者も多く、魔力を消費すると疲れちゃうからね。
 ベッドで寝られるのはとてもありがたいことです。

 あ、ぼくの聖女パワーは疲れないんだけどね。
 森を歩くのは疲れるもんね。うむ。
 
「コエダ様、荷ほどきは私がしておきます」
 アルゼがそう言うので。
 ぼくはジョシュアとノアと一緒に湖を見に行きました。
 あ、ぼくの護衛はラウルだよ。こういうとき、ふたりいると便利だね? うむ。

 湖の波打ち際に行くと、優しい風が頬を撫でて気持ちが良い。
 馬車の中に長い時間いたから、固くなった体を上にうーーんと伸ばした。
 なんとなく? 新鮮な空気と緑色の美しい景色が、開放感があるじゃない?

「コエダ、タイが歪んでいるぞ」
 ジョシュアがぼくの首に手を伸ばして、スカーフをフワッとさせてくれた。
 あ、ぼくの服装はね。白シャツの上に、濃茶の革製のベスト。短めのを着て。腹からウエストにかけて細いベルトでグルグル巻きにしてね。同じ革製のズボンをはいて、黒い膝まであるブーツをはいてね。勇者っぽいのを表現してみた服なんだ。
「その服、なんか面白いな?」
 ジョシュアがぼくを見て言う。
 そういうジョシュアは騎士の服だ。
「でしょ? 勇者っぽくてカッコいいでしょ? 本当はワイルドに、下のシャツもなしにしようとしたんだけど…」
 勢い込んでジョシュアに言ったら。
「森で肌を出していたら虫に刺されます」
 無表情のラウルが、なんでか答えた。
 わかっているよぅ。
 朝の着替えのときにそう言われたから。
 痒いのはイヤなので。仕方なく。仕方なーーく。シャツは着たじゃないかぁ。

「はぁぁ? 当たり前だろ。王子が腹出しへそ出しノースリーブとか、エロ…はしたないっ」
 ラウルの話を聞いて、ジョシュアも怒っちゃった。
 エロって聞こえたぞっ。
 つか、男なんだからへそ出したっていいだろうぅ? ワイルドだろうぅぅ?

「この日のために、お風呂でへそをいっぱいきれいにしたのになぁ?」
「駄目だ。ラウルの言うことは正しい。森を舐めんな」
「ジョシュアは頭硬いんだから。ね? ノア? へそ出しはワイルドでしょう?」
 同意者が欲しいので、ぼくはノアに振り向けたが。

「ノア、アンドリューがへそ出して町に出たら、どうだ?」
「駄目です」
 ジョシュアのたとえ話に、ノアは即答です。
 あぁあ、アンドリューさんを引き合いに出されたら、ノアは絶対にうなずきません。うぬぅ。

「わかってます。かゆいのはイヤですから、言うことを聞いたのですっ」
 ちょっと拗ね気味に唇は突き出すけど。
 聖女のイメージを壊しても怒られちゃうので…父上に…。
 へそ出しはあきらめたのです。

 そうして気を取り直して。湖を見ます。
 湖は静かで、水の濁りもありません。以前、浄化したときのままのように見えます。
 きれいに保たれているのに、近くで魔獣が発生するのはなぜなのでしょう?
 あのときは水の底から大きなナマズが出てきましたが。
 湖の中に魔素だまりや悪いなにかがいる様子はありません。

 そこでぼくは、フッと思い出し笑いをしました。
「どうした、コエダ? なにか気になることがあるか?」
「いえ、ここから大きなナマズが出たなって思ったら…ジョシュアがぼくの後ろに隠れたのを思い出しました」
「はぁっ? わ、わ、わ、私の黒歴史を思い出すなっ」
 あまり表情を崩さないジョシュアが、顔を赤くして言うから。
 まぁまぁ、落ち着いて。という気分になる。

「いえいえ、感心したのです。あの、ぼくをナマズの盾にした王子が。今日はぼくをかばって、町の魔獣を瞬殺にしたのです。ジョシュアも成長したなぁって」
「なに目線だ?」
「パパ目線ですよ。ジョシュアが立派なスパダリになるよう、ぼくが丁寧に育て上げたのです。感無量」
 ぼくが感動に打ち震えていると。
 ジョシュアもクスリと笑った。
「ならば、私はおまえ好みに育てられたのだろう? 早く責任を取ってくれ」
 そこで決めの、パパ仕込みスマイル。ずるぅい。
「たっはぁぁーー。あざといっ。パパはそんな子に育てた覚えはありません」
「誰が誰のパパだっ」
 ジョシュアに鼻をつままれました。ふがっ。
 そんなふうに、湖の波打ち際でワチャワチャしていたら。

 騎士服の上にゆったりした白いマントを羽織る。魔導騎士団独特の衣装を身につけたブランカがやってきた。

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