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2-22 勇者戦隊仮面コエダ―っ

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     ◆勇者戦隊仮面コエダ―っ

 剣闘士大会が終わったあと、父上に、屋敷に戻ったらジョシュアと一緒に書斎に来てくれと頼まれました。
 なのでぼくは、ジョシュアとともに書斎の扉をノックします。
 レギが扉を開けてくれて、ぼくらはソファに腰かけ、父上の話を待ちました。
 対面には父上とパパが座る。
 改まって、なんの用事なのでしょう?

「話は他でもない。先日、アムランゼ領にて大量の魔獣が出現したとの報告を受けたのだ」
 ぼくは、はわわとなりながら思い出します。
 アムランゼは、ぼくが聖女としてはじめて湖を浄化をした、その土地です。
 そこを皮切りに、魔素で汚染された土地を浄化して回り。
 前世で十二歳のときに起きた疫病蔓延のパンデミックは、なんとか最小限で回避できたのですけど。

「それは、こえだのよげんしょに書かれてある、十六歳のときに起こるであろう魔獣がいっぱい出て王子と聖女が駆除したという、アレですか?」
 そうなのです。
 前世でメイとジョシュア王子はタッグを組んで魔獣討伐のパーティーを組んだことがあるのですよ。
 その功績が認められて、メイは王様に聖女認定してもらったのです。
 あそこら辺までは、うまくやっていたのですけどねぇ。
 バカ兄が王妃様とつるみだしちゃって…むぅむぅ。

「そうなのだ。こえだのよげんしょに魔獣出現の章が書かれてあったので。時期的にそろそろかと思い、警戒して地方に注意勧告をしていた。そしてやはり預言が実現してしまったということだな」
 ぼくの質問に父上が答えた。
 父上は被害を未然に防ぐために、ちゃんと情報を流していたようです。
 あやしげなこえだのげんしょを信じてくださり、ありがとうございますぅ。

「父上、魔獣による被害はあったのですか?」
「いや、注意勧告により幸いにも避難を速やかに行えて。家畜などの被害もなかったのだが。今は放牧できなくて困っているようだな」
 ぼくの言葉に、父上は安定のへの字口です。
 そして同じようにへの字口のジョシュアが、口を開いた。

「アムランゼははじめて聖女の旅で随行した場所なので、よく覚えていますが。再びその地で魔獣が出たというのは。その土地自体に汚染するなにかしらのものがあるということなのでしょうか?」
「ふぅむ、そこまではまだわからぬ。その調査も踏まえて、聖女御一行浄化の旅を要請したいのだ」
 問いに陛下が答え。
 ぼくは、へあぁぁああ? となる。

「第十三回、聖女御一行浄化の旅ですねっ? んん、いいえ父上。今回ぼくは勇者になります。パパが女神から聞いたところによると、男性体の聖女は、勇者として魔獣討伐に出掛けたとか? ぼくも男性体なのだからね、聖女ではなく勇者として旅立ちます。第一回勇者パーティー魔獣討伐の旅っ、です」
 ぼくは拳を握って、しっかり宣言します。
 しかし父上もジョシュアも。なにやら胡乱うろんげな目でぼくを見ますが。
 なんでぇ?
「…父は。小枝は聖女の方が似合うんじゃないかなぁ? なんて思うんだがな?」
 父上の言葉に、ぼくは顔を振り向けます。
 いくらぼくが美麗な王子だからって、心外です。
「コエダ、勇者は剣で魔獣に立ち向かう者だと思うのだが?」
 ジョシュアもぼくに、無理無理と首を振ります。
 …心外です。

「剣は全く強くないけど、聖女の力があります。聖なる光で魔獣を弱らせ、ジョシュアとノアがそれを討つ。決まりです」
 ぼくはドヤ顔で言いますが。
 ジョシュアは鼻で笑って言ったのだ。
「ふっ、それなら今までと変わらぬ。第十三回聖女御一行浄化の旅でいいではないか?」
 ぼくは、はぁぁああぅぅ、となります。
 隙のない正論に、顎がガクブルです。
「い、いいいい、いいんだよぉっ。今回は勇者コエダになるんだぁってのっ。勇者じゃなきゃ、行かないからっ」
 ぶくりと頬を膨らませると。
 パパが睨んだ。
「小枝、わがまま言わない。魔獣で困っている人たちがいるんだぞ」
 これまたぐぅの音も出ないパパの正論です。
 ですけど、今回ばかりはぼくも曲げられないというか。
 勇者は男のロマンですから。

「まぁ待て、大樹。名前などどうでもよいではないか。今回は勇者パーティー魔獣討伐の旅で構わぬ。小枝もお年頃だからな、聖女より勇者だと言われたいのだろう。一般的には聖女の方が通りがいいが、小枝の認知度は地方でも高いゆえ、不便はないだろう」
「もう、ディオンは小枝に甘いんだから」
 父上の援護射撃に、パパは苦笑ながらもうなずいてくれました。
 やったっ!!
 男に生まれたからにはぁぁ、一度は勇者になってみたいものなのだぁ。

「主要のパーティーメンバーには打診をしている。それに騎士団一大隊をつける予定だ」
 父上が修正を加えたあと、書類をぼくとジョシュアに渡した。
「あぁあ、聖女コエダの欄が勇者コエダになってる。父上、大好き」
 るん、と笑顔を父上に向けると。
 なんでかジョシュアがぐっはぁぁあ、となった。
 流れ弾に被弾した?

 それはともかく。書類に目を通す。
 勇者コエダが筆頭です。
 うむ。ぼくのパーティーだからねぇ。
 そして剣士、ジョシュア。
 騎士、ノア。
 魔導士、ミカエラ。
 治癒魔法士、ブランカ。
 お目付け役、オズワルドとルリア。
 という、主要メンバー七名に。従者や世話人、騎士たちがつく感じになるみたい。

 ミカエラとブランカは、今回初参加になるね。

 しかし、このメンバーは…。
「これは…髪の色が黄、金、紫、緑、白、赤ってそろっているではないですかぁ?? つまり、勇者戦隊仮面コエダ―になれます。スゴーイ」
 ぼくが吠えると、パパも目を丸くして言いました。
「本当だぁ。なんかロボットものと戦隊ものとライダーものが微妙に混ざっちゃっているけど。すごいぞ、小枝」
 父上とジョシュアがハテナ顔な中、パパだけがウケてくれました。むふん。

「戦隊とはなんだ? コエダ」
「説明が面倒なので、聖女用語ってことで」
「はっきり面倒って言いやがったな?」
 ジョシュアの質問にそう返すと。彼は眉間にシワを寄せてそう言いました。
 あぁあ、ジョシュアの父上化が進んで行くぅ。

 だってぇ、テレビの子供向け番組でうんちゃらかんちゃらって言えないじゃないですかぁ。

「…兄上。治癒魔法士は、いつもはリカルドだったのですが?」
 魔法魔導騎士団長のリカルドが、聖女の旅にはいつも帯同してくれていたのですが。
 気を取り直したジョシュアが父上にたずねる。
 ぼくのボケにいつまでも引っかかっていないのが、ジョシュアクオリティー。
 スルーとも言う。

「俺のオルタナ領の視察とかぶっちゃって、リカルドは俺の方に帯同することになったんだ。小枝の旅についていけないのも、気掛かりなんだけど。パパが一緒じゃなくて小枝、大丈夫?」
 心配そうにパパが聞いてきますけど。
「大丈夫ですよ。パパがいない旅も何度かしていますし。もう子供じゃありません」
 ムフンとした笑みをパパに向けますが。
 パパは心配そうな顔を、怪訝そうな顔に微妙に切り替えた。
「本当にぃぃ? 勇者じゃなきゃ行かないと言うのは、お子様ではないのかぁ?」
「それは、言葉の綾なのです。本気で言ったわけではありません。行間を読んでください、パパッ」
「そうか。ならいいが。ではオズワルドとジョシュアをわずらわせるようなことはしないということだな?」
 はいぃと返事はしますが、頬が引きつります。
 言質げんちを取ったとばかりに、にっこり笑うパパは。
 やんわりなのに、なにやら迫力があるのです。
 ぼくはパパには永久にかないません。
 勇者だぁぁ、なんて。この旅ではしゃげなくなりました。むぅ。

「治癒魔法士のブランカは、学園卒業前にすでに治癒魔法士として活躍していて。腕はリカルドが保証している。それに剣の腕も達者だ。それは、ジョシュアもわかっているだろうが。勇者コエダの旅に帯同させるのに相応しい人物だと思っているのだが?」
 父上はジョシュアにそう言い。
 ジョシュアは、渋々うなずく。
 なにやら空気がピリついていますね。
 ぼく、そういうのわかります。空気を読めるので。

「では、このメンバーで三日後にアムランゼ領に向かってもらう。旅の用意をしておいてくれ」
 父上の言葉にぼくはうなずき。
 ジョシュアとともに書斎を出た。

「コエダ。コエダが聖女であろうと勇者であろうと。私は今回もコエダをしっかり守るからな」
 廊下で、ジョシュアがそう言ってくれて。
 ぼくは嬉しくなる。
「頼りにしています、ジョシュア。ぼくはジョシュアがそばにいれば、なにも怖くないですよ」
 言って。
 ふたり並んで、廊下を歩いていった。
 今度はどんな旅になるだろう。
 ワクワクとドキドキが胸にあふれる。

 冒険には危険がつきものだけど、ジョシュアがいるから恐れなんかはなく。
 ただ旅を楽しみに思う気持ちだけを、ぼくは感じていた。

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