156 / 174
2-20 ぼくらは大人になった
しおりを挟む
◆ぼくらは大人になった
学園の校舎の中では、同学年であるジョシュアとミカエラと一緒にいることが多い。
ミカエラは魔術に関しては第一人者で。
火、水、土、風、の四大元素プラス闇の魔法を扱える稀有な人物だった。
治癒魔法は聖魔法に分類され、それは扱えるが。
浄化は別区分になるらしく。それは出来ない、みたいな?
まぁつまり。浄化以外はほとんど全部できるということです。
魔法に関しては、ディオン父上もかなりの高精度を持っているらしいが。それと並ぶのだって。
確かに父上も、ぼくに隷属拒否の魔法を施して。それは今も有効ですからね。すごいのです。
しかし、そのミカエラに魔法を教わったジョシュアは。
火力だけならミカエラをしのぐらしい。
細やかで精緻に魔法を扱うミカエラと、パワーのジョシュア。
どちらが優れている、ということは言えず。どちらもスゴーイのだ。
ぼくなどは…聖魔法しか使えないのでね。
ミカエラに教えてもらったけど、ライターほどの火も出せなかったのでね。残念です。
憧れるんだけどなぁ、ジョシュアみたいな、火をボボンと投げたり、爆炎ドカーンってやつ。
まぁそんな感じで。
ミカエラは魔法、ジョシュアは剣技、ぼくは座学で。
一応、優秀な成績をおさめております。
王位継承者になったので、帝王学なんぞもかじっておりますが。
人の上に立つ者、人より優秀であれ。ということで。
万民の前に立っても恥ずかしくないくらいの成績は取らなければならないということです。はい。
前世のメイは、のほほんとしておりまして。聖女の能力に胡坐をかいて、勉強とかあまりしなかったものですから。
我ながら、マジ、クソです。
聖女ということ以外、なんの役にも立たないんだからぁぁ。
本当に、パパが一緒に異世界に来てくれて、良かったです。
頭の良いパパが、優しく丁寧に教えてくれたから。脳みそに勉強がしゅわっと吸収したのです。
ありがたやありがたや、パパ。
パパのおかげでなんとか第一王子の体面が保てていまするぅ。
という感じに、学園では過ごしています。
あ、ノアとかぼくの護衛とかはね。
ぼくらが学園にいる間は別のお仕事をしているんだ。
責任を持って学園側が生徒を守ります、ということでね。
始業までと。放課後は、護衛についてもいいんだけど。そんな感じ。
だから、前世のメイはね。
授業中は王子に話しかけられないでしょ?
授業前と授業後はレギがくっついてて、話しかけられないでしょ?
なのでお昼休みとか、授業後からレギが迎えに来るまでのほんのちょっとの間に。王子にアタックかましていたんだよね。
ウザいねぇ。
ジョシュアは前世のことを夢に見て、メイのこと好きだったなんて言うけど。
実は、あまり信じていないんだ。
だって、自分から見てもメイはウザかったし。パパもウザいって言いました。
あれ、好きになるかなぁ? って思うのです。
まぁ、前世の話はいいのだけど。
護衛はそんなふうに、朝と昼過ぎにつく感じなのです。
そして放課後になりまして。
ミカエラのお迎えの馬車が彼女を乗せて走り去るのを、ぼくはジョシュアとともにお見送りして。
ぼくはジョシュアと同じ馬車に乗っておうちに帰ります。
ノアも馬車に乗ります。
ぼくの護衛は、影ながらついてきます。うむ。
「なぁ、コエダ。本当に護衛はいるのだろうな? いつも見えないから小枝がひとりでいるように見えて、怖いんだが?」
ジョシュアが心配して聞いてきますが。
「いますよねぇ、ノアならわかりますよねぇ?」
たずねると、ノアは小さくうなずきます。いつもながら寡黙です。
あ、子供の頃はぼくに、よくレギがくっついていましたが。
お年なので、子供のワチャワチャにはついてこられないということで。
あぁあ、お年と言ったら、同い年のパパに失礼なのですけどね?
ワチャワチャできないお年頃と言いますかね。
落ち着いてお仕事ができる、父上の護衛騎士にまた戻った、みたいな感じです。
前世では、レギは同じ頃にジョシュア王子にくっついていましたけど。
きっと王子の命を守るために、お年なりに一生懸命頑張ったのでしょうね?
それなのにメイったら、レギの目を盗んで王子に絡んでいって…何度も遠くからレギが駆けつけてくる場面を見ましたよ。
もうホント、メイがすみませぇん。
今世は、ゆっくりのんびりお仕事してくださいませ、レギ。
「つか、ぼくのことはジョシュアが守ればいいのです。ずっと一緒にいるのだし。コエダは私が守るって、耳タコなくらい言っていたでしょ?」
「まぁ、私がいるところではそれでいいが…」
「ジョシュアがいないときは大抵ミカエラがそばにいますし。いざというときにはナマズビームも出せます」
ぼくのブローチであるナマズの宝石を指でさす。
嘘です。ビームは出ませんが。
心配性の婚約者候補に、嘘も方便というやつです。
案の定、うさん臭そうにジト目で見られますが。
「ふはっ、昔からコエダは変わらないなぁ。イケメン王子になったのに、相変わらず珍妙だ」
急に笑い出しました。
ジョシュアは爆笑をおさえ込んで、くくくっと笑いますが。
珍妙とは、なにやら失礼ですねぇ。
ま、笑顔が可愛いから、許す。うむ。
そんな話をしているうちに、おうちにつきました。
王宮の、居住区域です。
「「「おかえりなさーい、マイダーリン」」」
出迎えてくれるのは、九歳の姫っ子マルティーヌ、八歳のエラルド、七歳のギルアルス。エルアンリ様のお子様で、ぼくの伴侶候補です。
みなさん、エルアンリ様から受け継がれた、きれいな緑髪です。
続いてジュリアが、両腕に生まれたての赤ん坊ルクスとメルクを腕に抱いて現れた。
双子です。つかジュリア、もう伴侶候補は結構です。
ぼくが暮らしている王宮の居住区域は。
ババーンと建つ王宮の、裏っ側に回ったところにある一画で。裏口が玄関みたいになっています。
そこで、ジュリアがなぜぼくらを出迎えるかというと…。
えぇ、一緒に住んでいるからです。
それは、エルアンリ様の一言からはじまりました。
「コエダの伴侶を巡る戦いは、私たちが不利です。兄上、一緒に暮らすことによって、私たちの子にコエダと接する機会を与えていただけませんか?」
ぼくを巡る争いというのは。
ぼくが十歳のときに公にした。コエダ争奪戦。ぼくのお相手誰ですかぁ、大会です。
いえ、大会ではないけど。
いわゆる、王族の誰かとぼくが結婚したら、ぼくが王になる。というやつです。
そしてぼくのお相手が、スタインベルン国の後継者ということでもあります。王家の血筋に限る。
ぼくが誰と恋をするのかは、ぼくにもわからないけど。
普通に考えて伴侶候補は、年の近いジョシュアやサーシャ。
すでに立場を理解する年齢であるオズワルドとルリア。
そして父上の姪にあたるミカエラ。
王になるなら、その辺りに人選は絞られますが。
エルアンリ様の娘であるマルティーヌも七歳差で。ギリ、候補に入るかなぁ?
いやぁ、赤ちゃんの頃から知っている子に、そのような気持ちはぼくは持てないんだけどね。
しかし、オズワルドは言う。
「十歳くらいの年の差は、成人すればあまり気にならない。俺とコエダも十歳離れているが、俺は小枝が俺の伴侶になっても気にならないぞぉ?」
などと、遠回しに口説いてくる始末。
まぁ二十六歳のオズワルドや二十五歳のルリアは、アリっちゃあアリですけど。
ジョシュアが奥歯を噛んで血を出しそうな勢いなので、そういうことを言うのはやめてください。
話を戻しまして、つまり。
エルアンリ様は、ぼくが彼の御子たちと仲良くなる機会が欲しいということなのです。
出来れば平等に機会を与えたい父上は。それに了承し。
エルアンリ一家は王宮の居住区に越してきたわけですが。
そうなったら、他の兄妹もずるぅいってなりますよね。
で。今は。
ミカエラをのぞいた、ぼくの伴侶候補全員が同じ屋敷に住むという、摩訶不思議になったのであります。どっゆことっ?
あ、サーシャはね。十八歳のときに隣国の王子の元に嫁入りしました。
輿入れする前日まで、ぼくのお嫁さんになりたかったぁ、なんて。ぼくをからかいましたが。
翌日は晴れやかな笑顔で、隣国に旅立ったのでした。
遠ざかる馬車をみつめて、ちょっと悲しくなったぼく。
しばらく同じ屋敷で暮らしていたジョシュアはもっと、悲しいんじゃないかなぁ?
と思ったけど。
「はぁ、やっとひとりライバル脱落だ。しかしまだまだ手ごわい連中が残っているぅ」
そうして指折り数えるのだった。
父上にはどっしり構えていろと言われているのに。
ジョシュアはこれに関してはいつも戦々恐々です。落ち着いてぇ。
まぁ、ぼくのせいですけど。てへっ。
でもねぇ。コエダ争奪戦だなんて言っていますけどねぇ。
みんなが王宮に集まるのは…パパのご飯目当てなんじゃないかと思っているのです。
パパは王妃になっても、父上のためにご飯作りを欠かしません。
父上はパパのご飯じゃないと、味覚が働かないみたいなのでね。
ぼくも似たようなものですけど。
しかし他のみなさんは。パパの異世界料理を食べると活力が湧くみたいなのです。
「小枝ぁ、帰ってきた? ちょっと手伝って」
パパが玄関から顔を出して、ぼくに言う。
こういうときは大抵、料理のお手伝いだ。
「着替えてくるから、ちょっと待ってて、パパ」
おかえりのハグをパパにキュッとしてから、ぼくは階段を上がって自室に向かった。
シャツとズボンの軽装に着替えたぼくが厨房へ行くと。
パパとハッカク、そして着替え済みのジョシュアもいた。甘い香りがする。
そして、白いものと黒いものが並んでいて。これは…。
「パパ、これはお萩ですね?」
「コエダ、オハギとはなんだ?」
ジョシュアが聞いてくるのですが。なんだと言われるとぉ…。
そしてパパを見る。
「お萩はね、ご飯ともち米を一緒に炊いたのを、軽く棒で突いてね。それを丸めて。あんこでくるんだものだよ。あんこは小豆を茹でて、砂糖を入れて煮詰めたもの。俺は甘さ控えめが好きだから、砂糖は加減してあるよ」
パパの説明に、ジョシュアはうむとうなずいています。
「おいしいのか? コエダ」
「お萩はねぇ、中のもちっとしたのに味はないけど、外側のあんこが口の中で混ざり合うと、もっちりで甘ウマで、美味しいんだぁぁ? ケーキと違って上品な甘さがくどくなくて、いくらでも食べられちゃう。ときどき無性に食べたくなるやつぅ。ねぇ、パパ?」
ぼくがパパに言うと。優しくフフって笑って、うなずいた。
「そうそう、無性に食べたくなる。だから久しぶりに作っちゃった」
そうして、すでに冷めているご飯を丸めてあんこで包んで。それをひたすら繰り返し。
大皿の上にお萩を積み上げていった。
これを見ていたら…。
「あぁあ、無性にハンバーグ雪崩が食べたくなったなぁ」
「そう? じゃあ、今日はハンバーグだな」
ぼくはこっそり、ガッツポーズです。
でもまずは、お萩を食べましょう。小腹がすきました。
食堂で座っていると、テーブルの真ん中にハッカクがお萩の皿を置いて。子供たちにせっせと配っていく。
ちなみにパパは、父上がいる執務室にお萩とお茶を持って行きました。
お仕事もちょっと休憩の時間ですね。
そしてジョシュアがお萩をひと口食べると。
少し目をみはった。
「うーん、柔らかい甘さがいいし。このもっちもっちの食感が美味しいな。そして紅茶に合う」
「でしょう? 緑茶もいいけど、紅茶にも合うんだよねぇ」
ぼくもお萩を食べて、紅茶を飲んだ。
あんこの甘みが口の中に行き渡ったあとで、紅茶がスッキリ流してくれるんだ。
そうしてアフタヌーンティーを楽しみながら、子供たちがお萩を頬張って口の周りを汚しているのを見ると。
自分たちが子供のときのことを思い出す。
「ふふ、ジョシュアも口の周りをよくベッタベタにしていましたよね?」
ぼくは、お萩は手づかみで食べるけど。
ジョシュアはフォークでひと口サイズに割って食べている。
「王子、手づかみはよくないですよ」
昔、ぼくがジョシュアに注意したことを、今度はジョシュアがぼくに言ってるぅ。
「お萩は、こうやって食べるものなの。まぁ、お箸で食べることもあるけどぉ?」
チョイとウィンクすると。
ジョシュアは、んんんんっ、と咳払いする。
餅がのどに詰まったぁ?
「大丈夫ぅ? また背中ガンってするぅ?」
「牢屋送りになりたくなかったら、やめとけ」
言われて、ぼくはふふんと笑う。
そんなこともありましたなぁ。
なんて。そんなふうに、昔のことを笑い話に出来るくらいには。
ぼくらは大人になった。
学園の校舎の中では、同学年であるジョシュアとミカエラと一緒にいることが多い。
ミカエラは魔術に関しては第一人者で。
火、水、土、風、の四大元素プラス闇の魔法を扱える稀有な人物だった。
治癒魔法は聖魔法に分類され、それは扱えるが。
浄化は別区分になるらしく。それは出来ない、みたいな?
まぁつまり。浄化以外はほとんど全部できるということです。
魔法に関しては、ディオン父上もかなりの高精度を持っているらしいが。それと並ぶのだって。
確かに父上も、ぼくに隷属拒否の魔法を施して。それは今も有効ですからね。すごいのです。
しかし、そのミカエラに魔法を教わったジョシュアは。
火力だけならミカエラをしのぐらしい。
細やかで精緻に魔法を扱うミカエラと、パワーのジョシュア。
どちらが優れている、ということは言えず。どちらもスゴーイのだ。
ぼくなどは…聖魔法しか使えないのでね。
ミカエラに教えてもらったけど、ライターほどの火も出せなかったのでね。残念です。
憧れるんだけどなぁ、ジョシュアみたいな、火をボボンと投げたり、爆炎ドカーンってやつ。
まぁそんな感じで。
ミカエラは魔法、ジョシュアは剣技、ぼくは座学で。
一応、優秀な成績をおさめております。
王位継承者になったので、帝王学なんぞもかじっておりますが。
人の上に立つ者、人より優秀であれ。ということで。
万民の前に立っても恥ずかしくないくらいの成績は取らなければならないということです。はい。
前世のメイは、のほほんとしておりまして。聖女の能力に胡坐をかいて、勉強とかあまりしなかったものですから。
我ながら、マジ、クソです。
聖女ということ以外、なんの役にも立たないんだからぁぁ。
本当に、パパが一緒に異世界に来てくれて、良かったです。
頭の良いパパが、優しく丁寧に教えてくれたから。脳みそに勉強がしゅわっと吸収したのです。
ありがたやありがたや、パパ。
パパのおかげでなんとか第一王子の体面が保てていまするぅ。
という感じに、学園では過ごしています。
あ、ノアとかぼくの護衛とかはね。
ぼくらが学園にいる間は別のお仕事をしているんだ。
責任を持って学園側が生徒を守ります、ということでね。
始業までと。放課後は、護衛についてもいいんだけど。そんな感じ。
だから、前世のメイはね。
授業中は王子に話しかけられないでしょ?
授業前と授業後はレギがくっついてて、話しかけられないでしょ?
なのでお昼休みとか、授業後からレギが迎えに来るまでのほんのちょっとの間に。王子にアタックかましていたんだよね。
ウザいねぇ。
ジョシュアは前世のことを夢に見て、メイのこと好きだったなんて言うけど。
実は、あまり信じていないんだ。
だって、自分から見てもメイはウザかったし。パパもウザいって言いました。
あれ、好きになるかなぁ? って思うのです。
まぁ、前世の話はいいのだけど。
護衛はそんなふうに、朝と昼過ぎにつく感じなのです。
そして放課後になりまして。
ミカエラのお迎えの馬車が彼女を乗せて走り去るのを、ぼくはジョシュアとともにお見送りして。
ぼくはジョシュアと同じ馬車に乗っておうちに帰ります。
ノアも馬車に乗ります。
ぼくの護衛は、影ながらついてきます。うむ。
「なぁ、コエダ。本当に護衛はいるのだろうな? いつも見えないから小枝がひとりでいるように見えて、怖いんだが?」
ジョシュアが心配して聞いてきますが。
「いますよねぇ、ノアならわかりますよねぇ?」
たずねると、ノアは小さくうなずきます。いつもながら寡黙です。
あ、子供の頃はぼくに、よくレギがくっついていましたが。
お年なので、子供のワチャワチャにはついてこられないということで。
あぁあ、お年と言ったら、同い年のパパに失礼なのですけどね?
ワチャワチャできないお年頃と言いますかね。
落ち着いてお仕事ができる、父上の護衛騎士にまた戻った、みたいな感じです。
前世では、レギは同じ頃にジョシュア王子にくっついていましたけど。
きっと王子の命を守るために、お年なりに一生懸命頑張ったのでしょうね?
それなのにメイったら、レギの目を盗んで王子に絡んでいって…何度も遠くからレギが駆けつけてくる場面を見ましたよ。
もうホント、メイがすみませぇん。
今世は、ゆっくりのんびりお仕事してくださいませ、レギ。
「つか、ぼくのことはジョシュアが守ればいいのです。ずっと一緒にいるのだし。コエダは私が守るって、耳タコなくらい言っていたでしょ?」
「まぁ、私がいるところではそれでいいが…」
「ジョシュアがいないときは大抵ミカエラがそばにいますし。いざというときにはナマズビームも出せます」
ぼくのブローチであるナマズの宝石を指でさす。
嘘です。ビームは出ませんが。
心配性の婚約者候補に、嘘も方便というやつです。
案の定、うさん臭そうにジト目で見られますが。
「ふはっ、昔からコエダは変わらないなぁ。イケメン王子になったのに、相変わらず珍妙だ」
急に笑い出しました。
ジョシュアは爆笑をおさえ込んで、くくくっと笑いますが。
珍妙とは、なにやら失礼ですねぇ。
ま、笑顔が可愛いから、許す。うむ。
そんな話をしているうちに、おうちにつきました。
王宮の、居住区域です。
「「「おかえりなさーい、マイダーリン」」」
出迎えてくれるのは、九歳の姫っ子マルティーヌ、八歳のエラルド、七歳のギルアルス。エルアンリ様のお子様で、ぼくの伴侶候補です。
みなさん、エルアンリ様から受け継がれた、きれいな緑髪です。
続いてジュリアが、両腕に生まれたての赤ん坊ルクスとメルクを腕に抱いて現れた。
双子です。つかジュリア、もう伴侶候補は結構です。
ぼくが暮らしている王宮の居住区域は。
ババーンと建つ王宮の、裏っ側に回ったところにある一画で。裏口が玄関みたいになっています。
そこで、ジュリアがなぜぼくらを出迎えるかというと…。
えぇ、一緒に住んでいるからです。
それは、エルアンリ様の一言からはじまりました。
「コエダの伴侶を巡る戦いは、私たちが不利です。兄上、一緒に暮らすことによって、私たちの子にコエダと接する機会を与えていただけませんか?」
ぼくを巡る争いというのは。
ぼくが十歳のときに公にした。コエダ争奪戦。ぼくのお相手誰ですかぁ、大会です。
いえ、大会ではないけど。
いわゆる、王族の誰かとぼくが結婚したら、ぼくが王になる。というやつです。
そしてぼくのお相手が、スタインベルン国の後継者ということでもあります。王家の血筋に限る。
ぼくが誰と恋をするのかは、ぼくにもわからないけど。
普通に考えて伴侶候補は、年の近いジョシュアやサーシャ。
すでに立場を理解する年齢であるオズワルドとルリア。
そして父上の姪にあたるミカエラ。
王になるなら、その辺りに人選は絞られますが。
エルアンリ様の娘であるマルティーヌも七歳差で。ギリ、候補に入るかなぁ?
いやぁ、赤ちゃんの頃から知っている子に、そのような気持ちはぼくは持てないんだけどね。
しかし、オズワルドは言う。
「十歳くらいの年の差は、成人すればあまり気にならない。俺とコエダも十歳離れているが、俺は小枝が俺の伴侶になっても気にならないぞぉ?」
などと、遠回しに口説いてくる始末。
まぁ二十六歳のオズワルドや二十五歳のルリアは、アリっちゃあアリですけど。
ジョシュアが奥歯を噛んで血を出しそうな勢いなので、そういうことを言うのはやめてください。
話を戻しまして、つまり。
エルアンリ様は、ぼくが彼の御子たちと仲良くなる機会が欲しいということなのです。
出来れば平等に機会を与えたい父上は。それに了承し。
エルアンリ一家は王宮の居住区に越してきたわけですが。
そうなったら、他の兄妹もずるぅいってなりますよね。
で。今は。
ミカエラをのぞいた、ぼくの伴侶候補全員が同じ屋敷に住むという、摩訶不思議になったのであります。どっゆことっ?
あ、サーシャはね。十八歳のときに隣国の王子の元に嫁入りしました。
輿入れする前日まで、ぼくのお嫁さんになりたかったぁ、なんて。ぼくをからかいましたが。
翌日は晴れやかな笑顔で、隣国に旅立ったのでした。
遠ざかる馬車をみつめて、ちょっと悲しくなったぼく。
しばらく同じ屋敷で暮らしていたジョシュアはもっと、悲しいんじゃないかなぁ?
と思ったけど。
「はぁ、やっとひとりライバル脱落だ。しかしまだまだ手ごわい連中が残っているぅ」
そうして指折り数えるのだった。
父上にはどっしり構えていろと言われているのに。
ジョシュアはこれに関してはいつも戦々恐々です。落ち着いてぇ。
まぁ、ぼくのせいですけど。てへっ。
でもねぇ。コエダ争奪戦だなんて言っていますけどねぇ。
みんなが王宮に集まるのは…パパのご飯目当てなんじゃないかと思っているのです。
パパは王妃になっても、父上のためにご飯作りを欠かしません。
父上はパパのご飯じゃないと、味覚が働かないみたいなのでね。
ぼくも似たようなものですけど。
しかし他のみなさんは。パパの異世界料理を食べると活力が湧くみたいなのです。
「小枝ぁ、帰ってきた? ちょっと手伝って」
パパが玄関から顔を出して、ぼくに言う。
こういうときは大抵、料理のお手伝いだ。
「着替えてくるから、ちょっと待ってて、パパ」
おかえりのハグをパパにキュッとしてから、ぼくは階段を上がって自室に向かった。
シャツとズボンの軽装に着替えたぼくが厨房へ行くと。
パパとハッカク、そして着替え済みのジョシュアもいた。甘い香りがする。
そして、白いものと黒いものが並んでいて。これは…。
「パパ、これはお萩ですね?」
「コエダ、オハギとはなんだ?」
ジョシュアが聞いてくるのですが。なんだと言われるとぉ…。
そしてパパを見る。
「お萩はね、ご飯ともち米を一緒に炊いたのを、軽く棒で突いてね。それを丸めて。あんこでくるんだものだよ。あんこは小豆を茹でて、砂糖を入れて煮詰めたもの。俺は甘さ控えめが好きだから、砂糖は加減してあるよ」
パパの説明に、ジョシュアはうむとうなずいています。
「おいしいのか? コエダ」
「お萩はねぇ、中のもちっとしたのに味はないけど、外側のあんこが口の中で混ざり合うと、もっちりで甘ウマで、美味しいんだぁぁ? ケーキと違って上品な甘さがくどくなくて、いくらでも食べられちゃう。ときどき無性に食べたくなるやつぅ。ねぇ、パパ?」
ぼくがパパに言うと。優しくフフって笑って、うなずいた。
「そうそう、無性に食べたくなる。だから久しぶりに作っちゃった」
そうして、すでに冷めているご飯を丸めてあんこで包んで。それをひたすら繰り返し。
大皿の上にお萩を積み上げていった。
これを見ていたら…。
「あぁあ、無性にハンバーグ雪崩が食べたくなったなぁ」
「そう? じゃあ、今日はハンバーグだな」
ぼくはこっそり、ガッツポーズです。
でもまずは、お萩を食べましょう。小腹がすきました。
食堂で座っていると、テーブルの真ん中にハッカクがお萩の皿を置いて。子供たちにせっせと配っていく。
ちなみにパパは、父上がいる執務室にお萩とお茶を持って行きました。
お仕事もちょっと休憩の時間ですね。
そしてジョシュアがお萩をひと口食べると。
少し目をみはった。
「うーん、柔らかい甘さがいいし。このもっちもっちの食感が美味しいな。そして紅茶に合う」
「でしょう? 緑茶もいいけど、紅茶にも合うんだよねぇ」
ぼくもお萩を食べて、紅茶を飲んだ。
あんこの甘みが口の中に行き渡ったあとで、紅茶がスッキリ流してくれるんだ。
そうしてアフタヌーンティーを楽しみながら、子供たちがお萩を頬張って口の周りを汚しているのを見ると。
自分たちが子供のときのことを思い出す。
「ふふ、ジョシュアも口の周りをよくベッタベタにしていましたよね?」
ぼくは、お萩は手づかみで食べるけど。
ジョシュアはフォークでひと口サイズに割って食べている。
「王子、手づかみはよくないですよ」
昔、ぼくがジョシュアに注意したことを、今度はジョシュアがぼくに言ってるぅ。
「お萩は、こうやって食べるものなの。まぁ、お箸で食べることもあるけどぉ?」
チョイとウィンクすると。
ジョシュアは、んんんんっ、と咳払いする。
餅がのどに詰まったぁ?
「大丈夫ぅ? また背中ガンってするぅ?」
「牢屋送りになりたくなかったら、やめとけ」
言われて、ぼくはふふんと笑う。
そんなこともありましたなぁ。
なんて。そんなふうに、昔のことを笑い話に出来るくらいには。
ぼくらは大人になった。
439
お気に入りに追加
1,277
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

聖女の兄で、すみません!
たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。
三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。
そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。
BL。ラブコメ異世界ファンタジー。
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです
野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。
あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは??
お菓子無双を夢見る主人公です。
********
小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。
基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。
ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ
本編完結しました〜
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる