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2-20 ぼくらは大人になった

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     ◆ぼくらは大人になった

 学園の校舎の中では、同学年であるジョシュアとミカエラと一緒にいることが多い。
 ミカエラは魔術に関しては第一人者で。
 火、水、土、風、の四大元素プラス闇の魔法を扱える稀有な人物だった。
 治癒魔法は聖魔法に分類され、それは扱えるが。
 浄化は別区分になるらしく。それは出来ない、みたいな?
 まぁつまり。浄化以外はほとんど全部できるということです。

 魔法に関しては、ディオン父上もかなりの高精度を持っているらしいが。それと並ぶのだって。
 確かに父上も、ぼくに隷属拒否の魔法を施して。それは今も有効ですからね。すごいのです。

 しかし、そのミカエラに魔法を教わったジョシュアは。
 火力だけならミカエラをしのぐらしい。
 細やかで精緻に魔法を扱うミカエラと、パワーのジョシュア。
 どちらが優れている、ということは言えず。どちらもスゴーイのだ。

 ぼくなどは…聖魔法しか使えないのでね。

 ミカエラに教えてもらったけど、ライターほどの火も出せなかったのでね。残念です。
 憧れるんだけどなぁ、ジョシュアみたいな、火をボボンと投げたり、爆炎ドカーンってやつ。

 まぁそんな感じで。
 ミカエラは魔法、ジョシュアは剣技、ぼくは座学で。
 一応、優秀な成績をおさめております。
 王位継承者になったので、帝王学なんぞもかじっておりますが。
 人の上に立つ者、人より優秀であれ。ということで。
 万民の前に立っても恥ずかしくないくらいの成績は取らなければならないということです。はい。
 前世のメイは、のほほんとしておりまして。聖女の能力に胡坐あぐらをかいて、勉強とかあまりしなかったものですから。
 我ながら、マジ、クソです。
 聖女ということ以外、なんの役にも立たないんだからぁぁ。
 本当に、パパが一緒に異世界に来てくれて、良かったです。
 頭の良いパパが、優しく丁寧に教えてくれたから。脳みそに勉強がしゅわっと吸収したのです。
 ありがたやありがたや、パパ。
 パパのおかげでなんとか第一王子の体面が保てていまするぅ。

 という感じに、学園では過ごしています。
 あ、ノアとかぼくの護衛とかはね。
 ぼくらが学園にいる間は別のお仕事をしているんだ。
 責任を持って学園側が生徒を守ります、ということでね。
 始業までと。放課後は、護衛についてもいいんだけど。そんな感じ。

 だから、前世のメイはね。
 授業中は王子に話しかけられないでしょ?
 授業前と授業後はレギがくっついてて、話しかけられないでしょ?
 なのでお昼休みとか、授業後からレギが迎えに来るまでのほんのちょっとの間に。王子にアタックかましていたんだよね。
 ウザいねぇ。
 ジョシュアは前世のことを夢に見て、メイのこと好きだったなんて言うけど。
 実は、あまり信じていないんだ。
 だって、自分から見てもメイはウザかったし。パパもウザいって言いました。
 あれ、好きになるかなぁ? って思うのです。
 まぁ、前世の話はいいのだけど。
 護衛はそんなふうに、朝と昼過ぎにつく感じなのです。

 そして放課後になりまして。
 ミカエラのお迎えの馬車が彼女を乗せて走り去るのを、ぼくはジョシュアとともにお見送りして。
 ぼくはジョシュアと同じ馬車に乗っておうちに帰ります。
 ノアも馬車に乗ります。
 ぼくの護衛は、影ながらついてきます。うむ。

「なぁ、コエダ。本当に護衛はいるのだろうな? いつも見えないから小枝がひとりでいるように見えて、怖いんだが?」
 ジョシュアが心配して聞いてきますが。
「いますよねぇ、ノアならわかりますよねぇ?」
 たずねると、ノアは小さくうなずきます。いつもながら寡黙です。

 あ、子供の頃はぼくに、よくレギがくっついていましたが。
 お年なので、子供のワチャワチャにはついてこられないということで。
 あぁあ、お年と言ったら、同い年のパパに失礼なのですけどね?
 ワチャワチャできないお年頃と言いますかね。
 落ち着いてお仕事ができる、父上の護衛騎士にまた戻った、みたいな感じです。

 前世では、レギは同じ頃にジョシュア王子にくっついていましたけど。
 きっと王子の命を守るために、お年なりに一生懸命頑張ったのでしょうね?
 それなのにメイったら、レギの目を盗んで王子に絡んでいって…何度も遠くからレギが駆けつけてくる場面を見ましたよ。
 もうホント、メイがすみませぇん。
 今世は、ゆっくりのんびりお仕事してくださいませ、レギ。

「つか、ぼくのことはジョシュアが守ればいいのです。ずっと一緒にいるのだし。コエダは私が守るって、耳タコなくらい言っていたでしょ?」
「まぁ、私がいるところではそれでいいが…」
「ジョシュアがいないときは大抵ミカエラがそばにいますし。いざというときにはナマズビームも出せます」
 ぼくのブローチであるナマズの宝石を指でさす。
 嘘です。ビームは出ませんが。
 心配性の婚約者候補に、嘘も方便というやつです。

 案の定、うさん臭そうにジト目で見られますが。
「ふはっ、昔からコエダは変わらないなぁ。イケメン王子になったのに、相変わらず珍妙だ」
 急に笑い出しました。
 ジョシュアは爆笑をおさえ込んで、くくくっと笑いますが。
 珍妙とは、なにやら失礼ですねぇ。
 ま、笑顔が可愛いから、許す。うむ。

 そんな話をしているうちに、おうちにつきました。
 王宮の、居住区域です。
「「「おかえりなさーい、マイダーリン」」」
 出迎えてくれるのは、九歳の姫っ子マルティーヌ、八歳のエラルド、七歳のギルアルス。エルアンリ様のお子様で、ぼくの伴侶候補です。
 みなさん、エルアンリ様から受け継がれた、きれいな緑髪です。
 続いてジュリアが、両腕に生まれたての赤ん坊ルクスとメルクを腕に抱いて現れた。
 双子です。つかジュリア、もう伴侶候補は結構です。

 ぼくが暮らしている王宮の居住区域は。
 ババーンと建つ王宮の、裏っ側に回ったところにある一画で。裏口が玄関みたいになっています。
 そこで、ジュリアがなぜぼくらを出迎えるかというと…。

 えぇ、一緒に住んでいるからです。

 それは、エルアンリ様の一言からはじまりました。
「コエダの伴侶を巡る戦いは、私たちが不利です。兄上、一緒に暮らすことによって、私たちの子にコエダと接する機会を与えていただけませんか?」
 ぼくを巡る争いというのは。
 ぼくが十歳のときに公にした。コエダ争奪戦。ぼくのお相手誰ですかぁ、大会です。
 いえ、大会ではないけど。
 いわゆる、王族の誰かとぼくが結婚したら、ぼくが王になる。というやつです。
 そしてぼくのお相手が、スタインベルン国の後継者ということでもあります。王家の血筋に限る。

 ぼくが誰と恋をするのかは、ぼくにもわからないけど。
 普通に考えて伴侶候補は、年の近いジョシュアやサーシャ。
 すでに立場を理解する年齢であるオズワルドとルリア。
 そして父上の姪にあたるミカエラ。
 王になるなら、その辺りに人選は絞られますが。
 エルアンリ様の娘であるマルティーヌも七歳差で。ギリ、候補に入るかなぁ?
 いやぁ、赤ちゃんの頃から知っている子に、そのような気持ちはぼくは持てないんだけどね。

 しかし、オズワルドは言う。
「十歳くらいの年の差は、成人すればあまり気にならない。俺とコエダも十歳離れているが、俺は小枝が俺の伴侶になっても気にならないぞぉ?」
 などと、遠回しに口説いてくる始末。
 まぁ二十六歳のオズワルドや二十五歳のルリアは、アリっちゃあアリですけど。
 ジョシュアが奥歯を噛んで血を出しそうな勢いなので、そういうことを言うのはやめてください。

 話を戻しまして、つまり。
 エルアンリ様は、ぼくが彼の御子たちと仲良くなる機会が欲しいということなのです。
 出来れば平等に機会を与えたい父上は。それに了承し。
 エルアンリ一家は王宮の居住区に越してきたわけですが。
 そうなったら、他の兄妹もずるぅいってなりますよね。

 で。今は。
 ミカエラをのぞいた、ぼくの伴侶候補全員が同じ屋敷に住むという、摩訶不思議になったのであります。どっゆことっ?

 あ、サーシャはね。十八歳のときに隣国の王子の元に嫁入りしました。
 輿入れする前日まで、ぼくのお嫁さんになりたかったぁ、なんて。ぼくをからかいましたが。
 翌日は晴れやかな笑顔で、隣国に旅立ったのでした。
 遠ざかる馬車をみつめて、ちょっと悲しくなったぼく。
 しばらく同じ屋敷で暮らしていたジョシュアはもっと、悲しいんじゃないかなぁ?
 と思ったけど。

「はぁ、やっとひとりライバル脱落だ。しかしまだまだ手ごわい連中が残っているぅ」
 そうして指折り数えるのだった。
 父上にはどっしり構えていろと言われているのに。
 ジョシュアはこれに関してはいつも戦々恐々です。落ち着いてぇ。
 まぁ、ぼくのせいですけど。てへっ。

 でもねぇ。コエダ争奪戦だなんて言っていますけどねぇ。
 みんなが王宮に集まるのは…パパのご飯目当てなんじゃないかと思っているのです。
 パパは王妃になっても、父上のためにご飯作りを欠かしません。
 父上はパパのご飯じゃないと、味覚が働かないみたいなのでね。
 ぼくも似たようなものですけど。

 しかし他のみなさんは。パパの異世界料理を食べると活力が湧くみたいなのです。

「小枝ぁ、帰ってきた? ちょっと手伝って」
 パパが玄関から顔を出して、ぼくに言う。
 こういうときは大抵、料理のお手伝いだ。
「着替えてくるから、ちょっと待ってて、パパ」
 おかえりのハグをパパにキュッとしてから、ぼくは階段を上がって自室に向かった。

 シャツとズボンの軽装に着替えたぼくが厨房へ行くと。
 パパとハッカク、そして着替え済みのジョシュアもいた。甘い香りがする。
 そして、白いものと黒いものが並んでいて。これは…。

「パパ、これはお萩ですね?」

「コエダ、オハギとはなんだ?」
 ジョシュアが聞いてくるのですが。なんだと言われるとぉ…。
 そしてパパを見る。
「お萩はね、ご飯ともち米を一緒に炊いたのを、軽く棒で突いてね。それを丸めて。あんこでくるんだものだよ。あんこは小豆を茹でて、砂糖を入れて煮詰めたもの。俺は甘さ控えめが好きだから、砂糖は加減してあるよ」
 パパの説明に、ジョシュアはうむとうなずいています。
「おいしいのか? コエダ」
「お萩はねぇ、中のもちっとしたのに味はないけど、外側のあんこが口の中で混ざり合うと、もっちりで甘ウマで、美味しいんだぁぁ? ケーキと違って上品な甘さがくどくなくて、いくらでも食べられちゃう。ときどき無性に食べたくなるやつぅ。ねぇ、パパ?」
 ぼくがパパに言うと。優しくフフって笑って、うなずいた。
「そうそう、無性に食べたくなる。だから久しぶりに作っちゃった」
 そうして、すでに冷めているご飯を丸めてあんこで包んで。それをひたすら繰り返し。
 大皿の上にお萩を積み上げていった。

 これを見ていたら…。
「あぁあ、無性にハンバーグ雪崩が食べたくなったなぁ」
「そう? じゃあ、今日はハンバーグだな」
 ぼくはこっそり、ガッツポーズです。

 でもまずは、お萩を食べましょう。小腹がすきました。

 食堂で座っていると、テーブルの真ん中にハッカクがお萩の皿を置いて。子供たちにせっせと配っていく。
 ちなみにパパは、父上がいる執務室にお萩とお茶を持って行きました。
 お仕事もちょっと休憩の時間ですね。

 そしてジョシュアがお萩をひと口食べると。
 少し目をみはった。
「うーん、柔らかい甘さがいいし。このもっちもっちの食感が美味しいな。そして紅茶に合う」
「でしょう? 緑茶もいいけど、紅茶にも合うんだよねぇ」
 ぼくもお萩を食べて、紅茶を飲んだ。
 あんこの甘みが口の中に行き渡ったあとで、紅茶がスッキリ流してくれるんだ。

 そうしてアフタヌーンティーを楽しみながら、子供たちがお萩を頬張って口の周りを汚しているのを見ると。
 自分たちが子供のときのことを思い出す。
「ふふ、ジョシュアも口の周りをよくベッタベタにしていましたよね?」
 ぼくは、お萩は手づかみで食べるけど。
 ジョシュアはフォークでひと口サイズに割って食べている。
「王子、手づかみはよくないですよ」
 昔、ぼくがジョシュアに注意したことを、今度はジョシュアがぼくに言ってるぅ。
「お萩は、こうやって食べるものなの。まぁ、お箸で食べることもあるけどぉ?」
 チョイとウィンクすると。
 ジョシュアは、んんんんっ、と咳払いする。
 餅がのどに詰まったぁ?
「大丈夫ぅ? また背中ガンってするぅ?」
「牢屋送りになりたくなかったら、やめとけ」
 言われて、ぼくはふふんと笑う。
 そんなこともありましたなぁ。
 なんて。そんなふうに、昔のことを笑い話に出来るくらいには。

 ぼくらは大人になった。

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