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番外 ジョシュア 頬にキスして
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◆ジョシュア 頬にキスして
みんなが退室したあとの控えの間に、私は残り。
コエダとパパが座るソファの対面に腰かけた。
そして見覚えのある、分厚い革表紙の本をコエダは私の前に置いた。
「これは六歳から書き始めたので、字は今より汚いですからね。あとね、時系列はバラバラなんだ。思いついたときに書くようにしたから。いつか、書き直そうかなとも思うけどね」
そう、コエダが言う『こえだのよげんしょ』を私はパラリとめくる。
十センチほどの厚さの本の、半分くらいまでは書き進められていた。
私は意を決して、こえだのよげんしょを手に取って、読んだ。
最初の三十ページくらいに。おおよそのことは書かれてある。
たぶん、四年前に兄上たちが読んだところ。
「…なんじゃこりゃぁぁぁ」
私は、そう叫んだものの。
どこかで、わかっていたような気もした。
今朝見た夢が。ここに書かれたコエダの前世だったのだって。
「あのね、ジョシュア。ぼくは前世でメイという少女でね…」
コエダが説明しようとするのを、私は止める。
四年前はよくわからなかったことだ。
けれど、今は理解できる。
「前世で、聖女の役目を果たせなくて。今世でもう一度やり直しをしている。エルアンリ兄上が何度も教えてくれたから、わかっている。しかし私の暗殺未遂の罪で、投獄され。処刑されたとは…」
すべて、あの夢の通りだった。
鮮明に思い出したわけではないけれど。
牢屋に入れられたメイの、最後の言葉が忘れられない。
「ジョシュア王子、今更なにを言えというのですか。もうこれ以上。私を傷つけないで…」
「…ジョシュア、なんで?」
唇をはわわと震わせ、コエダはつぶやく。
彼は気づいただろうか。メイの、私への最後の言葉を。
「コエダ。私は無神経だった。なにも知らず。無邪気にコエダに婚約を申し込んで。はじめの頃は、とても怖かっただろうな? 殺された相手からの求婚なんて」
「いえぇ、ジョシュアがぼくを殺したわけでは、ないようなぁ、あるようなぁ…」
コエダはモゴモゴそう言うが。
この本に書かれたことが、コエダには事実だったのだ。
軽い気持ちでメイのキスを奪い、でも付き合わないと突き放す。
今の私から見たら、不実な男だ。
他にも、いっぱい傷つけたのだと思う。
牢屋で、あの言葉を言ったあと。
真珠のような大きな涙を、メイは黒い瞳からあふれさせた。
「ここには、ミカエラをいじめたことも書いてあるな?」
「はいぃ。ですから王子が全部が全部悪かったわけではなくてですねぇ…ぼくも悪い子だったのです」
コエダはその話ではアワアワする。
「今のミカエラを見ればわかると思うが。彼女はとても信心深いんだ。夢で見たことだから、真実なのかはわからないが。前世のミカエラも信心深くて、聖女の嫌がらせに対抗する気はなかった。ただ私が、その行いを許せなくて…」
「それはごもっともですぅ。ぼくはそれだけのことを彼女にしたのです」
「いいや、みんなの前で言うことではなかった。コエダは辱めを受けて…」
「いえいえ、あのときぼくは、ぼくが悪いことをしたのだと自覚したのです。悪い子のままでいたら、きっと今も悪い子だと思うので。もう、いいのです」
私とコエダは、前世について語り合う。
案外、食い違いもなく、話が進められた。
ということは、あの夢はやはり。コエダの前世とリンクしていたのだろうか。
「許せないと思ったのは…前世の私も。メイを憎からず想っていたからなのだ。メイに、そんなことしていないと言って欲しかったのだ」
言うと、コエダは。はわぁぁぁぁああぁあ? となって。
「いえいえ、王子はぼくを…メイを好きだなんてことはなかったですよ? 話しかけても、眉はピクリとも動かなかったし。いつも意地悪だったし。嫌がらせでチュウされたしぃ」
「チュウは、嫌がらせではない。可愛かったから…」
言うと、コエダは。はわぁぁぁぁああぁあ? となって。
頬を真っ赤に染めてうつむいたのだ。
ぐっはぁぁああ、不謹慎だが。か、わ、い、い…。
「…ジョシュアは前世のことを夢にみたのか?」
優しく微笑むパパにたずねられて。
胸を手でおさえていた私は、うなずきます。
「はい。今朝見た夢なのです。学園に通っていて。兄上たちはオズワルド兄上以外みんな死んでいた世界。こえだのよげんしょと同じ世界だと。この本を見て思いました。だけど。夢の中の私は、とても孤独で。小さな恋心も殺さないと、生きていけなかった。メイが、私を殺すために近づいてきたと思ったのです。メイにした数々の意地悪や、離れていくよう仕向けたりしたのは。それでもそばにいたいと思うのなら、本当の好きなんじゃないかって。試したような気持ちがありました。でも実際に暗殺容疑が浮上して。私はメイに裏切られたような気になったのです」
夢の中の、愚かな男の心情を、私は語る。
けれどそれは、自分の気持ちのようでもあるから。
不思議な感覚になった。
メイを傷つけたあの男と。今の自分が。同じ人物であるかのように。
「一応メイの名誉のために言うと。彼女は、兄上にそのような指示は受けていなかったようだよ? しかし。コエダのこの話は、起きたことではあるが、起きていないことでもある。コエダの経験値にはなっているが。今コエダがミカエラをいじめていないように。ジョシュアもコエダに意地悪をしていない。処刑もしていない。そんな世界を俺らは進んでいるんだよ。だから、泣かなくていいんだ」
パパに言われて、私は自分が泣いていることに気づいた。
これは、夢の中の私の、悔恨の思いなのか。
それとも。こえだのよげんしょを見て、心が引き込まれてしまったからなのか。
「おかしいな。夢を見たときは、他人事だった。ただの夢だと思ったのに。私がコエダを殺したなんて。そう思うと、苦しくて、悲しくて。なんで止められなかったんだ。好きだったのに。メイのことが好きだったのにっ」
泣きながら叫ぶと。
パパは私の隣に移動して、背中を撫でてくれて。
対面のコエダは困惑の八の字眉毛だった。
「ジョシュア、片鱗を垣間見たかもしれないが。覚えていないこと、実際君が起こしていない出来事に、それほど苦しむことはない。それよりも、前を見て。俺らはただ、コエダが処刑されることのない未来にしてもらいたいだけなんだ。今のジョシュアなら簡単なことだ。できるだろう?」
「私がコエダを処刑など、するわけがない。何度でも誓う。なにがどう転んでも、私がコエダを害することはない」
「ありがとう、ジョシュア。悲しい思いをさせて、ごめんな?」
パパは私をギュッと抱き締めた。
息子を害した憎い男、と思われてもおかしくないのに。
パパはいつだって私に優しかったし。今も優しい。
コエダの婚約を受けつけない厳しさもあったけど。
それは親としての正論であり。決して私が憎くてしたことではない。
今の私には、それがよくわかる。
だってパパは、こんなにもあたたかく私を包んでくれるから。
「ジョシュア、ぼくもね。ぼくも、今日をけじめにしようと思ったんだ。だからね、こえだのよげんしょを見せたの。ぼく、ちゃんとわかっているよ。前世のジョシュアと、今目の前にいるジョシュアは違うんだって。ジョシュアはいっつもぼくのことが大好きで、優しくて。ぼくが悲しいとそばにいてくれて。とても励ましてくれて。ぼく、前世のジョシュアの気持ちを知らなかったからね、ずっと意地悪されたって思っていたけど。そうじゃないってわかったからね、大丈夫。んん、なにが言いたいんだっけ?」
話をしていて、コエダはわからなくなったみたい。
そういうところあるよね、コエダ。でも、可愛いけど。
「えっと、あ、そうだ。だからね、ぼくこれからは。ジョシュアをジョシュアとして見るから。ちゃんと、今のジョシュアを見て。婚約者候補のこととか、いろいろ考えるからね? だから、もう少し時間が欲しいんだ。パパと父上のようなラブラブな結婚がしたいから。ぼくがちゃんと恋をして、情熱とか愛とか、そんな気持ちが出てくるまでね。待っていてほしいんだ」
「わかった」
あんまりあっさり、私が言うから。
コエダはまた、へぇぇあぁああ? となった。
「本当ですかぁ? 王子はいつも斜め上に理解しますからねぇ」
「あぁ、大丈夫だ。もう私から、婚約してとは言わない」
「ジョシュアぁ…」
ちょっと心細くなったのか、コエダは悲しそうな声を出し。
表情もしょん垂れ眉毛になる。
「だが、コエダのことをあきらめたわけじゃない。コエダには変わらずに愛を乞い続けるよ」
私の言葉に、コエダはちょっとホッとしたような顔をした。
友達としてでも親戚としてでもいい、少しは好かれているといいのだが?
「だから。コエダが前世の私の行いを…許さなくても、目をつぶることができて。今の私と婚約しても良いと思えたときには。そっと頬にキスしてくれないか? そうしたら、私はコエダにプロポーズするから」
「ジョシュア…それでいいの? 待ってとは言ったけど。ぼくはジョシュアの好きの気持ちに、甘えていないかな?」
そんな不安は、考えなくていいんだ。
ディオン兄上やパパは、コエダの恋心を優先したいのだと言っていて。
私もそれに、同意するだけなのだ。
まだ幼いコエダの恋心が、真の大人の恋愛に育つまで。
「私の気持ちは変わらない。いつだって、コエダ一筋だ。だから、待てるよ。コエダの傷ついた心が癒えるまで、待てる。そして私がコエダ一筋だということも、生涯かけて証明してみせるよ。だから、お願いだコエダ。今の私を嫌いにならないでくれ」
「嫌い? なんかないですっ。いつも言ってるでしょ? ジョシュアのこと、好きですよって。まだ、友達の好きだけど。んん、大人になったとき、もっと、いっぱいの好きになると思うのです」
コエダは自分の気持ちを一生懸命伝えていた。
だから私は微笑みかける。
コエダの大好きなパパ直伝の、柔らかい笑顔で。
「そうだな。きっと、ずっと、好きでいて。そして愛しているになったら…頬にキスして」
コエダは、その言葉を聞いて。やんわりと微笑む。
「わかりました。約束します、ジョシュア」
こえだのよげんしょを読んでも。
私とコエダの仲は変わりない。
コエダが恋を胸に秘めるまで、今まで通りご学友として、親戚として、そばにあるだけ。
願わくば。コエダが私に恋をしてくれますように…。
みんなが退室したあとの控えの間に、私は残り。
コエダとパパが座るソファの対面に腰かけた。
そして見覚えのある、分厚い革表紙の本をコエダは私の前に置いた。
「これは六歳から書き始めたので、字は今より汚いですからね。あとね、時系列はバラバラなんだ。思いついたときに書くようにしたから。いつか、書き直そうかなとも思うけどね」
そう、コエダが言う『こえだのよげんしょ』を私はパラリとめくる。
十センチほどの厚さの本の、半分くらいまでは書き進められていた。
私は意を決して、こえだのよげんしょを手に取って、読んだ。
最初の三十ページくらいに。おおよそのことは書かれてある。
たぶん、四年前に兄上たちが読んだところ。
「…なんじゃこりゃぁぁぁ」
私は、そう叫んだものの。
どこかで、わかっていたような気もした。
今朝見た夢が。ここに書かれたコエダの前世だったのだって。
「あのね、ジョシュア。ぼくは前世でメイという少女でね…」
コエダが説明しようとするのを、私は止める。
四年前はよくわからなかったことだ。
けれど、今は理解できる。
「前世で、聖女の役目を果たせなくて。今世でもう一度やり直しをしている。エルアンリ兄上が何度も教えてくれたから、わかっている。しかし私の暗殺未遂の罪で、投獄され。処刑されたとは…」
すべて、あの夢の通りだった。
鮮明に思い出したわけではないけれど。
牢屋に入れられたメイの、最後の言葉が忘れられない。
「ジョシュア王子、今更なにを言えというのですか。もうこれ以上。私を傷つけないで…」
「…ジョシュア、なんで?」
唇をはわわと震わせ、コエダはつぶやく。
彼は気づいただろうか。メイの、私への最後の言葉を。
「コエダ。私は無神経だった。なにも知らず。無邪気にコエダに婚約を申し込んで。はじめの頃は、とても怖かっただろうな? 殺された相手からの求婚なんて」
「いえぇ、ジョシュアがぼくを殺したわけでは、ないようなぁ、あるようなぁ…」
コエダはモゴモゴそう言うが。
この本に書かれたことが、コエダには事実だったのだ。
軽い気持ちでメイのキスを奪い、でも付き合わないと突き放す。
今の私から見たら、不実な男だ。
他にも、いっぱい傷つけたのだと思う。
牢屋で、あの言葉を言ったあと。
真珠のような大きな涙を、メイは黒い瞳からあふれさせた。
「ここには、ミカエラをいじめたことも書いてあるな?」
「はいぃ。ですから王子が全部が全部悪かったわけではなくてですねぇ…ぼくも悪い子だったのです」
コエダはその話ではアワアワする。
「今のミカエラを見ればわかると思うが。彼女はとても信心深いんだ。夢で見たことだから、真実なのかはわからないが。前世のミカエラも信心深くて、聖女の嫌がらせに対抗する気はなかった。ただ私が、その行いを許せなくて…」
「それはごもっともですぅ。ぼくはそれだけのことを彼女にしたのです」
「いいや、みんなの前で言うことではなかった。コエダは辱めを受けて…」
「いえいえ、あのときぼくは、ぼくが悪いことをしたのだと自覚したのです。悪い子のままでいたら、きっと今も悪い子だと思うので。もう、いいのです」
私とコエダは、前世について語り合う。
案外、食い違いもなく、話が進められた。
ということは、あの夢はやはり。コエダの前世とリンクしていたのだろうか。
「許せないと思ったのは…前世の私も。メイを憎からず想っていたからなのだ。メイに、そんなことしていないと言って欲しかったのだ」
言うと、コエダは。はわぁぁぁぁああぁあ? となって。
「いえいえ、王子はぼくを…メイを好きだなんてことはなかったですよ? 話しかけても、眉はピクリとも動かなかったし。いつも意地悪だったし。嫌がらせでチュウされたしぃ」
「チュウは、嫌がらせではない。可愛かったから…」
言うと、コエダは。はわぁぁぁぁああぁあ? となって。
頬を真っ赤に染めてうつむいたのだ。
ぐっはぁぁああ、不謹慎だが。か、わ、い、い…。
「…ジョシュアは前世のことを夢にみたのか?」
優しく微笑むパパにたずねられて。
胸を手でおさえていた私は、うなずきます。
「はい。今朝見た夢なのです。学園に通っていて。兄上たちはオズワルド兄上以外みんな死んでいた世界。こえだのよげんしょと同じ世界だと。この本を見て思いました。だけど。夢の中の私は、とても孤独で。小さな恋心も殺さないと、生きていけなかった。メイが、私を殺すために近づいてきたと思ったのです。メイにした数々の意地悪や、離れていくよう仕向けたりしたのは。それでもそばにいたいと思うのなら、本当の好きなんじゃないかって。試したような気持ちがありました。でも実際に暗殺容疑が浮上して。私はメイに裏切られたような気になったのです」
夢の中の、愚かな男の心情を、私は語る。
けれどそれは、自分の気持ちのようでもあるから。
不思議な感覚になった。
メイを傷つけたあの男と。今の自分が。同じ人物であるかのように。
「一応メイの名誉のために言うと。彼女は、兄上にそのような指示は受けていなかったようだよ? しかし。コエダのこの話は、起きたことではあるが、起きていないことでもある。コエダの経験値にはなっているが。今コエダがミカエラをいじめていないように。ジョシュアもコエダに意地悪をしていない。処刑もしていない。そんな世界を俺らは進んでいるんだよ。だから、泣かなくていいんだ」
パパに言われて、私は自分が泣いていることに気づいた。
これは、夢の中の私の、悔恨の思いなのか。
それとも。こえだのよげんしょを見て、心が引き込まれてしまったからなのか。
「おかしいな。夢を見たときは、他人事だった。ただの夢だと思ったのに。私がコエダを殺したなんて。そう思うと、苦しくて、悲しくて。なんで止められなかったんだ。好きだったのに。メイのことが好きだったのにっ」
泣きながら叫ぶと。
パパは私の隣に移動して、背中を撫でてくれて。
対面のコエダは困惑の八の字眉毛だった。
「ジョシュア、片鱗を垣間見たかもしれないが。覚えていないこと、実際君が起こしていない出来事に、それほど苦しむことはない。それよりも、前を見て。俺らはただ、コエダが処刑されることのない未来にしてもらいたいだけなんだ。今のジョシュアなら簡単なことだ。できるだろう?」
「私がコエダを処刑など、するわけがない。何度でも誓う。なにがどう転んでも、私がコエダを害することはない」
「ありがとう、ジョシュア。悲しい思いをさせて、ごめんな?」
パパは私をギュッと抱き締めた。
息子を害した憎い男、と思われてもおかしくないのに。
パパはいつだって私に優しかったし。今も優しい。
コエダの婚約を受けつけない厳しさもあったけど。
それは親としての正論であり。決して私が憎くてしたことではない。
今の私には、それがよくわかる。
だってパパは、こんなにもあたたかく私を包んでくれるから。
「ジョシュア、ぼくもね。ぼくも、今日をけじめにしようと思ったんだ。だからね、こえだのよげんしょを見せたの。ぼく、ちゃんとわかっているよ。前世のジョシュアと、今目の前にいるジョシュアは違うんだって。ジョシュアはいっつもぼくのことが大好きで、優しくて。ぼくが悲しいとそばにいてくれて。とても励ましてくれて。ぼく、前世のジョシュアの気持ちを知らなかったからね、ずっと意地悪されたって思っていたけど。そうじゃないってわかったからね、大丈夫。んん、なにが言いたいんだっけ?」
話をしていて、コエダはわからなくなったみたい。
そういうところあるよね、コエダ。でも、可愛いけど。
「えっと、あ、そうだ。だからね、ぼくこれからは。ジョシュアをジョシュアとして見るから。ちゃんと、今のジョシュアを見て。婚約者候補のこととか、いろいろ考えるからね? だから、もう少し時間が欲しいんだ。パパと父上のようなラブラブな結婚がしたいから。ぼくがちゃんと恋をして、情熱とか愛とか、そんな気持ちが出てくるまでね。待っていてほしいんだ」
「わかった」
あんまりあっさり、私が言うから。
コエダはまた、へぇぇあぁああ? となった。
「本当ですかぁ? 王子はいつも斜め上に理解しますからねぇ」
「あぁ、大丈夫だ。もう私から、婚約してとは言わない」
「ジョシュアぁ…」
ちょっと心細くなったのか、コエダは悲しそうな声を出し。
表情もしょん垂れ眉毛になる。
「だが、コエダのことをあきらめたわけじゃない。コエダには変わらずに愛を乞い続けるよ」
私の言葉に、コエダはちょっとホッとしたような顔をした。
友達としてでも親戚としてでもいい、少しは好かれているといいのだが?
「だから。コエダが前世の私の行いを…許さなくても、目をつぶることができて。今の私と婚約しても良いと思えたときには。そっと頬にキスしてくれないか? そうしたら、私はコエダにプロポーズするから」
「ジョシュア…それでいいの? 待ってとは言ったけど。ぼくはジョシュアの好きの気持ちに、甘えていないかな?」
そんな不安は、考えなくていいんだ。
ディオン兄上やパパは、コエダの恋心を優先したいのだと言っていて。
私もそれに、同意するだけなのだ。
まだ幼いコエダの恋心が、真の大人の恋愛に育つまで。
「私の気持ちは変わらない。いつだって、コエダ一筋だ。だから、待てるよ。コエダの傷ついた心が癒えるまで、待てる。そして私がコエダ一筋だということも、生涯かけて証明してみせるよ。だから、お願いだコエダ。今の私を嫌いにならないでくれ」
「嫌い? なんかないですっ。いつも言ってるでしょ? ジョシュアのこと、好きですよって。まだ、友達の好きだけど。んん、大人になったとき、もっと、いっぱいの好きになると思うのです」
コエダは自分の気持ちを一生懸命伝えていた。
だから私は微笑みかける。
コエダの大好きなパパ直伝の、柔らかい笑顔で。
「そうだな。きっと、ずっと、好きでいて。そして愛しているになったら…頬にキスして」
コエダは、その言葉を聞いて。やんわりと微笑む。
「わかりました。約束します、ジョシュア」
こえだのよげんしょを読んでも。
私とコエダの仲は変わりない。
コエダが恋を胸に秘めるまで、今まで通りご学友として、親戚として、そばにあるだけ。
願わくば。コエダが私に恋をしてくれますように…。
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