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2-15 王子がぼくを嫌うまで

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     ◆王子がぼくを嫌うまで

 ひょんなことからレッドソルジャーオオカブトをゲットした、ぼく。
 一刻も早く王子に見せたくて、彼らがいるお茶会の席に急いだ。
 このカブトムシはでっかいから、ぼくは逃げられないように一生懸命指でつまんでいる。
 虫と思ってしまうと、途端に怖くてキモくなるので。
 これはカブトであって虫ではないと自分に言い聞かせた。うむ。

 そして、彼らの姿が見えるところまで走っていくと。
 遠目に、なにやら楽しそうに笑い合うふたり。
 仲良さそうじゃなぁい?
 短い時間で、あんなに打ち解けています。
 ぼくは走っていた足を止めた。
 ちょっと、悲しい気持ちになっちゃったのだ。

 なんだ、やっぱり。ふたりは引かれ合う運命なのですね?

 嫉妬じゃないんですよ、この気持ちは。
 ちょっとさみしいのはね、ほら、アレです。
 親友に恋人ができたらそちらを優先されちゃって、ちょっとイラっとする。
 アレですよ。
 恋なんかじゃ、ないんだからねっ。ねぇっっ!!

「コエダ様?」
 レギに声をかけられ、ぼくは気持ちを立て直します。オケ。
「ちょっとお休みしただけです。行きましょう、レギ」
 再び、彼らの元へ向かう。
 とにかく、このレッドソルジャーオオカブトを王子に見せなければぁぁ。

「王子、見てみてぇ、こんなの捕まえちゃいましたよぉぉ??」

 おもいっきりの笑顔で、王子にカブトムシを見せたら。
 ミカエラがひゃぁぁぁっ、て叫んだ。
 あ、カブトムシ大きくてキモかったですかね? すみません。

「…ミカエラ嬢、コエダの破壊力はこんなものじゃない。この程度で悲鳴を上げていては、会話など遠い夢だぞ? 精神を鍛えないと、心臓発作だ!」
 コクコクうなずくミカエラ嬢。
 本当に仲が良さそうです。彼女のことがよくわかっている口ぶりですね、王子。

「破壊? ぼく、なんか壊しちゃった?」
 ぼくの問いかけに、フッと笑う王子。
「あぁ、コエダはいつも、私の情緒を壊している」
「はぁ、王子はいつも情緒不安定ですものね。いつも心臓をおさえてはうぅぅってなりますもんね」
 それなら、まぁ。わかります。
 つか、なんの話?

「てか、コエダ。それはどこから捕ってきたのだ?」
 キラキラの目でカブトムシを見やる王子に聞かれ、ぼくは答えた。
「えっとね、庭を歩いていたら、ブランカにお会いしてね」
「ブランカ? コエダ、そいつは何者だ??」
 王子は眉間に父上のごとくシワをビシッと入れて、ぼくに聞きます。
 でも、何者かと問われますとぉ、ぼくはよくわかりませぇん。
 モジモジして困っていますと、ミカエラが説明してくれました。優しぃい。
「ブランカ・フリオーネ侯爵子息のことですわ。母方の遠い親戚で、私のまた従兄弟にあたりますの。とても優秀な方なので、時折お勉強の相手や護身術の指導などをしてくれるのですわぁ」
「白くてきれいな髪の男の子でしたよ」
 ぼくが言うと、王子は眉間のシワをむにゅむにゅ動かした。
 器用ですね。
「優秀で、きれいな髪なのか。むぅ…」
「でね、その子の頭にコレが飛んできたのぉ。びたぁぁっと引っ付いたのを、ぼくがゲットしたのぉ。王子にあげます」
 そうして王子に差し出すと。
 ちょっとひるんだ。それで虫好きとはカタハライタイわぁぁ。
 でも、でっかいからね。ぼくの手のひらよりでっかいです。
「…いいのか? こんな大物」
「ぼくは虫は基本にがてです」
 大きな大きなカブトムシです。
 ぼくは王子が受け取ってくれないと、困るんですけどぉ?
 
「メイドさん、コレが入る、なんか箱をくださいませんか? お菓子の缶とか?」
「コエダ様、交渉ごとは私がいたしますから。しばらくお待ちください」
 ぼくがメイドさんに頼んだら、レギがそう言ってくれて。
 待ちます。
 レギに任せておけば、なんでもどうにかなります。

 ぼくはオオカブトを持ったまま、椅子に座った。ちょこりんぬ。

「コエダ、ミカエラ嬢は魔法を上手に使えるそうだ。なので、お茶会の席では一緒に魔法を学ぶことになったのだ」
 王子がそう言う。
 なるほど、王族は魔法を操れないとダメなんですよね?

 父上が言うには。
 ぼくやパパは息を吸うように魔法を使っているけれど。
 原理を知らずに魔法を使うのはバカ…おかしいんだって。
 聖女の能力にも、魔法の原理ってあるのかなぁ?
 ちゃんとコントロールして使えるのだから、いいじゃんねぇ? パパ。

 それはともかく。
 王子やミカエラは、ちゃんと勉強して魔法を使わないと、危険だったりするらしいよ。
 そう言えば、前世でメイが学園に通っているとき。生徒が魔法を暴発させて、魔力を全部放出して倒れたことがあった。
 ああいうのを防ぐための、魔法の勉強なんだよねぇ。

「そうですか、良かったですねぇ」
「もちろん、コエダも一緒だぞ? コエダもちゃんと魔法の原理を学んだ方がいい」
 ニッコリ笑顔で、王子に言われて。
 なんでですかぁぁ? となる。
 婚約者候補としてミカエラと仲良くなったなら、ぼくは邪魔でしょう?
 という目で、熱く、王子を見やるが。

「コエダ…そのような目でみつめられると。照れてしまうなぁ」
「照れるような意味の目では見ていませんけど。そうじゃなくて、ぼくはお邪魔でしょって…」
 ぼくは、安定の勘違いをする王子に言いますが。
「ひゃい。ぜひ、こここ、コエダ様も一緒に…」
 なんて。ミカエラが言うから。
 えぇぇぇぇぇぇ? ぼくはお邪魔ではないのぉ?
 そして、またもや。ひゃいが…。

「いえ、ぼくは。お茶会は一回だけ王子に付き合うという約束で…」
 オオカブトがワキワキして逃げそうなのを。ぼくはおさえつけながら言います。
 これは逃がしたらダメなやつぅぅう。
「そんなことおっしゃらず、ぜひ…」
 ミカエラは、可愛らしく頬を染めて言うので。
 あぁ、もしかしたら。
 王子とふたりきりになるのは恥ずかしい、みたいな?
 間が持たないからワンクッションほしい、みたいな?

 気持ちはわかりますぅ。
 好きな人の前では挙動不審になったり。
 言葉が全くでなかったり。
 静寂が恐ろし過ぎて、逆に静寂に陥ったり?
 どんな顔をしていいのかわからなくて、変顔になったりぃ?
 しますよねぇぇ?
 
「わかりました。では、もうしばらく。お邪魔虫でしょうが、お茶会に参加いたしますね? ミカエラ様、どうぞよろしくお願いします」
「ひゃーーーい」

 ロングなひゃいをいただきました。
 これは何語なのでしょう? まぁいいか。

 そしてレギがいい感じの箱をもらってくれて。
 無事、レッドソルジャーオオカブトを王子に贈呈することができました。ほっ。
「コエダ、毎日オオカブトの生態を報告するな?」
「いえ、オオカブトの生態はいらないです。王子に毎日会う気はないです」
 きっぱりお断りしますが。
 きっと王子は毎日来るのでしょうね?
 オオカブトを逃がしてしまいたくなりました。

 というわけで、第一回、王子とミカエラが親睦を深めるお茶会は無事終了し。
 帰りの馬車に乗り込みました。

 はぁ、針のむしろのようで、ぼくは疲れました。お昼寝したい。
「王子、ミカエラ様と仲良くなれたようで、良かったですね?」
 馬車の中でそう言ったら。彼は小さくうなずいた。
「うむ。ミカエラ嬢とは実のある話ができたと思う」

 そうなんだ。きっとお互いに引かれ合って、好きになって。
 心を通わせることができたのですね?

「では、ご婚約は(ミカエラ様で)決まりですね?」
 王子はオオカブトの入った箱を、手でぎゅっとして。
「あぁ、決まりだな」

 ぼくは目を細めて、うなずきます。
 そうです。こうなる運命なのはわかっていました。
 顔を合わせるたびに、王子は『コエダ、婚約して』って言ってきましたけど。

 明日からはもう、その言葉は聞けなくなるのですね。

 ちょっと寂しいような気もしますが。
 婚約者にならなくても、ぼくは王子のご学友なのだから。

 王子がぼくを嫌うまで。

 ぼくは、あなたのそばにいますよ。
 できれば。
 処刑したくなるほど嫌いになる前に、申告してくれるとありがたいです。
 なんて、思って。
 ちょっぴりしょんぼりんぬになっていたけど。
 次の日に会ったとき、王子はぼくに言ったのだ。

「おはよう、コエダ。オオカブトも元気だ。で、私と婚約してくれる気になったか?」
 なんでぇぇぇぇ??

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