【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~

北川晶

文字の大きさ
上 下
148 / 174

2-15 王子がぼくを嫌うまで

しおりを挟む
     ◆王子がぼくを嫌うまで

 ひょんなことからレッドソルジャーオオカブトをゲットした、ぼく。
 一刻も早く王子に見せたくて、彼らがいるお茶会の席に急いだ。
 このカブトムシはでっかいから、ぼくは逃げられないように一生懸命指でつまんでいる。
 虫と思ってしまうと、途端に怖くてキモくなるので。
 これはカブトであって虫ではないと自分に言い聞かせた。うむ。

 そして、彼らの姿が見えるところまで走っていくと。
 遠目に、なにやら楽しそうに笑い合うふたり。
 仲良さそうじゃなぁい?
 短い時間で、あんなに打ち解けています。
 ぼくは走っていた足を止めた。
 ちょっと、悲しい気持ちになっちゃったのだ。

 なんだ、やっぱり。ふたりは引かれ合う運命なのですね?

 嫉妬じゃないんですよ、この気持ちは。
 ちょっとさみしいのはね、ほら、アレです。
 親友に恋人ができたらそちらを優先されちゃって、ちょっとイラっとする。
 アレですよ。
 恋なんかじゃ、ないんだからねっ。ねぇっっ!!

「コエダ様?」
 レギに声をかけられ、ぼくは気持ちを立て直します。オケ。
「ちょっとお休みしただけです。行きましょう、レギ」
 再び、彼らの元へ向かう。
 とにかく、このレッドソルジャーオオカブトを王子に見せなければぁぁ。

「王子、見てみてぇ、こんなの捕まえちゃいましたよぉぉ??」

 おもいっきりの笑顔で、王子にカブトムシを見せたら。
 ミカエラがひゃぁぁぁっ、て叫んだ。
 あ、カブトムシ大きくてキモかったですかね? すみません。

「…ミカエラ嬢、コエダの破壊力はこんなものじゃない。この程度で悲鳴を上げていては、会話など遠い夢だぞ? 精神を鍛えないと、心臓発作だ!」
 コクコクうなずくミカエラ嬢。
 本当に仲が良さそうです。彼女のことがよくわかっている口ぶりですね、王子。

「破壊? ぼく、なんか壊しちゃった?」
 ぼくの問いかけに、フッと笑う王子。
「あぁ、コエダはいつも、私の情緒を壊している」
「はぁ、王子はいつも情緒不安定ですものね。いつも心臓をおさえてはうぅぅってなりますもんね」
 それなら、まぁ。わかります。
 つか、なんの話?

「てか、コエダ。それはどこから捕ってきたのだ?」
 キラキラの目でカブトムシを見やる王子に聞かれ、ぼくは答えた。
「えっとね、庭を歩いていたら、ブランカにお会いしてね」
「ブランカ? コエダ、そいつは何者だ??」
 王子は眉間に父上のごとくシワをビシッと入れて、ぼくに聞きます。
 でも、何者かと問われますとぉ、ぼくはよくわかりませぇん。
 モジモジして困っていますと、ミカエラが説明してくれました。優しぃい。
「ブランカ・フリオーネ侯爵子息のことですわ。母方の遠い親戚で、私のまた従兄弟にあたりますの。とても優秀な方なので、時折お勉強の相手や護身術の指導などをしてくれるのですわぁ」
「白くてきれいな髪の男の子でしたよ」
 ぼくが言うと、王子は眉間のシワをむにゅむにゅ動かした。
 器用ですね。
「優秀で、きれいな髪なのか。むぅ…」
「でね、その子の頭にコレが飛んできたのぉ。びたぁぁっと引っ付いたのを、ぼくがゲットしたのぉ。王子にあげます」
 そうして王子に差し出すと。
 ちょっとひるんだ。それで虫好きとはカタハライタイわぁぁ。
 でも、でっかいからね。ぼくの手のひらよりでっかいです。
「…いいのか? こんな大物」
「ぼくは虫は基本にがてです」
 大きな大きなカブトムシです。
 ぼくは王子が受け取ってくれないと、困るんですけどぉ?
 
「メイドさん、コレが入る、なんか箱をくださいませんか? お菓子の缶とか?」
「コエダ様、交渉ごとは私がいたしますから。しばらくお待ちください」
 ぼくがメイドさんに頼んだら、レギがそう言ってくれて。
 待ちます。
 レギに任せておけば、なんでもどうにかなります。

 ぼくはオオカブトを持ったまま、椅子に座った。ちょこりんぬ。

「コエダ、ミカエラ嬢は魔法を上手に使えるそうだ。なので、お茶会の席では一緒に魔法を学ぶことになったのだ」
 王子がそう言う。
 なるほど、王族は魔法を操れないとダメなんですよね?

 父上が言うには。
 ぼくやパパは息を吸うように魔法を使っているけれど。
 原理を知らずに魔法を使うのはバカ…おかしいんだって。
 聖女の能力にも、魔法の原理ってあるのかなぁ?
 ちゃんとコントロールして使えるのだから、いいじゃんねぇ? パパ。

 それはともかく。
 王子やミカエラは、ちゃんと勉強して魔法を使わないと、危険だったりするらしいよ。
 そう言えば、前世でメイが学園に通っているとき。生徒が魔法を暴発させて、魔力を全部放出して倒れたことがあった。
 ああいうのを防ぐための、魔法の勉強なんだよねぇ。

「そうですか、良かったですねぇ」
「もちろん、コエダも一緒だぞ? コエダもちゃんと魔法の原理を学んだ方がいい」
 ニッコリ笑顔で、王子に言われて。
 なんでですかぁぁ? となる。
 婚約者候補としてミカエラと仲良くなったなら、ぼくは邪魔でしょう?
 という目で、熱く、王子を見やるが。

「コエダ…そのような目でみつめられると。照れてしまうなぁ」
「照れるような意味の目では見ていませんけど。そうじゃなくて、ぼくはお邪魔でしょって…」
 ぼくは、安定の勘違いをする王子に言いますが。
「ひゃい。ぜひ、こここ、コエダ様も一緒に…」
 なんて。ミカエラが言うから。
 えぇぇぇぇぇぇ? ぼくはお邪魔ではないのぉ?
 そして、またもや。ひゃいが…。

「いえ、ぼくは。お茶会は一回だけ王子に付き合うという約束で…」
 オオカブトがワキワキして逃げそうなのを。ぼくはおさえつけながら言います。
 これは逃がしたらダメなやつぅぅう。
「そんなことおっしゃらず、ぜひ…」
 ミカエラは、可愛らしく頬を染めて言うので。
 あぁ、もしかしたら。
 王子とふたりきりになるのは恥ずかしい、みたいな?
 間が持たないからワンクッションほしい、みたいな?

 気持ちはわかりますぅ。
 好きな人の前では挙動不審になったり。
 言葉が全くでなかったり。
 静寂が恐ろし過ぎて、逆に静寂に陥ったり?
 どんな顔をしていいのかわからなくて、変顔になったりぃ?
 しますよねぇぇ?
 
「わかりました。では、もうしばらく。お邪魔虫でしょうが、お茶会に参加いたしますね? ミカエラ様、どうぞよろしくお願いします」
「ひゃーーーい」

 ロングなひゃいをいただきました。
 これは何語なのでしょう? まぁいいか。

 そしてレギがいい感じの箱をもらってくれて。
 無事、レッドソルジャーオオカブトを王子に贈呈することができました。ほっ。
「コエダ、毎日オオカブトの生態を報告するな?」
「いえ、オオカブトの生態はいらないです。王子に毎日会う気はないです」
 きっぱりお断りしますが。
 きっと王子は毎日来るのでしょうね?
 オオカブトを逃がしてしまいたくなりました。

 というわけで、第一回、王子とミカエラが親睦を深めるお茶会は無事終了し。
 帰りの馬車に乗り込みました。

 はぁ、針のむしろのようで、ぼくは疲れました。お昼寝したい。
「王子、ミカエラ様と仲良くなれたようで、良かったですね?」
 馬車の中でそう言ったら。彼は小さくうなずいた。
「うむ。ミカエラ嬢とは実のある話ができたと思う」

 そうなんだ。きっとお互いに引かれ合って、好きになって。
 心を通わせることができたのですね?

「では、ご婚約は(ミカエラ様で)決まりですね?」
 王子はオオカブトの入った箱を、手でぎゅっとして。
「あぁ、決まりだな」

 ぼくは目を細めて、うなずきます。
 そうです。こうなる運命なのはわかっていました。
 顔を合わせるたびに、王子は『コエダ、婚約して』って言ってきましたけど。

 明日からはもう、その言葉は聞けなくなるのですね。

 ちょっと寂しいような気もしますが。
 婚約者にならなくても、ぼくは王子のご学友なのだから。

 王子がぼくを嫌うまで。

 ぼくは、あなたのそばにいますよ。
 できれば。
 処刑したくなるほど嫌いになる前に、申告してくれるとありがたいです。
 なんて、思って。
 ちょっぴりしょんぼりんぬになっていたけど。
 次の日に会ったとき、王子はぼくに言ったのだ。

「おはよう、コエダ。オオカブトも元気だ。で、私と婚約してくれる気になったか?」
 なんでぇぇぇぇ??

しおりを挟む
感想 308

あなたにおすすめの小説

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

アイドルですがピュアな恋をしています。

雪 いつき
BL
人気アイドルユニットに所属する見た目はクールな隼音(しゅん)は、たまたま入ったケーキ屋のパティシエ、花楓(かえで)に恋をしてしまった。 気のせいかも、と通い続けること数ヶ月。やはりこれは恋だった。 見た目はクール、中身はフレンドリーな隼音は、持ち前の緩さで花楓との距離を縮めていく。じわりじわりと周囲を巻き込みながら。 二十歳イケメンアイドル×年上パティシエのピュアな恋のお話。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

処理中です...