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番外 ジョシュア 惚れ直したぞ、コエダ。 ②
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アムランゼで滞在三日目。
昨日の湖での、コエダの聖女としての姿に興奮冷めやらずな、私。
だけど、魔獣…魔魚が出てきたときにコエダの後ろに隠れてしまったのは、ダメだった。
とっさの事ながら、魔獣を怖いと思ってしまったのは。
己の心が弱い証拠だ。
こんなことではいざというとき、コエダを守れない。
「ノアは魔魚、怖くなかったのか?」
私はいつも私の後ろにくっついている護衛騎士のノアにたずねた。
ノアは私たちをかばって、レギと一緒に前に出たから。すごいと思う。
「まぎょ? あぁ、魔獣ですね。大きさには驚きましたが。本気になったときのアンドリュー様の方がよっぽど怖いので。あの魔獣は怖いとは思いませんでした」
「そうかぁ、師匠が怖いんだなぁ? ノア、旅を終えたら剣術の稽古を二倍にしよう」
私の言葉に、ノアは静かにうなずいた。
ノアは余計な言葉は発しない、寡黙でカッコいい男なのだ。むぅ。
私も早く、ノアのように格好良くて、魔獣に動じない男になりたい。
だから、あんな魔物を怖いなんて思わないくらい、いっぱい剣の練習をするのだ。
コエダの前で、二度とあのようなブザマは許されないぃぃ。
ま、稽古は旅から帰ってからするってことで。
今日はコエダとなにをするのかなぁ、と思っていたら。
コエダとタイジュの姿が見えなくて。
オズワルド兄上にたずねたのだ。
「兄上、コエダはどこにいるのか知りませんか?」
すると、アムランゼ領主の屋敷の、サロンでくつろいでいた兄上は。
私に座るよううながして、答えた。
「コエダとタイジュは病院の視察に行っている。我ら王族は、万が一にも感染してはいけないということで、屋敷でお留守番だ」
「そうですか」
コエダのクリーンがあれば、たぶん病気も治せると思うけど。
病気で苦しんでいる人たちのところへ遊び半分で行ってはいけないよな、と思い。
つまらなくてしょぼりんぬだが、我慢する。
「兄上、昨日のコエダはすごかったですね? キラキラァで。湖が一瞬できれいになった。アムランゼ領の人たちも湖がきれいになったら喜びますね?」
私はオズワルド兄上と、昨日のコエダのことをお話したかったが。
兄上は少し考えるような顔をして、私にたずねた。
「すごいと思ったか?」
ん? すごい以外のなにがあるのかわからず。
私は小首をかしげながらも答えた。
「はい。聖女の力というものはかけがえのない、スタインベルンになくてはならないものだと思います。すごいです」
すると兄上は、真剣な顔を崩さず。私に神妙に言うのだ。
「そうだ、聖女の力はとてもすごいもので、かけがえがなく、スタインベルンを明るい方へ導く道しるべでもある。今、ジョシュアがそう思っていることは、とても良いことだよ。しかし、前世でジョシュアは。聖女に可哀想なことをしてしまった。だから俺は、万が一にも可哀想な未来にならないように、コエダを守ろうと思う」
「…私も兄上とともに、コエダを守ります」
前世や、私が聖女に可哀想なことをしたというのは、よくわからないけど。
私はコエダに可哀想なことはしないので。
兄上と一緒にコエダを守れたらいいなと思った。
「ジョシュア、その気持ちをずっと持ち続けてほしい。たとえおまえの、コエダへの愛が失われたとしても。負の感情をコエダに向けないでほしいのだ」
「ふのかんじょー?」
その言葉の意味がわからず、私は兄上にたずねる。
「負の感情は、嫌いとか、憎いかな? 憎しみはわかるか? 嫌いの最上級だ。俺が、兄を殺した前王妃を許せないと思っているような、そんな激しい嫌いだ」
ふのかんじょーは、とっても嫌な気持ちのことのようだ。
そんな感情を私がコエダに向けるなんて、ありえない。
「エルアンリ兄上にも言われましたが、私は嫌いも意地悪も、コエダにしたりしません。たとえ…コエダが私と婚約してくれなくても。ディオン兄上が言ったように、コエダに愛を乞い続けます」
「ん、そうか。なら、よしっ」
そう言って、オズワルド兄上はいつもの明るい顔でニカリと笑って、私の頭をわしわしと撫でてくれました。
オズワルド兄上もエルアンリ兄上も、真剣な顔つきがなんかちょっと怖かったから。
普通に戻って良かったです。
でもたぶん、兄上たちはコエダを守りたいと思っているようなので。
それは良いことで。
私も気持ちは同じなので。
たぶん、兄上たちと私は、同じなのです。
だから大丈夫だと思ったのだ。うむ。
アムランゼでの最終日は、森で遊んだ。
カブトムシを生で見て、私は大興奮。すっげぇー、かっけぇー。
黒いのにつやッとしてピカッとしてるぅ。ツノ、かっけぇー。
だけど、どうやって持ったらいいのかわからなくて。ちょっと戸惑ってしまった。
そうしたらコエダが、木に張りついているカブトムシを指でつまんで、器用に揺らしてカブトムシの足を木から離し、捕まえた。
「ほぅら、王子ぃ。カブトムシの裏側ですよぉ、足がいっぱいでキモくないですかぁ?」
コエダは私につまんだカブトムシを近づけて、虫におじけづく私をからかった。
むむぅ、怖くないぞ、と思うけど。
私の胸のあたりにカブトムシをくっつけてしまって、どどど、どうしたらいいのか、となってしまった。
「うわぁ、顔の方に歩いてくるぅ。コエダ、取ってぇ」
私を脅えさせたコエダは、超絶可愛い笑顔で、カブトムシを取ってくれた。
「えっへぇぇ、王子ったらダメダメですねぇ。ほら、ここをつまんで、持ってみて」
今度、コエダはそっと私にカブトムシを持たせてくれて。
ふむ、なるほど。こんな感じか。
要領さえわかれば、なんてことはないのだ。うむ。
それからは、コエダと一緒にカブトムシ取りに夢中になった。
というか。コエダは聖女だと言っても、ときどき意地悪で、無邪気に笑って。そんな普通の男の子だ。
コエダの可愛らしい顔には、いつも私はドッキリしてしまうが。
特に私をからかったときに、笑う顔が。最高に、ホントッに、可愛いぃぃんだぁ。
まぁるい目が、細められて、ワクワクしている形になって、瞳がキラリンなのだ。
そして本当に楽しそうに大きな口を開けて笑うのだ。
もう、木をバンバン叩きたくなるくらい、その表情が可愛いぃぃぃのだぁ。
私をイジらないでくれれば、もっとありがたいが。
だけど。
ディオン兄上もタイジュにときどきからかわれる、なんて話を聞いたことがあるので。
きっと、親子で。からかって楽しむ悪い癖があるのだろう。
それはよくないと思うぞ、コエダ。
でも、そういうときのコエダは笑顔がピカピカしているので。
私はいつもスルーしてしまうのだぁぁ。可愛いが罪。
で、ときどきツンや、スンってなるの。
いつもコエダには振り回されて、困るけど。
ツンのときは突き出たピンクの唇が可愛いし。
スンのときは魂消失の無表情が私にしか見せない表情に思えるから。
むぅぅぅ、可愛いから許すぅ。
だからね。コエダは聖女だけど、私のご学友で、大事な大事な婚約者候補でもあるのだ。
そんなコエダを、私がいじめるわけはない。
むしろいじめられているのはこちらなのだ。
オズワルド兄上もエルアンリ兄上も、なにを心配しているのかわからないが。
無用の心配なのだ。
しかし…。
コエダと一緒に取ったカブトムシを帰り道で逃がしてしまって。それだけはくやまれるぅ。
あぁぁぁぁあああ、大失敗っ。
昨日の湖での、コエダの聖女としての姿に興奮冷めやらずな、私。
だけど、魔獣…魔魚が出てきたときにコエダの後ろに隠れてしまったのは、ダメだった。
とっさの事ながら、魔獣を怖いと思ってしまったのは。
己の心が弱い証拠だ。
こんなことではいざというとき、コエダを守れない。
「ノアは魔魚、怖くなかったのか?」
私はいつも私の後ろにくっついている護衛騎士のノアにたずねた。
ノアは私たちをかばって、レギと一緒に前に出たから。すごいと思う。
「まぎょ? あぁ、魔獣ですね。大きさには驚きましたが。本気になったときのアンドリュー様の方がよっぽど怖いので。あの魔獣は怖いとは思いませんでした」
「そうかぁ、師匠が怖いんだなぁ? ノア、旅を終えたら剣術の稽古を二倍にしよう」
私の言葉に、ノアは静かにうなずいた。
ノアは余計な言葉は発しない、寡黙でカッコいい男なのだ。むぅ。
私も早く、ノアのように格好良くて、魔獣に動じない男になりたい。
だから、あんな魔物を怖いなんて思わないくらい、いっぱい剣の練習をするのだ。
コエダの前で、二度とあのようなブザマは許されないぃぃ。
ま、稽古は旅から帰ってからするってことで。
今日はコエダとなにをするのかなぁ、と思っていたら。
コエダとタイジュの姿が見えなくて。
オズワルド兄上にたずねたのだ。
「兄上、コエダはどこにいるのか知りませんか?」
すると、アムランゼ領主の屋敷の、サロンでくつろいでいた兄上は。
私に座るよううながして、答えた。
「コエダとタイジュは病院の視察に行っている。我ら王族は、万が一にも感染してはいけないということで、屋敷でお留守番だ」
「そうですか」
コエダのクリーンがあれば、たぶん病気も治せると思うけど。
病気で苦しんでいる人たちのところへ遊び半分で行ってはいけないよな、と思い。
つまらなくてしょぼりんぬだが、我慢する。
「兄上、昨日のコエダはすごかったですね? キラキラァで。湖が一瞬できれいになった。アムランゼ領の人たちも湖がきれいになったら喜びますね?」
私はオズワルド兄上と、昨日のコエダのことをお話したかったが。
兄上は少し考えるような顔をして、私にたずねた。
「すごいと思ったか?」
ん? すごい以外のなにがあるのかわからず。
私は小首をかしげながらも答えた。
「はい。聖女の力というものはかけがえのない、スタインベルンになくてはならないものだと思います。すごいです」
すると兄上は、真剣な顔を崩さず。私に神妙に言うのだ。
「そうだ、聖女の力はとてもすごいもので、かけがえがなく、スタインベルンを明るい方へ導く道しるべでもある。今、ジョシュアがそう思っていることは、とても良いことだよ。しかし、前世でジョシュアは。聖女に可哀想なことをしてしまった。だから俺は、万が一にも可哀想な未来にならないように、コエダを守ろうと思う」
「…私も兄上とともに、コエダを守ります」
前世や、私が聖女に可哀想なことをしたというのは、よくわからないけど。
私はコエダに可哀想なことはしないので。
兄上と一緒にコエダを守れたらいいなと思った。
「ジョシュア、その気持ちをずっと持ち続けてほしい。たとえおまえの、コエダへの愛が失われたとしても。負の感情をコエダに向けないでほしいのだ」
「ふのかんじょー?」
その言葉の意味がわからず、私は兄上にたずねる。
「負の感情は、嫌いとか、憎いかな? 憎しみはわかるか? 嫌いの最上級だ。俺が、兄を殺した前王妃を許せないと思っているような、そんな激しい嫌いだ」
ふのかんじょーは、とっても嫌な気持ちのことのようだ。
そんな感情を私がコエダに向けるなんて、ありえない。
「エルアンリ兄上にも言われましたが、私は嫌いも意地悪も、コエダにしたりしません。たとえ…コエダが私と婚約してくれなくても。ディオン兄上が言ったように、コエダに愛を乞い続けます」
「ん、そうか。なら、よしっ」
そう言って、オズワルド兄上はいつもの明るい顔でニカリと笑って、私の頭をわしわしと撫でてくれました。
オズワルド兄上もエルアンリ兄上も、真剣な顔つきがなんかちょっと怖かったから。
普通に戻って良かったです。
でもたぶん、兄上たちはコエダを守りたいと思っているようなので。
それは良いことで。
私も気持ちは同じなので。
たぶん、兄上たちと私は、同じなのです。
だから大丈夫だと思ったのだ。うむ。
アムランゼでの最終日は、森で遊んだ。
カブトムシを生で見て、私は大興奮。すっげぇー、かっけぇー。
黒いのにつやッとしてピカッとしてるぅ。ツノ、かっけぇー。
だけど、どうやって持ったらいいのかわからなくて。ちょっと戸惑ってしまった。
そうしたらコエダが、木に張りついているカブトムシを指でつまんで、器用に揺らしてカブトムシの足を木から離し、捕まえた。
「ほぅら、王子ぃ。カブトムシの裏側ですよぉ、足がいっぱいでキモくないですかぁ?」
コエダは私につまんだカブトムシを近づけて、虫におじけづく私をからかった。
むむぅ、怖くないぞ、と思うけど。
私の胸のあたりにカブトムシをくっつけてしまって、どどど、どうしたらいいのか、となってしまった。
「うわぁ、顔の方に歩いてくるぅ。コエダ、取ってぇ」
私を脅えさせたコエダは、超絶可愛い笑顔で、カブトムシを取ってくれた。
「えっへぇぇ、王子ったらダメダメですねぇ。ほら、ここをつまんで、持ってみて」
今度、コエダはそっと私にカブトムシを持たせてくれて。
ふむ、なるほど。こんな感じか。
要領さえわかれば、なんてことはないのだ。うむ。
それからは、コエダと一緒にカブトムシ取りに夢中になった。
というか。コエダは聖女だと言っても、ときどき意地悪で、無邪気に笑って。そんな普通の男の子だ。
コエダの可愛らしい顔には、いつも私はドッキリしてしまうが。
特に私をからかったときに、笑う顔が。最高に、ホントッに、可愛いぃぃんだぁ。
まぁるい目が、細められて、ワクワクしている形になって、瞳がキラリンなのだ。
そして本当に楽しそうに大きな口を開けて笑うのだ。
もう、木をバンバン叩きたくなるくらい、その表情が可愛いぃぃぃのだぁ。
私をイジらないでくれれば、もっとありがたいが。
だけど。
ディオン兄上もタイジュにときどきからかわれる、なんて話を聞いたことがあるので。
きっと、親子で。からかって楽しむ悪い癖があるのだろう。
それはよくないと思うぞ、コエダ。
でも、そういうときのコエダは笑顔がピカピカしているので。
私はいつもスルーしてしまうのだぁぁ。可愛いが罪。
で、ときどきツンや、スンってなるの。
いつもコエダには振り回されて、困るけど。
ツンのときは突き出たピンクの唇が可愛いし。
スンのときは魂消失の無表情が私にしか見せない表情に思えるから。
むぅぅぅ、可愛いから許すぅ。
だからね。コエダは聖女だけど、私のご学友で、大事な大事な婚約者候補でもあるのだ。
そんなコエダを、私がいじめるわけはない。
むしろいじめられているのはこちらなのだ。
オズワルド兄上もエルアンリ兄上も、なにを心配しているのかわからないが。
無用の心配なのだ。
しかし…。
コエダと一緒に取ったカブトムシを帰り道で逃がしてしまって。それだけはくやまれるぅ。
あぁぁぁぁあああ、大失敗っ。
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