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番外 ミカエラ おこがましいにもほどがありますわっ ②
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また戦争が起きましたの。
叔父様がまた戦場に向かうことになって、私、心配しましたわ。
でも、そうは言っても。騎士団がハウリム国を占拠して、すみやかに国家が解体されたのですって。
私、次代の王妃とも目されているものですから、そういう国の裏側や政治のことについて、父も母もつまびらかに教えてくれるのですわぁ。
神の手さま、タイジュ様が消失なされて。
ディオン殿下はその元凶となられた元王子のニジェールを許さなかったのです。
そしてスタインベルンの国民もね。
前王妃の祖国ハウリムを殲滅せよ、と民はその方向へ大きく動きました。
当然ですわ。
女神の仲介人である神の手が奪われてしまった。
もしかしたら女神は、人々の行いに呆れてしまったのかもしれないでしょう?
神の手を返してもらうべく。
女神を呆れさせるようなことをしでかした者は、厳罰に処すべきですわぁ。
スタインベルンの民は女神を大事に思っているのですって、アピールしなければ。タイジュ様を返してもらえませんわぁぁ。なんてことっ。
お母様はしみじみと言いました。
「ミカエラ、よぉく覚えておきなさい。前王妃は自分の息子を王位に据えるために悪事を重ねました。ディオン殿下にも呪いをかけたのです。ですが、呪いというものは、必ず倍になって返ってくる恐ろしいものなのです。なにがあっても、決して人を呪うようなことをしてはいけません。そして、女神フォスティーヌに反目するのもダメです。神の手さまは女神の存在を証明した御方。あなたが王妃になった暁には、女神と、女神に近しい御方である神の手さまを手厚く敬うことです」
「もちろんですわ、お母様。私はお爺様仕込みの激熱女神信者です。女神や神の手さまをないがしろにすることなどありませんわぁ」
「ミカエラ、なんの本を読んだか知りませんが、激熱とか御令嬢が言うものではありません」
あら? 激熱って普通に使わないかしら? おかしいわね。
まぁいいわ。
それで、神の手を失ったスタインベルンは、しばらく火が消えたように意気消沈の様子でしたけど。
六月に、タイジュ様が王宮にお戻りになったの。
やったわぁぁ、神の奇跡が、タイジュ様が帰ってきたわぁ。
ありがとう、女神さま。最大限の感謝を…。なーむー。
その報が王都一帯に流れて、町はすっかりお祭り騒ぎになったわ。
神の手さまはすごい人気よ。
露店には、ディオン殿下とタイジュ様、コエダ様という親子三人が描かれた肖像画が並んで。端から売れていきました。
私も…従者のヨンサに言って、買ってきてもらいましたの。
うふふ、推しのグッズをゲットしたわぁ。
ん? なんの本で読んだのかしら? あまり使わない言葉だけどするりと出たわね。
でも、意味はわかっているわ。
私がだぁい好きで、敬って、崇め奉っている方を推しと言い。その方の片鱗に触れられる、具現化した宝物がグッズよね?
それはともかく。
神の手さまのご帰還を喜んで、みんなお祝いムードよ。すごいわ。
タイジュ様が戻ってすぐ、王宮で前回中止になった結婚披露宴が行われたのだけど。
それは大人の夜会で、子供は出席できなかったの。残念。
でもお爺様は神の手とご挨拶できたってほくほくでね。
ディオン殿下とタイジュ様のダンスが素晴らしく美しかったって言っていたわ。
えぇぇ、ずるぅぅい。私も見たかったぁ。
これからはお茶会やパーティーには眼鏡を持参した方が良さそうね。
タイジュ様とコエダ様を目にするために、壁に張り付いて、地味に目立たず、鑑賞できるスキルを身につけなくてはね。
魔法書に、透明人間になれる魔法はなかったかしらぁ?
というわけで、神の手さまを目にするイベントに出席できなかったのだけど。
七月にね、ジョシュア王子の誕生日会があるの。
そこには、王子と懇意になるべく、国中の貴族のお子様たちが集結するわ。
そしてその場で、新しく王族となられた神の手さまのご挨拶もあるそうよ。
はぁぁぁああん、今度は間近で神の手さまを見ることができるかしらぁ。
でも、近くへ寄ったら眼鏡をかけられないから、視界がぼやけるわ。
でもでも、目がぼやけていたら緊張度合いが半分になるから、ワンチャンお話なんかできたりして。
あぁでもでも、上手に挨拶できなかったら死ぬわ。恥ずか死ぬわ。
ここは絶対に失敗できないわよ、ミカエラ。
というわけで、ご挨拶の練習を、ヨンサが呆れちゃうくらいリピートしたわ。
もう、目をつぶっていても淑女の礼は完璧にできるわ。
ヨンサに突っついてもらったけど、ちょっとやそっとの衝撃ではブレない、完璧な仕上がりよ。
そして、いざ挑んだ。ジョシュア王子のお誕生日会。
私はしょっぱなから…眼鏡をかけていたらレンズがパッキャァァァンと割れるくらいの衝撃を食らったの。
陛下が、私を王子の婚約者候補に指名したのよ?
いえ、眼鏡はしていなかったから、パッキャァァァンは回避したけど。
そして淑女教育のたまもので、公爵令嬢として微笑みを顔にしっかり張り付けてそれをキープできたけど。
聞いてなーーーいっ。
つか、陛下ぁぁあ? 今なんておっしゃりましたのぉ?
王子の婚約者候補に、私と…コエダ様ぁぁ??
無理無理、神の手と公爵令嬢なんて、勝負にならないわよぉ。無茶苦茶よぉ。天と地よ。
コエダ様一択でしょ?
なにも考えることないでしょ。
っていうかぁぁ、私、コエダ様に恋をする前に。婚約者が?
いえ、ジョシュア王子が婚約者になるのは、薄々感づいてはいましたわ。
お母様は私が王妃になるって、いつも言っていて。
その可能性が一番高いのは、ジョシュア様の伴侶だものね。
ディオン殿下は内外に、タイジュ様以外の伴侶は設けないと公言しているの。
だとするとディオン殿下が王様を継いだあと。次代の王に、ディオン殿下の御子様は入らない。
王位継承順位は、エルアンリ様が第一候補になるわ。
だけどエルアンリ様はディオン殿下と同年代だから、弟王子の立太子は難しいらしいの。
でも同じ弟王子の中でも、ジョシュア様は年齢が離れていて、世代が下になるから立太子は充分に資格アリなのですって。
公爵令嬢の私が王妃になるなら、それはジョシュア王子の伴侶になるのが近道よ。
まだ生まれていないけど、エルアンリ様の御子様という可能性もあるけれどね。
だけどだけど。ジョシュア王子とコエダ様が結婚となったらぁ?
スタインベルン王朝は二代続けて神の手さまの恩恵を得ることになり。
女神の加護もマシマシで、国は安泰だわよぉ?
王様ったら、なにを考えているのかしら。
ジョシュア王子にはコエダ様を伴侶に据えるべきよ。決まりよ。
それにコエダ様と私がライバル関係なんて、ありえませんわぁ?
私を神の手に逆らわせるつもりぃ? 私を殺すおつもりぃ?
無理無理。マジで、むりっすわぁ。
はっ、御令嬢にあるまじき言葉が…まぁいいわ。
とにかく、私。コエダ様と敵対なんかしませんわぁ。
「ミカエラ様? すごいですわぁ。第七王子とご婚約だなんて」
陛下のご挨拶が終わって、わらわらと集まってくるお友達の御令嬢。
「候補はおふたりのようだけど、コエダ様は男の子ですもの」
私は笑みを張り付けて、みなさまにうなずきを返しますけど。
「婚約者はミカエラ様に、ほぼ決まりですわぁ」
やめてぇぇ。
婚約者はコエダ様一択なのですわぁ。
ライバル関係や敵対関係をあおらないでくださいませぇ。
「そんなことありませんわ。コエダ様は神の手として尊き御方ですもの」
なんて、私は相手にならないことをほのめかすのだけど。
「まぁ、ミカエラ様ったら、ごけんそんをぉ。お相手をおほめになるなんて、ご人格まですばらしいわ。やはり王家の一員になるべき方は違いますわねぇ?」
ちがうのぉ、そうじゃないのぉ。
本当にコエダ様と私では格が違うのですわぁ。
でも、私と同年代のお子様は。
ちょっとお子様すぎて。王子の婚約者、スゴーイ。という感じなのですわ。
表面だけしか見えていないの。
まぁ、十歳にもなっていない方たちだから、仕方がないのだけど。
ほらぁ、私は読書少女だからぁ?
愛憎のドロドロも、政務の駆け引きも、キツネとタヌキの化かしあい的戦術論も、ピュアでピンクなラブ物語も網羅していますから、そこらの大人よりも全然大人なのですわぁ。
だからね、お子様はね、王妃の重圧とか、国民の空気感とか、全く知らないの。
町に出れば、神の手の人気が爆上がりなのがわかるんだから、もっとお勉強なさってぇ。
つまり。私の周りのお友達は、そういうことを知らないの。
だからコエダ様の尊さに、イマイチ気づいていないみたいなのよ。
だから簡単に、私とコエダ様を対決させようとするのよぉう。無理無理。
「私、ちょっとお話がありますの、失礼」
楚々とした仕草で会釈をして、お子様のお嬢様たちの輪から抜け出し。
部屋の隅でお父様とお母様に厳重注意ですわ!
「お父様、お母様、私このお話聞いていませんけど?」
するとふたりは、エッという顔でお互いを見やった。
「君が話したのではないのかい? ミカエラが熱心にご挨拶の練習をしていたから…」
「私も旦那様がお話されたのだと…ミカエラが熱心にご挨拶の練習をしていたから…」
なにやら責任をなすりつけ合う両親。
それでは私が馬鹿みたいに淑女の礼をリピートしていたのが悪いみたいではありませんかっ。
「わ、わたくしは…もしも神の手さまとお話するようなことがあったらぁ…と思って練習を…」
手と手を合わせて、モジモジしていましたら。
「なにを言っているの? ミカエラ。神の手さまとは王子を巡ってのライバル関係よ? そうは言っても、女神には逆らえませんから、ここはやんわりと王子に近づいて、穏便に王子に好きになってもらいましょう。嫌がらせとかはダメですよ」
なんですか、その極悪で無茶ぶりなミッションは?
「当たり前です、嫌がらせなんか私できませんわぁ」
「まぁ、ミカエラは本当に天使のように心が清いのねぇ。あなたならジョシュア王子にきっと気に入ってもらえるわよ」
ちがうのです、お母様。
王子のお相手は、コエダ様一択なのですぅ。
私など…たかが公爵令嬢の私など、コエダ様の足元にも及ばないというのに。
婚約候補をコエダ様と争うなんて…おこがましいにもほどがありますわぁぁっ。
ということがありまして。
王子とコエダ様にご挨拶もしたのですけど。
もうグダグダで。練習が全くの無駄になりましたわぁ。
コエダ様の名前を口にするだけで唇が震えて、こここって、ニワトリみたいになりましたし。
お名前が、尊すぎて、ムリ。がくり。
眼鏡なしで視界がぼやけているけどコエダ様を見たくて、一生懸命ピントを合わせようとしたら、顔に変な力が入って、絶対変な顔になっていたし。
コエダ様が笑いかけてくださって、そのエレガントスマイルにはぁぁぁああん、ってなって。
そこは、ぼやけていて良かったわ、コエダ様スマイルにばっちりピントが合っていたら、確実に女神の元に召されていましたもの。
命の危険を感じて、早々に、這う這うの体で、私は彼らの前から逃げ去ったのですわぁぁ。
えぇ、完全敗北です。
いいえ、そもそもこれは負け戦です。無理です。
ですけど。婚約者候補になったので。
王子が月に一度、私のおうちにお茶をしに来るのですって??
そういえば私、コエダ様やタイジュ様を見ることに夢中で、王子の顔はわかりませんわぁ。
薄ぼんやり、金髪碧眼なのはわかりますけど。
お茶会、どうなっちゃうのかしら。
あ、コエダ様のことをいろいろ聞いちゃおうかしらぁ? ご学友だと言っていたもの。きっと仲が良いのよね?
それだけは楽しみだわ。
なんて、思っていたのに。
当日、王子がコエダ様を伴われてうちを訪問し。
私の心臓はパッキャァァァンになったのですわぁぁ。
叔父様がまた戦場に向かうことになって、私、心配しましたわ。
でも、そうは言っても。騎士団がハウリム国を占拠して、すみやかに国家が解体されたのですって。
私、次代の王妃とも目されているものですから、そういう国の裏側や政治のことについて、父も母もつまびらかに教えてくれるのですわぁ。
神の手さま、タイジュ様が消失なされて。
ディオン殿下はその元凶となられた元王子のニジェールを許さなかったのです。
そしてスタインベルンの国民もね。
前王妃の祖国ハウリムを殲滅せよ、と民はその方向へ大きく動きました。
当然ですわ。
女神の仲介人である神の手が奪われてしまった。
もしかしたら女神は、人々の行いに呆れてしまったのかもしれないでしょう?
神の手を返してもらうべく。
女神を呆れさせるようなことをしでかした者は、厳罰に処すべきですわぁ。
スタインベルンの民は女神を大事に思っているのですって、アピールしなければ。タイジュ様を返してもらえませんわぁぁ。なんてことっ。
お母様はしみじみと言いました。
「ミカエラ、よぉく覚えておきなさい。前王妃は自分の息子を王位に据えるために悪事を重ねました。ディオン殿下にも呪いをかけたのです。ですが、呪いというものは、必ず倍になって返ってくる恐ろしいものなのです。なにがあっても、決して人を呪うようなことをしてはいけません。そして、女神フォスティーヌに反目するのもダメです。神の手さまは女神の存在を証明した御方。あなたが王妃になった暁には、女神と、女神に近しい御方である神の手さまを手厚く敬うことです」
「もちろんですわ、お母様。私はお爺様仕込みの激熱女神信者です。女神や神の手さまをないがしろにすることなどありませんわぁ」
「ミカエラ、なんの本を読んだか知りませんが、激熱とか御令嬢が言うものではありません」
あら? 激熱って普通に使わないかしら? おかしいわね。
まぁいいわ。
それで、神の手を失ったスタインベルンは、しばらく火が消えたように意気消沈の様子でしたけど。
六月に、タイジュ様が王宮にお戻りになったの。
やったわぁぁ、神の奇跡が、タイジュ様が帰ってきたわぁ。
ありがとう、女神さま。最大限の感謝を…。なーむー。
その報が王都一帯に流れて、町はすっかりお祭り騒ぎになったわ。
神の手さまはすごい人気よ。
露店には、ディオン殿下とタイジュ様、コエダ様という親子三人が描かれた肖像画が並んで。端から売れていきました。
私も…従者のヨンサに言って、買ってきてもらいましたの。
うふふ、推しのグッズをゲットしたわぁ。
ん? なんの本で読んだのかしら? あまり使わない言葉だけどするりと出たわね。
でも、意味はわかっているわ。
私がだぁい好きで、敬って、崇め奉っている方を推しと言い。その方の片鱗に触れられる、具現化した宝物がグッズよね?
それはともかく。
神の手さまのご帰還を喜んで、みんなお祝いムードよ。すごいわ。
タイジュ様が戻ってすぐ、王宮で前回中止になった結婚披露宴が行われたのだけど。
それは大人の夜会で、子供は出席できなかったの。残念。
でもお爺様は神の手とご挨拶できたってほくほくでね。
ディオン殿下とタイジュ様のダンスが素晴らしく美しかったって言っていたわ。
えぇぇ、ずるぅぅい。私も見たかったぁ。
これからはお茶会やパーティーには眼鏡を持参した方が良さそうね。
タイジュ様とコエダ様を目にするために、壁に張り付いて、地味に目立たず、鑑賞できるスキルを身につけなくてはね。
魔法書に、透明人間になれる魔法はなかったかしらぁ?
というわけで、神の手さまを目にするイベントに出席できなかったのだけど。
七月にね、ジョシュア王子の誕生日会があるの。
そこには、王子と懇意になるべく、国中の貴族のお子様たちが集結するわ。
そしてその場で、新しく王族となられた神の手さまのご挨拶もあるそうよ。
はぁぁぁああん、今度は間近で神の手さまを見ることができるかしらぁ。
でも、近くへ寄ったら眼鏡をかけられないから、視界がぼやけるわ。
でもでも、目がぼやけていたら緊張度合いが半分になるから、ワンチャンお話なんかできたりして。
あぁでもでも、上手に挨拶できなかったら死ぬわ。恥ずか死ぬわ。
ここは絶対に失敗できないわよ、ミカエラ。
というわけで、ご挨拶の練習を、ヨンサが呆れちゃうくらいリピートしたわ。
もう、目をつぶっていても淑女の礼は完璧にできるわ。
ヨンサに突っついてもらったけど、ちょっとやそっとの衝撃ではブレない、完璧な仕上がりよ。
そして、いざ挑んだ。ジョシュア王子のお誕生日会。
私はしょっぱなから…眼鏡をかけていたらレンズがパッキャァァァンと割れるくらいの衝撃を食らったの。
陛下が、私を王子の婚約者候補に指名したのよ?
いえ、眼鏡はしていなかったから、パッキャァァァンは回避したけど。
そして淑女教育のたまもので、公爵令嬢として微笑みを顔にしっかり張り付けてそれをキープできたけど。
聞いてなーーーいっ。
つか、陛下ぁぁあ? 今なんておっしゃりましたのぉ?
王子の婚約者候補に、私と…コエダ様ぁぁ??
無理無理、神の手と公爵令嬢なんて、勝負にならないわよぉ。無茶苦茶よぉ。天と地よ。
コエダ様一択でしょ?
なにも考えることないでしょ。
っていうかぁぁ、私、コエダ様に恋をする前に。婚約者が?
いえ、ジョシュア王子が婚約者になるのは、薄々感づいてはいましたわ。
お母様は私が王妃になるって、いつも言っていて。
その可能性が一番高いのは、ジョシュア様の伴侶だものね。
ディオン殿下は内外に、タイジュ様以外の伴侶は設けないと公言しているの。
だとするとディオン殿下が王様を継いだあと。次代の王に、ディオン殿下の御子様は入らない。
王位継承順位は、エルアンリ様が第一候補になるわ。
だけどエルアンリ様はディオン殿下と同年代だから、弟王子の立太子は難しいらしいの。
でも同じ弟王子の中でも、ジョシュア様は年齢が離れていて、世代が下になるから立太子は充分に資格アリなのですって。
公爵令嬢の私が王妃になるなら、それはジョシュア王子の伴侶になるのが近道よ。
まだ生まれていないけど、エルアンリ様の御子様という可能性もあるけれどね。
だけどだけど。ジョシュア王子とコエダ様が結婚となったらぁ?
スタインベルン王朝は二代続けて神の手さまの恩恵を得ることになり。
女神の加護もマシマシで、国は安泰だわよぉ?
王様ったら、なにを考えているのかしら。
ジョシュア王子にはコエダ様を伴侶に据えるべきよ。決まりよ。
それにコエダ様と私がライバル関係なんて、ありえませんわぁ?
私を神の手に逆らわせるつもりぃ? 私を殺すおつもりぃ?
無理無理。マジで、むりっすわぁ。
はっ、御令嬢にあるまじき言葉が…まぁいいわ。
とにかく、私。コエダ様と敵対なんかしませんわぁ。
「ミカエラ様? すごいですわぁ。第七王子とご婚約だなんて」
陛下のご挨拶が終わって、わらわらと集まってくるお友達の御令嬢。
「候補はおふたりのようだけど、コエダ様は男の子ですもの」
私は笑みを張り付けて、みなさまにうなずきを返しますけど。
「婚約者はミカエラ様に、ほぼ決まりですわぁ」
やめてぇぇ。
婚約者はコエダ様一択なのですわぁ。
ライバル関係や敵対関係をあおらないでくださいませぇ。
「そんなことありませんわ。コエダ様は神の手として尊き御方ですもの」
なんて、私は相手にならないことをほのめかすのだけど。
「まぁ、ミカエラ様ったら、ごけんそんをぉ。お相手をおほめになるなんて、ご人格まですばらしいわ。やはり王家の一員になるべき方は違いますわねぇ?」
ちがうのぉ、そうじゃないのぉ。
本当にコエダ様と私では格が違うのですわぁ。
でも、私と同年代のお子様は。
ちょっとお子様すぎて。王子の婚約者、スゴーイ。という感じなのですわ。
表面だけしか見えていないの。
まぁ、十歳にもなっていない方たちだから、仕方がないのだけど。
ほらぁ、私は読書少女だからぁ?
愛憎のドロドロも、政務の駆け引きも、キツネとタヌキの化かしあい的戦術論も、ピュアでピンクなラブ物語も網羅していますから、そこらの大人よりも全然大人なのですわぁ。
だからね、お子様はね、王妃の重圧とか、国民の空気感とか、全く知らないの。
町に出れば、神の手の人気が爆上がりなのがわかるんだから、もっとお勉強なさってぇ。
つまり。私の周りのお友達は、そういうことを知らないの。
だからコエダ様の尊さに、イマイチ気づいていないみたいなのよ。
だから簡単に、私とコエダ様を対決させようとするのよぉう。無理無理。
「私、ちょっとお話がありますの、失礼」
楚々とした仕草で会釈をして、お子様のお嬢様たちの輪から抜け出し。
部屋の隅でお父様とお母様に厳重注意ですわ!
「お父様、お母様、私このお話聞いていませんけど?」
するとふたりは、エッという顔でお互いを見やった。
「君が話したのではないのかい? ミカエラが熱心にご挨拶の練習をしていたから…」
「私も旦那様がお話されたのだと…ミカエラが熱心にご挨拶の練習をしていたから…」
なにやら責任をなすりつけ合う両親。
それでは私が馬鹿みたいに淑女の礼をリピートしていたのが悪いみたいではありませんかっ。
「わ、わたくしは…もしも神の手さまとお話するようなことがあったらぁ…と思って練習を…」
手と手を合わせて、モジモジしていましたら。
「なにを言っているの? ミカエラ。神の手さまとは王子を巡ってのライバル関係よ? そうは言っても、女神には逆らえませんから、ここはやんわりと王子に近づいて、穏便に王子に好きになってもらいましょう。嫌がらせとかはダメですよ」
なんですか、その極悪で無茶ぶりなミッションは?
「当たり前です、嫌がらせなんか私できませんわぁ」
「まぁ、ミカエラは本当に天使のように心が清いのねぇ。あなたならジョシュア王子にきっと気に入ってもらえるわよ」
ちがうのです、お母様。
王子のお相手は、コエダ様一択なのですぅ。
私など…たかが公爵令嬢の私など、コエダ様の足元にも及ばないというのに。
婚約候補をコエダ様と争うなんて…おこがましいにもほどがありますわぁぁっ。
ということがありまして。
王子とコエダ様にご挨拶もしたのですけど。
もうグダグダで。練習が全くの無駄になりましたわぁ。
コエダ様の名前を口にするだけで唇が震えて、こここって、ニワトリみたいになりましたし。
お名前が、尊すぎて、ムリ。がくり。
眼鏡なしで視界がぼやけているけどコエダ様を見たくて、一生懸命ピントを合わせようとしたら、顔に変な力が入って、絶対変な顔になっていたし。
コエダ様が笑いかけてくださって、そのエレガントスマイルにはぁぁぁああん、ってなって。
そこは、ぼやけていて良かったわ、コエダ様スマイルにばっちりピントが合っていたら、確実に女神の元に召されていましたもの。
命の危険を感じて、早々に、這う這うの体で、私は彼らの前から逃げ去ったのですわぁぁ。
えぇ、完全敗北です。
いいえ、そもそもこれは負け戦です。無理です。
ですけど。婚約者候補になったので。
王子が月に一度、私のおうちにお茶をしに来るのですって??
そういえば私、コエダ様やタイジュ様を見ることに夢中で、王子の顔はわかりませんわぁ。
薄ぼんやり、金髪碧眼なのはわかりますけど。
お茶会、どうなっちゃうのかしら。
あ、コエダ様のことをいろいろ聞いちゃおうかしらぁ? ご学友だと言っていたもの。きっと仲が良いのよね?
それだけは楽しみだわ。
なんて、思っていたのに。
当日、王子がコエダ様を伴われてうちを訪問し。
私の心臓はパッキャァァァンになったのですわぁぁ。
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生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
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