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2-13 魔石をゲットぉぉ
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◆魔石をゲットぉぉ
流行り病の元凶となるかもしれないと思われる湖に、とーちゃっく。
しかしながら、ぼくの目に映る湖は、黒いモヤが漂う、キモイ湖なのでした。
「へぇぇ、ここが水鳥がいっぱい死んでいたっていう湖かぁ。水鳥の死骸は燃やしてくれたんだよな?」
馬車を降りてきた友達のエルゼに、オズワルドがそう話しかけています。
「はい。ですが、燃やせと殿下に言われたのはつい最近ですから。その前のものに関しては、岸辺に埋めたんじゃないかな?」
オズワルドは王子だけど、エルゼはかしこまり過ぎないお友達的立場で、敬語と親しみが良い感じで混ざっている話口ですね。
ちなみに、エルゼの言う殿下は、父上のことではなくてオズワルドのことだよ。
「そりゃ、いけないな。野生動物が掘り起こして口にしたら、その獣がまた汚染されて、人々に感染するかもしれない。なぁ、タイジュ?」
エルゼにオズワルドはそう説明して、パパに話を振りました。
「そうですね。感染源はしっかり断つべきです。手洗いやうがいなどでも、感染防止にはなりますが。もしも狩りで得た肉を食べるようなときは、しばらくはしっかり焼いて食べるなどの対策を取った方がいいかもしれませんね」
パパは医者的にそう返事を返します。
ですよね、ちょっと硬くなっても、お肉はしっかり焼いた方がぼくは好きです。
「しっかり焼けば、食べても大丈夫なのですか?」
興味深そうにエルゼが聞いてきます。
「死んでいた水鳥や獣を食べるのは、やめた方がいいですが。狩りの獲物などは、しっかりと焼くことで細菌や感染源を殺すことができます。大概の菌は熱に弱いですからね」
「なるほど。つか、殿下。神の手さまにそんな軽い口を利くなんて…」
エルゼはパパにはニコニコですが、オズワルドには目を吊り上げます。
「だって、兄嫁だぞ? 義兄弟になったんだから、少しくらい親しみを持ってもいいだろう? それに俺は心の中でタイジュをしっかりリスペクトしている。毎日拝んでいる」
エルゼとオズワルドの話に、パパは『大袈裟だなぁ』と苦笑いだ。
エルゼはパパの結婚式を見に行ったんだって。
だから神の手の奇跡を、遠目からでも目撃して。
わぁぁ、って思ったみたい。
そういう国民は多いようですよ。
神の手のお話は、アムランゼのような王都から遠く離れた地方の民には伝わっていませんが。
エルゼのような人たちが話を広めたら。すぐにも、爆発的に、神の手信者が増えそうです。
パパ、スゴーイ。
「しかし、水鳥が大量に死ぬような湖には見えないな。少しにごっているくらいか?」
「俺が学園に入る前までは、鏡面のように晴れた空が青くうつり込む綺麗な湖だったんだよ。鳥や獣の鳴き声もたまにして、それなりに森は賑やかだったが。今は静けさが不気味なほどだ」
地元の人には、細かい違いが違和感に思えるのでしょう。
「コエダは、黒いモヤが見えるって言っていたではありませんか、兄上」
ジョシュア王子がオズワルドに言います。
ぼくは、ぼくだけに見えているものの話をしていいものかと、モジモジしていましたが。
「あぁ、そんな事を言ってたな。しかしそこまで汚れているようには見えないが…」
そうして、オズワルドは腕を組んで考え込んでしまう。
「でも、ここで取れたお魚をみんな食べるのでしょう? それはちょっとキモいから。とりあえずクリーンしてみましょう」
ぼくはポテポテと岸辺に歩いていきます。
大きな湖なので、さわさわと波が打ち寄せてきますけど。
その端っこにしゃがみこんで、水に人差し指を入れて。
「クリーン」
と言います。
いえ、言わなくても浄化はできますけど。
一応ね、聖女なのは内緒なのでね。
汚いものをきれいにする魔法の態でね、カモフラージュです。
すると湖は、ぼくの人差し指からたちまち色を変えて。
エルゼが言っていたようなきれいな鏡面の湖に戻ったのだ。
黒いモヤも、なくなりましたよ。
やりましたっ。聖女デビュー、優勝です。
「え、一瞬で、以前のような湖に戻ったよ? コエダちゃんはすごいんだね? コエダちゃんもタイジュ様とセットで神の手なんだよね? だからこんなすごいことができるんだぁ。すごい親子だぁ」
へぇぇぇぇ、とエルゼは目を丸くして。
ぼくは、えへぇぇぇっと照れます。
そしてオズワルドも同じく目を見開いていた。
「やべぇ、コエダにひれ伏したい…」
やめてください、オズワルドがひれ伏したら聖女だとバレるでしょ。
「コエダぁ、すっごいねぇ。キラキラってしてた。コエダ、すっごい」
ジョシュア王子も、はしゃいで、拳を握って、すっごいすっごい言っています。
王子の目の方がキラキラですけど?
「小枝が見えていた黒いモヤは、やはり人体に悪影響な物質だったんだろうね? 綺麗になったかい?」
「はい、パパ。でも…」
ぼくはちょーーっと、心配です。
なんか、湖の底にあるのです。
「パパ、あれはなんでしょう?」
そうして指を差したら。黒い影がどんどん大きくなってきて。
水面の上にヌゥゥゥゥッと出てきました。
分厚い唇をした、肌がヌメヌメェっとした、大きな大きなナマズです。
ナマズは口をガバリと開くと、ウォーーーンと鳴いて。
ぼくらはそれを、口をあんぐり開けて、ほえぇぇぇっと見上げるしかありません。
だって、とっても大きいのです。
パパの身長の二倍以上あります。
「タイジュ、みんなも危ない。後ろに下がって…」
オズワルドに言われ、我に返ったパパが、ぼくと王子を小脇に抱えて、後ろに下がりました。
すかさず護衛のレギとノアもぼくらの前に出てかばってくれます。
でも避難しているうちに。
ナマズは、お腹を上にしてぷかりと浮いてしまったのです。
「へえぇぇぇぁああ? 死? 死、ですか? ぼくが浄化したからぁ??」
と思って、ぼくはパパの腕にヒシッとしがみつきます。
そして王子は、ぼくにしがみつきました。
つか、王子。出発前、ぼくを守るって豪語していませんでしたっけ?
ノアは一応剣を抜いていますよ?
王子も剣を抜いてぇ。
でもね、騎士さまたちが水の中に入って、サクサク剣を突き入れたらね。
ナマズの体が光り輝いて、大きな体が消えちゃったの。
それでね、紫色の大きな宝石がぼくのところにポーンと飛んできて。
差し出した手の上に乗っかったの。
「魔石をゲットぉぉ」
いえ、これが魔石かどうかはわかりませんが。
アニメやゲームで、魔獣を倒すと宝石出てくるって、よくあるでしょ?
あれみたいだったからぁ。
大きなナマズの中から出てきたから、二十センチ四方の宝石だよ。
「パパぁ、これあげるぅ」
大きな宝石はぼくの戦利品です。戦利品はパパにあげます。
「ナマズの宝石ぃ? うん…まぁ、ありがとう小枝」
パパは頬を引きつらせますが、まぁまぁ笑顔で受け取りました。良かったぁ。
いつも一生懸命ぼくを育ててくれるから。
パパへ感謝の気持ちです。
ナマズですけど。
「すごいな、コエダ。あの魔物を倒したのだろう? すっごいなぁ」
語彙が圧倒的に足りませんけど。
まぁ、ありがとうございます、王子。
ぼくはちょっと照れて、頭を手でペソペソ撫でつけます。
「てか、あれは魔物なのですか? ぼくには大きなナマズに見えましたが」
「あんな、大きなナマズはいないだろ。あの大きさはナマズが魔獣に変化したものだと思うぞ? 魔獣? 魚だから、魔魚。まぎょーーっ」
自分で言って、ひとりでウケています。
王子、スペシャルな王子はそういうひとりツッコミはしないものです。
っていうか、前世ではなにを言ってもクスリともしなかったのに。
素地は実は、くだらない笑いが好きな人だったのですね。とぉーい目。
「魔獣というのは、普通の獣が、魔素の滞った場所に長くいることで発生すると言われている。今回は湖の底に魔素がたまっていて、ナマズが変化したのだろう。コエダが浄…クリーンしたから。魔素がなくなって、あの魔物は生きていけなくなったってことだな」
オズワルドの説明に、ぼくと王子は、へぇと聞き入った。
そうなのですねぇ。
「魔素を食べた魚を食べた水鳥が、死んだり、保菌者となって飛んでいき。別の場所で死んだりしたのだろうな。菌は人々を渡り歩く中で、強化して変異するから。流行り病の元となりえたかもしれません。早めに対応できて良かった事例だと思います」
パパがそう言うので。
ではぁ、もしかしたら。
六年後に起きるかもしれない流行り病を未然に防ぐことができたのかもしれないのですねぇ? 良かったですぅ。
今回はあの病でひとりも死なずに済んだかもしれませんね。
年代が違い過ぎるので、油断はできませんけど。
同じようなことが起きたら、今回のように対処していけばいいのです。
それがわかって、ぼくは嬉しくなりましたっ。
それでね、町に戻って。
今、病で苦しんでいる人たちがいる病院を回って。
パパが診察をして。ぼくがクリーンして。
軽症のうちに治療ができたから、アムランゼの領民にも病は蔓延しないで済んだみたい。
王族の旅だから、治癒魔法士のリカルドが帯同していたのですが。
今回は出番なしだと嘆いています。
いいえ、治癒魔法士の出番がないのは良いことです。みんなが元気な証拠ですから。
医者いらずが一番良いと、パパもよく言っていますからね。
パパの言うことは正しくて。パパはなんでも知っている。すごーいパパなのです。
それでね、聖女のお仕事も早くに終わったからね。
残りの日程はエルゼの案内で王子たちと森で遊んだりしてね。
虫カゴにカブトムシをいっぱい取ったのぉ。王子が…。わさぁぁ。
キモっ。いっぱいワサワサしていると、カブトムシでもキモいです。
あの、台所に出没する黒くてヤバいやつが思い出されます。
はじめて会った冬の頃からカブトムシカブトムシ言っていた王子は、とうとう念願のカブトムシにご対面で。ほくほくです。
でもね、最初虫を触るときは怖がったんだよ?
虫が触れないお友達はつまんないなんて言っていたくせにぃ。
それで、ぼくがカブトムシをつまんで、王子の胸にくっつけたら、アヒャアヒャ言って。
カブトムシバッジです。
これ、ぼくもパパにやられて、同じ感じになりました。
カブトムシの足はハリハリがついていて、意外に力強いので。肌に触れると結構痛いのですけど、王子はそんなことにも興味津々で。
要領をつかんだら、どんどんカブトムシを捕まえていって、カゴに入れていきました。
入れすぎです。
そして、パパがキャンプの知識を生かして。
焚火でお肉を焼いたり、チーズをトロリとしたり。
ジャガイモもね、アムランゼの名産でね。
パパがジャガイモを茹でて、鉄板でちょっと焼き目をつけて。そこにたぁぁっぷりのバターととろぉぉりチーズをかけたやつぅ。絶対美味しいやつぅぅ。を作ってぇ。
ハフハフして食べたら、やっぱり美味しいぃィってなったよ。
あとね、トウモロコシもね、ジャガイモと同じようにちょっと茹でてから鉄板で焼いて。そこにバターと。小瓶で持ってきていた醤油をたらりと垂らしたらぁ?
焼きトウモロコシぃぃ。
うまぁ、うんまぁぁ。
両手で持って、ガシガシ食べちゃった。
それとね、一応クリーンしたお魚を塩焼きしたりして。
んーん、お魚は大好きではないけど、久しぶりに食べると美味しいのぉぉ。
お腹のにがいところは嫌いだから。背中だけ食べました。
「内臓は取ったから、そんなににがくないんだけどな。でも大人は、この苦味が癖になるんだけどなぁぁ」
なんて言って。パパがぼくと王子が残したお腹の部分は食べてくれました。
パパの言葉に、護衛の騎士さまもうなずいています。
オズワルドも食べれないんだから、いいのぉ。
それでね、日程を終えてアムランゼをあとにする日。
パパは初日に、父上にお土産を買おうなんて言っていたけど。
病気を治した神の手に、領民がお供えをいっぱい持ってきてね。
美味しいチーズとかバターとかワインとか、持ちきれないくらいのお礼の品が届けられたんだ。
ラッキー。
そして領民がありがとうって手を振る中。
ぼくらは王都への帰途へついたのだったぁ。
はじめてのパーティーで、はじめての聖女浄化の旅は。
ナマズは…びっくりしたし。
王子が移動中にカブトムシにご飯をあげようとしたら、逃げられちゃって。あぁああぁあ、となって。
ちょっとしたハプニングはあったけどねぇ。
特に危ないこともないままに終了したのだったぁぁ。むふん。
流行り病の元凶となるかもしれないと思われる湖に、とーちゃっく。
しかしながら、ぼくの目に映る湖は、黒いモヤが漂う、キモイ湖なのでした。
「へぇぇ、ここが水鳥がいっぱい死んでいたっていう湖かぁ。水鳥の死骸は燃やしてくれたんだよな?」
馬車を降りてきた友達のエルゼに、オズワルドがそう話しかけています。
「はい。ですが、燃やせと殿下に言われたのはつい最近ですから。その前のものに関しては、岸辺に埋めたんじゃないかな?」
オズワルドは王子だけど、エルゼはかしこまり過ぎないお友達的立場で、敬語と親しみが良い感じで混ざっている話口ですね。
ちなみに、エルゼの言う殿下は、父上のことではなくてオズワルドのことだよ。
「そりゃ、いけないな。野生動物が掘り起こして口にしたら、その獣がまた汚染されて、人々に感染するかもしれない。なぁ、タイジュ?」
エルゼにオズワルドはそう説明して、パパに話を振りました。
「そうですね。感染源はしっかり断つべきです。手洗いやうがいなどでも、感染防止にはなりますが。もしも狩りで得た肉を食べるようなときは、しばらくはしっかり焼いて食べるなどの対策を取った方がいいかもしれませんね」
パパは医者的にそう返事を返します。
ですよね、ちょっと硬くなっても、お肉はしっかり焼いた方がぼくは好きです。
「しっかり焼けば、食べても大丈夫なのですか?」
興味深そうにエルゼが聞いてきます。
「死んでいた水鳥や獣を食べるのは、やめた方がいいですが。狩りの獲物などは、しっかりと焼くことで細菌や感染源を殺すことができます。大概の菌は熱に弱いですからね」
「なるほど。つか、殿下。神の手さまにそんな軽い口を利くなんて…」
エルゼはパパにはニコニコですが、オズワルドには目を吊り上げます。
「だって、兄嫁だぞ? 義兄弟になったんだから、少しくらい親しみを持ってもいいだろう? それに俺は心の中でタイジュをしっかりリスペクトしている。毎日拝んでいる」
エルゼとオズワルドの話に、パパは『大袈裟だなぁ』と苦笑いだ。
エルゼはパパの結婚式を見に行ったんだって。
だから神の手の奇跡を、遠目からでも目撃して。
わぁぁ、って思ったみたい。
そういう国民は多いようですよ。
神の手のお話は、アムランゼのような王都から遠く離れた地方の民には伝わっていませんが。
エルゼのような人たちが話を広めたら。すぐにも、爆発的に、神の手信者が増えそうです。
パパ、スゴーイ。
「しかし、水鳥が大量に死ぬような湖には見えないな。少しにごっているくらいか?」
「俺が学園に入る前までは、鏡面のように晴れた空が青くうつり込む綺麗な湖だったんだよ。鳥や獣の鳴き声もたまにして、それなりに森は賑やかだったが。今は静けさが不気味なほどだ」
地元の人には、細かい違いが違和感に思えるのでしょう。
「コエダは、黒いモヤが見えるって言っていたではありませんか、兄上」
ジョシュア王子がオズワルドに言います。
ぼくは、ぼくだけに見えているものの話をしていいものかと、モジモジしていましたが。
「あぁ、そんな事を言ってたな。しかしそこまで汚れているようには見えないが…」
そうして、オズワルドは腕を組んで考え込んでしまう。
「でも、ここで取れたお魚をみんな食べるのでしょう? それはちょっとキモいから。とりあえずクリーンしてみましょう」
ぼくはポテポテと岸辺に歩いていきます。
大きな湖なので、さわさわと波が打ち寄せてきますけど。
その端っこにしゃがみこんで、水に人差し指を入れて。
「クリーン」
と言います。
いえ、言わなくても浄化はできますけど。
一応ね、聖女なのは内緒なのでね。
汚いものをきれいにする魔法の態でね、カモフラージュです。
すると湖は、ぼくの人差し指からたちまち色を変えて。
エルゼが言っていたようなきれいな鏡面の湖に戻ったのだ。
黒いモヤも、なくなりましたよ。
やりましたっ。聖女デビュー、優勝です。
「え、一瞬で、以前のような湖に戻ったよ? コエダちゃんはすごいんだね? コエダちゃんもタイジュ様とセットで神の手なんだよね? だからこんなすごいことができるんだぁ。すごい親子だぁ」
へぇぇぇぇ、とエルゼは目を丸くして。
ぼくは、えへぇぇぇっと照れます。
そしてオズワルドも同じく目を見開いていた。
「やべぇ、コエダにひれ伏したい…」
やめてください、オズワルドがひれ伏したら聖女だとバレるでしょ。
「コエダぁ、すっごいねぇ。キラキラってしてた。コエダ、すっごい」
ジョシュア王子も、はしゃいで、拳を握って、すっごいすっごい言っています。
王子の目の方がキラキラですけど?
「小枝が見えていた黒いモヤは、やはり人体に悪影響な物質だったんだろうね? 綺麗になったかい?」
「はい、パパ。でも…」
ぼくはちょーーっと、心配です。
なんか、湖の底にあるのです。
「パパ、あれはなんでしょう?」
そうして指を差したら。黒い影がどんどん大きくなってきて。
水面の上にヌゥゥゥゥッと出てきました。
分厚い唇をした、肌がヌメヌメェっとした、大きな大きなナマズです。
ナマズは口をガバリと開くと、ウォーーーンと鳴いて。
ぼくらはそれを、口をあんぐり開けて、ほえぇぇぇっと見上げるしかありません。
だって、とっても大きいのです。
パパの身長の二倍以上あります。
「タイジュ、みんなも危ない。後ろに下がって…」
オズワルドに言われ、我に返ったパパが、ぼくと王子を小脇に抱えて、後ろに下がりました。
すかさず護衛のレギとノアもぼくらの前に出てかばってくれます。
でも避難しているうちに。
ナマズは、お腹を上にしてぷかりと浮いてしまったのです。
「へえぇぇぇぁああ? 死? 死、ですか? ぼくが浄化したからぁ??」
と思って、ぼくはパパの腕にヒシッとしがみつきます。
そして王子は、ぼくにしがみつきました。
つか、王子。出発前、ぼくを守るって豪語していませんでしたっけ?
ノアは一応剣を抜いていますよ?
王子も剣を抜いてぇ。
でもね、騎士さまたちが水の中に入って、サクサク剣を突き入れたらね。
ナマズの体が光り輝いて、大きな体が消えちゃったの。
それでね、紫色の大きな宝石がぼくのところにポーンと飛んできて。
差し出した手の上に乗っかったの。
「魔石をゲットぉぉ」
いえ、これが魔石かどうかはわかりませんが。
アニメやゲームで、魔獣を倒すと宝石出てくるって、よくあるでしょ?
あれみたいだったからぁ。
大きなナマズの中から出てきたから、二十センチ四方の宝石だよ。
「パパぁ、これあげるぅ」
大きな宝石はぼくの戦利品です。戦利品はパパにあげます。
「ナマズの宝石ぃ? うん…まぁ、ありがとう小枝」
パパは頬を引きつらせますが、まぁまぁ笑顔で受け取りました。良かったぁ。
いつも一生懸命ぼくを育ててくれるから。
パパへ感謝の気持ちです。
ナマズですけど。
「すごいな、コエダ。あの魔物を倒したのだろう? すっごいなぁ」
語彙が圧倒的に足りませんけど。
まぁ、ありがとうございます、王子。
ぼくはちょっと照れて、頭を手でペソペソ撫でつけます。
「てか、あれは魔物なのですか? ぼくには大きなナマズに見えましたが」
「あんな、大きなナマズはいないだろ。あの大きさはナマズが魔獣に変化したものだと思うぞ? 魔獣? 魚だから、魔魚。まぎょーーっ」
自分で言って、ひとりでウケています。
王子、スペシャルな王子はそういうひとりツッコミはしないものです。
っていうか、前世ではなにを言ってもクスリともしなかったのに。
素地は実は、くだらない笑いが好きな人だったのですね。とぉーい目。
「魔獣というのは、普通の獣が、魔素の滞った場所に長くいることで発生すると言われている。今回は湖の底に魔素がたまっていて、ナマズが変化したのだろう。コエダが浄…クリーンしたから。魔素がなくなって、あの魔物は生きていけなくなったってことだな」
オズワルドの説明に、ぼくと王子は、へぇと聞き入った。
そうなのですねぇ。
「魔素を食べた魚を食べた水鳥が、死んだり、保菌者となって飛んでいき。別の場所で死んだりしたのだろうな。菌は人々を渡り歩く中で、強化して変異するから。流行り病の元となりえたかもしれません。早めに対応できて良かった事例だと思います」
パパがそう言うので。
ではぁ、もしかしたら。
六年後に起きるかもしれない流行り病を未然に防ぐことができたのかもしれないのですねぇ? 良かったですぅ。
今回はあの病でひとりも死なずに済んだかもしれませんね。
年代が違い過ぎるので、油断はできませんけど。
同じようなことが起きたら、今回のように対処していけばいいのです。
それがわかって、ぼくは嬉しくなりましたっ。
それでね、町に戻って。
今、病で苦しんでいる人たちがいる病院を回って。
パパが診察をして。ぼくがクリーンして。
軽症のうちに治療ができたから、アムランゼの領民にも病は蔓延しないで済んだみたい。
王族の旅だから、治癒魔法士のリカルドが帯同していたのですが。
今回は出番なしだと嘆いています。
いいえ、治癒魔法士の出番がないのは良いことです。みんなが元気な証拠ですから。
医者いらずが一番良いと、パパもよく言っていますからね。
パパの言うことは正しくて。パパはなんでも知っている。すごーいパパなのです。
それでね、聖女のお仕事も早くに終わったからね。
残りの日程はエルゼの案内で王子たちと森で遊んだりしてね。
虫カゴにカブトムシをいっぱい取ったのぉ。王子が…。わさぁぁ。
キモっ。いっぱいワサワサしていると、カブトムシでもキモいです。
あの、台所に出没する黒くてヤバいやつが思い出されます。
はじめて会った冬の頃からカブトムシカブトムシ言っていた王子は、とうとう念願のカブトムシにご対面で。ほくほくです。
でもね、最初虫を触るときは怖がったんだよ?
虫が触れないお友達はつまんないなんて言っていたくせにぃ。
それで、ぼくがカブトムシをつまんで、王子の胸にくっつけたら、アヒャアヒャ言って。
カブトムシバッジです。
これ、ぼくもパパにやられて、同じ感じになりました。
カブトムシの足はハリハリがついていて、意外に力強いので。肌に触れると結構痛いのですけど、王子はそんなことにも興味津々で。
要領をつかんだら、どんどんカブトムシを捕まえていって、カゴに入れていきました。
入れすぎです。
そして、パパがキャンプの知識を生かして。
焚火でお肉を焼いたり、チーズをトロリとしたり。
ジャガイモもね、アムランゼの名産でね。
パパがジャガイモを茹でて、鉄板でちょっと焼き目をつけて。そこにたぁぁっぷりのバターととろぉぉりチーズをかけたやつぅ。絶対美味しいやつぅぅ。を作ってぇ。
ハフハフして食べたら、やっぱり美味しいぃィってなったよ。
あとね、トウモロコシもね、ジャガイモと同じようにちょっと茹でてから鉄板で焼いて。そこにバターと。小瓶で持ってきていた醤油をたらりと垂らしたらぁ?
焼きトウモロコシぃぃ。
うまぁ、うんまぁぁ。
両手で持って、ガシガシ食べちゃった。
それとね、一応クリーンしたお魚を塩焼きしたりして。
んーん、お魚は大好きではないけど、久しぶりに食べると美味しいのぉぉ。
お腹のにがいところは嫌いだから。背中だけ食べました。
「内臓は取ったから、そんなににがくないんだけどな。でも大人は、この苦味が癖になるんだけどなぁぁ」
なんて言って。パパがぼくと王子が残したお腹の部分は食べてくれました。
パパの言葉に、護衛の騎士さまもうなずいています。
オズワルドも食べれないんだから、いいのぉ。
それでね、日程を終えてアムランゼをあとにする日。
パパは初日に、父上にお土産を買おうなんて言っていたけど。
病気を治した神の手に、領民がお供えをいっぱい持ってきてね。
美味しいチーズとかバターとかワインとか、持ちきれないくらいのお礼の品が届けられたんだ。
ラッキー。
そして領民がありがとうって手を振る中。
ぼくらは王都への帰途へついたのだったぁ。
はじめてのパーティーで、はじめての聖女浄化の旅は。
ナマズは…びっくりしたし。
王子が移動中にカブトムシにご飯をあげようとしたら、逃げられちゃって。あぁああぁあ、となって。
ちょっとしたハプニングはあったけどねぇ。
特に危ないこともないままに終了したのだったぁぁ。むふん。
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