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2-9 王族の役目
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◆王族の役目
ジョシュア王子のお誕生日会で、ぼくは王子と一緒に、多くの貴族の人やそのお子様とご挨拶をしました。
日本にいたら、こんなに大勢の人にひとりひとり挨拶することはなかったと思うので。
ちょっと疲れました。
あぁっ、パパとお医者みたいなことをしていたときは、そういうこともありましたね。
毎日いろんな患者さんと会いました。
でも、王子は顔を覚えた方がいいって言うので。今回は気を張っていましたし。
お仕事とは少しニュアンスが違うようなぁ? そんな感じです。
そして夜が近くなったので。お誕生日会は終わりました。
お客様を見送るまでが、お誕生日会です。
そうは言っても、会場でのお見送りですけど。
王族はいげんを保たなければならないので、頭を下げることなく、みなさんさようならぁと去って行く感じです。
んん、これはお見送りとは違いますね? 退場です。
でね、退場したあと、王族のみなさんはひとつの部屋に集まりました。
陛下に直談判ですっ。
いえ、ケンカ腰ではないですけどね。
「父上、相談もなしに退位を決めてしまうなんて。なぜ一言事前に言ってくださらなかったのですか?」
大きなテーブルに腰かけている王族の人たちの中から、まず、エルアンリ様が申しました。
エルアンリ様は、今はさいしょーっていう、王様や父上の補佐をするお仕事をしています。
今日のような大きな会を仕切ったりもするので、いつも忙しくて。
北の館から西の館にお引越ししてしまったら。なかなか顔を合わせなくなりました。
ちょっと久しぶりぃです。
「言えば、皆は反対したであろう」
「もちろん反対しますよ。退位するには、父上は若すぎる」
オズワルドが呆れ顔で言って、みなさんもうなずいています。
王様は、亡くなるまで務めるのが一般的だと、メイは学校で習いましたから。
生きているうちに退位するのは珍しいことだと思いますよ。
それに王様はまだ四十代くらいですしね。
御病気や、年齢による体力低下で公務を果たせないとか。そういう理由が普通は必要なのです。
「しかし私はマリアンヌと相談して、そうそうにディオンに譲位した方が良いと判断したのだ。前王妃の悪行の責任を取るという気持ちももちろんあるが。それよりもこのスタインベルンが、ディオンや神の手であるタイジュの元で強固に結束しつつあると、私は感じている。この国がより良い国となるのに、私が妨げになってはならないのだ」
毅然として、王様は言います。
難しい話で、少し眠くなりますが。
つまり、国が盛り上がっているから、大人気の父上に王様になってもらおうっ、ってことだね?
「妨げなど、とんでもない。難しい局面をしのいできた父上の手腕は、国民に伝わっているはずです」
父上はそう言うけど。
王様は首を横に振ります。
「しかし。王子をふたりも失った。その悔恨の気持ちも私にはあるのだよ、ディオン。余生は、その二人の王子を悼む時間にあてたいのだ」
そう言われてしまうと、父上も、他の王子もなにも言えません。
「強いお気持ちで決めたことなのでしょう。それは…まだ納得はできないものの、陛下の判断を受け入れざるをえません。しかし、ジョシュアの婚約の件はどういうおつもりなのか、お聞かせください」
おお、父上が、ぼく的本題に入りました。
眠気がさめて、ピカリと目が開きます。
「婚約ではなく、婚約候補だ。常々ジョシュアはコエダとの婚約を望んでいた。断られているとも聞いているし。タイジュが、コエダの年齢ではまだ婚約は早いと思っていることも聞いている。私も、婚約や結婚は、双方の気持ちが固まってからする方が良いと思っている。愛のない結婚は、ただただ苦痛でしかなかったのでな」
王様は、たぶん。前王妃のことを考えているのでしょう。
眉間のシワが、父上並みにビシリと深いです。
「しかし、タイジュよ。そなたの国では早いことかもしれないが、我がスタインベルンでは王族の婚約としてはそれほど早いものではない。それは、我らが王族であり。国を采配するものとして、子供のうちから将来王となるべく自覚や相応の教育を施さなければならないからだ。婚約者にも、王妃として、もしくは王を支える者として、教育が必要となる。タイジュは今王妃教育を受けている最中だと思うが。コエダにも早いうちから同じ教えを受けてもらいたいし。ミカエラもそのように教育されているはずだ」
「はい。まぁ、王妃教育は。刺繍などはともかく。市井の者との関りも多くを占め。私は医療や孤児院などの計画を推し進めたいので、とても興味深い教育です。小枝もともに習うというのは社会勉強としても有意義なので、賛成です。小枝はどう思う?」
パパがたずねるので。
「はぁあ、パパとまたお仕事みたいなことができるのは嬉しいですぅ」
と、ぼくはお返事しました。
王妃…は、置いておいてです。
なんでも学ぶのはいいことだと思います。
それにメイは、王妃教育を少しかじっているのですよ。
メイのバカ兄が、メイを王子の結婚相手にしようとしたのでね、その思惑で礼儀作法をさせられました。
パパにも教えてあげられます。特にダンスとかね、むふん。
「父上、なぜミカエラが候補なのですか? 候補はコエダだけで良かったのに…」
ジョシュア王子がそこを聞きました。
いえ、そこはゴネずに。おとなしくミカエラを受け入れていただきたいです。
ですがぁ、それに王様は答えました。
「王族の役目として、血脈を維持することも大切なのだ。我らスタインベルン王家は女神の系譜である。その威光を持って、我らは国民から支えられているのだ。血脈を決してないがしろにはできない。だが、私はディオンに王位を譲る。ディオンはタイジュ以外の者を娶らないと公言しているので、血脈の維持は難しいだろう。なのでディオンには、次々代の王に血脈を重視してもらいたいのだ」
王様はひと息ついて。話を続ける。
「そこで、ジョシュアの婚約者候補であるミカエラだが。彼女は私の弟の孫であり、王族の血を引いている。さらに、すでに魔法の扱いに秀でているので、女神の祝福が色濃く出ていて王家の結婚相手に相応しい。ディオンの継承者としての道筋をつけるための、候補者指名であった」
なるほど、王様はジョシュアに王位を継がせることも考えているのですね。
そのための候補者。
つまり、ぼくと王子が結婚したら、王子は王位継承が難しいのですねぇ?
やっぱりぃ。
「しかし、誤解しないでもらいたいのだが。コエダがジョシュアの相手に相応しくないと言っているわけではないのだ。これはあくまで選択肢の提供であり。ジョシュアがコエダ以外の者に目を向ける機会を与えたに過ぎない。どうしてもジョシュアがコエダ以外にないと言うのなら、私はその主張を尊重する。ゆえにコエダも候補にしたし。ジョシュアがさらに他の者と愛を育んだのなら、その者にも婚約者となる余地を与えたい。だから婚約ではなく候補ということにしたのだ」
王様はそう言いますけど。本当ですかぁ?
ぼくのことは父上の息子だからと、そんたくしていませんかぁぁ?
でも、気持ちはわかります。
パパは父上に出自を明らかにしましたが、父上はぼくらがどこから来たのか、詳しく周りに話していないのです。
異世界から来たとか、説明できませんよね。
つまりぼくらは、どこから来たのかわからない…んん、得体のしれないってやつなのです。
王子の相手に相応しくないと思われても当然です。
「父上、私はそのように目移りするような男ではありません。コエダが私を愛しているになったら、速攻で婚約して結婚ですからっ」
王子の言葉に、王様は目尻をさげて、言うのだ。
「おぉおぉ、もちろんジョシュアは誠実な男子だとも。しかし、だからこそ。婚約に関しては時間をかけて、コエダと想いを育むことだな?」
つまり、王様はすぐにも婚約者を決めろと、そういう感じではなさそうです。
ならいいのです。
どうせ王子はすぐにもミカエラと恋に落ちるのですから。
はい、ぼく知っているので。
「小枝、今の話で理解できたか?」
父上が、できうる限りの優しい顔つきで聞いてくるので。
ぼくはうなずきます。
「はい。男の子で、どこから来たのかわからないぼくは、王子の結婚相手に相応しくないってことでしょう? 女の子と結婚しないと、王子は王位継承できなくなっちゃうんですよね? 父上の血を受け継いでいないぼくより、女神の祝福が色濃いというミカエラが婚約者になった方が、王子のためなのですよね?」
ぼくの理解力は最高だと、ムフンとした口で言いましたが。
父上は、なるべくゆるませていたお顔が、ギョンといかめしく変化し。
パパも眉を吊り上げて、なんでか怒っています。
「そんなわけないだろっ、聖女の小枝はどこの誰より王子の結婚相手に相応しいに決まっているっ!!」
椅子を蹴っ倒して席を立ち、パパは大声で言いました。
しかし、椅子がガターーンとなって。
場はシーーンと静まって。
緊張の糸がピーーンです。
「は? 聖女ぉぉ? コエダが聖女なのですか? 初耳ですけどぉぉ??」
静まった室内にエルアンリ様の言葉が響いて。
パパは慌てて口をおさえたのだった。
遅いですけど。
「言っちゃったっ。内緒だったのに、ごめん。うちの小枝はきゅるんとした笑顔が最高に可愛いし、クリーンという珍しい魔法も持っているのに。ミカエラ嬢よりうちの小枝の方が素晴らしいのにぃぃって、ずっとモンモンしていたから、つい…」
珍しいパパの大失態です。溺愛がアダとなったようです。
ぼくも、いい感じに婚約回避できそうだったので、パパを呆れ顔でみつめますが。
仕方がないのです。だってパパは、ぼくが大好きなのですもーん。
大好きゆえなので、ゆるすっ。
しかし父上も、手で頭を抱えました。
「はぁぁ? そのリアクションは兄上もご存じだったのですか? なんで黙っているんですか? 聖女が降臨していたなんて、王家の一大事だっていうのにぃぃ?」
今までおとなしかったオズワルドが、目をギャンと見開いて父上にたずねます。
女神フリークのほんりょうはっきです。
「いやぁぁ、いろいろあって。聖女だということは内緒にしたいと言うので。そこはツッコんでくれるな。一応、聖女のお役目は前王妃を追い出したことで終了なので…」
ですよね。前世で聖女が処刑されたとか、言えませんものね。
それを回避するために内緒にしていたのですけど。
「いやいや、そんなわけないでしょ。つか、クリーンてなに? 魔法? コエダは魔法持ちだってのか?」
興奮したオズワルドの言葉に、エルアンリ様も困惑でつぶやきます。
「クリーンは人体に悪影響のものをきれいにする毒消しだとばかり思っていました。しかしあのクリーンは、まさかの浄化スキルだったのですか? 安易なネーミングにすっかり騙されました」
それにパパは首を横に振って、しどろもどろ答えますけど…。
「あのぉ、クリーンは。聖女の力なのですけど。除菌…いや、滅菌、浄化、みたいな? えぇと、聖女のお役目が終わったというのは、女神が言っていたので事実でしてぇ…」
「え?? はぁぁ??? ちょっと、タイジュ。女神が言ってたってなに? 女神に会ったの? なに話したの? つか消えてた三ヶ月のこと? タイジュはマジの女神の遣いだってのかぁ??」
オズワルドが叫んで。
はぁぁ、パパはまた余計なことを言ってしまいました。
女神とお話したことをエルアンリ様には言っていましたが、父上が口止めしていたのですよね。
大司教が女神の元に召されちゃうからって。
なんか、王様が召されそうな脱力顔になっていますけど。大丈夫ですかぁ?
「コエダが聖女…ということは、私は聖女の力によって生き永らえたのですねっ? なんという奇跡、なんという幸運だぁっ。これは一大事ですよ。女神フォスティーヌの遣いである神の手と、聖女が、親子でスタインベルンの地に降臨するなど、前代未聞です。フォスティーヌ神話の新たな一ページが開かれた瞬間だっ」
エルアンリ様がそう叫び、ぐったりと椅子にもたれかかり。
陛下は机にばったり倒れ込み。
オズワルドは、やべぇやべぇ言いながら部屋の中を駆け回り。
ジョシュア王子は、せいじょってなに? と目を点にするのだった。
わちゃわちゃ極まれりっ。
ジョシュア王子のお誕生日会で、ぼくは王子と一緒に、多くの貴族の人やそのお子様とご挨拶をしました。
日本にいたら、こんなに大勢の人にひとりひとり挨拶することはなかったと思うので。
ちょっと疲れました。
あぁっ、パパとお医者みたいなことをしていたときは、そういうこともありましたね。
毎日いろんな患者さんと会いました。
でも、王子は顔を覚えた方がいいって言うので。今回は気を張っていましたし。
お仕事とは少しニュアンスが違うようなぁ? そんな感じです。
そして夜が近くなったので。お誕生日会は終わりました。
お客様を見送るまでが、お誕生日会です。
そうは言っても、会場でのお見送りですけど。
王族はいげんを保たなければならないので、頭を下げることなく、みなさんさようならぁと去って行く感じです。
んん、これはお見送りとは違いますね? 退場です。
でね、退場したあと、王族のみなさんはひとつの部屋に集まりました。
陛下に直談判ですっ。
いえ、ケンカ腰ではないですけどね。
「父上、相談もなしに退位を決めてしまうなんて。なぜ一言事前に言ってくださらなかったのですか?」
大きなテーブルに腰かけている王族の人たちの中から、まず、エルアンリ様が申しました。
エルアンリ様は、今はさいしょーっていう、王様や父上の補佐をするお仕事をしています。
今日のような大きな会を仕切ったりもするので、いつも忙しくて。
北の館から西の館にお引越ししてしまったら。なかなか顔を合わせなくなりました。
ちょっと久しぶりぃです。
「言えば、皆は反対したであろう」
「もちろん反対しますよ。退位するには、父上は若すぎる」
オズワルドが呆れ顔で言って、みなさんもうなずいています。
王様は、亡くなるまで務めるのが一般的だと、メイは学校で習いましたから。
生きているうちに退位するのは珍しいことだと思いますよ。
それに王様はまだ四十代くらいですしね。
御病気や、年齢による体力低下で公務を果たせないとか。そういう理由が普通は必要なのです。
「しかし私はマリアンヌと相談して、そうそうにディオンに譲位した方が良いと判断したのだ。前王妃の悪行の責任を取るという気持ちももちろんあるが。それよりもこのスタインベルンが、ディオンや神の手であるタイジュの元で強固に結束しつつあると、私は感じている。この国がより良い国となるのに、私が妨げになってはならないのだ」
毅然として、王様は言います。
難しい話で、少し眠くなりますが。
つまり、国が盛り上がっているから、大人気の父上に王様になってもらおうっ、ってことだね?
「妨げなど、とんでもない。難しい局面をしのいできた父上の手腕は、国民に伝わっているはずです」
父上はそう言うけど。
王様は首を横に振ります。
「しかし。王子をふたりも失った。その悔恨の気持ちも私にはあるのだよ、ディオン。余生は、その二人の王子を悼む時間にあてたいのだ」
そう言われてしまうと、父上も、他の王子もなにも言えません。
「強いお気持ちで決めたことなのでしょう。それは…まだ納得はできないものの、陛下の判断を受け入れざるをえません。しかし、ジョシュアの婚約の件はどういうおつもりなのか、お聞かせください」
おお、父上が、ぼく的本題に入りました。
眠気がさめて、ピカリと目が開きます。
「婚約ではなく、婚約候補だ。常々ジョシュアはコエダとの婚約を望んでいた。断られているとも聞いているし。タイジュが、コエダの年齢ではまだ婚約は早いと思っていることも聞いている。私も、婚約や結婚は、双方の気持ちが固まってからする方が良いと思っている。愛のない結婚は、ただただ苦痛でしかなかったのでな」
王様は、たぶん。前王妃のことを考えているのでしょう。
眉間のシワが、父上並みにビシリと深いです。
「しかし、タイジュよ。そなたの国では早いことかもしれないが、我がスタインベルンでは王族の婚約としてはそれほど早いものではない。それは、我らが王族であり。国を采配するものとして、子供のうちから将来王となるべく自覚や相応の教育を施さなければならないからだ。婚約者にも、王妃として、もしくは王を支える者として、教育が必要となる。タイジュは今王妃教育を受けている最中だと思うが。コエダにも早いうちから同じ教えを受けてもらいたいし。ミカエラもそのように教育されているはずだ」
「はい。まぁ、王妃教育は。刺繍などはともかく。市井の者との関りも多くを占め。私は医療や孤児院などの計画を推し進めたいので、とても興味深い教育です。小枝もともに習うというのは社会勉強としても有意義なので、賛成です。小枝はどう思う?」
パパがたずねるので。
「はぁあ、パパとまたお仕事みたいなことができるのは嬉しいですぅ」
と、ぼくはお返事しました。
王妃…は、置いておいてです。
なんでも学ぶのはいいことだと思います。
それにメイは、王妃教育を少しかじっているのですよ。
メイのバカ兄が、メイを王子の結婚相手にしようとしたのでね、その思惑で礼儀作法をさせられました。
パパにも教えてあげられます。特にダンスとかね、むふん。
「父上、なぜミカエラが候補なのですか? 候補はコエダだけで良かったのに…」
ジョシュア王子がそこを聞きました。
いえ、そこはゴネずに。おとなしくミカエラを受け入れていただきたいです。
ですがぁ、それに王様は答えました。
「王族の役目として、血脈を維持することも大切なのだ。我らスタインベルン王家は女神の系譜である。その威光を持って、我らは国民から支えられているのだ。血脈を決してないがしろにはできない。だが、私はディオンに王位を譲る。ディオンはタイジュ以外の者を娶らないと公言しているので、血脈の維持は難しいだろう。なのでディオンには、次々代の王に血脈を重視してもらいたいのだ」
王様はひと息ついて。話を続ける。
「そこで、ジョシュアの婚約者候補であるミカエラだが。彼女は私の弟の孫であり、王族の血を引いている。さらに、すでに魔法の扱いに秀でているので、女神の祝福が色濃く出ていて王家の結婚相手に相応しい。ディオンの継承者としての道筋をつけるための、候補者指名であった」
なるほど、王様はジョシュアに王位を継がせることも考えているのですね。
そのための候補者。
つまり、ぼくと王子が結婚したら、王子は王位継承が難しいのですねぇ?
やっぱりぃ。
「しかし、誤解しないでもらいたいのだが。コエダがジョシュアの相手に相応しくないと言っているわけではないのだ。これはあくまで選択肢の提供であり。ジョシュアがコエダ以外の者に目を向ける機会を与えたに過ぎない。どうしてもジョシュアがコエダ以外にないと言うのなら、私はその主張を尊重する。ゆえにコエダも候補にしたし。ジョシュアがさらに他の者と愛を育んだのなら、その者にも婚約者となる余地を与えたい。だから婚約ではなく候補ということにしたのだ」
王様はそう言いますけど。本当ですかぁ?
ぼくのことは父上の息子だからと、そんたくしていませんかぁぁ?
でも、気持ちはわかります。
パパは父上に出自を明らかにしましたが、父上はぼくらがどこから来たのか、詳しく周りに話していないのです。
異世界から来たとか、説明できませんよね。
つまりぼくらは、どこから来たのかわからない…んん、得体のしれないってやつなのです。
王子の相手に相応しくないと思われても当然です。
「父上、私はそのように目移りするような男ではありません。コエダが私を愛しているになったら、速攻で婚約して結婚ですからっ」
王子の言葉に、王様は目尻をさげて、言うのだ。
「おぉおぉ、もちろんジョシュアは誠実な男子だとも。しかし、だからこそ。婚約に関しては時間をかけて、コエダと想いを育むことだな?」
つまり、王様はすぐにも婚約者を決めろと、そういう感じではなさそうです。
ならいいのです。
どうせ王子はすぐにもミカエラと恋に落ちるのですから。
はい、ぼく知っているので。
「小枝、今の話で理解できたか?」
父上が、できうる限りの優しい顔つきで聞いてくるので。
ぼくはうなずきます。
「はい。男の子で、どこから来たのかわからないぼくは、王子の結婚相手に相応しくないってことでしょう? 女の子と結婚しないと、王子は王位継承できなくなっちゃうんですよね? 父上の血を受け継いでいないぼくより、女神の祝福が色濃いというミカエラが婚約者になった方が、王子のためなのですよね?」
ぼくの理解力は最高だと、ムフンとした口で言いましたが。
父上は、なるべくゆるませていたお顔が、ギョンといかめしく変化し。
パパも眉を吊り上げて、なんでか怒っています。
「そんなわけないだろっ、聖女の小枝はどこの誰より王子の結婚相手に相応しいに決まっているっ!!」
椅子を蹴っ倒して席を立ち、パパは大声で言いました。
しかし、椅子がガターーンとなって。
場はシーーンと静まって。
緊張の糸がピーーンです。
「は? 聖女ぉぉ? コエダが聖女なのですか? 初耳ですけどぉぉ??」
静まった室内にエルアンリ様の言葉が響いて。
パパは慌てて口をおさえたのだった。
遅いですけど。
「言っちゃったっ。内緒だったのに、ごめん。うちの小枝はきゅるんとした笑顔が最高に可愛いし、クリーンという珍しい魔法も持っているのに。ミカエラ嬢よりうちの小枝の方が素晴らしいのにぃぃって、ずっとモンモンしていたから、つい…」
珍しいパパの大失態です。溺愛がアダとなったようです。
ぼくも、いい感じに婚約回避できそうだったので、パパを呆れ顔でみつめますが。
仕方がないのです。だってパパは、ぼくが大好きなのですもーん。
大好きゆえなので、ゆるすっ。
しかし父上も、手で頭を抱えました。
「はぁぁ? そのリアクションは兄上もご存じだったのですか? なんで黙っているんですか? 聖女が降臨していたなんて、王家の一大事だっていうのにぃぃ?」
今までおとなしかったオズワルドが、目をギャンと見開いて父上にたずねます。
女神フリークのほんりょうはっきです。
「いやぁぁ、いろいろあって。聖女だということは内緒にしたいと言うので。そこはツッコんでくれるな。一応、聖女のお役目は前王妃を追い出したことで終了なので…」
ですよね。前世で聖女が処刑されたとか、言えませんものね。
それを回避するために内緒にしていたのですけど。
「いやいや、そんなわけないでしょ。つか、クリーンてなに? 魔法? コエダは魔法持ちだってのか?」
興奮したオズワルドの言葉に、エルアンリ様も困惑でつぶやきます。
「クリーンは人体に悪影響のものをきれいにする毒消しだとばかり思っていました。しかしあのクリーンは、まさかの浄化スキルだったのですか? 安易なネーミングにすっかり騙されました」
それにパパは首を横に振って、しどろもどろ答えますけど…。
「あのぉ、クリーンは。聖女の力なのですけど。除菌…いや、滅菌、浄化、みたいな? えぇと、聖女のお役目が終わったというのは、女神が言っていたので事実でしてぇ…」
「え?? はぁぁ??? ちょっと、タイジュ。女神が言ってたってなに? 女神に会ったの? なに話したの? つか消えてた三ヶ月のこと? タイジュはマジの女神の遣いだってのかぁ??」
オズワルドが叫んで。
はぁぁ、パパはまた余計なことを言ってしまいました。
女神とお話したことをエルアンリ様には言っていましたが、父上が口止めしていたのですよね。
大司教が女神の元に召されちゃうからって。
なんか、王様が召されそうな脱力顔になっていますけど。大丈夫ですかぁ?
「コエダが聖女…ということは、私は聖女の力によって生き永らえたのですねっ? なんという奇跡、なんという幸運だぁっ。これは一大事ですよ。女神フォスティーヌの遣いである神の手と、聖女が、親子でスタインベルンの地に降臨するなど、前代未聞です。フォスティーヌ神話の新たな一ページが開かれた瞬間だっ」
エルアンリ様がそう叫び、ぐったりと椅子にもたれかかり。
陛下は机にばったり倒れ込み。
オズワルドは、やべぇやべぇ言いながら部屋の中を駆け回り。
ジョシュア王子は、せいじょってなに? と目を点にするのだった。
わちゃわちゃ極まれりっ。
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