【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~

北川晶

文字の大きさ
上 下
123 / 174

92 あっという間に結婚式

しおりを挟む
     ◆あっという間に結婚式

 新年の、王宮でのパーティーはつつがなく終わった。
 つつがなく、かなぁ。王妃のお披露目は認めない、みたいな書面を持ったハウリム国の使者が来たりしたけど。
 こちらこそ、そんなの認められないよ。

 ディオンやエルアンリ様の私見ではあるが。
 ハウリム国は鉱石の取引を主にしている商業大国で、ゆえにお金持ちな国なのだが。
 国土は小さく。農作物を自給自足できない。
 しかしそれゆえ、交易は盛んで活気はあるって感じ。

 だが国土を広げたい野心が強く。

 自国の姫がスタインベルンに嫁いだら、王妃の座を奪取させ。その息子であるニジェールが王位を継いだら。併合のていで乗っ取りたいと思うくらいには、真剣にスタインベルンの国家転覆を目論んでいた。ようだ。
 それで、ニジェールの一番の障壁であるディオンに暗殺攻勢をかけていたようです。

 誤算なのは、殿下がめちゃくちゃ強い戦士に育ってしまったことだね。
 ディオンは味方がいない中、少ない戦力で。暗殺者を撃退しまくっていた。
 全部返り討ちにしたんだ。

 ほぼほぼあからさまではあるが、そうは言っても王妃もニジェールも自分は関係ないというスタンスでいなければならないから。
 口を割らないやからを集めるのは大変だったろうが。

 手をこまねいているうちに。
 ディオンは誰にも負けない力を身につけてしまったということだ。

 毒の攻撃は、エルアンリ様は苦労したみたいだけど。
 ディオンは騎士団の食堂で食べることで自衛して。
 そのおかげで、食に興味が持てなくなっちゃったのは可哀想だけど。
 なんとか命はつなげたわけだ。

 でもその反動で、俺の料理なんかで美味しい美味しい言ってるけど。
 王族なのに庶民料理を美味しいっていうのは、大丈夫なのかなぁ。
 でも、元凶がいなくなっても。まだ王宮の料理人は信じていないみたいで。
 夜会の料理にあまり口をつけないのは、トラウマなのかもね。

 ともかく。そんな国のヤバい思惑にも負けず、ディオンもエルアンリ様も。新年のパーティーではじめてお会いしたオズワルドも。よくぞご無事だったものだ。えらいえらい。

 それでオズワルドが…なんとなく高校生っぽくて弟感が強いから、最初からオズワルドは様をつけないイメージなんだけど。
 その彼が北の館で十日ほど過ごし。
 小枝とも仲良くなってくれた。…んだけどね。

 館の庭で、小枝が木の枝を投げる。
 すかさずオズワルドがダッシュして、枝を取って戻る。
 小枝がよーしよしよしと言ってオズワルドの頭を撫でる…これは?

「…って、俺は犬かっ」

 オズワルドが自分でツッコミました。ナイスツッコミ。
 そして小枝に襲い掛かって芝生に倒し、体をコチョコチョするのだった。
「あははっ、ぼくねぇ、大きなワンちゃん欲しかったのぉ。ゴー…デリバァ、みたいなやつ」
 小枝、それはゴールデンレトリバーでは? と胸のうちでひっそりツッコんだ。

「ゴーデリバァはわからないが。コエダは可愛いから、俺がお兄ちゃんになってやろうな?」
 コチョコチョしながらオズワルドは明るい笑みでそう言った。
 でもすかさず小枝の訂正が入ります。

「ううん、ぼくがお兄ちゃんです。オズワルド王子は殿下の弟だから、そして殿下はぼくの弟だから…んん、王子はみんなぼくの弟なのですぅ」
 俺は。ハラハラしながら、小枝とオズワルドの会話に耳を傾けている。
 このやり取りでは、いつでも、不敬だって怒られてしまいそうです。

 でもオズワルドは、少し目を細めて。言う。
「俺の兄貴はジョルジュだけだけど。なんか小枝と遊んでると、兄貴のことを思い出すなぁ。じゃあこれから、コエダのことは兄貴と呼ぶことにするな?」
 おぉ、話がまとまった。
 オズワルドが心の広い、おおらかで明るい性格で良かったです。

「コエダの弟になったから、タイジュ様のことはパパと呼ぶ」
「あああ、それはダメですぅ。パパはぼくだけのパパなのぉ」
 そう言いながら芝生の上でジャレて、ゴロゴロするのは。
 子犬が二匹遊んでいるかのようですよ。

 そうして、オズワルドが館に滞在している間に、小枝も六歳の誕生日を迎えまして。
 結婚衣装の採寸や、披露宴でディオンとダンスを踊る、その練習とか。
 いろいろ、もろもろ、過ぎ去りまして。

 あっという間に結婚式です。

 三月の晴れた日に、俺と殿下の結婚式と、殿下の立太子の儀が行われることになりました。
 結婚式が先で。殿下の妻になった俺も。立太子の儀のときに王太子妃の称号を受けるんだって。
 しきたりはよくわからないので。
 お任せで。言われたとおりにやるのみです。

 会場となるブルーメルロン大聖堂は、古い建物だが石造りの古式ゆかしいたたずまいで。神聖さと荘厳さが満ち満ちていた。
 千年前、女神となる前のフォスティーヌが祈りを捧げた場所に、この大聖堂が作られた。という逸話が残されている。歴史のある教会のようだ。
 中に入ると、太い円柱が高い天井を支えており。
 中央正面に、女神フォスティーヌを模した絵画や彫刻が飾られている。
 真っ白な石膏せっこう彫刻は、ストレートの長い髪の少女が祈りのポーズをしていて。絵画の方では金髪の美麗な女性で描かれていた。

 結婚衣装に着替える前に、大聖堂をじっくり見たくて。
 殿下と小枝と一緒に中を見て回っていたのだ。
 式が始まったら、この会場から王宮での披露宴までノンストップになるから。
 緊張したら、ゆっくり辺りを見回す余裕もなさそうだしね。

 でも女神の姿を見て、ん? と首をかしげたのだ。
「オズワルドが、黒髪だから女神みたいなことを言っていましたが。金髪じゃないですか?」
 俺がつぶやくと。
「スタインベルン王家に代々伝わる信仰では、女神は黒髪だと伝わっている。だが一般人には、黒髪だと珍し過ぎてピンとこないから。大聖堂の女神像は金髪で描かれているのだ。言っていなかったか?」
「言われたような、言われていないような??」
 なにかの話のついでで、そんなことを言われたようにも思うけど。
 まぁいいか。

「ディオン」
 唐突に声をかけられ、みんなで振り返る。
 ディオンを呼び捨てで呼ぶ者は限られています。陛下とマリアンヌ様くらいかな?
 しかし。
 声をかけてきたのは、青い髪の見知らぬ女性だったのだ。

しおりを挟む
感想 308

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...