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86 黒大樹降臨です
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◆黒大樹降臨です
呪い返しにあった王妃は、今現在、以前の殿下のように不眠症に悩んでいる。
殿下にしたように、とにかく治せと俺に言うが。
えぇぇ? 唾液ぃぃ? 王妃とチュウ? 無理無理。
というか。医者としては治せるものは治してあげたいけど。
これは因果応報というやつで。
俺が治せるものでもない。
本当に俺の唾液が効いて解呪したとは思えないっていうか?
愛の力、とは言わないけど。恥ずかしぃィ。
魔術の劣化とか、それなりに紡いできた殿下との絆とか、その前にスリーパーなどをしていたことで弱体化したとか?
いろいろ合わさって、最後のちゅうううだったような気がするのですが、どうでしょう?
ま、王妃とチュウは。絶対ない。
ということで、俺は。しれっと王妃に告げた。
「解呪するには条件があります。あなたが王妃の座を退いて、祖国のハウリム国へ宿下がりすることです。帰国すると約束するのなら、解呪してもいいですよ?」
すると、王妃は目を丸くした。
「そんな。神の手ともあろうものが、私に対価を求めるというの?」
「大した対価ではないはずです。ディオン殿下は十五年以上苦しんだのですよ? ここで解呪しなかったら、きっとあなたは死ぬまで苦しむことになる」
知らんけど。
吹っ掛けて、言ってみた。
医者ならば、どんな相手でも治すべき。
今まではそういう信条でやってきた。
それが原因であとあと厄災が起きても、それはそのとき考える。
苦しんでいる者がいたら、手を差し伸べる。それが極悪人であろうとも。
今も、その意識は変わっていない。
苦しむ人に、対価を要求することもなかった。
だから、己の中の清い部分が、少しウズウズするけれど。
でも。俺は今、殿下の婚約者で。
彼を愛している。
愛する者を害されて、それでも綺麗事を語るほど。俺は清廉ではない。
オコなときは、オコです。
「そんな、死ぬまでこのままだなんて、そんなのは嫌よぉ」
「そうでしょうね。顔色が最悪に悪く、肌の艶も失われて…」
女性にとっては一番きつい状況を、同情するようにつぶやく。
黒大樹降臨です。
「いやぁぁ、すぐに治して。約束する、しますからぁぁ」
「王妃を退いて、ハウリムへ帰国する。約束しますね?」
「えぇ、必ず。だから早く治してぇ」
不眠はお肌の大敵と言いますけど。
女性には死活問題ですよね?
「じゃあ、これを舐めてください。特効薬を作ってあるので…」
「大樹っ…」
簡単に呪いを治されたくはないのだろう、殿下が声をあげるが。
「すみません、殿下。俺は医者なので、苦しんでいる人のことを黙って見ていられないのです」
そうして、木箱から取り出した紙で包んである特効薬を差し出すと。
王妃はひったくるようにして取り上げ、包み紙を開ける。
中に入っているのは、青黒い、おどろおどろしい色の丸いもの。
色目がなにやら禍々しく、うさん臭い魔術にいかにも効きそうな怪しげなフォルムだが。
一瞬ためらったあと、王妃はすぐに飲んだ。
そして片頬をゆがめる醜い笑みを浮かべる。
そういう顔は、ニジェールそっくりですね。
「ほほほっ、神の手というのは存外お人好しよねぇ? だけど。神様は人に優しいのですものね? 甘ちゃんで、幸運でしたわぁ。私、約束なんか守らなくってよぉ。解呪できたらこっちのもの。旨味たぁっぷりの王妃の座を退くなど、するわけがないわぁ」
でしょうね、と俺は思う。
思った通りの外道で、反吐が出る。
「そう来ましたか。では、帰国しない約束破りで、解呪を解呪しますね」
そう言って、俺は王妃の額にデコピンするのだった。
「ひゃあっ、な、なにをするの、無礼者っ。大体、一度解呪したものを元に戻すなんてデタラメなことはできないわよ。新たに呪いを構築し直さないと…」
「さすが王妃様、呪いや魔術のことを熟知していますね? だけど。私は神の手なので。デタラメなこともできるのですよ。女神フォスティーヌの加護でね」
そんな、嘘八百並べてみる。
えぇ、すべてはったりなんですけどね?
だって俺は神の手なんかじゃないしぃ。
「なに言っているの? 女神フォスティーヌなど存在するわけもないのに。この国の者はありがたがっているけど、神など存在しないのよ。神の手なんかも、デタラメよっ」
俺は王妃の言うことが支離滅裂なので、思わず笑ってしまった。
「なにがおかしいのよ」
「いえ、ついさっきまで、神の手の私に泣きついていたのに、俺の存在を否定するから、おかしくて…だったら俺のことなど呼ばなければいいのに…」
「なんでも治せる神の手などと謳っているけど、本当は大したものじゃないって。治せなかったらみんなの前で辱めてやろうと思っていたのよ。あなたは嘘つきだって。神の手なんてまやかしだって。女神などいないってね。病気が治れば、まぁそれはそれでいいですしねぇ?」
まぁ、確かに。
神の手はディオンが俺を神格化して、騎士団の士気をあげるためのものだったのだ。
俺自身は、黙々と己の医者の使命を果たしただけで。
特別なことはなにもしていない。
まやかしっちゃぁ、まやかしだけど。
それに、嘘つきもあっている。
「薬を飲んで、とても元気におなりですね、王妃様。ただのアメだったのに。プラシーボ効果のお手本のような反応で。とても参考になります」
「プラ…なんですってっ? ただのアメ?」
「プラシーボとは偽薬のことです。あなたが特効薬だと思って飲んだのは、ただの砂糖を溶かしたアメです」
そうなのだ。
今日のお茶会では、まぁ、いろいろ食べ物は出たのだけど。
小枝や王子が途中でぐずったとき用にパリパリイチゴのブルーベリーバージョンを作っておいたのだ。
ブルーベリーは小さいから持ち運びに便利でね。
まぁ見た目は青黒くて、なにやらおどろおどろしくなっちゃったんだけど。
一個一個紙でキャンディー包みして、溶けないように木箱に入れて。すぐに食べられるようにポケットに忍ばせておいたわけ。
でも小枝は王子とノアと一緒にいて、それなりに楽しかったみたいだからぐずることもなく。
出番はなかったんだけどね。
それにさ、前魔導騎士団長が昏睡したって聞いたのは、ついさっきのお茶会の席でだったし。
今、病状を聞き出した俺が。
特効薬なんか持っているはずないでしょ?
「嘘つき。神の手ともあろう者が、嘘をつくなんて」
「神の手がお人好しでなくて残念でしたね? えぇ、俺は。あなたはきっと、約束を反故にすると思っていたのです。案の定でした。しかし、まぁつまり。解呪は最初からしていなかったということです。だから呪いをかけ直すまでもない」
王妃は、再び青い顔になって、喉をおさえた。
「ど、どうしてそんな、病で苦しむ者をからかうような真似をするの??」
細い目元からぽろぽろ涙をこぼし、俺に泣き落としをするけれど。
「ディオン殿下がどれほど苦しんだか、あなたは知らないのでしょう? あなたは簡単に泣くけれど、泣きたい夜を歯を食いしばってひとりで過ごしてきた彼を知らないでしょう? 女の涙など。あなたの涙など。俺には毛ほども響かない」
こういうのを興ざめと言うのだろうか。
王妃が憐れな様子を演じれば演じるほど、心の奥が冷えるようだった。
冷酷に。もっと苦しめと。
俺の中の黒い部分が叫んでいた。
「ニジェールとともに、あなたはこの国から去れ。スタインベルンにあなた方のような害虫はいらないのです。国から出たら解呪するようにしておきますよ」
「そんな、条件付けをするようなこと、ただの人間に出来るわけ…」
「えぇ、普通の人間ならできない。でも俺は、神の手だ。女神フォスティーヌによって、スタインベルン王家に巣食う虫を駆除しに来た、神の遣いです」
俺はソファから立ち上がり、わななく王妃を見下ろす。
「俺は、俺の愛する殿下を幼い頃から苦しめてきた、あなた方を許さない。ディオンと同じだけ、いやそれ以上に苦しめばいいと思うけど。諸悪の根源であるあなた方が、スタインベルン王家から出て行ってくれたら。これ以上の鉄槌は下さないと、慈悲の心で言っているのですよ」
最上級に冷たく見える笑みを浮かべて、俺は王妃に告げたのだ。
「あとはあなた方が決めなさい。この地で死ぬまで苦しむか。外に出て、苦しみから逃れるか…」
「そんなの、はったりよ」
王妃は俺を恐れおののきながらも、虚勢を張って首を振る。
「そうですか。なら、神の怒りをその身に受けよ。おやすみなさい」
無言で。手の動きもなく。俺は王妃にスリーパーをかけ。
無慈悲に冷たい眼差しで見やる俺の目の前で、王妃はガクリとソファに沈み込んで、寝た。
「ぎゃああ、こいつ、王妃を殺したぞ。捕まえろ、この男を捕らえろっ」
ニジェールは大騒ぎして、母である王妃に駆け寄るが。
捕らえろと言っても、部屋の中で警備するのは、俺らの仲間の騎士なので。
ピクリとも動かなかった。
「死んでいませんよ、寝ているだけです。大袈裟なっ」
「な…っ、父上。この者を処罰してください。スタインベルン国の王妃を害したのですよ??」
ニジェールは助けの手を国王に求めるが。
「寝ているだけなのだろう? それに王位継承者であったディオンに呪いをかけるのは、王家への反逆である。私は王妃のその所業の方が処罰の対象に思えるが?」
国王の冷たい返答に。
ニジェールは顔色を失った。
「そうだ、あなたも永遠の眠りにつかせてあげましょうか? そうすれば。ディオンを狙う邪魔者はいなくなる。はは、いいことを思いついたな??」
そうして、俺がニジェールに手をかざすと。
彼は驚愕の顔で後ずさり。おののいた。
「ばばば、化け物めっ」
えぇぇ? ただスリーパーしただけなのに、化け物呼ばわりはちょっと傷つきます。
そうしてしんなり眉を下げていると。
そのうちに、ニジェールは意識のない王妃を肩に担いで、部屋を退場していったのだった。
「あ、もう暗殺者は送り込まないでくださいねぇ。ひとりでも来たら、永遠の眠りですからねぇっ」
ニジェールの背中に俺は叫んだが、聞こえたかなぁ??
呪い返しにあった王妃は、今現在、以前の殿下のように不眠症に悩んでいる。
殿下にしたように、とにかく治せと俺に言うが。
えぇぇ? 唾液ぃぃ? 王妃とチュウ? 無理無理。
というか。医者としては治せるものは治してあげたいけど。
これは因果応報というやつで。
俺が治せるものでもない。
本当に俺の唾液が効いて解呪したとは思えないっていうか?
愛の力、とは言わないけど。恥ずかしぃィ。
魔術の劣化とか、それなりに紡いできた殿下との絆とか、その前にスリーパーなどをしていたことで弱体化したとか?
いろいろ合わさって、最後のちゅうううだったような気がするのですが、どうでしょう?
ま、王妃とチュウは。絶対ない。
ということで、俺は。しれっと王妃に告げた。
「解呪するには条件があります。あなたが王妃の座を退いて、祖国のハウリム国へ宿下がりすることです。帰国すると約束するのなら、解呪してもいいですよ?」
すると、王妃は目を丸くした。
「そんな。神の手ともあろうものが、私に対価を求めるというの?」
「大した対価ではないはずです。ディオン殿下は十五年以上苦しんだのですよ? ここで解呪しなかったら、きっとあなたは死ぬまで苦しむことになる」
知らんけど。
吹っ掛けて、言ってみた。
医者ならば、どんな相手でも治すべき。
今まではそういう信条でやってきた。
それが原因であとあと厄災が起きても、それはそのとき考える。
苦しんでいる者がいたら、手を差し伸べる。それが極悪人であろうとも。
今も、その意識は変わっていない。
苦しむ人に、対価を要求することもなかった。
だから、己の中の清い部分が、少しウズウズするけれど。
でも。俺は今、殿下の婚約者で。
彼を愛している。
愛する者を害されて、それでも綺麗事を語るほど。俺は清廉ではない。
オコなときは、オコです。
「そんな、死ぬまでこのままだなんて、そんなのは嫌よぉ」
「そうでしょうね。顔色が最悪に悪く、肌の艶も失われて…」
女性にとっては一番きつい状況を、同情するようにつぶやく。
黒大樹降臨です。
「いやぁぁ、すぐに治して。約束する、しますからぁぁ」
「王妃を退いて、ハウリムへ帰国する。約束しますね?」
「えぇ、必ず。だから早く治してぇ」
不眠はお肌の大敵と言いますけど。
女性には死活問題ですよね?
「じゃあ、これを舐めてください。特効薬を作ってあるので…」
「大樹っ…」
簡単に呪いを治されたくはないのだろう、殿下が声をあげるが。
「すみません、殿下。俺は医者なので、苦しんでいる人のことを黙って見ていられないのです」
そうして、木箱から取り出した紙で包んである特効薬を差し出すと。
王妃はひったくるようにして取り上げ、包み紙を開ける。
中に入っているのは、青黒い、おどろおどろしい色の丸いもの。
色目がなにやら禍々しく、うさん臭い魔術にいかにも効きそうな怪しげなフォルムだが。
一瞬ためらったあと、王妃はすぐに飲んだ。
そして片頬をゆがめる醜い笑みを浮かべる。
そういう顔は、ニジェールそっくりですね。
「ほほほっ、神の手というのは存外お人好しよねぇ? だけど。神様は人に優しいのですものね? 甘ちゃんで、幸運でしたわぁ。私、約束なんか守らなくってよぉ。解呪できたらこっちのもの。旨味たぁっぷりの王妃の座を退くなど、するわけがないわぁ」
でしょうね、と俺は思う。
思った通りの外道で、反吐が出る。
「そう来ましたか。では、帰国しない約束破りで、解呪を解呪しますね」
そう言って、俺は王妃の額にデコピンするのだった。
「ひゃあっ、な、なにをするの、無礼者っ。大体、一度解呪したものを元に戻すなんてデタラメなことはできないわよ。新たに呪いを構築し直さないと…」
「さすが王妃様、呪いや魔術のことを熟知していますね? だけど。私は神の手なので。デタラメなこともできるのですよ。女神フォスティーヌの加護でね」
そんな、嘘八百並べてみる。
えぇ、すべてはったりなんですけどね?
だって俺は神の手なんかじゃないしぃ。
「なに言っているの? 女神フォスティーヌなど存在するわけもないのに。この国の者はありがたがっているけど、神など存在しないのよ。神の手なんかも、デタラメよっ」
俺は王妃の言うことが支離滅裂なので、思わず笑ってしまった。
「なにがおかしいのよ」
「いえ、ついさっきまで、神の手の私に泣きついていたのに、俺の存在を否定するから、おかしくて…だったら俺のことなど呼ばなければいいのに…」
「なんでも治せる神の手などと謳っているけど、本当は大したものじゃないって。治せなかったらみんなの前で辱めてやろうと思っていたのよ。あなたは嘘つきだって。神の手なんてまやかしだって。女神などいないってね。病気が治れば、まぁそれはそれでいいですしねぇ?」
まぁ、確かに。
神の手はディオンが俺を神格化して、騎士団の士気をあげるためのものだったのだ。
俺自身は、黙々と己の医者の使命を果たしただけで。
特別なことはなにもしていない。
まやかしっちゃぁ、まやかしだけど。
それに、嘘つきもあっている。
「薬を飲んで、とても元気におなりですね、王妃様。ただのアメだったのに。プラシーボ効果のお手本のような反応で。とても参考になります」
「プラ…なんですってっ? ただのアメ?」
「プラシーボとは偽薬のことです。あなたが特効薬だと思って飲んだのは、ただの砂糖を溶かしたアメです」
そうなのだ。
今日のお茶会では、まぁ、いろいろ食べ物は出たのだけど。
小枝や王子が途中でぐずったとき用にパリパリイチゴのブルーベリーバージョンを作っておいたのだ。
ブルーベリーは小さいから持ち運びに便利でね。
まぁ見た目は青黒くて、なにやらおどろおどろしくなっちゃったんだけど。
一個一個紙でキャンディー包みして、溶けないように木箱に入れて。すぐに食べられるようにポケットに忍ばせておいたわけ。
でも小枝は王子とノアと一緒にいて、それなりに楽しかったみたいだからぐずることもなく。
出番はなかったんだけどね。
それにさ、前魔導騎士団長が昏睡したって聞いたのは、ついさっきのお茶会の席でだったし。
今、病状を聞き出した俺が。
特効薬なんか持っているはずないでしょ?
「嘘つき。神の手ともあろう者が、嘘をつくなんて」
「神の手がお人好しでなくて残念でしたね? えぇ、俺は。あなたはきっと、約束を反故にすると思っていたのです。案の定でした。しかし、まぁつまり。解呪は最初からしていなかったということです。だから呪いをかけ直すまでもない」
王妃は、再び青い顔になって、喉をおさえた。
「ど、どうしてそんな、病で苦しむ者をからかうような真似をするの??」
細い目元からぽろぽろ涙をこぼし、俺に泣き落としをするけれど。
「ディオン殿下がどれほど苦しんだか、あなたは知らないのでしょう? あなたは簡単に泣くけれど、泣きたい夜を歯を食いしばってひとりで過ごしてきた彼を知らないでしょう? 女の涙など。あなたの涙など。俺には毛ほども響かない」
こういうのを興ざめと言うのだろうか。
王妃が憐れな様子を演じれば演じるほど、心の奥が冷えるようだった。
冷酷に。もっと苦しめと。
俺の中の黒い部分が叫んでいた。
「ニジェールとともに、あなたはこの国から去れ。スタインベルンにあなた方のような害虫はいらないのです。国から出たら解呪するようにしておきますよ」
「そんな、条件付けをするようなこと、ただの人間に出来るわけ…」
「えぇ、普通の人間ならできない。でも俺は、神の手だ。女神フォスティーヌによって、スタインベルン王家に巣食う虫を駆除しに来た、神の遣いです」
俺はソファから立ち上がり、わななく王妃を見下ろす。
「俺は、俺の愛する殿下を幼い頃から苦しめてきた、あなた方を許さない。ディオンと同じだけ、いやそれ以上に苦しめばいいと思うけど。諸悪の根源であるあなた方が、スタインベルン王家から出て行ってくれたら。これ以上の鉄槌は下さないと、慈悲の心で言っているのですよ」
最上級に冷たく見える笑みを浮かべて、俺は王妃に告げたのだ。
「あとはあなた方が決めなさい。この地で死ぬまで苦しむか。外に出て、苦しみから逃れるか…」
「そんなの、はったりよ」
王妃は俺を恐れおののきながらも、虚勢を張って首を振る。
「そうですか。なら、神の怒りをその身に受けよ。おやすみなさい」
無言で。手の動きもなく。俺は王妃にスリーパーをかけ。
無慈悲に冷たい眼差しで見やる俺の目の前で、王妃はガクリとソファに沈み込んで、寝た。
「ぎゃああ、こいつ、王妃を殺したぞ。捕まえろ、この男を捕らえろっ」
ニジェールは大騒ぎして、母である王妃に駆け寄るが。
捕らえろと言っても、部屋の中で警備するのは、俺らの仲間の騎士なので。
ピクリとも動かなかった。
「死んでいませんよ、寝ているだけです。大袈裟なっ」
「な…っ、父上。この者を処罰してください。スタインベルン国の王妃を害したのですよ??」
ニジェールは助けの手を国王に求めるが。
「寝ているだけなのだろう? それに王位継承者であったディオンに呪いをかけるのは、王家への反逆である。私は王妃のその所業の方が処罰の対象に思えるが?」
国王の冷たい返答に。
ニジェールは顔色を失った。
「そうだ、あなたも永遠の眠りにつかせてあげましょうか? そうすれば。ディオンを狙う邪魔者はいなくなる。はは、いいことを思いついたな??」
そうして、俺がニジェールに手をかざすと。
彼は驚愕の顔で後ずさり。おののいた。
「ばばば、化け物めっ」
えぇぇ? ただスリーパーしただけなのに、化け物呼ばわりはちょっと傷つきます。
そうしてしんなり眉を下げていると。
そのうちに、ニジェールは意識のない王妃を肩に担いで、部屋を退場していったのだった。
「あ、もう暗殺者は送り込まないでくださいねぇ。ひとりでも来たら、永遠の眠りですからねぇっ」
ニジェールの背中に俺は叫んだが、聞こえたかなぁ??
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