【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~

北川晶

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82 子供だけが怒っていい

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     ◆子供だけが怒っていい

 王宮から、北の館に戻ってきました。
 王子が滞在した十日間、小枝は王子の部屋で寝ていたのですが。
 今日はディオンの寝室で三人で寝る感じです。
 というのも。
 小枝が、王子たちがいなくなってひとりで寝られないぃと、ごねたわけではなく。

 帰宅してから五時間ほどで、十人以上の暗殺者が屋敷を警護する騎士様たちによって捕縛されたからです。

 もう、あからさまというか。なんというか。
 その中には、ニジェールのお付きだった騎士もいて。
「ニジェール様を王にするため、私の意思で王子をあやめに来たのだ。ニジェール様は関係ない」
 って、全然関係はあるだろうよ、ということを彼は口にするが。
 こんなにあからさまであっても。
 ニジェールの命令で来た、と言わないうちは。ニジェールを罪には問えないのだっ。ウゼェ。

 まぁ、そんなこんなで。
 隣の部屋にいるっていっても、小枝をひとりに出来ない。
 俺が心配過ぎて寝られないから。
 なので今日は三人で寝るのです。

 あ、ちなみに。総勢百体の奴さんですが。
 執事さんが袋に入れてくれたので、持って帰ってきたんですけど。
 どうするの、これ?
 子供の工作物として取っておくべき? しかし。
 奴さんって人だから。そう思うと、なんか怖いっていうか?
 逆に捨てるのも、もう怖いっていうか? 怨念とかないよねぇ? 異世界だからないよねぇ?

 というわけで。俺は奴さんをひとつ解体しまして。
 ツルを折ってみたりして。
 小枝はまだ、複雑なツルの折り方は覚えていないのだけど。
 俺の年代は当たり前のようにツルは折れるんだよな?
 九九と同じように、反復で、脳内に刷り込んであるんだろうね。
 まぁ百体の奴さんをツルに変えることはできないが。
 つか、どうしてツル百羽なら綺麗だと思うのに、奴さんはキモいのだろう??

 そうして折ったツルを小枝に渡すと。
 小枝はツルを優しく手に持って、ナデナデするのだった。
 そのつたない手の動きが可愛いんだよなぁ。

「器用なのだな? 大樹、それはなんだ?」
「ツルという鳥です。これは折り紙といって、向こうの遊びなんですけど。俺らの年代の者は大体これを折れるんですよ。奴さんは簡単だから小枝でも折れるけど。簡単な奴さんより複雑な折り方のツルの方が有名、みたいな?」
「そうなのか。俺は、小枝とジョシュアの手元にある大量の人型を見て、魔術媒体を作っているのかと思ったぞ」
 日本的に言うと、式神ってやつですか?
 まぁ、奴さんを動かせるなら。百体が襲ってきたら結構なホラー感がありますね。
 キモっ。

 それはともかく。
 小枝は今日も、フリルビラビラのシルクの寝間着を着まして。
 はじめての川の字寝んねに興奮気味です。
「殿下、ぼくはひとりで寝られるけどねぇ。殿下がひとりで寝られないから、一緒に寝てあげるのぉぉ」
「あぁ、小枝。よろしく頼む」
 殿下に頼まれて、えへぇ、と満足げに笑った小枝は。
 布団をかぶせて、その上を殿下の手がポンポンすると。
「ちょっと、殿下? ポンポンが強いですよ? もっとやさぁしく、パパのポンポンを見習ってください」
 と、文句を言うのだった。
「むむ、そうか? こうか? こうか?」
 ボムボムや、デデンという、妙な音をさせて叩くから。小枝は面白がってぎゃははと笑うのだ。
 …ニジェールのギャハハはまるで可愛くなかったが。
 小枝は可愛いなぁ。はしゃぐ姿に癒されるぅぅ。

 そうして騒いでいるうちに、小枝はすきょぉぉぉと寝るのだった。
 今日は王子の涙の別れ(主に王子が)に始まり、後宮でお着替えしたり、王宮へ行ったりしたから。おつかれちゃんでしたかね?

「寝たな」
「はい」
 そうして殿下は俺の頭を引き寄せて。小枝の寝ている上で、頬にチュッとした。
 おやすみのキスです。
 なんか、小枝に見られてしまいそうで恥ずかしいけど。
 もう家族になるのだし。
 小枝も殿下の息子になるのだから。
 スキンシップでゆっくり距離を縮めていくのは良いのかもしれませんね?
 小枝は…殿下を父親ではなく弟扱いのままですけどね。

 それで、もう横になるのかと思ったのだが。
 殿下は手枕てまくらをして、俺をジッとみつめるのだった。
「なんですか?」
 言いたいことがあるのかと思い、俺も手枕をして殿下を見やる。
 小枝をはさんでコソコソ話ですね。

「なにか言いたいことがあるのではないか?」
「いえ、別に。あ、婚約とか結婚式の日取りとか急に決まったから怒っていると思ったんですか? それはほぼほぼ殿下のせいじゃなく、公爵父さんのせいですよ」
 なんか、二年待ちの教会の予約を勝手に取ってたとか。
 どういう手回しの良さなんですか?
 殿下もたぶん、そこまで考えてなかったはずですよ。たぶん。

「それではなく。いや、その件については結婚までの道筋が見えて、俺は内心狂喜乱舞だが」
 ふむ、とうなずくが。
 厳しい目元で眉間にシワがある殿下が狂喜乱舞とか、なんの冗談ですかね?
 そんなリアクションしたことないでしょ。
「狂喜乱舞は内心にだけでとどめてください。怖いんで」
「怖いか?」
「殿下が怖いんじゃなくて。普段おとなしい人が踊ったら普通に怖いでしょ?」
「なるほど」
 ふむふむとうなずく殿下。
「…てか、なんの話でしたっけ?」
 話が横道にそれてどこかに行ってしまったので。聞くと。

「俺が父親と和解しないのを、怒っているかと思ったのだ」
 あぁ、そこに引っかかっていたんだな。
 殿下は。
 出会った頃は、俺が父親であることに反発心があって。
 ひと目惚れの相手であるらしい俺にも突っかかるくらいには、父親という存在に嫌悪があったのだ。

「いえ、怒りませんよ。ディオンの怒りはディオンのものだ。あなたが許せないと思うなら、許すことはない」
「しかしおまえは神の遣いだから。正しくないことは嫌なのではないか?」
 いや、神の遣いじゃねぇし、と。素でツッコんだ。

「確かに、正しくないことは普通に嫌です。だけどディオンと国王の和解が正しいことだとは思わない。いえ、正解はない、が正しいかな? 国王の事情があったからといって、ディオンの苦難はとても厳しいものだったのだから。ディオンは怒っていいと思うし。その苦難のわだかまりが、一朝一夕でほどけるとも思えません。こじらせるっていうのは、そういうことだと思うのです」
「こじらせる…」
 どういう意味かと問うように、ディオンは目で俺にたずねる。

「ディオンは親との関係をこじらせている。だから俺と出会ったとき、家族がどういうものかもわからなかったのではないですか? 俺が小枝を守る意味を。でも。今はもうわかっているでしょう? 手段は違えど。俺が小枝を守るように、国王もディオンを守ったのだと。そう思えば、少しは見方も変わるのでは?」
 すよぉと寝ている小枝を、子供の殿下に見立てて。
 優しく撫でる。

「でも、だから許せるでしょう? と言っているわけではないのです。だって、俺だって簡単に納得できませんよ。ディオンはとても傷ついたのだから。ここまでがとても苦しい道だったのだから」
 小枝を撫でていた手をディオンに伸ばして、俺は彼の髪を優しくすいた。
 膝を抱えてうつむく子供の頭を撫でるように。

 ディオンは、どこか痛そうな表情で目を細め。
 撫でる俺の手を握って、甲にキスした。
「大樹は最高のパパだから。おまえがそう言うのなら。俺は父王を許せなくても、後ろめたい気持ちにならないで済む」
「えぇ、後ろめたい気になんかならなくていい。親の理不尽は、子供だけが怒っていいのですよ。それでなくても子供は、どんなに親が悪かろうと擁護してしまう天使なのですから。でも親のダメなところを、子供は許さなくていい。家族なら尚更だ」
 家族は、常に親密な状態であるから。
 理不尽を押しつけられたら、子供は逃げ場がない。
 ただただその理不尽に傷つけられたのなら。
 怒っていいし、許さなくていいと思うのだ。

 小枝の母は、俺の姉で。
 俺は、姉の小枝への仕打ちをを許せないが。
 親は自分の娘を擁護する気持ちが、少しはあっただろう。
 忙しかったのでは? とか。事情があったのでは? とか。
 彼女に理由を求めて。娘を悪者にはしたくなかったんじゃないかな?
 親とはそういうものだ。

 けれど。俺は小枝に、母を許さなくていいと言っている。
 小枝は母に命をおびやかされたのだから。
 嫌いとか、怖いとか、許さないとか。そう思うのは小枝の権利だ。
 その理不尽を許すということは。
 苦しいのに黙り込んで。傷ついた心にさらに圧をかけること。
 そんなこと、しなくていい。
 無理に許すことはないと思うし。心が苦しいのなら存在ごと忘れていいと思っている。
 姉は存在抹消されても仕方のない、それだけのことを小枝にしたのだ。

 そしてディオンは。
 大人になってしまったから、いつか父王を許すかもしれないが。
 それは今でなくてもいいし。
 心が苦しくならない、ディオンのタイミングでいいのだ。
 そんな彼に、俺は寄り添う。
 ディオンの傷口が開かぬよう、そっと手を当てていよう。

「家族…俺は、大樹と小枝の家族になれるだろうか?」
 なにやら自信なさそうに、ディオンはつぶやくけど。

「なに言ってんの? もう、とっくに家族でしょ」

 小枝と俺が牢に入っていたとき。殿下は俺らは家族だと言ったのだ。
 そのときから。俺はディオンもレギも家族だって思っていましたよ。

「キスしたい」
 しかしディオンの返事は。これで。
 なんでそうなるかな?
 真剣な顔つきだけど、真面目に言っているのかな。

「ダメに決まってんでしょ。また脈絡のないこと言ってぇ。子供のそばで、そういうの禁止」
「脈絡はある。家族と言われて、俺の心臓がビリビリってなったのだ。なら、手ならいいのか?」
 チュッチュと握った手の甲にくちづけをちりばめてきた。
 くすぐったい感覚が、ゾワゾワするぅ。
「なら、ってなんですか。手もダメです」
「その気になるから?」
 指と指の間に皮膚の薄いところを、親指でくすぐらないでください。
 俺はその悪戯いたずらな親指をギュッと締めつけたりして。
 クスクス笑いながら、手の攻防を繰り広げていると。
「今日、着飾ったおまえを見て、俺はずっとグッときていて…いわゆる、興奮だ。大樹を好きだと思う気持ちがとめどなく高まって、ずっと胸が苦しいのだ」
 なんて、ディオンは柔らかい声音で言い。
 そんなことを言われると。
 照れて、頬が熱くなる。
 俺だって、姿勢正しく胸を張る盛装姿のディオンがすっごく格好良くて。
 胸がキュンとしちゃったというのに。
「…ディオン」
 自然な流れで、指と指を絡め合わせて。熱くみつめあっていると。

「ううううぅうぅぅるさぁぁい。殿下っ、いつまでも起きていないで、寝てぇぇっ」

 小枝が両手を振り上げて、そう言った。
 俺は、小枝が起きちゃったかと思ってギョッとしたが。
 んん? 寝たままのようです。寝言です。

「小枝の言う通りですね。話はここまでにして、おやすみなさいディオン」
 俺は殿下の手から逃れた手で、ディオンのひたいに触れ。
 スリーパーをかけた。

「あぁ。おやすみ、大樹」
 珍しく、殿下はいい感じでベッドに横たわり。穏やかに寝た。
 強制感なしの、心地よさそうな眠りに。

 俺は嬉しくて。ちょっと涙が出た。

 毒や暗殺によって命がおびやかされ、その上不眠の呪いまでかけられていたなんて。
 どんなに困難な人生だっただろう。

 俺と殿下は戦場でしか出会えなかっただろうと思うが。
 もっと早くあなたに会って。なにもかもから守ってあげられたら良かったと。
 心底思うのだ。

「もう家族なのだから。俺にあなたを守らせてください」
 小枝と身を寄り添わせるディオン。
 ふたりの頬に、そっと、おやすみのキスを贈った。

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