【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~

北川晶

文字の大きさ
上 下
112 / 174

82 子供だけが怒っていい

しおりを挟む
     ◆子供だけが怒っていい

 王宮から、北の館に戻ってきました。
 王子が滞在した十日間、小枝は王子の部屋で寝ていたのですが。
 今日はディオンの寝室で三人で寝る感じです。
 というのも。
 小枝が、王子たちがいなくなってひとりで寝られないぃと、ごねたわけではなく。

 帰宅してから五時間ほどで、十人以上の暗殺者が屋敷を警護する騎士様たちによって捕縛されたからです。

 もう、あからさまというか。なんというか。
 その中には、ニジェールのお付きだった騎士もいて。
「ニジェール様を王にするため、私の意思で王子をあやめに来たのだ。ニジェール様は関係ない」
 って、全然関係はあるだろうよ、ということを彼は口にするが。
 こんなにあからさまであっても。
 ニジェールの命令で来た、と言わないうちは。ニジェールを罪には問えないのだっ。ウゼェ。

 まぁ、そんなこんなで。
 隣の部屋にいるっていっても、小枝をひとりに出来ない。
 俺が心配過ぎて寝られないから。
 なので今日は三人で寝るのです。

 あ、ちなみに。総勢百体の奴さんですが。
 執事さんが袋に入れてくれたので、持って帰ってきたんですけど。
 どうするの、これ?
 子供の工作物として取っておくべき? しかし。
 奴さんって人だから。そう思うと、なんか怖いっていうか?
 逆に捨てるのも、もう怖いっていうか? 怨念とかないよねぇ? 異世界だからないよねぇ?

 というわけで。俺は奴さんをひとつ解体しまして。
 ツルを折ってみたりして。
 小枝はまだ、複雑なツルの折り方は覚えていないのだけど。
 俺の年代は当たり前のようにツルは折れるんだよな?
 九九と同じように、反復で、脳内に刷り込んであるんだろうね。
 まぁ百体の奴さんをツルに変えることはできないが。
 つか、どうしてツル百羽なら綺麗だと思うのに、奴さんはキモいのだろう??

 そうして折ったツルを小枝に渡すと。
 小枝はツルを優しく手に持って、ナデナデするのだった。
 そのつたない手の動きが可愛いんだよなぁ。

「器用なのだな? 大樹、それはなんだ?」
「ツルという鳥です。これは折り紙といって、向こうの遊びなんですけど。俺らの年代の者は大体これを折れるんですよ。奴さんは簡単だから小枝でも折れるけど。簡単な奴さんより複雑な折り方のツルの方が有名、みたいな?」
「そうなのか。俺は、小枝とジョシュアの手元にある大量の人型を見て、魔術媒体を作っているのかと思ったぞ」
 日本的に言うと、式神ってやつですか?
 まぁ、奴さんを動かせるなら。百体が襲ってきたら結構なホラー感がありますね。
 キモっ。

 それはともかく。
 小枝は今日も、フリルビラビラのシルクの寝間着を着まして。
 はじめての川の字寝んねに興奮気味です。
「殿下、ぼくはひとりで寝られるけどねぇ。殿下がひとりで寝られないから、一緒に寝てあげるのぉぉ」
「あぁ、小枝。よろしく頼む」
 殿下に頼まれて、えへぇ、と満足げに笑った小枝は。
 布団をかぶせて、その上を殿下の手がポンポンすると。
「ちょっと、殿下? ポンポンが強いですよ? もっとやさぁしく、パパのポンポンを見習ってください」
 と、文句を言うのだった。
「むむ、そうか? こうか? こうか?」
 ボムボムや、デデンという、妙な音をさせて叩くから。小枝は面白がってぎゃははと笑うのだ。
 …ニジェールのギャハハはまるで可愛くなかったが。
 小枝は可愛いなぁ。はしゃぐ姿に癒されるぅぅ。

 そうして騒いでいるうちに、小枝はすきょぉぉぉと寝るのだった。
 今日は王子の涙の別れ(主に王子が)に始まり、後宮でお着替えしたり、王宮へ行ったりしたから。おつかれちゃんでしたかね?

「寝たな」
「はい」
 そうして殿下は俺の頭を引き寄せて。小枝の寝ている上で、頬にチュッとした。
 おやすみのキスです。
 なんか、小枝に見られてしまいそうで恥ずかしいけど。
 もう家族になるのだし。
 小枝も殿下の息子になるのだから。
 スキンシップでゆっくり距離を縮めていくのは良いのかもしれませんね?
 小枝は…殿下を父親ではなく弟扱いのままですけどね。

 それで、もう横になるのかと思ったのだが。
 殿下は手枕てまくらをして、俺をジッとみつめるのだった。
「なんですか?」
 言いたいことがあるのかと思い、俺も手枕をして殿下を見やる。
 小枝をはさんでコソコソ話ですね。

「なにか言いたいことがあるのではないか?」
「いえ、別に。あ、婚約とか結婚式の日取りとか急に決まったから怒っていると思ったんですか? それはほぼほぼ殿下のせいじゃなく、公爵父さんのせいですよ」
 なんか、二年待ちの教会の予約を勝手に取ってたとか。
 どういう手回しの良さなんですか?
 殿下もたぶん、そこまで考えてなかったはずですよ。たぶん。

「それではなく。いや、その件については結婚までの道筋が見えて、俺は内心狂喜乱舞だが」
 ふむ、とうなずくが。
 厳しい目元で眉間にシワがある殿下が狂喜乱舞とか、なんの冗談ですかね?
 そんなリアクションしたことないでしょ。
「狂喜乱舞は内心にだけでとどめてください。怖いんで」
「怖いか?」
「殿下が怖いんじゃなくて。普段おとなしい人が踊ったら普通に怖いでしょ?」
「なるほど」
 ふむふむとうなずく殿下。
「…てか、なんの話でしたっけ?」
 話が横道にそれてどこかに行ってしまったので。聞くと。

「俺が父親と和解しないのを、怒っているかと思ったのだ」
 あぁ、そこに引っかかっていたんだな。
 殿下は。
 出会った頃は、俺が父親であることに反発心があって。
 ひと目惚れの相手であるらしい俺にも突っかかるくらいには、父親という存在に嫌悪があったのだ。

「いえ、怒りませんよ。ディオンの怒りはディオンのものだ。あなたが許せないと思うなら、許すことはない」
「しかしおまえは神の遣いだから。正しくないことは嫌なのではないか?」
 いや、神の遣いじゃねぇし、と。素でツッコんだ。

「確かに、正しくないことは普通に嫌です。だけどディオンと国王の和解が正しいことだとは思わない。いえ、正解はない、が正しいかな? 国王の事情があったからといって、ディオンの苦難はとても厳しいものだったのだから。ディオンは怒っていいと思うし。その苦難のわだかまりが、一朝一夕でほどけるとも思えません。こじらせるっていうのは、そういうことだと思うのです」
「こじらせる…」
 どういう意味かと問うように、ディオンは目で俺にたずねる。

「ディオンは親との関係をこじらせている。だから俺と出会ったとき、家族がどういうものかもわからなかったのではないですか? 俺が小枝を守る意味を。でも。今はもうわかっているでしょう? 手段は違えど。俺が小枝を守るように、国王もディオンを守ったのだと。そう思えば、少しは見方も変わるのでは?」
 すよぉと寝ている小枝を、子供の殿下に見立てて。
 優しく撫でる。

「でも、だから許せるでしょう? と言っているわけではないのです。だって、俺だって簡単に納得できませんよ。ディオンはとても傷ついたのだから。ここまでがとても苦しい道だったのだから」
 小枝を撫でていた手をディオンに伸ばして、俺は彼の髪を優しくすいた。
 膝を抱えてうつむく子供の頭を撫でるように。

 ディオンは、どこか痛そうな表情で目を細め。
 撫でる俺の手を握って、甲にキスした。
「大樹は最高のパパだから。おまえがそう言うのなら。俺は父王を許せなくても、後ろめたい気持ちにならないで済む」
「えぇ、後ろめたい気になんかならなくていい。親の理不尽は、子供だけが怒っていいのですよ。それでなくても子供は、どんなに親が悪かろうと擁護してしまう天使なのですから。でも親のダメなところを、子供は許さなくていい。家族なら尚更だ」
 家族は、常に親密な状態であるから。
 理不尽を押しつけられたら、子供は逃げ場がない。
 ただただその理不尽に傷つけられたのなら。
 怒っていいし、許さなくていいと思うのだ。

 小枝の母は、俺の姉で。
 俺は、姉の小枝への仕打ちをを許せないが。
 親は自分の娘を擁護する気持ちが、少しはあっただろう。
 忙しかったのでは? とか。事情があったのでは? とか。
 彼女に理由を求めて。娘を悪者にはしたくなかったんじゃないかな?
 親とはそういうものだ。

 けれど。俺は小枝に、母を許さなくていいと言っている。
 小枝は母に命をおびやかされたのだから。
 嫌いとか、怖いとか、許さないとか。そう思うのは小枝の権利だ。
 その理不尽を許すということは。
 苦しいのに黙り込んで。傷ついた心にさらに圧をかけること。
 そんなこと、しなくていい。
 無理に許すことはないと思うし。心が苦しいのなら存在ごと忘れていいと思っている。
 姉は存在抹消されても仕方のない、それだけのことを小枝にしたのだ。

 そしてディオンは。
 大人になってしまったから、いつか父王を許すかもしれないが。
 それは今でなくてもいいし。
 心が苦しくならない、ディオンのタイミングでいいのだ。
 そんな彼に、俺は寄り添う。
 ディオンの傷口が開かぬよう、そっと手を当てていよう。

「家族…俺は、大樹と小枝の家族になれるだろうか?」
 なにやら自信なさそうに、ディオンはつぶやくけど。

「なに言ってんの? もう、とっくに家族でしょ」

 小枝と俺が牢に入っていたとき。殿下は俺らは家族だと言ったのだ。
 そのときから。俺はディオンもレギも家族だって思っていましたよ。

「キスしたい」
 しかしディオンの返事は。これで。
 なんでそうなるかな?
 真剣な顔つきだけど、真面目に言っているのかな。

「ダメに決まってんでしょ。また脈絡のないこと言ってぇ。子供のそばで、そういうの禁止」
「脈絡はある。家族と言われて、俺の心臓がビリビリってなったのだ。なら、手ならいいのか?」
 チュッチュと握った手の甲にくちづけをちりばめてきた。
 くすぐったい感覚が、ゾワゾワするぅ。
「なら、ってなんですか。手もダメです」
「その気になるから?」
 指と指の間に皮膚の薄いところを、親指でくすぐらないでください。
 俺はその悪戯いたずらな親指をギュッと締めつけたりして。
 クスクス笑いながら、手の攻防を繰り広げていると。
「今日、着飾ったおまえを見て、俺はずっとグッときていて…いわゆる、興奮だ。大樹を好きだと思う気持ちがとめどなく高まって、ずっと胸が苦しいのだ」
 なんて、ディオンは柔らかい声音で言い。
 そんなことを言われると。
 照れて、頬が熱くなる。
 俺だって、姿勢正しく胸を張る盛装姿のディオンがすっごく格好良くて。
 胸がキュンとしちゃったというのに。
「…ディオン」
 自然な流れで、指と指を絡め合わせて。熱くみつめあっていると。

「ううううぅうぅぅるさぁぁい。殿下っ、いつまでも起きていないで、寝てぇぇっ」

 小枝が両手を振り上げて、そう言った。
 俺は、小枝が起きちゃったかと思ってギョッとしたが。
 んん? 寝たままのようです。寝言です。

「小枝の言う通りですね。話はここまでにして、おやすみなさいディオン」
 俺は殿下の手から逃れた手で、ディオンのひたいに触れ。
 スリーパーをかけた。

「あぁ。おやすみ、大樹」
 珍しく、殿下はいい感じでベッドに横たわり。穏やかに寝た。
 強制感なしの、心地よさそうな眠りに。

 俺は嬉しくて。ちょっと涙が出た。

 毒や暗殺によって命がおびやかされ、その上不眠の呪いまでかけられていたなんて。
 どんなに困難な人生だっただろう。

 俺と殿下は戦場でしか出会えなかっただろうと思うが。
 もっと早くあなたに会って。なにもかもから守ってあげられたら良かったと。
 心底思うのだ。

「もう家族なのだから。俺にあなたを守らせてください」
 小枝と身を寄り添わせるディオン。
 ふたりの頬に、そっと、おやすみのキスを贈った。

しおりを挟む
感想 308

あなたにおすすめの小説

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます

八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」  ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。  でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!  一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

処理中です...