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78 おまえにはかなわぬ
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◆おまえにはかなわぬ
俺と殿下は公爵の部屋で晩酌をしていたが。
早々に追い出されてしまった。
まぁ、前世のことなど、話したかったことは話したし。
良い感じに奴隷制度のことについて前振りをしたので。
あとはおまえらで話し合えってことなんだろう。
ちなみに。父さんは日本酒の瓶を抱えて離さなかった。
まぁ、いいですけど。父さん孝行ってことで。
でも明日、二日酔いで陛下の前に出ないでくださいよね?
そして殿下の私室にて。話の続きです。
「先ほど、俺に隷属拒否の魔法を施すのは過保護だと父さんは言っていたけど。それはどういう意味ですか?」
少しの飲酒をしたので、酔い覚ましの紅茶をいれながらディオンにたずねた。
「…悪意のある者が奴隷紋を施せたとして。しかしそいつらにむざむざおまえを取られないようにした。そういうことだ」
ほんのり頬を染める殿下。そこがわからぬが。
とりあえず置いておいて。
「奴隷紋って誰でもできるのですか? たとえばユカレフは貴族じゃないから魔法は持っていないと思うけど」
「ユカレフはおそらく貴族の血脈だと思う。奴隷商というのは、やはり人を思うようにする職業なので、隷属魔法ができなければならない。もしくはできる者を雇わなければならない。しかし彼はおまえを身請けするときひとりで来ただろう? つまりあいつが奴隷紋を施せる者だということだ」
ディオンはひと口紅茶を飲んで、続けた。
「奴隷紋が施されている首輪が市販されているが。その場合は役所に登録しなければならない。そこで本人の意思確認もされるのだ」
「自分の意思で奴隷になる者がいるのですか?」
「あぁ。たとえば、家族に病人がいて、医者にかかるのに大金がいるが、それをまかなえないもの。とかな」
「自分の身を売って金銭に変える人もいるのですね? シビアですねぇ」
奴隷にさせる者、奴隷を買う者、イコール悪みたいな意識が。自分の中にもあったけど。
奴隷になってでも、どうしても金銭が必要な者にとっては。その道は命綱なのかもしれない。
「魔法を持たぬ者、奴隷紋を施せない者は、役所で奴隷紋を発動させてもらう。解除するときも役所へ行く。ユカレフは自分で奴隷紋を発動できたので、役所へ行く手間が省けるのだ。ま、奴隷商がいちいち役所へ足を運んでいたら、大変だがな」
「じゃあ、ユカレフは。金銭授受もなく、誰でも奴隷にすることができるのか?」
「商人にはそれなりのルールが課されていて。無闇にそこらを歩いている人物を奴隷にすることはできないのだ。規約を破ると、まず商売する資格を失う。奴隷の売買は儲かるので。頭の良い商人なら、わざわざ危険をおかす真似はしないな」
つまり、なんの理由もなく誰彼構わず奴隷にしているのではないということか。
「え、でも。スラムで捕まったハッカクや、俺らは?」
「今回、大樹が引っ掛かった件は。戦争で人員をかき集めるために国が許可したことだった。一時的に規約がゆるんだというか。タイミングが悪かったと言う他ない。まぁ、俺にとっては。大樹に出会えたことは最大の幸運であったが」
そう言って、ディオンは俺を熱い目でみつめてくるのだ。
もう、ちょいちょい恥ずかしい言葉を混ぜてくるのだから。照れる。
「でも今は隷属拒絶の魔法がかかっているから、戦争みたいなイレギュラーがあっても、もう奴隷になることはないってことですね?」
「まぁ、そうだが。俺が恐れたのは、ニジェールの方だった。俺が珍重しているおまえを捕縛し、奴隷紋を施して安価で売る。そのような嫌がらせをやつは好むので。それを危惧したのだ」
「それで王宮に入る前に、魔法を?」
「…一番肝心なのは。俺が俺以外の者に大樹を奪われたくない、ということなのだが?」
おまえは鈍いな、という目で。じろりと睨まれた。
「あ…はい」
つまり俺は。
殿下にしっかり守られていた、ということだよね。
すみません、鈍くて。照れる。
あぁ?? じゃあ殿下の重ぉい愛に気づいて、父さんは変な笑い方をしていたんだな?
やっぱ勘ぐってるじゃん!!
「今度はこちらから聞くが。奴隷制度を廃止しなきゃ、というのは?」
話を戻されて。俺も頭を切り替えた。
「あぁ、午前中にちょっとそういう話を公爵としたのです。もしも俺が王妃になれたら、奴隷制度をなくしたいというのと、児童福祉施設を作りたいなって、思って。奴隷制度自体がなければ、元奴隷だとかでさげすまれたり、そういう差別的なものがなくなるでしょ? だから廃止すればいいんじゃないかなって。気が早いですけど、ディオンが王様になったら、ぜひその方向で動いてもらいたいです」
俺も紅茶を飲んでひと息つき。話を続けた。
「俺は従者としてあなたにお仕えしてきましたが。奴隷だと思っていたときは、俺の意思には関係なくそうしなければならないという意識がありました。職業を選択する自由がない、というか? 俺は医者で。戦場で医療行為をしていたけれど。医者をしていたときですら、奴隷という枷があると、強制的にさせられるという気持ちで。そこには、人の尊厳を踏みにじる、精神的な束縛があるのです」
「今はどうなのだ? 奴隷だと思っていたときと、していることは変わらぬが?」
「同じことをしていても、気持ちが全然違うのです。俺は今、俺の意思で殿下に仕えている。あなたのそばに居たいと思って、あなたのそばに居るのです。それは束縛から解放されたからこそ、生まれた気持ちです」
自分の気持ちを話すのは難しいけれど。
肩に回った殿下の手が、俺の肩をやんわり撫でるので。
なんとなく心強い気持ちで、言いたいことを訴えた。
「とにかく、そうしたいからするのと。仕方なく従うのとでは。全く違う意味があるのですよ。ディオンだって、薄々わかっていたはずです。奴隷の俺に伽を命令しなかったでしょう?」
「あぁ、なるほど。命令すれば、おまえの体は手に入ったが。心は手に入らない。というやつだな?」
「それです。さすが殿下」
ようやく俺の気持ちが殿下に伝わったように思えて。
俺はにっこり。笑いかける。
「ふふ、おまえにはかなわぬな。俺はおまえのためならなんでも叶えてやりたくなってしまう」
口の先で可愛いと囁いて。唇に吸いつく軽いチュをされた。
ああ甘いぃぃ。です。
「しかし、国に浸透している制度を廃止するのは、それなりに時間がかかるぞ」
「長い年月がかかっても良いではありませんか。その間、俺もあなたの隣にいて、ディオンを支えますよ」
「本当か? 長く長く、ずっと俺と共にいてくれるか?」
長くなった俺の髪を、殿下が手慰みのようにいじって。
それをやられると、俺は弱いんですよぉ。
髪の毛って。なんでゾクゾクしちゃうんですかね。
でも、話の途中なので。気を引き締めて。
「えぇ。ずっと共に。でも、わざと先延ばしにするのはナシですよ?」
「そのようなことはしない。大樹に愛想を尽かされないようにしないとな?」
そして顔を寄せてきて。今度は、しっかりちゅううう、してきた。
舌を絡める、激しいキス。
息継ぎが難しくて。少し口が離れた隙に息を吸い込むけど。
口を開くと、すかさず深く舌を差し入れられて。
「ん、んぅ…ディオン、ん、んん」
文句を言っても。クスリと笑っていなされるのだ。
くそぉ。ファーストキスは同じタイミングのはずなのに。
どうしてディオンはこんなに余裕なんだぁ??
ディオンは唇を離しても、額に額をグリグリするゼロ距離で。
まだまだ真面目な話をしてくるのだ。
キスに溺れる隙もなし。
「奴隷制度の廃止も、児童福祉施設のことも。王妃の裁量でやるがよい。俺は大樹を全面的に支援する」
腰に響くような低い声で、耳元に囁かれ。
そのまま首筋にキスを落としていく。
いつの間にかシャツのボタンがふたつも外されていて。
敏感な耳の際や鎖骨のあたりを舌で舐めたどる。
うわわ、それはっ。
尾てい骨がギュンってなるやつぅ。
「ん…えぇ? ディオンがするんじゃないのか? それに…俺、王妃になれるのかぁ?」
「俺が王になれたなら、王の妃であるおまえしか王妃にはなれぬ」
熱く湿るような声で。俺の耳に吹き込む。
もう、無理ぃ。
普通の話をしているのに。口説かれてるみたいに、体がドロドロになりそう。
「王妃が民のために動いてくれるなら、国民もおまえを支持するだろう。そうしたら俺の隣におまえがいることを誰もとがめたりしない」
睦言みたいに国のことを話したら駄目だと思うので。
俺はなんとか正気を保ちたいっ。
「…まぁ、いろいろやりたいことはあるよ。国民が適正価格で病院にかかれるようにするとか。水道は究極のライフラインだから、水道設備の拡充とかね。つか、俺を離さないための根回しに余念がないな」
王妃の俺が率先して動くことで、国民の支持を得て、俺との結婚を認めさせたい。
というような根回しの話なのだ。
「当然だな。俺はおまえの望みをなんでも叶えてやりたいし。おまえにそばに居てもらいたくて必死なのだ。ところで、望みを叶えたいといえば…以前断念した一緒に風呂に入るのを、そろそろリベンジしたいのだが?」
それって。
ディオンが恥ずかしがって、風呂に一緒に入れなかったやつ?
あのときのディオンは純情だったよなぁぁ。
つい最近までそうだったはずなのだがなぁぁ。
「あ、それは別に。大きな風呂に入りたかっただけで。ディオンと一緒に入るのが望みってわけじゃあああ、ないんだけど?」
「いいや。一度口にした願いは叶えないとならない」
久しぶりの悪人顔でニヤリとしたディオンは。俺の手を引いて浴室に行くのだった。
まぁ……いいですけど。
結構煽られちゃいましたからね。
★★★★★
しかしながら。やはり風呂入るだけじゃ済まなかったよね。
結構煽られちゃっていましたからね。お互いに。
「つい最近まで恥ずかしがっていたのに。もう俺とお風呂に入っても恥ずかしくはないのですか?」
大きな浴槽の中で、当たり前だが裸で向かい合っているのだ。
俺は、恥ずかしいより。大人の男が体を寄せ合っているのが妙な図だなって思うけど。
まぁ、そういう仲なので致し方ないというか…?
息が整わないで、ハフハフ言いながら。殿下の首にすがりついている。
そんな状態で、聞いてみるけど。
「今でも恥ずかしいぞ。だが、おまえの体は真っ白で綺麗だから。恥ずかしがる前に見惚れてしまうのだ。それに大樹のそばに居れば、俺はいつでもその気になってしまうので。その余裕のなさを知られてしまうのが恥ずかしいということなのだ」
「余裕がない? うっそぉぉ」
キスも情交も、ディオンがリードしてくれるのに。
俺はいつも、煽られて、巻き込まれて、グルグル状態にさせられるってのに。
余裕がないとは何事だ??
「でも。殿下の体も、腹筋がヤバくてカッコいいですよ」
「ヤバいは誉め言葉なのか?」
「異世界では、誉め言葉でしたよ?」
たぶん。
そうして俺は。ディオンのしっとり濡れた青髪を手で掻き抱く。
ディオンの上に座っているから、視線が俺と同じくらいになって。
少し硬めの彼の青い毛髪を指に絡めれば。
彼が気持ちよさそうに目を細めるから。
唇を合わせて、喉が焼けるような熱いキスをした…。
俺と殿下は公爵の部屋で晩酌をしていたが。
早々に追い出されてしまった。
まぁ、前世のことなど、話したかったことは話したし。
良い感じに奴隷制度のことについて前振りをしたので。
あとはおまえらで話し合えってことなんだろう。
ちなみに。父さんは日本酒の瓶を抱えて離さなかった。
まぁ、いいですけど。父さん孝行ってことで。
でも明日、二日酔いで陛下の前に出ないでくださいよね?
そして殿下の私室にて。話の続きです。
「先ほど、俺に隷属拒否の魔法を施すのは過保護だと父さんは言っていたけど。それはどういう意味ですか?」
少しの飲酒をしたので、酔い覚ましの紅茶をいれながらディオンにたずねた。
「…悪意のある者が奴隷紋を施せたとして。しかしそいつらにむざむざおまえを取られないようにした。そういうことだ」
ほんのり頬を染める殿下。そこがわからぬが。
とりあえず置いておいて。
「奴隷紋って誰でもできるのですか? たとえばユカレフは貴族じゃないから魔法は持っていないと思うけど」
「ユカレフはおそらく貴族の血脈だと思う。奴隷商というのは、やはり人を思うようにする職業なので、隷属魔法ができなければならない。もしくはできる者を雇わなければならない。しかし彼はおまえを身請けするときひとりで来ただろう? つまりあいつが奴隷紋を施せる者だということだ」
ディオンはひと口紅茶を飲んで、続けた。
「奴隷紋が施されている首輪が市販されているが。その場合は役所に登録しなければならない。そこで本人の意思確認もされるのだ」
「自分の意思で奴隷になる者がいるのですか?」
「あぁ。たとえば、家族に病人がいて、医者にかかるのに大金がいるが、それをまかなえないもの。とかな」
「自分の身を売って金銭に変える人もいるのですね? シビアですねぇ」
奴隷にさせる者、奴隷を買う者、イコール悪みたいな意識が。自分の中にもあったけど。
奴隷になってでも、どうしても金銭が必要な者にとっては。その道は命綱なのかもしれない。
「魔法を持たぬ者、奴隷紋を施せない者は、役所で奴隷紋を発動させてもらう。解除するときも役所へ行く。ユカレフは自分で奴隷紋を発動できたので、役所へ行く手間が省けるのだ。ま、奴隷商がいちいち役所へ足を運んでいたら、大変だがな」
「じゃあ、ユカレフは。金銭授受もなく、誰でも奴隷にすることができるのか?」
「商人にはそれなりのルールが課されていて。無闇にそこらを歩いている人物を奴隷にすることはできないのだ。規約を破ると、まず商売する資格を失う。奴隷の売買は儲かるので。頭の良い商人なら、わざわざ危険をおかす真似はしないな」
つまり、なんの理由もなく誰彼構わず奴隷にしているのではないということか。
「え、でも。スラムで捕まったハッカクや、俺らは?」
「今回、大樹が引っ掛かった件は。戦争で人員をかき集めるために国が許可したことだった。一時的に規約がゆるんだというか。タイミングが悪かったと言う他ない。まぁ、俺にとっては。大樹に出会えたことは最大の幸運であったが」
そう言って、ディオンは俺を熱い目でみつめてくるのだ。
もう、ちょいちょい恥ずかしい言葉を混ぜてくるのだから。照れる。
「でも今は隷属拒絶の魔法がかかっているから、戦争みたいなイレギュラーがあっても、もう奴隷になることはないってことですね?」
「まぁ、そうだが。俺が恐れたのは、ニジェールの方だった。俺が珍重しているおまえを捕縛し、奴隷紋を施して安価で売る。そのような嫌がらせをやつは好むので。それを危惧したのだ」
「それで王宮に入る前に、魔法を?」
「…一番肝心なのは。俺が俺以外の者に大樹を奪われたくない、ということなのだが?」
おまえは鈍いな、という目で。じろりと睨まれた。
「あ…はい」
つまり俺は。
殿下にしっかり守られていた、ということだよね。
すみません、鈍くて。照れる。
あぁ?? じゃあ殿下の重ぉい愛に気づいて、父さんは変な笑い方をしていたんだな?
やっぱ勘ぐってるじゃん!!
「今度はこちらから聞くが。奴隷制度を廃止しなきゃ、というのは?」
話を戻されて。俺も頭を切り替えた。
「あぁ、午前中にちょっとそういう話を公爵としたのです。もしも俺が王妃になれたら、奴隷制度をなくしたいというのと、児童福祉施設を作りたいなって、思って。奴隷制度自体がなければ、元奴隷だとかでさげすまれたり、そういう差別的なものがなくなるでしょ? だから廃止すればいいんじゃないかなって。気が早いですけど、ディオンが王様になったら、ぜひその方向で動いてもらいたいです」
俺も紅茶を飲んでひと息つき。話を続けた。
「俺は従者としてあなたにお仕えしてきましたが。奴隷だと思っていたときは、俺の意思には関係なくそうしなければならないという意識がありました。職業を選択する自由がない、というか? 俺は医者で。戦場で医療行為をしていたけれど。医者をしていたときですら、奴隷という枷があると、強制的にさせられるという気持ちで。そこには、人の尊厳を踏みにじる、精神的な束縛があるのです」
「今はどうなのだ? 奴隷だと思っていたときと、していることは変わらぬが?」
「同じことをしていても、気持ちが全然違うのです。俺は今、俺の意思で殿下に仕えている。あなたのそばに居たいと思って、あなたのそばに居るのです。それは束縛から解放されたからこそ、生まれた気持ちです」
自分の気持ちを話すのは難しいけれど。
肩に回った殿下の手が、俺の肩をやんわり撫でるので。
なんとなく心強い気持ちで、言いたいことを訴えた。
「とにかく、そうしたいからするのと。仕方なく従うのとでは。全く違う意味があるのですよ。ディオンだって、薄々わかっていたはずです。奴隷の俺に伽を命令しなかったでしょう?」
「あぁ、なるほど。命令すれば、おまえの体は手に入ったが。心は手に入らない。というやつだな?」
「それです。さすが殿下」
ようやく俺の気持ちが殿下に伝わったように思えて。
俺はにっこり。笑いかける。
「ふふ、おまえにはかなわぬな。俺はおまえのためならなんでも叶えてやりたくなってしまう」
口の先で可愛いと囁いて。唇に吸いつく軽いチュをされた。
ああ甘いぃぃ。です。
「しかし、国に浸透している制度を廃止するのは、それなりに時間がかかるぞ」
「長い年月がかかっても良いではありませんか。その間、俺もあなたの隣にいて、ディオンを支えますよ」
「本当か? 長く長く、ずっと俺と共にいてくれるか?」
長くなった俺の髪を、殿下が手慰みのようにいじって。
それをやられると、俺は弱いんですよぉ。
髪の毛って。なんでゾクゾクしちゃうんですかね。
でも、話の途中なので。気を引き締めて。
「えぇ。ずっと共に。でも、わざと先延ばしにするのはナシですよ?」
「そのようなことはしない。大樹に愛想を尽かされないようにしないとな?」
そして顔を寄せてきて。今度は、しっかりちゅううう、してきた。
舌を絡める、激しいキス。
息継ぎが難しくて。少し口が離れた隙に息を吸い込むけど。
口を開くと、すかさず深く舌を差し入れられて。
「ん、んぅ…ディオン、ん、んん」
文句を言っても。クスリと笑っていなされるのだ。
くそぉ。ファーストキスは同じタイミングのはずなのに。
どうしてディオンはこんなに余裕なんだぁ??
ディオンは唇を離しても、額に額をグリグリするゼロ距離で。
まだまだ真面目な話をしてくるのだ。
キスに溺れる隙もなし。
「奴隷制度の廃止も、児童福祉施設のことも。王妃の裁量でやるがよい。俺は大樹を全面的に支援する」
腰に響くような低い声で、耳元に囁かれ。
そのまま首筋にキスを落としていく。
いつの間にかシャツのボタンがふたつも外されていて。
敏感な耳の際や鎖骨のあたりを舌で舐めたどる。
うわわ、それはっ。
尾てい骨がギュンってなるやつぅ。
「ん…えぇ? ディオンがするんじゃないのか? それに…俺、王妃になれるのかぁ?」
「俺が王になれたなら、王の妃であるおまえしか王妃にはなれぬ」
熱く湿るような声で。俺の耳に吹き込む。
もう、無理ぃ。
普通の話をしているのに。口説かれてるみたいに、体がドロドロになりそう。
「王妃が民のために動いてくれるなら、国民もおまえを支持するだろう。そうしたら俺の隣におまえがいることを誰もとがめたりしない」
睦言みたいに国のことを話したら駄目だと思うので。
俺はなんとか正気を保ちたいっ。
「…まぁ、いろいろやりたいことはあるよ。国民が適正価格で病院にかかれるようにするとか。水道は究極のライフラインだから、水道設備の拡充とかね。つか、俺を離さないための根回しに余念がないな」
王妃の俺が率先して動くことで、国民の支持を得て、俺との結婚を認めさせたい。
というような根回しの話なのだ。
「当然だな。俺はおまえの望みをなんでも叶えてやりたいし。おまえにそばに居てもらいたくて必死なのだ。ところで、望みを叶えたいといえば…以前断念した一緒に風呂に入るのを、そろそろリベンジしたいのだが?」
それって。
ディオンが恥ずかしがって、風呂に一緒に入れなかったやつ?
あのときのディオンは純情だったよなぁぁ。
つい最近までそうだったはずなのだがなぁぁ。
「あ、それは別に。大きな風呂に入りたかっただけで。ディオンと一緒に入るのが望みってわけじゃあああ、ないんだけど?」
「いいや。一度口にした願いは叶えないとならない」
久しぶりの悪人顔でニヤリとしたディオンは。俺の手を引いて浴室に行くのだった。
まぁ……いいですけど。
結構煽られちゃいましたからね。
★★★★★
しかしながら。やはり風呂入るだけじゃ済まなかったよね。
結構煽られちゃっていましたからね。お互いに。
「つい最近まで恥ずかしがっていたのに。もう俺とお風呂に入っても恥ずかしくはないのですか?」
大きな浴槽の中で、当たり前だが裸で向かい合っているのだ。
俺は、恥ずかしいより。大人の男が体を寄せ合っているのが妙な図だなって思うけど。
まぁ、そういう仲なので致し方ないというか…?
息が整わないで、ハフハフ言いながら。殿下の首にすがりついている。
そんな状態で、聞いてみるけど。
「今でも恥ずかしいぞ。だが、おまえの体は真っ白で綺麗だから。恥ずかしがる前に見惚れてしまうのだ。それに大樹のそばに居れば、俺はいつでもその気になってしまうので。その余裕のなさを知られてしまうのが恥ずかしいということなのだ」
「余裕がない? うっそぉぉ」
キスも情交も、ディオンがリードしてくれるのに。
俺はいつも、煽られて、巻き込まれて、グルグル状態にさせられるってのに。
余裕がないとは何事だ??
「でも。殿下の体も、腹筋がヤバくてカッコいいですよ」
「ヤバいは誉め言葉なのか?」
「異世界では、誉め言葉でしたよ?」
たぶん。
そうして俺は。ディオンのしっとり濡れた青髪を手で掻き抱く。
ディオンの上に座っているから、視線が俺と同じくらいになって。
少し硬めの彼の青い毛髪を指に絡めれば。
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