【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~

北川晶

文字の大きさ
上 下
106 / 174

78 おまえにはかなわぬ

しおりを挟む
     ◆おまえにはかなわぬ

 俺と殿下は公爵の部屋で晩酌をしていたが。
 早々に追い出されてしまった。
 まぁ、前世のことなど、話したかったことは話したし。
 良い感じに奴隷制度のことについて前振りをしたので。
 あとはおまえらで話し合えってことなんだろう。

 ちなみに。父さんは日本酒の瓶を抱えて離さなかった。
 まぁ、いいですけど。父さん孝行ってことで。
 でも明日、二日酔いで陛下の前に出ないでくださいよね?

 そして殿下の私室にて。話の続きです。
「先ほど、俺に隷属拒否の魔法を施すのは過保護だと父さんは言っていたけど。それはどういう意味ですか?」
 少しの飲酒をしたので、酔い覚ましの紅茶をいれながらディオンにたずねた。
「…悪意のある者が奴隷紋を施せたとして。しかしそいつらにむざむざおまえを取られないようにした。そういうことだ」
 ほんのり頬を染める殿下。そこがわからぬが。
 とりあえず置いておいて。

「奴隷紋って誰でもできるのですか? たとえばユカレフは貴族じゃないから魔法は持っていないと思うけど」
「ユカレフはおそらく貴族の血脈だと思う。奴隷商というのは、やはり人を思うようにする職業なので、隷属魔法ができなければならない。もしくはできる者を雇わなければならない。しかし彼はおまえを身請けするときひとりで来ただろう? つまりあいつが奴隷紋をほどこせる者だということだ」

 ディオンはひと口紅茶を飲んで、続けた。
「奴隷紋が施されている首輪が市販されているが。その場合は役所に登録しなければならない。そこで本人の意思確認もされるのだ」
「自分の意思で奴隷になる者がいるのですか?」
「あぁ。たとえば、家族に病人がいて、医者にかかるのに大金がいるが、それをまかなえないもの。とかな」
「自分の身を売って金銭に変える人もいるのですね? シビアですねぇ」
 奴隷にさせる者、奴隷を買う者、イコール悪みたいな意識が。自分の中にもあったけど。
 奴隷になってでも、どうしても金銭が必要な者にとっては。その道は命綱なのかもしれない。

「魔法を持たぬ者、奴隷紋を施せない者は、役所で奴隷紋を発動させてもらう。解除するときも役所へ行く。ユカレフは自分で奴隷紋を発動できたので、役所へ行く手間が省けるのだ。ま、奴隷商がいちいち役所へ足を運んでいたら、大変だがな」

「じゃあ、ユカレフは。金銭授受もなく、誰でも奴隷にすることができるのか?」
「商人にはそれなりのルールが課されていて。無闇にそこらを歩いている人物を奴隷にすることはできないのだ。規約を破ると、まず商売する資格を失う。奴隷の売買は儲かるので。頭の良い商人なら、わざわざ危険をおかす真似はしないな」

 つまり、なんの理由もなく誰彼構わず奴隷にしているのではないということか。
「え、でも。スラムで捕まったハッカクや、俺らは?」
「今回、大樹が引っ掛かった件は。戦争で人員をかき集めるために国が許可したことだった。一時的に規約がゆるんだというか。タイミングが悪かったと言う他ない。まぁ、俺にとっては。大樹に出会えたことは最大の幸運であったが」
 そう言って、ディオンは俺を熱い目でみつめてくるのだ。
 もう、ちょいちょい恥ずかしい言葉を混ぜてくるのだから。照れる。

「でも今は隷属拒絶の魔法がかかっているから、戦争みたいなイレギュラーがあっても、もう奴隷になることはないってことですね?」
「まぁ、そうだが。俺が恐れたのは、ニジェールの方だった。俺が珍重ちんちょうしているおまえを捕縛し、奴隷紋を施して安価で売る。そのような嫌がらせをやつは好むので。それを危惧したのだ」
「それで王宮に入る前に、魔法を?」
「…一番肝心なのは。俺が俺以外の者に大樹を奪われたくない、ということなのだが?」
 おまえはにぶいな、という目で。じろりと睨まれた。
「あ…はい」
 つまり俺は。
 殿下にしっかり守られていた、ということだよね。
 すみません、鈍くて。照れる。

 あぁ?? じゃあ殿下の重ぉい愛に気づいて、父さんは変な笑い方をしていたんだな?
 やっぱ勘ぐってるじゃん!!

「今度はこちらから聞くが。奴隷制度を廃止しなきゃ、というのは?」
 話を戻されて。俺も頭を切り替えた。
「あぁ、午前中にちょっとそういう話を公爵としたのです。もしも俺が王妃になれたら、奴隷制度をなくしたいというのと、児童福祉施設を作りたいなって、思って。奴隷制度自体がなければ、元奴隷だとかでさげすまれたり、そういう差別的なものがなくなるでしょ? だから廃止すればいいんじゃないかなって。気が早いですけど、ディオンが王様になったら、ぜひその方向で動いてもらいたいです」

 俺も紅茶を飲んでひと息つき。話を続けた。
「俺は従者としてあなたにお仕えしてきましたが。奴隷だと思っていたときは、俺の意思には関係なくそうしなければならないという意識がありました。職業を選択する自由がない、というか? 俺は医者で。戦場で医療行為をしていたけれど。医者をしていたときですら、奴隷というかせがあると、強制的にさせられるという気持ちで。そこには、人の尊厳を踏みにじる、精神的な束縛があるのです」

「今はどうなのだ? 奴隷だと思っていたときと、していることは変わらぬが?」
「同じことをしていても、気持ちが全然違うのです。俺は今、俺の意思で殿下に仕えている。あなたのそばに居たいと思って、あなたのそばに居るのです。それは束縛から解放されたからこそ、生まれた気持ちです」

 自分の気持ちを話すのは難しいけれど。
 肩に回った殿下の手が、俺の肩をやんわり撫でるので。
 なんとなく心強い気持ちで、言いたいことを訴えた。

「とにかく、そうしたいからするのと。仕方なく従うのとでは。全く違う意味があるのですよ。ディオンだって、薄々わかっていたはずです。奴隷の俺にとぎを命令しなかったでしょう?」
「あぁ、なるほど。命令すれば、おまえの体は手に入ったが。心は手に入らない。というやつだな?」
「それです。さすが殿下」
 ようやく俺の気持ちが殿下に伝わったように思えて。
 俺はにっこり。笑いかける。

「ふふ、おまえにはかなわぬな。俺はおまえのためならなんでも叶えてやりたくなってしまう」
 口の先で可愛いと囁いて。唇に吸いつく軽いチュをされた。
 ああ甘いぃぃ。です。

「しかし、国に浸透している制度を廃止するのは、それなりに時間がかかるぞ」
「長い年月がかかっても良いではありませんか。その間、俺もあなたの隣にいて、ディオンを支えますよ」
「本当か? 長く長く、ずっと俺と共にいてくれるか?」
 長くなった俺の髪を、殿下が手慰みのようにいじって。
 それをやられると、俺は弱いんですよぉ。
 髪の毛って。なんでゾクゾクしちゃうんですかね。
 でも、話の途中なので。気を引き締めて。

「えぇ。ずっと共に。でも、わざと先延ばしにするのはナシですよ?」
「そのようなことはしない。大樹に愛想を尽かされないようにしないとな?」
 そして顔を寄せてきて。今度は、しっかりちゅううう、してきた。
 舌を絡める、激しいキス。
 息継ぎが難しくて。少し口が離れた隙に息を吸い込むけど。
 口を開くと、すかさず深く舌を差し入れられて。
「ん、んぅ…ディオン、ん、んん」
 文句を言っても。クスリと笑っていなされるのだ。

 くそぉ。ファーストキスは同じタイミングのはずなのに。
 どうしてディオンはこんなに余裕なんだぁ??
 ディオンは唇を離しても、額に額をグリグリするゼロ距離で。
 まだまだ真面目な話をしてくるのだ。
 キスに溺れる隙もなし。

「奴隷制度の廃止も、児童福祉施設のことも。王妃の裁量でやるがよい。俺は大樹を全面的に支援する」
 腰に響くような低い声で、耳元に囁かれ。
 そのまま首筋にキスを落としていく。
 いつの間にかシャツのボタンがふたつも外されていて。
 敏感な耳の際や鎖骨のあたりを舌で舐めたどる。
 うわわ、それはっ。
 尾てい骨がギュンってなるやつぅ。

「ん…えぇ? ディオンがするんじゃないのか? それに…俺、王妃になれるのかぁ?」
「俺が王になれたなら、王の妃であるおまえしか王妃にはなれぬ」
 熱く湿るような声で。俺の耳に吹き込む。
 もう、無理ぃ。
 普通の話をしているのに。口説かれてるみたいに、体がドロドロになりそう。

「王妃が民のために動いてくれるなら、国民もおまえを支持するだろう。そうしたら俺の隣におまえがいることを誰もとがめたりしない」
 睦言むつごとみたいに国のことを話したら駄目だと思うので。
 俺はなんとか正気を保ちたいっ。

「…まぁ、いろいろやりたいことはあるよ。国民が適正価格で病院にかかれるようにするとか。水道は究極のライフラインだから、水道設備の拡充とかね。つか、俺を離さないための根回しに余念がないな」
 王妃の俺が率先して動くことで、国民の支持を得て、俺との結婚を認めさせたい。
 というような根回しの話なのだ。

「当然だな。俺はおまえの望みをなんでも叶えてやりたいし。おまえにそばに居てもらいたくて必死なのだ。ところで、望みを叶えたいといえば…以前断念した一緒に風呂に入るのを、そろそろリベンジしたいのだが?」
 それって。
 ディオンが恥ずかしがって、風呂に一緒に入れなかったやつ?
 あのときのディオンは純情だったよなぁぁ。
 つい最近までそうだったはずなのだがなぁぁ。

「あ、それは別に。大きな風呂に入りたかっただけで。ディオンと一緒に入るのが望みってわけじゃあああ、ないんだけど?」
「いいや。一度口にした願いは叶えないとならない」
 久しぶりの悪人顔でニヤリとしたディオンは。俺の手を引いて浴室に行くのだった。

 まぁ……いいですけど。
 結構煽られちゃいましたからね。

     ★★★★★

 しかしながら。やはり風呂入るだけじゃ済まなかったよね。
 結構煽られちゃっていましたからね。お互いに。

「つい最近まで恥ずかしがっていたのに。もう俺とお風呂に入っても恥ずかしくはないのですか?」
 大きな浴槽の中で、当たり前だが裸で向かい合っているのだ。
 俺は、恥ずかしいより。大人の男が体を寄せ合っているのが妙な図だなって思うけど。
 まぁ、そういう仲なので致し方ないというか…?
 息が整わないで、ハフハフ言いながら。殿下の首にすがりついている。
 そんな状態で、聞いてみるけど。

「今でも恥ずかしいぞ。だが、おまえの体は真っ白で綺麗だから。恥ずかしがる前に見惚れてしまうのだ。それに大樹のそばに居れば、俺はいつでもその気になってしまうので。その余裕のなさを知られてしまうのが恥ずかしいということなのだ」
「余裕がない? うっそぉぉ」
 キスも情交も、ディオンがリードしてくれるのに。
 俺はいつも、煽られて、巻き込まれて、グルグル状態にさせられるってのに。
 余裕がないとは何事だ??

「でも。殿下の体も、腹筋がヤバくてカッコいいですよ」
「ヤバいは誉め言葉なのか?」
「異世界では、誉め言葉でしたよ?」
 たぶん。
 そうして俺は。ディオンのしっとり濡れた青髪を手で掻き抱く。
 ディオンの上に座っているから、視線が俺と同じくらいになって。
 少し硬めの彼の青い毛髪を指に絡めれば。
 彼が気持ちよさそうに目を細めるから。

 唇を合わせて、喉が焼けるような熱いキスをした…。

しおりを挟む
感想 308

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

処理中です...