【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~

北川晶

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64 ああいうのじゃなくてっ

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     ◆ああいうのじゃなくてっ

 夜。俺はまたしても俺らの部屋で小枝とともにゴロゴロしている。
 だってぇ。なんか、ディオンと顔を合わせるのが恥ずかしいじゃん。
 おっさんがモジモジすんなって、自分でも思うけど。
 はじめてがてんこ盛りでタジタジなんですっ。

「パパ、殿下とパパが結婚したら、ぼくはパパの息子じゃなくなるのぉ?」
 いつも下がりめの眉をさらにしょんぼりさせて、小枝が聞いてくる。
「まさか。そんなことはないよ。殿下も、小枝も一緒だって言ってくれたじゃないか? パパの息子は小枝だけだよ」
 俺がそう言っても、まだちょっと不満げで。
 しかしやがて、なにかを思いついたようなペカリとした笑みを浮かべた。
「あ、そうだ。パパが殿下を養子にすればいいんじゃない?」
「でも、そうすると。小枝より年上の殿下は、小枝のお兄ちゃんになるよ?」
「へぇぁぁああ、そ、それは。ぼくの兄の威厳が揺らぎますぅ」
 むむむ、と考え込む小枝が可愛いです。
 それに殿下は腐っても王位継承順位第一位なのです。
 王族ですから、パパの養子になどなりっこないのです。
 奴隷契約を解除してくれたら、奴隷の養子ということにはならないけど。元奴隷の養子も体裁悪そうだね。

 元奴隷の王子妃というのは大丈夫なのだろうか?
 知らんけど。ま、殿下はできないことは言わなそうだから。彼に任せよう。

「小枝は、パパが殿下と結婚したら、いやかぁ?」
 再婚というわけではないけれど。シングルファーザーの再婚的質問を小枝にしてみる。
「言ったでしょ? パパが楽しいのがいいの。あと、パパがぼくのパパならいいの」
「そうか。まぁ、まだ結婚はしないよ。そこまで考えていないというかぁ…」
「まだ、ですかぁ?」
 からかうような様子で、小枝はヘニョリと笑う。
 まだ、というのは。
 いずれ、ということだから。
 聡い小枝には、俺がのらくらしているのがお見通しってことだな。
 苦笑してしまう。

「そうだ。まだまだ結婚しない。殿下とも、出会ってそれほど経っていないし。小枝ともまだまだいっぱい遊びたいしぃ」
 そう言って、ベッドの上で足をあげ。小枝を足の裏に乗っけた。
「わぁぁ、パラシュートぉ、ブーン、ブーン」
 小枝は、両手は俺とつないでいるけど、両足を開いてバランスを取り、俺の上下動に合わせてお空を飛ぶのだった。

「それに。殿下と結婚したあとに、向こうに帰れるようなことになったら? ディオンはどうなっちゃうのかなぁ」
 不眠症の呪いは解けたから。
 俺らがいなくなっても普通に生活するかもしれないね。

 でも。たぶん違うね。そこまで鈍感じゃないよ。

「殿下は泣いちゃうね。パパがいないと寝んねできないんだから」
 パラシュートから俺の腹の上に着陸した小枝は、そのまま俺の顔をのぞき込んで言う。
 ちょっと、殿下が可哀想って顔をしていた。
 そうだね。可哀想だね?

「そうしたら、こちらで暮らすことになるよ、小枝。それでもいい? 処刑におびえながら暮らすことになるかもしれないよ?」
「じゃあ、殿下が王様になったらいいんじゃない? そうしたら、ぼくは処刑されないよ。だって、ジョシュアがぼくの処刑を決めたけど。それにうなずいたのは、今の王様なんだからね。王様の言葉は、この世界では絶対なの。だから殿下が王様になって、小枝を処刑しないって言ってくれたら、それは絶対なのぉ。あら? これすっごく良いんじゃね?」

 処刑回避には頭の回る小枝が、答えを導き出しましたよぉ?

「そうしたら、小枝はこの世界で暮らしてもいいの?」
「いいよ? ぼく、パパと一緒ならどこでもいいの」
 ムフフンな可愛らしい笑顔で、俺をみつめる小枝。
 もうすぐおねむかもしれないね。

「なるほど。では、この話はいずれ殿下にしてみよう…異世界から来たとか、ループとか、聞いたらドン引きかもしれないけどね?」
「それくらいでパパへの愛が揺らぐのならば。殿下は失格ですっ」
「はは、小枝ジャッジは厳しいね」
 小枝を腹の上から降ろして布団を体にかけ。話しながら、小枝のお腹を手でポンポンしていたら。
 目がウトウトになってくる。
「パパぁ。でも、ジョシュアとはこんやくいたしませぇんんんん」
 と言って、寝た。

 明日、ジョシュア王子が北の離宮にやってくるのだけど。それも気にかかっていたのだろうね?
 まだ五歳なんだから、婚約なんか考えなくてもいいのに。
 それに、男の子同士なんだからね。
 まずはお友達になってくださぁい。

     ★★★★★

 小枝を寝かしつけてから、殿下の寝室に行く。
 小枝はジョシュア王子にひとりで寝ているなんて豪語したみたいだけど。
 まぁ、半分半分ですね。俺とレギと交代交代で。
 つまり、実質ひとりで寝んねはできていないんですけどぉ?
 半分、パパ以外の人と寝れるというのは。成長しているよ? 大丈夫。

 ちょっとずつ、できることが増えていけばいいんだよ。

 それで、ディオンですね。
 ファーストキスのやり直しを了承したことで、プロポーズまでどさくさに混ぜ込んでくるなんて。
 俺はからかうつもりが倍返しでノックアウトです。ぐぬぬ。

 寝室に入ると、ディオンは寝台の頭側にクッションをいっぱい並べて、それに背中を寄りかからせて、上半身を起こした状態で本を読んでいたが。
 俺が来たのを認識し、パタリと本を閉じた。

「小枝は寝たか?」
「はい」
 なんか、普通のやり取りなんだけど。
 夫婦の会話みたいで、意識しちゃうなぁ? うぅ。
 俺はいつものようにジャケットを脱いで、近くの椅子に引っ掛けると。
 寝台に上がって、彼と向き合う。
 布団の上に座った状態で、ひざを突き合わせる、みたいな。
 婚約状態になってはじめてふたりきりになるとか。
 ぎゃあ、恥ずかしすぎるぅ。

「それで、あのぉ…奴隷解除はいつしてくれるのでしょうか?」
 そう、それも重要事項というか。
 交換条件じゃないけど。
 小枝のためにも早く底辺脱出したいんです。

 でも殿下は、俺と同じように正座をしつつも。クワッと強い視線で睨んできた。
 ひえっ、なんですかっ?
「おまえは俺が傷心なのがわからぬのか? ガラスのハートがおまえによってバリンバリンの粉々のぐちゃぐちゃに踏み潰されたのだっ」
「なんでですかぁ? 俺は上手にファーストキスできたと思いますけどぉ?」
 騎士も恐れる百戦錬磨の殿下がガラスのハートとか、笑えるぅ。

「ああいうのじゃなくて。もっと、俺主導で、ムーディーでロマンティックな、一生心に残るようにプロポーズと合わせ技で、わざわざ一張羅の騎士服にまで着替えて、最高のシチュエーションを考えたのだっ。なのに…ガッカリだ」
「それは俺のせいじゃなくて小枝のせいだし? 別にディオンが主導でなくてもいいでしょ? 俺だって男なんだからリードされてばかりじゃ嫌なんですっ。駄々をこねられても困ります」
「駄々じゃないっ」

 この頃はなりを潜めていたへの字口が復活した。
 そう思えば、殿下も丸くなりましたね?
 今駄々こねてるけど。

「大樹は、小枝と同じく好きだと言うが。それは恋愛的なやつなのか? それとも俺は小枝と同じく息子の延長線上なのか?」
 不満そうな顔つきで、ディオンは俺を睨み上げてくる。

「えぇ? 伝わってない? 俺、結構ぶっちゃけたはずなんですけど。それに…そうじゃなきゃ、男とキスなんかするわけないでしょ? 俺は一応ノーマルなつもりで育ってきたんですよ。それが、自分からするくらいには…ってことですよ。もうっ、そこらへんは察してくださいっ」
 言ってて、顔がのぼせるくらい熱くなった。
 もう、これ、絶対顔が赤くなってるやつ。

「おまえは恥ずかしがって、すぐに茶化すから。イマイチわからぬというか。先ほども呆気に取られている間に猛ダッシュで逃げやがったしな? というか、おまえから恋愛的な好意を感じたことがないんだ。なんというか、こう…秋波しゅうはのようなものがないのだっ」
「恋愛初心者にわかりやすいアピールを求めないでください」
「私も初心者なのだから。年長の者が上手にリードするべきだ」
「俺が年長だと思っていないくせに、こういうときばかり年下ぶるぅ」
「診察と同じだ。わかりやすく説明しろ」
 なんだか、言い合ってて、不毛だと感じた。
 つまり、どちらも初心者で。
 恋愛経験ゼロってことで。
 だったら、手探りしてやっていくしかないってことだ。

「…俺が面倒だったら、婚約破棄してもいいですよ?」
 一日で婚約破棄は、情けないけどな。
 すると殿下は。眉間にビシリとシワを刻む。
 それ、癖になりますよ?

「愚問だ」
「じゃあ、面倒でも、複雑怪奇でも、頑張ってください」
「あぁ。とりあえず大樹が、俺を息子扱いしていないことがわかって、ホッとしたぞ」
 そりゃあ、ようござんした。

「それより、解呪、奴隷の紋を解除してください」
「む、解呪か」
 そう言って、ディオンは。俺の首輪に指先でチョンと触れる。
 黒い石? 宝石? でできた首輪は、締めつけ感はなく。本当に首飾り的な感覚で。
 しかも体温に馴染んで、そこにあることを忘れがちになる。

 だけど。確実にそこにある物なのだ。
 心を縛るかせであり。恐怖の象徴であり。己の尊厳を奪うもの。
 それが。今解ける。
 そう思うと、高揚感はぬぐえない。

「実は。契約していない」
「…え?」
「その首輪に、奴隷の呪を施していない」
「なんで?」
 単純に疑問だった。
 だってディオンは俺に千二百万もの大金を支払っているのだ。
 もしも俺が逃げ出してしまったら。
 金銭は回収できないし。不眠症のためのスリーパーも失うのだ。
 大損だよ?
 ま、俺は今までそれに気づくことはなく。逃げることもなかったわけだけど。

「最初は、かけていたのだ。誰にも解呪できないよう、独特で繊細な奴隷紋を刻んでいた。ひと目惚れした、神の手のごとき神秘性を持つ清らかなおまえを、俺のものにしたい。その一心で。しかし、気づいてしまった。命令して、おまえを私に従わせたら。おまえの心は永遠に手に入らなくなるのだな、と」
「まぁ、そうですね」
 殿下が横暴な男で。俺の意思を踏みつけにして、したくないことをさせるようなことがあったなら。
 俺は殿下を軽蔑し。バイア怖さに命令に従っても、心は開かなかっただろう。

 今のようには。

「だから。おまえがスリーパーをかけて、俺を眠らせてくれると確信が得られたときに。解呪して。小枝と同じ隷属拒否の魔法もかけておいた」
「えっ? それって、結構前の方では? いつの間に?」
「戦場から王都へ向かう道中だな。俺は大体おまえより先に起きるからな。そのときにだ」
 ディオンのその言葉に、俺は拍子抜けした。
 口が開いてふさがらないってやつだ。

「それ、早く言ってくださいよぉ」
「おまえが俺を慕ってくれるようになるまでは。怖くて。言えなかった。今でも怖い。おまえが俺の手元から飛び立って、女神フォスティーヌの元へ行ってしまうのではないかと」
 存外真面目な顔でディオンが言うので。
 ちょっと笑ってしまった。

「いえ、俺は普通の人間で。女神と面識はありませんから」
「おまえは普通ではない」
 今、それ言う?
 まぁ、仕方ないか。俺は出自のわからない、得体のしれない神の手だからな。

「じゃあ、言います。女神の采配であなたを助けるためにやってきました。あなたが幸せな一生を送れるように、俺はあなたのそばにいます。おっけー?」
 女神のお墨付きなら安心するかと思いきや。
「そう言われると、なにやらうさん臭いが」
 じゃあ、どうしろと?
 という目で見やると。

「愛してる、大樹」

 手を握られて。そっと引かれた。
 彼の腕の中に体を抱き寄せられて。

 顔を寄せるディオンに。俺は身を任せた。

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