【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~

北川晶

文字の大きさ
上 下
78 / 174

54 はぁ? 王子のせいでしょっ

しおりを挟む
     ◆はぁ? 王子のせいでしょっ

 今日の出来事でカギを握るジョシュア王子が、お休みになられたようで。
 俺ら四人は留置所で一夜を過ごすのを覚悟していたが。
 お昼すぎになって、留置所の石の床をパタパタと歩く音が響いた。

 現れたのは、ジョシュア王子とマリアンヌ様、そしてその護衛騎士だった。

「コエダ、なんでこんなところに入っているのだっ?」
 王子の開口一番に。小枝はぽわぽわの髪を逆立てて怒った。
「はぁ? 王子のせいでしょっ。なんも説明しないで、ママに泣きついて。あげくに今まで寝ていたそうじゃないですかぁぁ?? どゆことっ??」
 小枝の怒り心頭に。気持ちはわかるけど一応王子様だからね、落ち着いてね、とは思う。
 王子を怒らせたら、さらにここから出られなくなっちゃうよぉ?

「それは、事情が…」
 王子は眉尻を下げて、手をモジモジさせている。
 それに小枝は。腰に手を当てて、鉄格子越しに威嚇のポーズだ。

「どんな事情ですかっ? ぼくをここにぶち込むのにふさわしい理由なんてあるんですかっ??」
「だって、コエダの前で無様に吐いちゃって…カッコ悪かったから」
 誤飲したケーキを吐き出したことを言っているようだけど。
 命に関わるので。カッコつけてる場合じゃない。
 と、俺は苦笑する。

「コエダに、汚いと思われたら。恥ずかしくて。情けなくて。喉が詰まって苦しかったのも、びっくりしちゃって。母上が駆け寄ってきたから、そのままドレスで涙とよだれを拭き取ろうと思ってぇ」
「なんですってっ??」
 それは初耳だったのか。マリアンヌ様が慌ててドレスのスカートを確認して。
 落胆する。拭かれていたのですね。

「そうしたら、別室に連れて行かれて。俺は顔を上げられぬまま寝落ちしてしまった、というかぁ…目が覚めたら、なんでかこんなことになっていて。すまなかった、コエダ。コエダはなにも悪くない。俺…私が窒息しそうなところをコエダが救ってくれたんだって。ちゃんと母上に伝えたからな?」
 王子は一生懸命説明して、小枝に謝るが。
 小枝はまだプンプンで。

「王子様がカッコ悪いと、ぼくは牢にぶち込まれるんですかっ? そんな人と遊べませんからぁ」
 経緯などどうでもいいとばかりに小枝が言うと。
 王子はガーンという効果音がなりそうなほどのショック顔をした。

「コエダちゃん、私も悪かったわぁ。泣くジョシュアを優先していたら、知らない間にこんなことになっていて」
 マリアンヌ様も謝ったけど。俺も殿下もオコですよ。
きさきであるそなたが、国の宝である王子を優先するのは大事だが。それで人様の子供を窮地に追いやるのはよろしくない。それで、誤解が解けたのならすみやかに我々をここから出してもらいたいのだが? マリアンヌ」
 殿下の言葉で。マリアンヌ様はうなずき。
 当事者の了解が取れたことで、牢番がようやく扉を開けてくれたのだった。

 牢で一夜を明かすのは、なんとかまぬがれました。

 留置所から出て、日のあたる屋外はとても明るく感じた。
 と同時に。ホッとする。
 やはり牢というのは一種独特の雰囲気があるね?
 はじめての経験だったから興味深い感じはあったけど、二度と御免でもある。

「コエダちゃん、ジョシュアを助けてくれて、ありがとう。コエダちゃんはジョシュアの命の恩人よ」
 そこでマリアンヌ様にお礼を言われたが。
 小枝はウネウネして、俺の背中に隠れてしまうのだった。
 無理もない。前世で処刑を経験している小枝にとっては。投獄はとっても不快な出来事だっただろう。

「すみません、マリアンヌ様。小枝はとてもショックを受けたようで」
「ぼく、もうジョシュア王子と遊びません」
 俺がマリアンヌ様に頭を下げると。小枝がきっぱりと言うのだった。

 でも。このような感じでわだかまりになるのは良くないと思って。
 俺は小枝の前で膝をつき。しっかりと目を合わせて言うのだ。
「小枝の気持ちはわかるよ? とっても怖かったよね。だけど、ジョシュア王子がちゃんと証言してくれたから、小枝が悪いことしていないんだって、みんなに伝わったよ。無実になったんだから、もうなんにも怖くない」
 だけど小枝は真ん丸な瞳をウルウルさせるのだった。
 あぁ、可哀想に。
 だがやがて、小枝は口を開いた。

「…ジョシュア王子。パパを助けてくれて、ありがとうございます」
 小枝の言葉が王子はよくわからなかったようで。小首を傾げた。
「わ、私は、コエダを助けようと思って…」
 牢に入れられたのは小枝だから、普通はそう思うところだ。
 王子も小枝を助けるために、目が覚めて慌てて駆けつけたんだろうね。
 でも小枝は。自分で言うのもなんだが、パパが大好きなのだ。

「ぼくが処刑されたら、パパも一緒に死ぬって言ったの。でもムジツになって、パパが死ななくてすんだから。お礼は言います。でも、王子のそばにいたら。ぼくはいつか処刑される。また、処刑されるもん」
「そんなことない。俺は絶対にコエダを守るし。コエダが俺のそばにいることで、絶対に処刑なんかさせない」
 すかさず、王子がそう言ったけど。
 小枝はいつもの可愛らしい顔に、鼻筋を立てて反論するのだった。
 あぁ、可愛い顔がぁ…。

「そんなこと言っても、ぜぇっったいに処刑になるんだもん。庶民のぼくはむしけらのごとくすぐに処刑されるんだもん。王様がそうしろって言ったら、そうなるんだもん。ぼく、知ってるぅ」
「王様は俺の父上なんだから、俺がしないでって言うことをすることはない。それで俺は、コエダを処刑にしろなんて絶対に言わないから。コエダは処刑なんかされないんだっ。あと、あと…庶民がダメなら。俺と、こっ、こここ、婚約すればいいだろ?」
 ぎゃあ、話の流れに合わせてうまい感じに婚約話を王子がねじこんできたぁぁぁ。
 俺も殿下も、頬を引きつらせます。
 しかし小枝は全く動じないのだった。

「婚約者なんてなったら、マジで処刑一直線でしょうがっ。ちょっと可愛い女の子が出てきて王子が見初みそめたら、すぐに断罪されて処刑なんだからね。ぼくは当て馬で悪役で、命は風前の灯火ともしびフラグですからぁ」
「なんだ、それは? 意味がわからないぞ、コエダ」

 当て馬とか風前の灯火ワードは、六歳の王子にはわからないかぁぁ?

 目が点の王子に、小枝はれた様子で地団太を踏むのだった。
「んんっ、とにかく、王子はぼくを処刑する決まりなのぉ」
「しないもん。そんなこと、しないもぉん。じゃあ、じゃあ兄上がコエダを養子にしてくださいっ。そうしたらコエダは庶民じゃなくて王族になるんだからねぇ? 王族になったらそんな簡単に処刑されないんだからなっ。なんでコエダは兄上の養子じゃないのですかぁぁ?」
 火の粉が殿下に飛んできました。
 子供のやり取りを黙って聞いていた大人チームは、ギョギョです。
 このワチャワチャな状態で話を振られることは避けたいっ。

「ふーむ、小枝には実の父親がいるからなぁ。その小枝のパパが俺と結婚してくれたら、小枝は俺の子供になるけどなぁ?」
「じゃぁあ、結婚して。コエダのパパと結婚してぇ。今すぐしてぇ」
 殿下はあろうことか、火の粉を俺の方に払ってきた。
 ひどいです。この修羅場をいったいどうしたらいいというのですか?
 という顔で殿下を睨んだら。
 彼はニヤリと笑った。確信犯っ。

「あの、ジョシュア王子。まずは小枝と仲直りしましょうか? 小枝も、王子がここまで言っているのだから。もう一回頑張ってみよう? ね?」
 小枝は桃色の小さな唇をとがらせるが。
 ここでごねられたら話の収拾がつかず、王子の結婚してぇコールが続くこと必至。
 なので俺は、小枝の耳元で禁断のご褒美攻撃をこしょこしょと囁く。
 すると背筋シャキーンとなった。

「わかりました。今回はなかったことにいたしますが。二度はないですからねぇぇ、二度はぁぁぁ!!」
 小枝はビシリと指を突きつけ。
 そうしてジョシュア王子と、なぜだかマリアンヌ様も、小枝にははぁと頭を下げるのだった。

 王族に頭を下げさせる小枝、最強説。

しおりを挟む
感想 308

あなたにおすすめの小説

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

アイドルですがピュアな恋をしています。

雪 いつき
BL
人気アイドルユニットに所属する見た目はクールな隼音(しゅん)は、たまたま入ったケーキ屋のパティシエ、花楓(かえで)に恋をしてしまった。 気のせいかも、と通い続けること数ヶ月。やはりこれは恋だった。 見た目はクール、中身はフレンドリーな隼音は、持ち前の緩さで花楓との距離を縮めていく。じわりじわりと周囲を巻き込みながら。 二十歳イケメンアイドル×年上パティシエのピュアな恋のお話。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

処理中です...