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51 石造りの留置所
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◆石造りの留置所
小枝に付き添ってジョシュア王子のところにいるはずのレギが、騎士団の訓練場に現れて。
小枝が牢に入れられたなんて言うから。
俺は目玉が飛び出そうなくらい驚いて。
大事な試合の最中だというのにディオンを思いっきり呼び捨てで呼んでしまったのだっ。
うちの息子を、どうしてくれてんだっ。
いや、殿下のせいではないけど。
心配し過ぎて視界がぼやけた。
彼は試合を中断して、俺たちのところに駆け寄ってきてくれた。
小枝の話をすると、殿下はすぐさま馬車に乗り込んで、御者に留置所へ向かう指示を出した。
それからレギを問い質す。
つか、留置所という響きが、もう嫌なんですけどっ。
「小枝が捕まったって、いったいなにがあったのだ? レギ」
「すみません、私にも詳細がわからなくて。少し目を離して執事と話をしていた隙に。コエダが王子に馬乗りになっていて…侍女が、コエダが王子を殺そうとしたって騒いだのです。そして護衛の騎士がコエダを連れて行ってしまって」
「小枝がそんな乱暴なことをするわけがない」
俺はすぐさま反論するが。
「えぇ、私もそう思いますが。咳き込む王子にコエダがまたがる体勢になっていたのは事実です。あの…」
レギはそう言って。青い顔をさらに青くさせていく。
「騎士に連れて行かれるコエダに、私は付き添おうとしたのですが。伸ばした手を払われてしまって。なにやら、私にもおびえているみたいに見えました。コエダはパパを連れて来てって。だから、とにかくタイジュを呼んでこようと思って…」
レギは、礼儀作法に厳しいけれど。なんだかんだで小枝には優しくて。
そんなレギのことを小枝も慕っているように見受けられた。
だから、手を跳ねのけられたのが、レギはショックだったのだろう。
「コエダより先に王子に駆け寄ったのがいけなかったのかもしれません。倒れている王子を思わず助け起こそうとして…コエダを信じてあげなかったみたいに受け取られてしまったのでしょうか?」
「レギ様の行動は間違っていません。たぶん騎士に連行されて、小枝もパニックしちゃったのでしょう。気にしないでください」
がっくり肩を落として、レギは意気消沈です。
しかし俺も、これ以上は慰められない。
小枝が今どうなっているのか。それがわからないと。なんとも言えないというか。
それに王子に馬乗りになっていたとか。
あの優しくて温厚な子が、なにがどうなったらそうなるのか、全く想像がつかない。
とにかく、小枝の無事な姿を見たかった。
「殿下、小枝が王子を殺そうとするなんて、ありえません。でも、小枝は処刑されてしまうのですか? 子供のじゃれ合いかもしれないでしょ? 遊んでいるうちに、エキサイトすることは子供にはよくあります」
「落ち着け、大樹。いきなり処刑などはありえない。それに、なにが起きたのか詳しいことを聞かないことには、なんとも言えないが。まずは小枝の無事を確かめよう」
そうして馬車は、騎士団本部が所有する、運営施設に併設された留置所の前へ到着した。
王宮の敷地内で悪さをした者を一時的に拘束しておく場所だ。
小枝は絶対に悪さなんてしないけどっ。
石造りの留置所は、灰色で、いかにも陰鬱な感じだ。
なんだかジメジメしていて、独特なにおいがして。ブーツの踵がコツコツと耳障りな音を立てる。
他の人が、今はいないことが幸いだ。荒くれ者が騒いだりしていたら、小枝が泣いちゃうだろ?
つか、もうすでにおどろおどろしくて、恐ろしいところだ。
こんなところに、小枝がひとりでいるなんて。あまりにも可哀想で、俺の方こそもう泣きそうだ。
そして留置施設を管理する騎士に案内されて、見た光景は。
鉄格子の向こうで、膝を抱えてうつむいている小枝の姿だった。
いつもふわふわしている髪がしょぼんとなって。
体育座りをして小さな体を小さく小さく丸めて。
そして御鈴のチーンという音が聞こえそうなほどの消沈ぶり。
「小枝っ」
声をかけると、小枝は俺に気づいて。涙目で鉄格子に駆け寄ってきた。
「パパぁ、ぼくは三千オーベルに目がくらんで王子の遊び相手なんかしたばっかりに、処刑に一歩足を大きく踏み出してしまいましたぁ。やはりぃ、遊び相手はダメだった模様ですぅ」
鉄格子を小さな手で掴む小枝は、大粒の涙をぼろぼろこぼして、俺に訴えた。
目の前で泣いている息子を抱き締められないなんて。
こんなことって、ない。
「ここを開けてください」
案内の騎士に言うが、彼は首を振る。
「まだ放免にはできません」
「俺がこの中に入るんだよっ。こんな小さな子供をひとりで牢にいさせられないでしょうがっ」
俺の剣幕に気圧されて、騎士は牢の扉を開けた。
小さな扉をくぐって、俺は小枝をギュッと抱き締める。
あぁ、可哀想に。またこんな怖い目に合わせてしまった。
殿下も中に入ろうとしたが。
さすがに王族を牢に入れたら首が飛ぶから勘弁してくれと、騎士に止められる。
ディオンは渋い顔をしたが。思いとどまったようだ。
「大樹、ジョシュアの方に詳細を聞きに行こうと思う。その前に、小枝になにがあったのか聞きたいのだ」
地べたに座る俺にしがみついて、小枝は胸に顔をうずめていたが。
殿下の声に顔を上げ。
話をしてくれるようだ。
「いったいなにがあったんだ? 小枝」
「パパ、ぼく、なにも悪いことしていないよ? あのね…」
小枝はゆっくり、ジョシュアとなにがあったのか、話してくれたのだった。
小枝に付き添ってジョシュア王子のところにいるはずのレギが、騎士団の訓練場に現れて。
小枝が牢に入れられたなんて言うから。
俺は目玉が飛び出そうなくらい驚いて。
大事な試合の最中だというのにディオンを思いっきり呼び捨てで呼んでしまったのだっ。
うちの息子を、どうしてくれてんだっ。
いや、殿下のせいではないけど。
心配し過ぎて視界がぼやけた。
彼は試合を中断して、俺たちのところに駆け寄ってきてくれた。
小枝の話をすると、殿下はすぐさま馬車に乗り込んで、御者に留置所へ向かう指示を出した。
それからレギを問い質す。
つか、留置所という響きが、もう嫌なんですけどっ。
「小枝が捕まったって、いったいなにがあったのだ? レギ」
「すみません、私にも詳細がわからなくて。少し目を離して執事と話をしていた隙に。コエダが王子に馬乗りになっていて…侍女が、コエダが王子を殺そうとしたって騒いだのです。そして護衛の騎士がコエダを連れて行ってしまって」
「小枝がそんな乱暴なことをするわけがない」
俺はすぐさま反論するが。
「えぇ、私もそう思いますが。咳き込む王子にコエダがまたがる体勢になっていたのは事実です。あの…」
レギはそう言って。青い顔をさらに青くさせていく。
「騎士に連れて行かれるコエダに、私は付き添おうとしたのですが。伸ばした手を払われてしまって。なにやら、私にもおびえているみたいに見えました。コエダはパパを連れて来てって。だから、とにかくタイジュを呼んでこようと思って…」
レギは、礼儀作法に厳しいけれど。なんだかんだで小枝には優しくて。
そんなレギのことを小枝も慕っているように見受けられた。
だから、手を跳ねのけられたのが、レギはショックだったのだろう。
「コエダより先に王子に駆け寄ったのがいけなかったのかもしれません。倒れている王子を思わず助け起こそうとして…コエダを信じてあげなかったみたいに受け取られてしまったのでしょうか?」
「レギ様の行動は間違っていません。たぶん騎士に連行されて、小枝もパニックしちゃったのでしょう。気にしないでください」
がっくり肩を落として、レギは意気消沈です。
しかし俺も、これ以上は慰められない。
小枝が今どうなっているのか。それがわからないと。なんとも言えないというか。
それに王子に馬乗りになっていたとか。
あの優しくて温厚な子が、なにがどうなったらそうなるのか、全く想像がつかない。
とにかく、小枝の無事な姿を見たかった。
「殿下、小枝が王子を殺そうとするなんて、ありえません。でも、小枝は処刑されてしまうのですか? 子供のじゃれ合いかもしれないでしょ? 遊んでいるうちに、エキサイトすることは子供にはよくあります」
「落ち着け、大樹。いきなり処刑などはありえない。それに、なにが起きたのか詳しいことを聞かないことには、なんとも言えないが。まずは小枝の無事を確かめよう」
そうして馬車は、騎士団本部が所有する、運営施設に併設された留置所の前へ到着した。
王宮の敷地内で悪さをした者を一時的に拘束しておく場所だ。
小枝は絶対に悪さなんてしないけどっ。
石造りの留置所は、灰色で、いかにも陰鬱な感じだ。
なんだかジメジメしていて、独特なにおいがして。ブーツの踵がコツコツと耳障りな音を立てる。
他の人が、今はいないことが幸いだ。荒くれ者が騒いだりしていたら、小枝が泣いちゃうだろ?
つか、もうすでにおどろおどろしくて、恐ろしいところだ。
こんなところに、小枝がひとりでいるなんて。あまりにも可哀想で、俺の方こそもう泣きそうだ。
そして留置施設を管理する騎士に案内されて、見た光景は。
鉄格子の向こうで、膝を抱えてうつむいている小枝の姿だった。
いつもふわふわしている髪がしょぼんとなって。
体育座りをして小さな体を小さく小さく丸めて。
そして御鈴のチーンという音が聞こえそうなほどの消沈ぶり。
「小枝っ」
声をかけると、小枝は俺に気づいて。涙目で鉄格子に駆け寄ってきた。
「パパぁ、ぼくは三千オーベルに目がくらんで王子の遊び相手なんかしたばっかりに、処刑に一歩足を大きく踏み出してしまいましたぁ。やはりぃ、遊び相手はダメだった模様ですぅ」
鉄格子を小さな手で掴む小枝は、大粒の涙をぼろぼろこぼして、俺に訴えた。
目の前で泣いている息子を抱き締められないなんて。
こんなことって、ない。
「ここを開けてください」
案内の騎士に言うが、彼は首を振る。
「まだ放免にはできません」
「俺がこの中に入るんだよっ。こんな小さな子供をひとりで牢にいさせられないでしょうがっ」
俺の剣幕に気圧されて、騎士は牢の扉を開けた。
小さな扉をくぐって、俺は小枝をギュッと抱き締める。
あぁ、可哀想に。またこんな怖い目に合わせてしまった。
殿下も中に入ろうとしたが。
さすがに王族を牢に入れたら首が飛ぶから勘弁してくれと、騎士に止められる。
ディオンは渋い顔をしたが。思いとどまったようだ。
「大樹、ジョシュアの方に詳細を聞きに行こうと思う。その前に、小枝になにがあったのか聞きたいのだ」
地べたに座る俺にしがみついて、小枝は胸に顔をうずめていたが。
殿下の声に顔を上げ。
話をしてくれるようだ。
「いったいなにがあったんだ? 小枝」
「パパ、ぼく、なにも悪いことしていないよ? あのね…」
小枝はゆっくり、ジョシュアとなにがあったのか、話してくれたのだった。
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