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47 そして営業スマイルっ (小枝)

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     ◆そして営業スマイルっ (小枝)

 ぼくの『ジョシュア王子がぼくに興味を失ってフェードアウト大作戦』が失敗に終わり。しょぼりんぬではありましたが。
 お昼を少し過ぎたくらいになって、今日の顔合わせは終了になりました。
 やったぁ。無事に三千オーベル、ゲットですっ。
 でもまた来週、ジョシュアと遊ばなきゃならないんだって。
 王子はぼくのこと、気に入っているみたい。
 なんでぇ?
 ぼく、ニコニコ笑いながら王子の話にうんうんうなずいていただけなのに。
 ニコニコ笑いながらフェードアウト狙っていたはずなのにぃ??

「今度はお勉強をしようか? 父上がめずらしい絵本を買ってくれたから、コエダと一緒に読みたいな」
 と、別れ際に王子に言われた。
 ぼくはパパの手をキュッと握りしめる。
 はわわ。次回予告のおしらせです。
 でも、王子のしたいことをするしかないんでしょうね?
 これはお仕事ですからね。三千オーベルですから。

「めずらしい絵本、楽しみですね」
 絵本で勉強になるのかなぁと思いつつ。

 そして営業スマイルっ。

 王子は再び、発作を起こすのだった。
 大丈夫? 毒に当たった?

 玄関口まで見送ってくれたジョシュア王子に会釈して。
 パパと一緒に馬車に乗り込んだ。
 それで、今日のぼくのお仕事はオールクリアです。ふぃー。

「小枝、大丈夫? 疲れちゃった?」
 ぼくは隣に座るパパに体を寄りかからせた。
 そんなぼくをパパは心配してくれるけれど。
 いいえ、これはこうしてパパを吸収しているのです。
 戦場ではコアラ抱っこをして、パパエキスをずっとチュウチュウしていましたが。
 そういえばこの頃コアラ抱っこしていませんしねぇ。
 今日は長くパパから離れていたから、完全にパパ不足におちいってしまいました。

 けれど安心してくださいっ。パパエキスを吸って、小枝は生き返りました。

「大丈夫ぅ。だけど緊張したし、疲れたし、お腹空いたぁ」
 だけど、馬車が動き出して北の館に帰るのだと思うと。ホッとして気が抜けます。
 なんだかパパにグデグデと甘えたい気分なのだ。むふん。

「お腹空いたぁ? なんで? 美味しそうなお菓子がいっぱいあっただろう?」
 パパは優しいお顔でぼくを覗き込んで。不思議そうにたずねるのだった。
「うーん、だってぇ、パパのドーナツの方が美味しいもん。だからあまり食べなかったの」
「そういうこと言わないのっ。みんな一生懸命料理を作っているんだよ? お菓子を作ってくれた、そのことに感謝もしないといけないよ?」
 そぉかぁ。パパはいつも一生懸命ぼくのためにご飯を作ってくれるもんね。
 ぼく、パパは魔法を使っているみたいに美味しい料理をあっという間に作ってくれるから。つい、当たり前みたいに思っちゃうけど。
 戦場とかでは、カッテーパンしか食べられなかったし。
 食事が当たり前に出てくるのは当たり前のことじゃないんだよね。

「うん。パパにはいつも感謝してるぅ」
「パパだけじゃないよ? 料理を作ってくれる人は神様だよ?」
「でも、毒入ってたしぃ。ぼくの神様はパパだけでいいの」
 そう言ったら。パパは嬉しいけど困ったみたいな顔で、苦笑した。
 毒入りをありがたがれとは言えないって顔だね、これは。

「まぁ、小枝には難しい話だったかもな。おいおいわかってくれればいいよ。それで、ジョシュア王子のことはどう思った? 仲良くなれそう?」
 パパはおだやかな声でたずねてくれるけど。
 仲良くなれるわけがないのです。
 彼はぼくをいずれ殺すかもしれない要注意人物なので。
 まぁ、そこら辺のことは、パパは知っているから。
 ふぅん、と鼻でため息をつけば、ぼくの気持ちを理解してくれます。

「なにがそんなに嫌なのだ?」
 けれど、殿下やレギは、そういうの知らないから。
 ぼくの気持ちを聞いてきます。
 でも、前世でジョシュアがぼくを処刑した、なんてことは言えないでしょ。
 言っても、信じてもらえないもん。
 ぼくを信じて理解してくれるのはパパだけだもん。
 だから、それっぽいことを言って、誤魔化すしかないのだぁ。

「王子様だから? 王子様なんて恐れ多いっていうか?」
 ぼくは庶民だから王子様とは気が合いませぇん、というニュアンスで言ったのだがぁ。
「俺も王子だが?」
 殿下が、ジト目でそう言った。
「へぇあ?」
「俺も、エルアンリも、王子だが? 小枝は一度も恐れ入っていないような気がするがぁ?」
 ガガーンと、今日二度目のカミナリがぼくの背景に落ちましたっ。
 いえ、イメージですよ?

 つか。で、殿下は、王子?
 殿下と王子は同じものなの?
 つか、エルアンリ王子は、王子だけど。なんか患者さんというイメージで。
 患者さんはみんな平等なので?
 地位とか関係なく接するのでぇ? あわあわ。

 そうしたらパパが苦笑して、殿下に言った。
「小枝は殿下を王子様だとは思っていないのですよ、きっと。小枝の中の王子様像は絵本に描かれている、白馬に乗った細身で綺麗で十代の若い王子様ですから」

 パパ、その言い方では、ぶあつくていかつくておじさんの殿下へのディスりがはなはだしいと思われますっ。
 ぼくはオロオロです。
 パパの言葉にも、殿下が王子だということにもっ。

「確かに俺は細くも若くもないが? 馬に乗った綺麗な王子様だろがっ!」
「綺麗な王子様は子供相手にすごまないものです」
 なんかパパと殿下とレギが和気あいあいでお話していますけど。

 ちがうのぉ。殿下が王子なのはギリ知っていますよぉ。ギリ。
 でも殿下は、前世で死んじゃっていたでしょう?
 だから絶対にぼくを処刑に追いやらないじゃないですかぁ。
 だから王子でも怖くなかったんです。
 知らなかったわけじゃないんだからねぇ、ギリ。

 でもそこまで考えて。
 ぼくは前世の記憶に、バカみたいに振り回されているってことを自覚しました。
 こんなにビクビクしていたら、いつまでたってもパパと幸せになんかなれないよぉ。

 なのでぼくは、背筋を伸ばして宣言します。
「わかりましたっ」
「なにがわかったのだ?」
 突然の宣言に、殿下は目が点です。

「ぼくはジョシュア王子を王子様とは思わないようにします。殿下と同じなら、ダメダメな殿下はぼくの弟も同様なので。殿下より下のジョシュア王子は、さらにぼくの弟みたいなものでしょ? ぼくが長男、殿下は次男、ジョシュア王子は三男。弟なら恐れ多くはありません。ぼくはお兄ちゃんになりますっ」
 決まりました。
 そうです。
 弟を怖がる兄などいません。
 ぼくはもうジョシュアなんかにビクビクしないんだからねぇ。

「小枝よ、俺のなにがそんなにダメダメなのだ?」
 殿下は変わらぬジト目でぼくを見やり、頬をヒクつかせている。
 えぇ? ダメなところはいっぱいありますけどぉ?

「それはねぇ、おはしの持ち方がダメでね、ハンバーグ雪崩なだれも唐揚げタワーも上から取らないからすぐにくずれてダメだしね。パパと一緒じゃないと眠れない赤ちゃんだからダメなのぉ」
 言ったら、殿下はぐぅの音も出ない感じで、奥歯をギリギリ噛んだ。
 でも図星だから、なんも言えねぇもんねぇ?

 お箸はね、パパが料理を作るときにグレイに作ってもらったんだけど。
 ご飯食べる用にも作ってもらってね。
 ぼくもおかずを食べるときにお箸で食べているんだけど。
 それはなんだって、また殿下が言い出してね?
 パパはお料理作るの忙しいから、ぼくが殿下にお箸の持ち方を教えてあげているの。
 でも殿下はぶきっちょだから。お箸はまだまだですねぇ。

「くっ、まぁいい。それでジョシュアと遊ぶ気になってくれるなら…しばらくはあいつに付き合ってやってくれ、小枝お兄ちゃん」
 眉間の深いしわを見るに、殿下はくやしそうなお顔です。
 でも弟扱いされたくなかったら、早くひとりで寝んねしてくださぁい。
 そしてパパをぼくに返してくださぁい。

「いいですけど。でも一回につき三千オーベルはいただきますよ。ビジネスお兄ちゃんなので」
 そう言ったら、殿下もレギも肩をすくめるのだった。
 ここは譲れませんよ。
 報酬とお兄ちゃんとお友達は別物ですからね。

 まぁ、そんな感じで。ぼくとジョシュア王子の第一回処刑回避大作戦は終わったのだった。
 はぁ。王子、早くぼくに飽きてくれないかなぁ?

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