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45 貴方マジなのぉ? ウケるぅ
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◆貴方マジなのぉ? ウケるぅ
小枝とジョシュア王子の顔合わせの日がやってきまして。王宮にいつものメンツで来ています。
馬車の車窓から見える王宮の外観は、横広で窓がいっぱいいっぱいある白亜の宮殿なのだった。
前の世界で、俺は海外旅行とか行っている暇もなくて。
だからこういう洋風で綺麗な建物を実際に見たのがはじめてだったから。その迫力に、ちょっと感動した。
あ、修学旅行でキラキラの金閣寺は見たけど。
アレはちょっと派手過ぎて笑っちゃった。
で、ジョシュア王子のいる後宮は、王宮殿の裏側の少し離れた場所にある。
ディオンに聞くところによると、同じ建物内に王妃や側妃が暮らしているが、区画が離れている感じらしい。
日本の大奥みたいなイメージかな?
廊下でつながっているけど、住まう場所が離れているみたいな。
王様が好きな姫の元へ通うパターンだね。
でも、区画が分かれているとはいえ、侍女や使用人はあちこち行くので。出入りの制限が難しいとかなんとか。
毒の入れ放題な環境? それはいけませんね。
でも、大奥といっても、後宮は女性の園ではなく。
執事や庭師、騎士など、男性の働き手もいっぱい入っていて。
来客なども制限されていないようです。
だから男の俺らも、後宮に入ってジョシュアに会えるわけだね。
来客は、生活スペースではなく、玄関先にあるサロンで相対するのが基本らしい。
やはり陛下の奥様に男性客が対面するには、それなりのルールはあるんだな。
サロンも、妃の館に各々配置されていて。
たとえば、俺らがジョシュア王子と会っているところに王妃が顔を出す…みたいなことはないんだって。区画が違うから。
それは安心だね。だって、会うの怖いじゃん、第三王子派。
そして、ジョシュア王子の住む区画の建物に入っていき。
サロンでみなさまが挨拶と自己紹介をして…。
小枝はただいま王子とご対面中です。
あぁ、大丈夫かなぁ? 怖くて泣き出したりしないかなぁ。パパは心配です。
しかしながら、こちらはこちらで。ママ友の御挨拶をしなければなりません。
ジョシュア王子のママであるマリアンヌ様は。赤いドレスに金の髪が映える、とてもゴージャスなお方です。
日本だったら、公園デビューでこの格好は怒られちゃいそうだけど。
ここは異世界で、彼女は王様の奥様なので。これでいいのでしょう。
サロンの真ん中にある丸い小さなテーブルには、小枝とジョシュア王子が向かい合わせで座っていて。
俺たちがいるこちらは、来客をもてなす用のソファセット。
執事さんが紅茶を入れてくれているところです。
小枝の父として、ソファにディオンと並んで座らされた俺は、緊張の面持ちで再び挨拶した。
「改めまして、私は殿下の従者をしております、御厨大樹と申します。ジョシュアママ、これから小枝をよろしくお願いします」
処刑だけはなにとぞご勘弁をぉ、という気持ちで。ガチガチにこわばっていたから。
「ジョシュアママ?」
と聞かれて、はあぁぁぁああ、となった。
しまったぁ。公園デビューのときに覚えた挨拶が思わず出ちゃった。
「すみません、つい庶民的な言い方をしてしまい。申し訳ありませんでしたマリアンヌ様」
頭を下げると、マリアンヌ様はうふふと笑った。
気分を害してはいない模様。
「いいわよ? これが庶民の親がする挨拶なわけなのね? こういうお話は新鮮で、こちらもお勉強になりますわ。こちらこそ、うちのジョシュアをお願いしますね、コエダパパ」
親同士のウマが合わないと、子供の友達関係にも影響するからな。
挨拶を間違えてしまったけど、悪い雰囲気にならなくて良かったぁ。
あれ、でも。小枝と王子を引き離すのには、嫌われた方がいいのかな?
いやいや、どんな人にでも。嫌われたら悲しくなっちゃうよ。
いい雰囲気を与えつつもフェードアウト、これを狙おう。よし。
「それにしてもタイジュ。貴方、とてもお可愛らしい方ね? 私の周りには、ディオンや夫のようながっしりしたむさくるしいタイプの男性しかいないからぁ」
これは、ひょろい俺の貧弱ボディをからかわれているのでしょうね?
そう思って苦笑をする。それしかない。
「こら、粉かけてんじゃねぇ。大樹は俺のだ」
まぁた、殿下がそういうことを言い出したよ。
この頃、会う人みんなにこうして言って回っているんだから。
俺に振られたら、どうするんでしょうね? この人。
それとも、王子様を振るなんてあり得ないって空気に持って行こうとしているのだろうか?
どちらにしても恥ずかしいからやめていただきたいです。
そうしたらマリアンヌ様が扇子を広げて…。
これ、扇子でいいのかな。洋風の羽がついているような扇のやつ。昔、クラブよりもさらに前のディスコで流行ったでっかい扇子。古っ。あれ。
扇子で口元を隠して、ホホホと笑う。
「あらまぁ、私の魅力もわからないお子ちゃまの貴方が、なにを言っているのかしらぁ?」
「おまえの魅力なんか、知るわけねぇ」
「その言い方、なぁにぃ? 一応私、貴方の義母なのよ? 母、ママ」
「三歳上の母など、御免被る」
このふたりのやり取りで、とても親密で仲が良いことをうかがえる。
一時は婚約の話もあったというふたりだが、その点のわだかまりはなさそうに見えた。
それに威厳あるディオンを、マリアンヌ様は子供に相対するようにからかっていて。
それはなんだか小枝と殿下のやり取りのようにも見えて。
思わず笑ってしまった。
「まるで殿下を弟のように扱うのですね? 騎士の長も形無しだ」
俺が笑うと、殿下も目を細めてこちらを見やって…。
「あらぁ、貴方マジなのぉ? ウケるぅ」
その殿下の表情を見て、マリアンヌ様が言った。
一瞬、俺は目を丸くするけど。
いや、これはきっと。自動翻訳の、俺の語彙が少ないからゆえの言葉で。
きっとこの世界的には、やんごとない感じで言っているに違いない。
そういうことにしておこう。
「もちろん本気だ。大樹は私が出会った誰よりも美しい」
「殿下。審美眼を疑われますから、そういうことは言わないでください」
こっそりディオンをたしなめると。
マリアンヌ様は赤い口紅の印象的な唇を柔らかく笑ませた。
「まぁ、貴方が見初めるのもわからなくはないわ。この見事な黒髪に黒い瞳は、女神フォスティーヌのごときですものね。信心深い王家の者なら誰もが目を奪われるはずよ」
「それだけではない。大樹は外見のみならず中身もとても優しく清らかな者なのだ」
もう、やめてぇ。
ふたりとも、褒め殺しの域に入っているよぉ。
ただならぬ空気感に、俺は褒められて嬉しいよりも、なんだか血の気が失せる心地です。
ここは横綱級のうっちゃりで、話の方向性を変えてしまいましょう。
「あのぉぉ。マリアンヌ様は先ほど小枝をシャルフィと呼びましたが。もしかして、第一王子の?」
王族の話に割って入るのは恐縮するが、そうたずねる。
するとマリアンヌ様は表情をペカリと明るくして答えた。
「えぇ、そうよ。ディオンから聞いているかしら? 私はシャルフィ王子の元婚約者でね、面識があるのだけど。コエダはどことなくシャルフィの面影があるのよ。薄黄色い髪色とかも、そっくりで…」
「そうかな? マリアンヌやレギやグレイなどもそう言うが。兄王子はもっとデ…」
「ぽっちゃりでございます、殿下っ」
ディオンの話をレギがさえぎった。
礼儀を重んじるレギにしては珍しいね?
しかし、まぁ、うん。わかりました。ぽっちゃりですね。
小枝は細木のごとく、華奢で。俺などはもっと太らせたいと思うのだが。
太った小枝はシャルフィ王子になってしまうのかなぁ。
でも、だったらシャルフィ王子はとても愛らしいお子様だったのだろうな。
小枝に似ているのだから、そうに決まっている。うん。
「マリアンヌ、会ってそうそう小枝の頬を揉み込んでいたが。兄王子にもそうしていたわけではあるまいな?」
「していたに決まっているでしょう。あのほっぺを見て揉まずにはいられないでしょう!」
マリアンヌ様は言い切った。
どんだけ触り心地の良さそうなほっぺだったのでしょう?
小枝にほっぺをマシマシしたら…。うん。エサを頬張るリスのごとき。
確かに揉まずにはいられないかもしれないっ。
「どちらにしても、アレはシャルフィ王子ではなく、小枝だ。間違えるな」
「間違えてはいないけどぉ。可愛いのだものぉ。本当はね、私がシャルフィを産もうかと思ったのよ? 王様の遺伝子で。だけど、ジョシュアは陛下にそっくりで。あぁ、シャルフィは王妃様似だったのねぇって。がっかりしてしまったわ」
「ジョシュアをシャルフィの代わりにしてはいけないだろう?」
「そういうわけじゃないけどぉ。もしもシャルフィが私のお腹を通して出てきてくれたら、今度こそ絶対に長生きさせてあげようって、思ったのよぉ。出てこなかったけど…」
マリアンヌ様は扇子をハタハタさせるけど。その赤い唇が拗ねたみたいにとがっていた。
彼女は俺より年下だから、若いママだ。
ジョシュアを可愛がっていないわけではないだろうが。
がっかり、とか言ってしまうのは。思ったことが口からつるりと出てしまう、どこか大人になりきれていないところがあるからかもしれないな。
あと、シャルフィ王子のことを忘れられないのだろうね?
きっとマリアンヌ様にとって良い思い出なのだろう。
「でもコエダをひと目見て、あらぁ、シャルフィったら、こっちから来たのぉ? って思ったわぁ。きっとシャルフィは私と結婚できなかったのが未練だったのでしょうねぇ。だから私の息子と結婚するためにコエダに生まれ変わってくれたのだわぁ?」
「「「はぁぁぁああぁぁあっ???」」」
突拍子のないマリアンヌ様の言葉に、俺と殿下とレギの驚愕の声がサロンに響き渡った。
「ジョシュアはね、コエダをお嫁さんにしたいって言ったの。でも、いいわよいいわよ? あの子ならジョシュアのお嫁さん大歓迎。だってシャルフィの生まれ変わりですものぉ。喜んでお迎えいたしますわぁ」
「待て待て、嫁ってなんだ? 俺は小枝を嫁には出さんぞ」
殿下がすかさず、断ってくれたけど。
嘘でしょ、まだ全然しゃべってもいないのに。
王子、小枝を嫁にする気なの?
つか、うちの子、男の子なんだけど。
それに前世で処刑されてんだけど。
ダメダメ、無理無理。
「貴方の子じゃないでしょ? ねぇタイジュ。コエダとジョシュアを婚約させましょうよ。玉の輿よ?」
前半は殿下に、後半は俺に顔を向けて、マリアンヌ様は言うけど。
「…まずは、お友達からお願いします」
上位貴族の方に正式に申し出られたら、たぶん断れないだろう。
でも、今日は初顔合わせだからね。
それに、早いよ。まだ五歳だよ。
俺の小枝は、まだ誰にもやらーーーん。
小枝とジョシュア王子の顔合わせの日がやってきまして。王宮にいつものメンツで来ています。
馬車の車窓から見える王宮の外観は、横広で窓がいっぱいいっぱいある白亜の宮殿なのだった。
前の世界で、俺は海外旅行とか行っている暇もなくて。
だからこういう洋風で綺麗な建物を実際に見たのがはじめてだったから。その迫力に、ちょっと感動した。
あ、修学旅行でキラキラの金閣寺は見たけど。
アレはちょっと派手過ぎて笑っちゃった。
で、ジョシュア王子のいる後宮は、王宮殿の裏側の少し離れた場所にある。
ディオンに聞くところによると、同じ建物内に王妃や側妃が暮らしているが、区画が離れている感じらしい。
日本の大奥みたいなイメージかな?
廊下でつながっているけど、住まう場所が離れているみたいな。
王様が好きな姫の元へ通うパターンだね。
でも、区画が分かれているとはいえ、侍女や使用人はあちこち行くので。出入りの制限が難しいとかなんとか。
毒の入れ放題な環境? それはいけませんね。
でも、大奥といっても、後宮は女性の園ではなく。
執事や庭師、騎士など、男性の働き手もいっぱい入っていて。
来客なども制限されていないようです。
だから男の俺らも、後宮に入ってジョシュアに会えるわけだね。
来客は、生活スペースではなく、玄関先にあるサロンで相対するのが基本らしい。
やはり陛下の奥様に男性客が対面するには、それなりのルールはあるんだな。
サロンも、妃の館に各々配置されていて。
たとえば、俺らがジョシュア王子と会っているところに王妃が顔を出す…みたいなことはないんだって。区画が違うから。
それは安心だね。だって、会うの怖いじゃん、第三王子派。
そして、ジョシュア王子の住む区画の建物に入っていき。
サロンでみなさまが挨拶と自己紹介をして…。
小枝はただいま王子とご対面中です。
あぁ、大丈夫かなぁ? 怖くて泣き出したりしないかなぁ。パパは心配です。
しかしながら、こちらはこちらで。ママ友の御挨拶をしなければなりません。
ジョシュア王子のママであるマリアンヌ様は。赤いドレスに金の髪が映える、とてもゴージャスなお方です。
日本だったら、公園デビューでこの格好は怒られちゃいそうだけど。
ここは異世界で、彼女は王様の奥様なので。これでいいのでしょう。
サロンの真ん中にある丸い小さなテーブルには、小枝とジョシュア王子が向かい合わせで座っていて。
俺たちがいるこちらは、来客をもてなす用のソファセット。
執事さんが紅茶を入れてくれているところです。
小枝の父として、ソファにディオンと並んで座らされた俺は、緊張の面持ちで再び挨拶した。
「改めまして、私は殿下の従者をしております、御厨大樹と申します。ジョシュアママ、これから小枝をよろしくお願いします」
処刑だけはなにとぞご勘弁をぉ、という気持ちで。ガチガチにこわばっていたから。
「ジョシュアママ?」
と聞かれて、はあぁぁぁああ、となった。
しまったぁ。公園デビューのときに覚えた挨拶が思わず出ちゃった。
「すみません、つい庶民的な言い方をしてしまい。申し訳ありませんでしたマリアンヌ様」
頭を下げると、マリアンヌ様はうふふと笑った。
気分を害してはいない模様。
「いいわよ? これが庶民の親がする挨拶なわけなのね? こういうお話は新鮮で、こちらもお勉強になりますわ。こちらこそ、うちのジョシュアをお願いしますね、コエダパパ」
親同士のウマが合わないと、子供の友達関係にも影響するからな。
挨拶を間違えてしまったけど、悪い雰囲気にならなくて良かったぁ。
あれ、でも。小枝と王子を引き離すのには、嫌われた方がいいのかな?
いやいや、どんな人にでも。嫌われたら悲しくなっちゃうよ。
いい雰囲気を与えつつもフェードアウト、これを狙おう。よし。
「それにしてもタイジュ。貴方、とてもお可愛らしい方ね? 私の周りには、ディオンや夫のようながっしりしたむさくるしいタイプの男性しかいないからぁ」
これは、ひょろい俺の貧弱ボディをからかわれているのでしょうね?
そう思って苦笑をする。それしかない。
「こら、粉かけてんじゃねぇ。大樹は俺のだ」
まぁた、殿下がそういうことを言い出したよ。
この頃、会う人みんなにこうして言って回っているんだから。
俺に振られたら、どうするんでしょうね? この人。
それとも、王子様を振るなんてあり得ないって空気に持って行こうとしているのだろうか?
どちらにしても恥ずかしいからやめていただきたいです。
そうしたらマリアンヌ様が扇子を広げて…。
これ、扇子でいいのかな。洋風の羽がついているような扇のやつ。昔、クラブよりもさらに前のディスコで流行ったでっかい扇子。古っ。あれ。
扇子で口元を隠して、ホホホと笑う。
「あらまぁ、私の魅力もわからないお子ちゃまの貴方が、なにを言っているのかしらぁ?」
「おまえの魅力なんか、知るわけねぇ」
「その言い方、なぁにぃ? 一応私、貴方の義母なのよ? 母、ママ」
「三歳上の母など、御免被る」
このふたりのやり取りで、とても親密で仲が良いことをうかがえる。
一時は婚約の話もあったというふたりだが、その点のわだかまりはなさそうに見えた。
それに威厳あるディオンを、マリアンヌ様は子供に相対するようにからかっていて。
それはなんだか小枝と殿下のやり取りのようにも見えて。
思わず笑ってしまった。
「まるで殿下を弟のように扱うのですね? 騎士の長も形無しだ」
俺が笑うと、殿下も目を細めてこちらを見やって…。
「あらぁ、貴方マジなのぉ? ウケるぅ」
その殿下の表情を見て、マリアンヌ様が言った。
一瞬、俺は目を丸くするけど。
いや、これはきっと。自動翻訳の、俺の語彙が少ないからゆえの言葉で。
きっとこの世界的には、やんごとない感じで言っているに違いない。
そういうことにしておこう。
「もちろん本気だ。大樹は私が出会った誰よりも美しい」
「殿下。審美眼を疑われますから、そういうことは言わないでください」
こっそりディオンをたしなめると。
マリアンヌ様は赤い口紅の印象的な唇を柔らかく笑ませた。
「まぁ、貴方が見初めるのもわからなくはないわ。この見事な黒髪に黒い瞳は、女神フォスティーヌのごときですものね。信心深い王家の者なら誰もが目を奪われるはずよ」
「それだけではない。大樹は外見のみならず中身もとても優しく清らかな者なのだ」
もう、やめてぇ。
ふたりとも、褒め殺しの域に入っているよぉ。
ただならぬ空気感に、俺は褒められて嬉しいよりも、なんだか血の気が失せる心地です。
ここは横綱級のうっちゃりで、話の方向性を変えてしまいましょう。
「あのぉぉ。マリアンヌ様は先ほど小枝をシャルフィと呼びましたが。もしかして、第一王子の?」
王族の話に割って入るのは恐縮するが、そうたずねる。
するとマリアンヌ様は表情をペカリと明るくして答えた。
「えぇ、そうよ。ディオンから聞いているかしら? 私はシャルフィ王子の元婚約者でね、面識があるのだけど。コエダはどことなくシャルフィの面影があるのよ。薄黄色い髪色とかも、そっくりで…」
「そうかな? マリアンヌやレギやグレイなどもそう言うが。兄王子はもっとデ…」
「ぽっちゃりでございます、殿下っ」
ディオンの話をレギがさえぎった。
礼儀を重んじるレギにしては珍しいね?
しかし、まぁ、うん。わかりました。ぽっちゃりですね。
小枝は細木のごとく、華奢で。俺などはもっと太らせたいと思うのだが。
太った小枝はシャルフィ王子になってしまうのかなぁ。
でも、だったらシャルフィ王子はとても愛らしいお子様だったのだろうな。
小枝に似ているのだから、そうに決まっている。うん。
「マリアンヌ、会ってそうそう小枝の頬を揉み込んでいたが。兄王子にもそうしていたわけではあるまいな?」
「していたに決まっているでしょう。あのほっぺを見て揉まずにはいられないでしょう!」
マリアンヌ様は言い切った。
どんだけ触り心地の良さそうなほっぺだったのでしょう?
小枝にほっぺをマシマシしたら…。うん。エサを頬張るリスのごとき。
確かに揉まずにはいられないかもしれないっ。
「どちらにしても、アレはシャルフィ王子ではなく、小枝だ。間違えるな」
「間違えてはいないけどぉ。可愛いのだものぉ。本当はね、私がシャルフィを産もうかと思ったのよ? 王様の遺伝子で。だけど、ジョシュアは陛下にそっくりで。あぁ、シャルフィは王妃様似だったのねぇって。がっかりしてしまったわ」
「ジョシュアをシャルフィの代わりにしてはいけないだろう?」
「そういうわけじゃないけどぉ。もしもシャルフィが私のお腹を通して出てきてくれたら、今度こそ絶対に長生きさせてあげようって、思ったのよぉ。出てこなかったけど…」
マリアンヌ様は扇子をハタハタさせるけど。その赤い唇が拗ねたみたいにとがっていた。
彼女は俺より年下だから、若いママだ。
ジョシュアを可愛がっていないわけではないだろうが。
がっかり、とか言ってしまうのは。思ったことが口からつるりと出てしまう、どこか大人になりきれていないところがあるからかもしれないな。
あと、シャルフィ王子のことを忘れられないのだろうね?
きっとマリアンヌ様にとって良い思い出なのだろう。
「でもコエダをひと目見て、あらぁ、シャルフィったら、こっちから来たのぉ? って思ったわぁ。きっとシャルフィは私と結婚できなかったのが未練だったのでしょうねぇ。だから私の息子と結婚するためにコエダに生まれ変わってくれたのだわぁ?」
「「「はぁぁぁああぁぁあっ???」」」
突拍子のないマリアンヌ様の言葉に、俺と殿下とレギの驚愕の声がサロンに響き渡った。
「ジョシュアはね、コエダをお嫁さんにしたいって言ったの。でも、いいわよいいわよ? あの子ならジョシュアのお嫁さん大歓迎。だってシャルフィの生まれ変わりですものぉ。喜んでお迎えいたしますわぁ」
「待て待て、嫁ってなんだ? 俺は小枝を嫁には出さんぞ」
殿下がすかさず、断ってくれたけど。
嘘でしょ、まだ全然しゃべってもいないのに。
王子、小枝を嫁にする気なの?
つか、うちの子、男の子なんだけど。
それに前世で処刑されてんだけど。
ダメダメ、無理無理。
「貴方の子じゃないでしょ? ねぇタイジュ。コエダとジョシュアを婚約させましょうよ。玉の輿よ?」
前半は殿下に、後半は俺に顔を向けて、マリアンヌ様は言うけど。
「…まずは、お友達からお願いします」
上位貴族の方に正式に申し出られたら、たぶん断れないだろう。
でも、今日は初顔合わせだからね。
それに、早いよ。まだ五歳だよ。
俺の小枝は、まだ誰にもやらーーーん。
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