【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~

北川晶

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44 ギロチンじゃなくて毒殺ぅぅ? (小枝)

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     ◆ギロチンじゃなくて毒殺ぅぅ? (小枝)

 今目の前で、ジョシュア王子がプルプルしているところです。
 おトイレなら行ってきていいですよ?
「ジョシュア、ほら、コエダちゃんにお菓子をあげたらどう? ね?」
 お姫様がジョシュアにアドバイスして。彼はロボットみたいにギクシャク動き出した。
 前世の、ツンツンで取り付く島のない感じではなさそうだけど。
 こういうの、挙動不審って言うんでしょ? ぼく、知ってる。
 やっぱり、ぼくのこと殺したいのかな?
 どうやって殺そうか考えているのかな? 怖ーい。

 ぼくは殺されたくない。
 もっとパパとイチャイチャラブラブしたいのだからねぇ。

 だから、処刑は一生懸命回避しましょう。

 だけどこの子、ぼくを遊び相手にしたいんでしょう? 仲良くする気あるのかな?
 とりあえず、笑っておこう。
 パパも笑顔なら誰かが愛してくれるって言ったもんね。
 笑顔の人を殺そうとはしないでしょ? たぶん。
 それにぼくは、今世では悪いことしていないんだからねぇ?

「こっ、こここ、コエダ。椅子に座ろう。おいしいお菓子を用意したからな?」
 なんか、ニワトリみたいな声と動きで、ジョシュアがテーブルに誘う。
 っていうかぁ。外見はどこから見ても王子様、すっごい完璧に王子様なんだけどなぁ。
 金髪がサラサラでぇ、目はアーモンドの形で整っていてぇ、色白でぇ、青くてキラキラの衣装がとっても似合っている。
 でも、なんか動きが変な感じだなぁ。

 王子様的に言えば。厳しい眼差し、寄れば斬るみたいな迫力はあったけど、無口で静かなイメージだった前世の方が王子様チックだったよぉ?
 メイが惚れちゃうくらいにね。

 あ、ぼくは惚れてないよ?
 ぼくを殺そうとした相手を好きになんかなれないもんね。
 それにぼくはパパが大好きなのです。
 パパ以上に好きになれなきゃ、そんな気にはなれないのっ。
 ぼくの理想の人はパパなんだ。
 パパはあったかくてぇ、優しくてぇ、面白くてぇ、カッコイイの。
 それにパパはぼくのこと守ってくれる。ぼくがどんなぼくでも。
 世界一最高なパパなんだから、そんな人はそういないんだからね。

 それはそれとして。
 とにかく今世は、処刑回避に徹するんです。
 できれば王子からフェードアウトしたい派。

 しかし、マジで王子の挙動が変です。
 あ、もしかして。子供だから、成長途中だから、未完成王子なのかもね?
 未完成王子だったら、きっとまだ、ぼくを殺そうとは思っていないね?
 そうであれっ。

「まずは謝罪をさせてほしい。先日はコエダの父上を愚弄ぐろうしてしまって、すまなかった。俺はコエダが彼に振り回されていたから、乱暴されていると勘違いして。怒ってしまったんだ。でもあとから兄上に聞いたら、ただ親子で遊んでいただけだったみたいで…」
 机の椅子に座った王子は、頭を下げないながらも謝った。
 王族は無闇に頭を下げてはいけないんだって。これはメイ情報。

「あぁ、ジョシュア王子はそういうところありますよねぇ」
 話を聞いてくれないやつぅ。
 前世では、メイは兄上の片棒とか担いでいる気は全くなかったのに。
 話も言い訳もさせてもらえず、説明だけして即ギロチンだったものねぇ。
 普通のときも、メイが話しかけても全然聞いてくれなかったものねぇ。
 無視。塩っ。
 メイだった頃の自分よ…。この王子のどこを好きになったぁ?
 顔か? 顔だけでしょっ。あと、王子なとこ。

「え?」
 でも今世のジョシュア王子とは、ほぼほぼ初対面だ。
 知っているような口ぶりは駄目だったねっ。失敗失敗。

「いえ、勘違いがわかってくれたのなら、それでいいですぅ」
 つか、もうパパに突っかからないでよねっ、という気持ちを出さずに。ニッコリ。
 笑っておけばなんとかなります。たぶん。

「…今日も、紫の衣装がよく似合っているな? この前会ったときもそう思ったのだ。だから紫の花を用意したぞ」
 パパたちは、少し遠いところのソファセットで、大人チームでお話をしている。
 ぼくら子供チームは、花の飾られた小さな丸い机で…ふふふ、なんかお見合いみたいな感じで向かい合っているよ。変なの。
 最初はパパと離れてジョシュアとお話するの、ちょっと怖かったけど。
 未完成王子だと思ったら。
 少し気が楽になりました。ムフン。

 丸いテーブルに白いクロスがかかっていて、真ん中に白いバラと紫の花がちょこんと添えられている。
 お花はね、この世界ではかなりの高級品なんだよ。
 日本にはお花屋さんがちょこちょこあって、季節に関係なくお花が買えたけれど。
 この世界ではビニールハウスとかないから、日本のようにはいかないね。
 今はだいぶ寒くなってきて、長袖の季節なのだけど。温室でお花を育てるのは大変なんだ。
 あ、温室はあるんだよ。
 北の離宮にはないけど、大きなお屋敷にはよく付属しているの。
 これも、お花が好きだったメイ情報。

 でも小枝のぼくは、お花は特に好きじゃないというか? 馴染みがないというか?
 ここに飾ってあるのもバラしかわからないしね。
 メイは知っていたかもしれないけど、どうでもいい情報は覚えていないの。脳みそ五歳だからね。
 花はキレイだけど、それだけ。男の子はそういうものでしょ?

 それで、花の横にはお菓子のタワーがあるよぉ?
 こっちの方がすごいよぉ?
 なんかクッキーがクリームに張り付いて、山型に組まれていてね。
 さらにその他にも銀のお皿にケーキが並べられている。

 侍女の人がティーポットから紅茶をカップに注いでくれた。
 でも。なんか変なにおいがする。
 ぼく、体に悪いものがなんとなくわかっちゃう人だからね。
 三歳のときに総菜パンが腐っていたのをわかったのも、たぶん聖女パワーのせいだよ。
 お腹空いてて食べちゃって、案の定お腹痛くなったけど。
 あのときは、聖女の潜在能力でヤバいものっていうのはわかったけど。
 清める力は発現していなかったから、お腹痛くなっちゃったんだよね。
 やっぱりこの力は、異世界に渡らないと使えないみたいだ。女神さまのけちぃ。

「お腹空いているか? このクッキーが美味しいよ」
 ジョシュアが侍女に言ってクッキーをぼくに取り分けてくれるけど。
 むむぅ、これも怪しいなぁ。
 目の前に置かれた、皿の上に乗るクッキー。それに、ぼくがチョンと触れると。
 モヤモヤモヤって、ちょっと煙が上がった。
 や、やっぱりぃ? 王子がぼくを殺そうとしているぅぅ?

 今世はギロチンじゃなくて毒殺ぅぅ?

 漫画のごとく、ぼくの背景にしょうげきの雷がバリバリドッカーンっと落ちたぁぁ。
 いえ、イメージですからご心配なく。

「わっ、なんだ? クッキーから煙がっ?」
 ジョシュア王子は目を丸くする。
 自分で仕込んでおいて、白々しいです。
 ぼくはオコですっ。

「これには、ど…」
「小枝っ」
 毒を消したときに出る煙が出たから、パパがこちらにあわてて駆け寄ってきた。
 パパぁ、ぼく、毒殺されそうになりましたっ。
 という目で見たら。
 パパはこっそりぼくの耳に囁くのだった。
「毒を消したと言ったら、聖女だとバレてしまうかもしれないよ? ここは手品をしたことにして誤魔化そう」
 えぇぇっ? 聖女とバレるのは嫌です。
 でも、だけどね?
「でもぼく、殺されかけてぇ」
「クッキーはランダムだろう? 全員狙いなのかも。王子の紅茶も触ってごらん」
 パパに言われ、ぼくはちょっと手を伸ばして、王子の紅茶のカップにチョンと触れた。
 すると、彼の紅茶からも煙が上がった。

 ぼくを殺すために、自分にも毒をぉ? そんなにぼくを殺したいのぉぉ?

「わっ、俺のカップからも煙が? これはなんだ?」
「ジョシュア王子。小枝は手品が得意なのです。なぁ、小枝?」
 パパが強引にまとめようとするので。
 んん、わかりました。乗りますね。
「はい。これはマジックです」
 そうだ、ぼくがやることはみんなマジックということにしよう。そうしよう。
 そうしてぼくのカップにも触って煙を出した。

 つか、あの侍女怪しいですよ、パパ。
 そうして振り返ると。殿下も神妙な顔でこちらを見ていて。
 どうやら大人チームはちゃんと考えているようです。
 なら難しいことは大人チームにおまかせしましょう。

「すっげぇー、コエダは小さいのに手品ができるくらい器用なんだな? 心なしか、コエダがマジックした紅茶もクッキーも格別に美味しい気がする」
 そうして、ジョシュアは王子様スマイルを浮かべ、クッキーを食べるのだった。
 そりゃそうでしょう。毒なしですから。

 あれ? でも毒なしを美味しいと感じるということは。
 毒ありをいつも食べていたってことで?
 ってことは。ジョシュアはぼくを殺そうとしたんじゃなくて。
 ジョシュアのことも誰かが殺そうとしたってことぉ?
 小さな煙だったから、強い毒ではないかもしれないけど。
 エルアンリ王子みたいに、じわじわ毒を食べさせられるやつかもぉ。

 怖いぃ。王宮、怖いぃ。

 一応、この部屋全体にクリーンをかけておきましょう。
 パパが毒を口にしたら大変ですから、大人チームの方にもかかるようにね。
 どうやら、あちらに出された紅茶はセーフのようです。
 でもこちらのクッキーと紅茶はアウトですね。
 ま、クリーンしたので、もう食べられますけど。

「なぁ、小枝は普段なにをして遊んでいるのだ?」
 自分が毒の脅威にさらされていたことも気づかずに、王子は無邪気に話しかけてくる。
 まぁ真実を告げて、怖い思いを王子にさせることはないのでしょう。
 パパもそう思ったから、ジョシュアを誤魔化したんだろうからね。

 ぼくの頭をひと撫でして、パパは大人チームの方に戻っていった。
 あちらはみなさん、深刻そうなお顔です。
 あ、こちらはこちらで集中しましょう。
 お仕事です。三千オーベルです。

「えっとぉ、お庭でパパと鬼ごっこしたりぃ、高い高いしてもらったりぃ、グルグルブンブンしたりぃ…」
「グルグルブンブンとは、あの日にやっていた手を持って振り回すやつか?」
「そうなのぉ。パパがグルグルブンブンすると、足が浮いて怖くて面白いのぉ」
「怖いのが面白いなんて、おかしいなぁ、ははは」
 おぉ、ジョシュア王子の初笑顔です。メイ期込み。
 笑うと、怖い印象が薄れていい感じです。
 ぼくは気を良くして、椅子に座って浮いた足をぶらぶら揺らしながら楽しい遊びを思い出していく。

「あとねぇ、パパとグレイがブランコを作ってくれたのぉ。遊具で遊ぶのも面白いけど。ぼくはやっぱりパパと鬼ごっこするのが一番好きっ」
 パパが笑顔でぼくを追いかけてくるのが嬉しいのだ。
 そして捕まると、ぎゅうぅぅってしてくれるでしょ? 楽しくて自然に笑っちゃうの。
 そのときのことを思い出して、笑顔でそこまで言ったけど。

 ぼくは、はああぁぁぁぁああ、となった。

 ジョシュアはアウトドア派だから、ぼくはインドア派を強調するつもりだったのに。
 パパとお外で遊ぶやつを言っちゃったぁ。

「でもね、でもね。おうちの中で絵本を読んだり、お勉強するのも好きなの」
 アセアセと、上書きするように、言ってみる。
 そう、ぼくは今世では、がり勉を気取ることにしたのです。
 どうですぅ? がり勉を相手にしても、つまらないでしょう?
「そうなのか? 俺も王子として勉強をしなければならないのだが。遊び相手も欲しいが、ともに勉強をして、高め合うような相手も欲しかったのだ。コエダ、俺と一緒に勉強も遊びもいっぱいしような?」

 そしてぼくはまたしても、はぁぁぁああぁぁあっとなったのだ。
 まさか、アウトドア派のジョシュアが、お勉強相手も探していたとは…。とは…。

 ぼくの作戦は、ことごとく失敗に終わったようです。
 ムムムっ。今日はダメでしたが。
 次があったら、やんわり嫌いになってもらうように仕向けてやりますから。
 まだ、大丈夫です。
 十八歳になるまでに、ジョシュア王子とたにんのふたりになればいいのです。

 処刑、断固回避っ!

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