【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~

北川晶

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番外 ジョシュア 初恋はスミレ色 ①

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     ◆ジョシュア 初恋はスミレ色

 俺はスタインベルン国リドリー国王の第七子、ジョシュア・スタインベルンだっ。
 王子の中でも一番年下。末っ子?
 だから。父上である国王は俺をとても可愛がってくれる。
 だって、なんでも願いを叶えてくれるんだ。
 おもちゃが欲しいと言ったら、次の日には立派な木馬が届いて。
 絵本が欲しいと言ったら、部屋いっぱいに絵本が並ぶし。
 お菓子が食べたいと言えば、料理人がジャンジャン運んでくる。子供の胃袋に入る分だけでいいのだがぁ。

 でも、たまに毒が混ざるから。具合が悪くなったりするんだよなぁ。
 それで俺がお腹が痛いって言うと、父上が料理人を全部解雇してしまうから。
 それはちょっと困ることもあるんだ。

 よくわからないけど。美味しいお菓子を作ってくれた料理人が、いつの間にかいなくなってしまったときは。ちょっと悲しかったから。
 彼のせいではないと思うのだけど。だって、美味しいお菓子だったもん。
 毒はちょっと苦かったり渋みがあったり、変なにおいがする。
 あの美味しいお菓子からはそういうのなかったんだけどなぁ?
 だから、あまり痛いとか苦しいとか言えないなって。ちょっとくらいのお腹痛いだったら、我慢しちゃう。

 でも、どうして毒なんかあるのかなぁ?

 母上は。父上の子供はみんな、命の危険があるんだって言うんだけど。
 俺は父上の子だから、命を狙われて、毒にたまに当たるみたいだ。
 そういうものなのだ。

 そのせいでかなんでか、知らないが。俺には友達がいない。
 物心ついたときから、俺は母上と父上と、侍女としか遊んだことがない。
 俺が今一番ほしいものは、俺と年の近い遊び相手なのだ。
 友達が、なにをするものかはわからないが。
 手をつないで庭を駆けたり、一緒に絵本を読んだりしたい。
 父上や母上以外の人とお話したいのだ。
 ニジェール兄上は王宮内をいっぱいの人を引き連れて歩いていて。うらやましい。
 俺も、あんなふうにいつもそばにいる友達が欲しいのだ。

 話は変わるが、俺には兄上が四人いる。
 ひとり、一番年の近いオズワルドには会ったことがないけど。
 一番年上のディオン兄上には会ったことがある。
 長兄なのに第二王子というのは、意味がわからないけど。

 ディオン兄上は、大きくてたくましくて、騎士の服がとってもよくお似合いだ。
 だけど視線がとがっていて、近寄ったら怒られそうで。
 ちょっと…いや、だいぶ怖かった。
 それで、ご挨拶は出来たんだけど。びびび、ビビったわけではないのだけど。
 兄上の迫力に負けて、母上のドレスの後ろに隠れてしまった。

 だけど。俺はディオン兄上を尊敬しています。
 母上が言うには。
 ディオン兄上は、今の俺の年には自立していて。
 俺が毒に当たってお腹が痛くなるような攻撃を、いっぱいいっぱい受けたのに。それをはねのけて生き抜いたすごい人なんだって。
 本当にすごーい。信じられないよ。
 俺はお腹が痛くなったら、母上にそばにいてもらわないと。泣いちゃう。 

 それに、ディオン兄上は騎士だから、悪人をバッタバッタと切りまくるんだって。
 カッコいい。
 俺が俺と言うのも、ディオン兄上の真似なんだ。
 ディオン兄上は、普段は私と言って、王族としての品位を保っているけど。
 母上と話しているときに、くだけた感じになると。俺って言うの。
 王族なのに、俺とか、男らしくてカッコいいじゃん?

 それで真似をしているんだけど。俺が俺って言い出したら。
 美しい母上が眉間にしわを寄せて、ディオンの悪いところを真似しちゃいけませんって言う。
 でも。いいの。俺は俺でいくっ。カッコいいから。
 ディオン兄上のように、カッコ良くて、強い大人になるんだっ。
 父上にもそう言ったら。それはいいことだって言ってくれたよ。

 それでね、その強い兄上は。我が国に攻め込んできたレーテルノンを撃破して、追い払ったんだって。
 本当に、すごーーい。やっぱり兄上は強くてカッコいいのだ。
 お忍びで、父上と母上と一緒に王都に降りて、騎士団のパレードを見たよ。
 めったに起きない祝賀行事だから、見学しなさいってね。

 騎士団の先頭は、ディオン兄上じゃなかった。
 ディオン兄上は今回の戦争で負傷したみたいでね? すでに王宮に戻っているんだって。
 命に別条のない怪我のようなので、安心しました。

 それでね、騎士団の先頭は違う人なのだけど。
 王都の国民がみんな、すっごい熱狂的に騎士たちをお祝いしていてね、俺は圧倒されちゃった。
 騎士に向かって大勢の人々が手を振り、歓声を上げ、紙吹雪が舞い。国を守ってくれてありがとうと感謝する。

 もしも俺がディオン兄上のような強い騎士になって、戦争に勝ったら。
 今のように華々しく、いっぱいの国民の前で行進するのかもしれないなぁ…なんて。
 そう思ったら。胸がじーーんってなった。
 うーーん、やっぱり。俺は騎士になりたいっ。

 で、騎士団が王宮内の施設に入ったら。父上は国王として騎士たちに言葉をかけるんだって。
 父上は、この国で一番えらい人。
 国中の人々からお祝いされた騎士団よりも上の人なんだ。
 父上もすごいんだなぁ?
 普段は俺の言うことなんでも聞いてくれる甘くて優しい父上だけど。

 それで、グラウンドに騎士団が入場しているときに、舞台袖で待機する。
 父上は騎士団の前に立って話をするのだけど、俺にもそれを体験させたいって。
 戦争で大活躍だった騎士団の前に立つなんて。
 なんだかワクワクするなっ。

 で、待っていたら。
 ディオン兄上が舞台袖の待機所に入ってきたんだ。
 うわぁぁ、カッコイイ。
 体が大きくて、堂々としていて、威厳があって。
 初めてお会いしたときも格好良いとは思っていたのだけど。
 戦争に勝って、その責任者だったわけだから。もう、本当にすごいしカッコイイ。

 俺はディオン兄上を憧れの目で見るのだ。
 兄上というと、兄弟だし、とても近い親族なんだけど。
 一緒に暮らしているわけではないし。それにすっごい人なわけだから。
 憧れの人? 理想の人? こうなりたいというお手本のような人? そんな感じで。兄弟だからって馴れ馴れしくできないよぉ、みたいな?
 そんなすっごい人が兄上なんだぞって、自慢したいくらい。
 なにがどうすごいのかは、ちょっとわからないけど。とにかくすっごいということはわかるのだっ。

 父上は、ディオン兄上の前を通るとき。
 兄上が会釈したのに、なにも声をかけずに通り過ぎた。なんで?
「父上、ディオン兄上とお話されないのですか?」
「事前に、ねぎらいの言葉はかけてあるんだ。ジョシュアが気に掛けることじゃない」
 そうですか。すでに兄上とはお話されているのですね? ならいいのですが。
 そのことも気にかかったけど。
 兄上を目にして一番驚いたのは。兄上の後ろに、俺と同じくらいの年の子がいて。

 その子が、めちゃくちゃ可愛かったからなのだっっ。

 青みがかった紫色の綺麗な衣装を着たその子は、くりくりしたまぁるい目。
 俺の髪よりちょっとブラウンが入った、柔らかい印象の金髪。ひよこの色かな?
 白い肌に、ほっぺはバラ色で。半ズボンからのぞく膝の頭もピンク色。
 ズボンをはいているから男の子だと思うけど。
 可愛いし小っちゃいから女の子にも見える。
 腕とか足とか長くて細くて。ちょっと内またで、細身で、すぐに折れちゃいそうだ。

 か弱そう。守ってあげたいなぁ。
 誰なんだろう? 兄上の子供?
 でも兄上はみんな結婚していないって聞いているし。

 俺はその子がすっごい気になっちゃって。ジッと見ていたのだけど。
 その子と目が合わないし。絶妙に兄上の従者の影に隠れてしまって。
 俺は上半身をフリフリ動かして、その子を見ようとするけど。
 体を動かすたびにその子も動いて、俺の視界から外れる。

 うーん、よく見えないぃぃ。

 そんなことをしている間に、時間になって。俺は父上に手を引かれて、壇上に立ったのだ。
 あぁ、あの子が遠ざかるぅ。
 ディオン兄上の出番は、父上のあとだったので。
 俺はあの子と壇上に一緒に上がることはなくて。
 父上の挨拶が終わったあとは、兄上のいる反対側に退しりぞいたので。どんどん遠ざかるぅ。
 なんか、壇上で、大勢の騎士の目が向けられたときは緊張したけど。
 あの子が気になって。あんまりよくわからないうちに父上の挨拶が終わってしまったよ。

 つか、俺はあせって。父上に聞いた。
「父上、あの。ディオン兄上のそばにいた子は誰ですか?」
「子供? そんなのいたか?」
「いましたよ。薄黄色の髪の、可愛い子」
「さぁ、私は知らぬが。ジョシュア、そろそろ戻らぬとマリアンヌが心配するだろう? 部屋に帰ろう」
「いいえ、俺。あ、あ、兄上に、ちゃんと挨拶できなかったので。ここに残ります」
 ここで部屋に戻ったら、あの子が何者で、どうして兄上と一緒にいるのかわからないじゃないか。
 なにより、ここでなにもしなかったら。あの子にはもう会えなくなっちゃうかも。

「そうか? ひとりで大丈夫なのか? 部屋まで戻れるのか?」
「警護の騎士がおりますので、大丈夫です、父上」
「では部屋に帰るまで、騎士のそばから決して離れてはならないぞ?」
 父上は目線で、くれぐれもというふうに騎士を威圧してから。その場を去った。
 俺には、五人の警護人がついている。
 多くも、大袈裟でもないのが。困ったことだ。
 俺のそばにはすぐに毒を盛るやからがいるからな。
 父上からは、ニジェール第三王子には近づくなと厳命されているので。
 そういうことなのでしょうね。

 舞台袖からはずいぶん離れてしまったが。
 父上の慰労の言葉のあとに、兄上が壇上に上がったのだと思う。
 遠くにいても響くかのような、騎士たちの歓声は段違いだった。
 騎士団の者はみんな、ディオン兄上に服従し、敬意を表しているのだなぁ?
 こんなに多くの人たちを束ねられるのもすごいけど。
 大人数から支持されるのも。やはり兄上はすごい人なのだ。

 これから戦勝祝賀パーティーもあるけど。それまでには時間があるから。
 兄上たちはきっと、いったん馬車で離宮へ帰るだろう。
 馬車に乗るのだから、その辺りにいれば兄上と話ができる。

 あの子にも会えるだろう。
 もっと近くで顔を見てみたいんだよな。

「しかし、どうしよう。は、話ができるかな? まずは挨拶を…自己紹介を。それで。そうだ。なにかプレゼントするべきか? 花か? 花を摘んでこようか?」
 あの子にお花をあげたら、喜んでくれるかな?
 そう思って。俺は馬車のロータリー周辺にある、植木を見て回った。
 あの子は紫の…スミレ色の衣装を着ていたから。スミレをあげたら喜ぶんじゃないかな?

 青紫色を頭に思い浮かべながら、俺は兄上たちが来るまでスミレを探した。

 
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