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番外 ディオン 愛でられ方がわからない ①
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◆ディオン 愛でられ方がわからない
戦勝祝賀パーティーにて、アンドリューに。タイジュに身請けの承諾を貰ったと言われ。
俺は肝を冷やした。
もちろん俺は正規のルートで手続きをしたので、どこにも不備はないが。
気持ち的なところで。
タイジュをアンドリューに奪われてしまうのではないかと。
神の手が、俺の腕の中から消え去ってしまうのではないかと。
焦燥感で、酒がすすんで。いつになく深酒してしまった。
いつもは暗殺者に対抗するために、人前で意識がブレるほど飲むようなことはなかった。
不眠を解消するため飲酒を試したこともあるが。馬鹿みたいに飲んでも、頭が冴えるばかりで効果はないし。
ただただ気持ちが悪く、次の日は使い物にならないという。
メリットなし。非効率なのでやめた。
この頃は嗜む程度にしていたのに。
アンドリューとタイジュの仲を引き裂いたのではないか。
手に手を取って、好きだと。貴方を身請けしたいのだ、と。アンドリューがタイジュを口説く。
そういう場面を脳裏に描くと。
腹立たしくて、酒をあおってしまう。
「殿下、その辺で」
やんわりレギにたしなめられ。俺はパーティー会場をあとにしたのだ。
早くタイジュに会いたい。
会って、確かめたい。タイジュの気持ちを。
屋敷に戻って、すぐにも問い質したかったけれど。
レギがいるから、夜食の間は我慢して。
祝賀パーティーと、飲酒のほろ酔い気分の余韻が残っていて、タイジュとダンスしたくなった。
支離滅裂だと自分でも思うが。
酔っていたのだ。かなり。
で、私室にふたりきりになったとき、タイジュと踊りながら。
アンドリューのことをたずねた。
なにを言われるのか…両想いだとか。そう言われるのが怖くて。
我ながら、結構勇気を絞り出したのだ。
そうしたらタイジュは。アンドリューの言葉を本気にしていなかったようで。
気が抜けた。
そうなのか? 好きだと言い合った仲ではないのか?
そして。俺が、おまえは俺のモノだと宣言すれば。
その通りだとうなずいてくれた。
ほっ。どうやらタイジュは、アンドリューを好きなわけではないらしい。
想い想われ、の仲だったら。俺はとんだ悪役。
いや、悪役になる覚悟はしていたのだ。
どうしても。親友であるアンドリューから愛する人を奪い取る形になろうとも。
俺はタイジュが欲しかったのだから。
まぁ、俺の告白もスリーパーで流されてしまったけれどな。
だが今は。タイジュの心が誰のものでもないと知れただけで、いい。
ゆっくりと、タイジュが俺に心を傾けてくれたら、それでいいのだ。
実は。アンドリューのことが、一番気が気でなかったのだ。
俺がタイジュを知る前に、アンドリューはタイジュと見知っていて。
彼がタイジュに好意を抱いているのも、なんとなくわかっていたからな。
伯爵家の後継が、どの程度本気でタイジュと恋仲になろうとしたのか、それは定かではないが。
普通に、アンドリューは良い男だ。
気さくで社交的、剣術も申し分なく、勇猛果敢、正義感も強く男気がある。
そして容姿も美しく社交界の花と呼ばれていた。
彼が美貌と甘い言葉を振り撒く花、令嬢がきらびやかな羽のようなドレスをひらめかせる蝶だ。
そのような魅力的な彼だから、タイジュも心を奪われてしまうのではないかと危惧した。
だから、騎士団の凱旋をアンドリューに任せたのだ。
彼からタイジュをかすめ取り、早く遠くへ逃げてしまいたかったから。
タイジュの態度を見れば、それは杞憂だったのかもしれないが。
アンドリューは身請けを本気で視野に入れていたようだから。
俺の前に彼が行動を起こしていたら。俺はタイジュを手に入れられなかったということで。
やはり契約後に人知れず戦場を離れたのは、正しかったのだと思う。
戦場で部下と恋愛沙汰を起こすわけにはいかないからな。
それにアンドリューは俺の数少ない友達だから。できれば穏便に済ませたかった。
気さくな彼には言い寄る御令嬢が数多いるが。
俺にはタイジュだけなのだ。
タイジュだけは、誰にも渡せないのだ。すまないな、アンドリュー。
俺は、できるだけタイジュの心に添うようにしようと思っていたが。
もしもタイジュがアンドリューを好いていて。彼に身請けされたかったのだと言われても。こればかりは譲れなかっただろう。うなずけない。手放せるわけがない。
俺だって真剣に、タイジュを愛しているのだから。
だから、本当に。タイジュが俺の元にいることを承諾してくれて、良かった。
もちろん、タイジュは。息子のコエダ第一で。俺がコエダの奴隷解放をしたことに感謝していて。
それを撤回されたくないから従っている、ということもわかっている。
俺が好きだから、ではないことを。
でも、理由はなんでもいい。
まずはタイジュが自分の意思で俺のそばにいてくれること。それが、ありがたいのだ。
しかし、それにつけても。あの生き物はどうしてあんなに可愛いのだ?
タイジュは自分のことをおっさんだと言うが、俺の五歳上? レギと同じ年? ないない。
シジミノミソシルがなにかはわからぬが。あのようにピカピカな顔をして俺をみつめるなんて。
朝から性衝動をおさえるのに苦労したぞ。
とりあえず、ミソとショーユとコメはすぐさま調達しよう。うむ。
というか、あの笑顔は二日酔いの目に染みるほどのまぶしさだわっ。あぁ、可愛いっ。
★★★★★
その後、エルアンリ邸にタイジュとコエダを連れて行った。
俺は結構な二日酔いで、朝から頭がガンガンに痛かったが。
タイジュが額を指でチョンと小突いて。
王族になにしやがるって、一瞬思ったが。スリーパーだったようで。
頭痛はなくなった。
ま、まだ少し気分は悪いが。外出が苦ではないくらいにはマシになったな。
タイジュのスリーパーは、本当に万能で。目をみはるほどだ。
俺の告白をスルーーーとされるのはいただけないがな。
いつか、真正面からタイジュに俺の気持ちを受け止めさせてやるっ。
あとな。西の離宮に向かう最中。エルアンリの病状や王子たちと俺の関係性を説明していたとき。
ひょんなことから『俺が伴侶にしたいのはおまえだ』とタイジュに宣言する場面があり。
タイジュはなんとか冗談で誤魔化そうとしたようだが。
俺がタイジュを好いていることなんか、レギもコエダもとっくに承知しているのだぞ。
俺の気持ちを本気にしない鈍感は、おまえだけなのだ、タイジュっ。
それに、俺がこうして気持ちを隠さないようにしているのは。アンドリューのことがあるからでもあった。
しっかり己の気持ちを、タイジュにも周りにも伝えておかないと。
俺のタイジュへの気持ちが真剣であることや、タイジュは俺と仲を深めているということを、アンドリューや周りの者に知らせておかないと。
彼はいつまでもタイジュへの想いを消せないかもしれない。
それは、困るのだ。
タイジュがアンドリューの魅力にいつか気づいたら。俺を捨ててしまうかもしれないじゃないかっ。
だからタイジュも認めるように、俺はビシリと冗談ではないと言い渡してやった。
まぁ、案の定。パパ大好きっ子のコエダは、パパはぼくのですっと言い返してきたが。
本当にパパ好きだな。俺も好きだが。
しかしそのあとで『キスもまだとか? 殿下は奥手ですねぇ』なんて、五歳のきゅるんとした表情があざといコエダに言われ。
俺はギョッとしたけど。
タイジュの気持ちを大事にしている、と告げたら。
まぁいいでしょう、的な。唇をムフンとする顔をされてしまった。
王族の俺を見下げる貴様はいったい何者なのだ? と一瞬思うが。
その私の耳に、タイジュの心を射止めるにはコエダの協力が必要です、とレギが囁く。
その通りだと思う。
タイジュの八割は、コエダで構築されているのだ。俺にはコエダの力が必要だ。
しかしコエダはパパを譲る気はないだろから。ライバルでもあるだろう?
つまり俺は、コエダと穏便な関係を築かなくてはならないのだっ。
そんな風に、タイジュとコエダは王族をおちょくるようなところがときどきあって。それはどうかと思うのだが。
それも彼らの可愛い一面である。
庶民は王族と聞けば、粗相をしたら罰せられると思って、恐れおののくものなのだが。
全く、変な親子である。
だが俺は、そんな彼らが愛おしい。
周囲に俺の気持ちを知らしめ、外堀を埋めつつも。タイジュの気持ちは尊重するよう。無理強いすることなく俺に気持ちが向くように、やんわり仕向けていた。
小賢しく、狭量な男ですまない。
しかし、タイジュ。俺はおまえを傷つけない。
それだけは女神フォスティーヌに誓うよ。
そうしていろいろありながらも、西の離宮に到着し。
エルアンリをタイジュとコエダに引き合わせた。
弟のエルアンリは、見識深く聡明で、柔和な人柄で。国民からの人気もあり。
俺は、彼こそ王の器があると思っているのだ。
しかし、とにかく体が弱い。それだけが彼の欠点であった。
毒にさらされて死にかけることも、何度もあって。
彼が命をつなぐたびに、俺は安堵の息をついたものだ。
それ以外にも、よく熱を出したり咳き込んだり寝込んだり、いろいろあって。
しかし医者も治癒魔法師も治せないというのだから。
元より、王宮の医者は信用ならない。
だからタイジュに、本当のところはどうなのだと。診察をしてエルアンリの病状を明らかにしてもらいたかったのだ。
だが。タイジュは本当に医師の本分を果たしてくれて。エルアンリの病状も、毒素の在りかも、明らかにしてくれたけれど。
触り過ぎだ。
胸に耳を当てて、診察したときは。
弟相手に腹立たしさが込み上げて、何度引き剥がそうかと思ったかしれない。
その都度レギに、諫められたが。
いや、くっつきすぎだろう、どう見てもっ。アレは俺のなのにっ。
とりあえず、聴診器の調達は急務である。
帰り際、タイジュにそのことを責めたら。
「腹の中まで拝見した御仁は貴方様だけ」
と言われ。
その殺し文句にグッときた。
腹を剣で刺されたことで、タイジュは大手術をして俺の命を救ってくれた。
あの戦場で、タイジュに命を救われた者は数多くいた。
それこそ、あの、アンドリューだって。
しかし、タイジュが腹の中に手を突っ込んだのは、俺だけなのだ。
俺の内臓を触ったのも、タイジュだけ。
そう思ったら。特別感が湧き起こってきて。
俺はただの患者ではなく、体の中までも見せた仲なのだと改めて実感し。
独占欲や優越感が満たされてぞくぞくしてしまった。
ま、腹の中を触られて喜ぶようなやつも。俺だけかもしれないが。
タイジュが手術した証である傷の辺りに俺は手で触れ、ご満悦で撫でるのだった。ふふふ。
戦勝祝賀パーティーにて、アンドリューに。タイジュに身請けの承諾を貰ったと言われ。
俺は肝を冷やした。
もちろん俺は正規のルートで手続きをしたので、どこにも不備はないが。
気持ち的なところで。
タイジュをアンドリューに奪われてしまうのではないかと。
神の手が、俺の腕の中から消え去ってしまうのではないかと。
焦燥感で、酒がすすんで。いつになく深酒してしまった。
いつもは暗殺者に対抗するために、人前で意識がブレるほど飲むようなことはなかった。
不眠を解消するため飲酒を試したこともあるが。馬鹿みたいに飲んでも、頭が冴えるばかりで効果はないし。
ただただ気持ちが悪く、次の日は使い物にならないという。
メリットなし。非効率なのでやめた。
この頃は嗜む程度にしていたのに。
アンドリューとタイジュの仲を引き裂いたのではないか。
手に手を取って、好きだと。貴方を身請けしたいのだ、と。アンドリューがタイジュを口説く。
そういう場面を脳裏に描くと。
腹立たしくて、酒をあおってしまう。
「殿下、その辺で」
やんわりレギにたしなめられ。俺はパーティー会場をあとにしたのだ。
早くタイジュに会いたい。
会って、確かめたい。タイジュの気持ちを。
屋敷に戻って、すぐにも問い質したかったけれど。
レギがいるから、夜食の間は我慢して。
祝賀パーティーと、飲酒のほろ酔い気分の余韻が残っていて、タイジュとダンスしたくなった。
支離滅裂だと自分でも思うが。
酔っていたのだ。かなり。
で、私室にふたりきりになったとき、タイジュと踊りながら。
アンドリューのことをたずねた。
なにを言われるのか…両想いだとか。そう言われるのが怖くて。
我ながら、結構勇気を絞り出したのだ。
そうしたらタイジュは。アンドリューの言葉を本気にしていなかったようで。
気が抜けた。
そうなのか? 好きだと言い合った仲ではないのか?
そして。俺が、おまえは俺のモノだと宣言すれば。
その通りだとうなずいてくれた。
ほっ。どうやらタイジュは、アンドリューを好きなわけではないらしい。
想い想われ、の仲だったら。俺はとんだ悪役。
いや、悪役になる覚悟はしていたのだ。
どうしても。親友であるアンドリューから愛する人を奪い取る形になろうとも。
俺はタイジュが欲しかったのだから。
まぁ、俺の告白もスリーパーで流されてしまったけれどな。
だが今は。タイジュの心が誰のものでもないと知れただけで、いい。
ゆっくりと、タイジュが俺に心を傾けてくれたら、それでいいのだ。
実は。アンドリューのことが、一番気が気でなかったのだ。
俺がタイジュを知る前に、アンドリューはタイジュと見知っていて。
彼がタイジュに好意を抱いているのも、なんとなくわかっていたからな。
伯爵家の後継が、どの程度本気でタイジュと恋仲になろうとしたのか、それは定かではないが。
普通に、アンドリューは良い男だ。
気さくで社交的、剣術も申し分なく、勇猛果敢、正義感も強く男気がある。
そして容姿も美しく社交界の花と呼ばれていた。
彼が美貌と甘い言葉を振り撒く花、令嬢がきらびやかな羽のようなドレスをひらめかせる蝶だ。
そのような魅力的な彼だから、タイジュも心を奪われてしまうのではないかと危惧した。
だから、騎士団の凱旋をアンドリューに任せたのだ。
彼からタイジュをかすめ取り、早く遠くへ逃げてしまいたかったから。
タイジュの態度を見れば、それは杞憂だったのかもしれないが。
アンドリューは身請けを本気で視野に入れていたようだから。
俺の前に彼が行動を起こしていたら。俺はタイジュを手に入れられなかったということで。
やはり契約後に人知れず戦場を離れたのは、正しかったのだと思う。
戦場で部下と恋愛沙汰を起こすわけにはいかないからな。
それにアンドリューは俺の数少ない友達だから。できれば穏便に済ませたかった。
気さくな彼には言い寄る御令嬢が数多いるが。
俺にはタイジュだけなのだ。
タイジュだけは、誰にも渡せないのだ。すまないな、アンドリュー。
俺は、できるだけタイジュの心に添うようにしようと思っていたが。
もしもタイジュがアンドリューを好いていて。彼に身請けされたかったのだと言われても。こればかりは譲れなかっただろう。うなずけない。手放せるわけがない。
俺だって真剣に、タイジュを愛しているのだから。
だから、本当に。タイジュが俺の元にいることを承諾してくれて、良かった。
もちろん、タイジュは。息子のコエダ第一で。俺がコエダの奴隷解放をしたことに感謝していて。
それを撤回されたくないから従っている、ということもわかっている。
俺が好きだから、ではないことを。
でも、理由はなんでもいい。
まずはタイジュが自分の意思で俺のそばにいてくれること。それが、ありがたいのだ。
しかし、それにつけても。あの生き物はどうしてあんなに可愛いのだ?
タイジュは自分のことをおっさんだと言うが、俺の五歳上? レギと同じ年? ないない。
シジミノミソシルがなにかはわからぬが。あのようにピカピカな顔をして俺をみつめるなんて。
朝から性衝動をおさえるのに苦労したぞ。
とりあえず、ミソとショーユとコメはすぐさま調達しよう。うむ。
というか、あの笑顔は二日酔いの目に染みるほどのまぶしさだわっ。あぁ、可愛いっ。
★★★★★
その後、エルアンリ邸にタイジュとコエダを連れて行った。
俺は結構な二日酔いで、朝から頭がガンガンに痛かったが。
タイジュが額を指でチョンと小突いて。
王族になにしやがるって、一瞬思ったが。スリーパーだったようで。
頭痛はなくなった。
ま、まだ少し気分は悪いが。外出が苦ではないくらいにはマシになったな。
タイジュのスリーパーは、本当に万能で。目をみはるほどだ。
俺の告白をスルーーーとされるのはいただけないがな。
いつか、真正面からタイジュに俺の気持ちを受け止めさせてやるっ。
あとな。西の離宮に向かう最中。エルアンリの病状や王子たちと俺の関係性を説明していたとき。
ひょんなことから『俺が伴侶にしたいのはおまえだ』とタイジュに宣言する場面があり。
タイジュはなんとか冗談で誤魔化そうとしたようだが。
俺がタイジュを好いていることなんか、レギもコエダもとっくに承知しているのだぞ。
俺の気持ちを本気にしない鈍感は、おまえだけなのだ、タイジュっ。
それに、俺がこうして気持ちを隠さないようにしているのは。アンドリューのことがあるからでもあった。
しっかり己の気持ちを、タイジュにも周りにも伝えておかないと。
俺のタイジュへの気持ちが真剣であることや、タイジュは俺と仲を深めているということを、アンドリューや周りの者に知らせておかないと。
彼はいつまでもタイジュへの想いを消せないかもしれない。
それは、困るのだ。
タイジュがアンドリューの魅力にいつか気づいたら。俺を捨ててしまうかもしれないじゃないかっ。
だからタイジュも認めるように、俺はビシリと冗談ではないと言い渡してやった。
まぁ、案の定。パパ大好きっ子のコエダは、パパはぼくのですっと言い返してきたが。
本当にパパ好きだな。俺も好きだが。
しかしそのあとで『キスもまだとか? 殿下は奥手ですねぇ』なんて、五歳のきゅるんとした表情があざといコエダに言われ。
俺はギョッとしたけど。
タイジュの気持ちを大事にしている、と告げたら。
まぁいいでしょう、的な。唇をムフンとする顔をされてしまった。
王族の俺を見下げる貴様はいったい何者なのだ? と一瞬思うが。
その私の耳に、タイジュの心を射止めるにはコエダの協力が必要です、とレギが囁く。
その通りだと思う。
タイジュの八割は、コエダで構築されているのだ。俺にはコエダの力が必要だ。
しかしコエダはパパを譲る気はないだろから。ライバルでもあるだろう?
つまり俺は、コエダと穏便な関係を築かなくてはならないのだっ。
そんな風に、タイジュとコエダは王族をおちょくるようなところがときどきあって。それはどうかと思うのだが。
それも彼らの可愛い一面である。
庶民は王族と聞けば、粗相をしたら罰せられると思って、恐れおののくものなのだが。
全く、変な親子である。
だが俺は、そんな彼らが愛おしい。
周囲に俺の気持ちを知らしめ、外堀を埋めつつも。タイジュの気持ちは尊重するよう。無理強いすることなく俺に気持ちが向くように、やんわり仕向けていた。
小賢しく、狭量な男ですまない。
しかし、タイジュ。俺はおまえを傷つけない。
それだけは女神フォスティーヌに誓うよ。
そうしていろいろありながらも、西の離宮に到着し。
エルアンリをタイジュとコエダに引き合わせた。
弟のエルアンリは、見識深く聡明で、柔和な人柄で。国民からの人気もあり。
俺は、彼こそ王の器があると思っているのだ。
しかし、とにかく体が弱い。それだけが彼の欠点であった。
毒にさらされて死にかけることも、何度もあって。
彼が命をつなぐたびに、俺は安堵の息をついたものだ。
それ以外にも、よく熱を出したり咳き込んだり寝込んだり、いろいろあって。
しかし医者も治癒魔法師も治せないというのだから。
元より、王宮の医者は信用ならない。
だからタイジュに、本当のところはどうなのだと。診察をしてエルアンリの病状を明らかにしてもらいたかったのだ。
だが。タイジュは本当に医師の本分を果たしてくれて。エルアンリの病状も、毒素の在りかも、明らかにしてくれたけれど。
触り過ぎだ。
胸に耳を当てて、診察したときは。
弟相手に腹立たしさが込み上げて、何度引き剥がそうかと思ったかしれない。
その都度レギに、諫められたが。
いや、くっつきすぎだろう、どう見てもっ。アレは俺のなのにっ。
とりあえず、聴診器の調達は急務である。
帰り際、タイジュにそのことを責めたら。
「腹の中まで拝見した御仁は貴方様だけ」
と言われ。
その殺し文句にグッときた。
腹を剣で刺されたことで、タイジュは大手術をして俺の命を救ってくれた。
あの戦場で、タイジュに命を救われた者は数多くいた。
それこそ、あの、アンドリューだって。
しかし、タイジュが腹の中に手を突っ込んだのは、俺だけなのだ。
俺の内臓を触ったのも、タイジュだけ。
そう思ったら。特別感が湧き起こってきて。
俺はただの患者ではなく、体の中までも見せた仲なのだと改めて実感し。
独占欲や優越感が満たされてぞくぞくしてしまった。
ま、腹の中を触られて喜ぶようなやつも。俺だけかもしれないが。
タイジュが手術した証である傷の辺りに俺は手で触れ、ご満悦で撫でるのだった。ふふふ。
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